第十六話 魔生物との遭遇
出航してから二週間が経過した。航海中に問題が起こることもなく、地図の島に無事到着した。
この島には、港と呼べるような場所が存在し、船を島に着けることが可能だった。
上陸後、船のメンテナンスと島を捜索する班に分かれることになった。
メンテナンス班には、水夫長のバルドが付くことになった。捜索班は、ウィリアムが指揮をすることになった。
戦力面から、ユリウスも同行することになった。
始め、春虎は船に残るように言われたが、「僕は戦力になります!!」という、本人の強い希望により、というかウィリアムが一緒にいたいという理由から同行を許された。
また、魔術の師匠であるユリウスの「ハル坊の、魔術は捜索に役立つ」という発言もあって、捜索班に快く受け入れられた。
実際にクルー達は、「これで、捜索先でも旨い飯が食える」という、食欲からであったが、捜索をしていく上で、捜索班にいてくれてありがとうと、感謝をすることになるのだった。
島に着いた当日は、軽く船の周辺を捜索するにとどまった。
捜索の結果は、今のところ無人島という意見で固まった。
しかし、この島は思いの外広かったので、奥に何かある可能性も考えて慎重に捜索をすることに決まった。
春虎はというと、当日の周辺捜索には参加せず、留守番組もとい、メンテナンス班のために当分の間の食事の作り置きをしておくことになった。
捜索班は、現地で事前にある程度下ごしらえした物を調理することになったため、ある程度の食材の下ごしらえも同時に進めた。
大量の食材をどのようにして運ぼうかと考えた春虎は、影に入れることも考えたが、影の中には忍具などが大量にしまわれていたため、そこまでの空きがなかった。
そこで、先日のユリウスによる訓練で使えるようになった、光と闇の属性魔術で出来るようになった、亜空魔術を使用することにした。
この魔術は、光属性と闇属性をきっちり半分ずつの出力で亜空間に干渉してそこに物を入れておく魔術だった。
しかし、このままでは直ぐに食材が傷んでしまうため、水属性と風属性の混合魔術で氷の蔵を作ってそこに入れてから、亜空魔術にしまうことにした。
これで、傷みを多少は気にせずに捜索をすることが出来る春虎は安心した。
そして翌日、島の奥に向けて出発することになった。
捜索班の一人がマッピングをしていきながら捜索を進めて言った。
捜索一日目は、特に何も発見は出来なかったが、この島には昔人がいた形跡は発見できた。
しかし、既に使われた様子のない建物は荒れ果てていた。
日も暮れてきたため、荒れ果てた建物の周辺で夜を明かすことになった、捜索班一行は春虎の用意した食事を食べてから交代で見張りをしつつ休むことになった。
ただし、春虎は免除となった。
それに納得できない春虎が、「僕も見張りに参加します」といったところ、ウィリアムに「寝ないと大きくなれないぞ?」と、ユリウスには「子供は寝ろ」と言われ、他の捜索班のクルーにも「子供は遠慮するな。それに、お前には旨い朝食を作ってもらうために、十分な睡眠がひつようだ」と言われてしまい、腑に落ちないながらも、みんなからの善意をありがたく受け取ることにして眠りに着くことにした。
しかし、ウィリアムが「地べたに寝かせるのはかわいそうだ」と、よくわからないいい訳を始めて、結局ウィリアムに抱きこまれるような格好で眠ることになったのだった。
ウィリアムとしては、地べたに寝かせずに温かくして眠れるようにと考えた末の、抱っこだったが、腕の中ですやすやと可愛い寝息をたてる春虎を何故か意識してしまいなかなか眠ることが出来なかった。
翌日、よく眠れた春虎は気持ちよく目が覚めた。
そして、既に起きていたウィリアムに目覚めの挨拶をしてから朝食作りに取り掛かった。
全員が食事を終えてから、島の南側から来た一行は、今日は島の東側を捜索することにして出発した。
島の東側には、墓と思われる石が複数存在した。
それ以外には、何もなかったため、次の日は西側を捜索することになった。
翌日、予定通り西側を捜索すると村のような跡が見つかった。
ただ、建物はすべて崩れていてここでも何も発見することはできなかった。
そして、次の日島の北側を捜索していると、初めて生き物と遭遇した。
ただし、ただの動物ではなかった。
それは、魔力を持った魔生物だったのだ。
その魔生物は、狼のような姿をしていたが、影の様に透けた尻尾は陽炎のように揺らめいていた。
「ちっ!ここで、魔生物と遭遇かよ」
「ウィル、ここは俺が炎で牽制する。その間に間を詰めろ」
「了解した。他の者は、戦闘態勢で周囲を警戒だ!ハルは、後ろに下がっていろ」
「「「おう!」」」
ウィリアムの指示で、戦闘態勢に入ったクルーを確認してからユリウスは、狼型の魔生物に赤い炎を放った。
火に驚いたのか、狼型の魔生物は一瞬怯んだ隙をついて、ウィリアムが距離を詰めて腰に下げていた剣を抜いて、首を切りつけた。
しかし、狼型の魔生物の毛は魔力を纏っていたようで、ウィリアムの剣をはじき返したのだった。
「ちっ!こいつ、思ったより硬い」
「ウィル!!そいつの魔力を相殺する。毛が纏っている属性は分かるか!」
「たぶん水だ!!」
「了解、少しの間耐えろよ」
「分かった。だが、出来るだけ早くな!」
そう言って、ウィリアムは剣を弾かれながらも、魔生物の攻撃をかわし続けた。
そうしていると、ユリウスが土属性の魔術完成させて魔生物に放った。
土属性の魔術で作られた石つぶてを全身に受けた魔生物が怯んだすきに、再度ウィリアムが首を切りつけた。
今度は、ウィリアムの剣はすんなりと狼型の魔生物の身体を切り裂いた。
ウィリアムの剣を受けた狼型の魔生物は、血を噴き出しながら大きな咆哮を上げた後に絶命した。
「ウィル、お疲れ」
「はぁ、魔生物がいるということは、お宝は近そうだな」
「そうだな、今回は当りかもしれないな」
戦闘を終えた二人は、宝が近いと確信したように話していたことに疑問を覚えた春虎が尋ねると、ウィリアムはその謎に答えてくれた。
「あの、どうしてそう思うんですか?」
「ああ、願いの叶う宝珠は強い魔力を持っているんだ。そのためなのか、強い魔力を持った宝の側には、魔生物が多く生息しているんだ」
「魔生物ですか?」
「さっきの、狼みたいな生き物だ」
「なるほど、ということは、この先さっきみたいな生き物が沢山いる可能性があるんですね?」
「そう言うことだ、しかも狼型は魔生物の中でも強い部類にはいるから、複数でこられたら厄介だ」
「なるほど、でもあれ位ならボクでも何とか出来そうです」
「まじか?」
「はい」
そんな話をしていると、倒した魔生物の血の匂いに誘われたのか狼型の魔生物が複数現れたのだった。
しかし、先ほどの戦闘で魔生物との戦い方を学んだ春虎にとっては温い相手だった。
春虎は、魔生物に向かってものすごいスピードで走り寄りながら、影から棒手裏剣を取り出し、水の気を纏わせてから打った。
棒手裏剣は、現れた狼型の魔生物の頭をことごとく貫いた。
魔生物たちは、自分が絶命したことにも気が付かなかったようで、死んだ後もいくらか走った後にどっと倒れた。
ウィリアム達には、魔生物が現れたと思ったら、突然倒れて死んだように見えた。
春虎はというと、魔生物を貫いた棒手裏剣を回収してから血を拭った後に影にしまっていた。
その姿に、その場にいた者達は全員が唖然とし固まっていた。




