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第十一話 女王陛下のお戯れ

 ユリウスから、女王が来ると話を聞いた春虎は手に持っていた皿を置いてくるため二人の元を一旦離れた。

 皿を置いて、二人の元に戻ったタイミングで女王が広間に現れた。

 広間にいる者は、一斉に膝を付いて女王を迎えた。


 女王は、奥に置かれた椅子に座り、声を発した。


「皆の者、面を上げよ。楽にして良い。今日は、そなた達の日ごろの労を労う宴だ。存分に楽しむといい」


 そう言って、女王は薄く微笑んだ。


 その言葉を機会に、広間にいた船乗りたちは女王に挨拶をする為に列を作った。

 ウィリアムとユリウスも春虎を伴い列に並んだ。


 順番を待っている間に、どういった挨拶をすればいいのか不安に思った春虎は、困惑した表情で質問をした。


「あの……。陛下にはどのようにご挨拶をすればいいんですか?」

「う~ん。普通に?」

「ウィル……。ハルトラ、まずは自己紹介だな。陛下はそこまで作法にうるさい方ではないので、後はニコニコしてれば、だいたい何とかなる」

「分かりました。頑張ります」

「ユーリのアドバイスも、俺と大差ないと思うけど」

「うるさい」


 そんなやり取りをしていると、順番がやってきた。


「女王陛下、このたびはお招きいただきありがとうございます」

「よいよい」

「ハルトラ」


 ウィリアムに促されてた春虎は緊張しつつも挨拶をする為、少し前に出た。


「はっ、初めまして。ボクは、先日からゴールデン・ウルフに入った、春虎といいます」


 何とか、名乗ってぺこりと頭を下げる。頭を上げる際に、ユリウスから言われたニコニコを思い出し、笑顔を心がける。


「ハルトラだな。うむうむ。歳は幾つになった?」

「15です」

「15か!!それにしても、珍しい髪色だな。どこの出身なのだ?」

「髪は、うちの血筋に稀に出る色なんです。出身は日本です」

「ほうほう、ニホンとな。聞いたことが無いな」

「えっと、凄く遠いので……」

「そうか、そうか。そう言えば、そなたは、他の国の言葉を話せると報告書にあったが……」

「知っている言葉に近い言葉だっただけで……」

「なるほど……。っ!!そなたなら、あの文字が読めるかもしれんな。よし、あの写しを持ってきてくれぬか?」


 女王の言葉で、専属メイドは直ぐに何を言っているのか理解し、その場を離れた。


「お前に、見て欲しい文字がある。もし読めるようであれば読んで欲しいのだ」

「わっ、分かりました」


 直ぐに、専属メイドは何かの紙の束を持って現れた。

 そして、春虎にその紙の束を渡した。


「こちらを」

「これは?」


 紙の束を持って困惑していると、女王はそれについて説明を始めた。


「それは、とある本の写しだ。縁あって手に入れたのだが、知らない文字のため内容を知ることが出来ない。絵のついたものは、何となく内容を推測することはできたのだが、どうしてもその内容を知りたいのだ。もし、読めるのなら読んで欲しいのだ」

「そうなんですね。読めるかは分かりませんが、見てみます」


 そう言って、とある本の写しといわれる紙の束をめくった。


 そこには、見慣れた文字が綴られていた。

 ここが異世界と思っていたが、実は異世界ではないのかと疑問に思っていると、女王が話しかけてきた。


「どうだ?」

「すみません。知っている文字です。もしよろしければ、どのような経緯で手に入れられたのかお聞きしてもいいですか?」

「ふむ。実は、よくわからないのだ」

「よくわからないんですか?」

「うむ。出入りの商人が珍しい布で出来た箱を持ってきてな。その中に入っていたのだ。その商人も、その箱を仕入れた覚えがないと言っていてな、珍しいものだったから報告も兼ねて献上すると持ってきたのだ」

「そうなんですね……」


(帰る方法が分かると期待したけど、無理そうだ。やっぱり、願いの叶う宝珠を見つけるのが一番なのかも……)


 帰れる手段が見つかるかもと、一瞬期待したものの直ぐに希望は打ち砕かれた。春虎が、残念に思っていると、女王が痺れを切らして話しかけてきた。


「それで、何と書かれているのだ?」

「すみません。えっと、彼の声を聞いた瞬間に、体の芯が熱くなり……年の割に幼げな肢体が乱れる……す、す、す……」


 何気なく、その文章を読み始めて春虎だったが直ぐに、読み上げた内容がとんでもないものだったことを理解し声を小さくして顔を赤らめた。


(こっ、これって。エッチな小説?えっ、でも……これって)


 顔を赤くして黙った春虎に追い打ちを掛けるように女王は言った。


「はよ、はよ。その続きは!!」

「えっ、でっでも。これって……」

「許す!続きを!!」


(続きって言われても……、この後に書いてあるのって……、こんなこと声にだして読めないよ!!それに、これって、揚羽さんが愛読してたBLってやつだよね?そんなの絶対恥ずかしくて音読なんて出来ない。女王陛下は、腐女子なの!!腐っているの?はっ!!船長達が危ない!!)


 春虎は、一瞬の間に女王の趣味を理解し、そしてウィリアム達への眼力の意味を瞬時に理解した。

 顔を紅くしたり、青くしたりと一人百面相をしていると、さらに女王は続きをせがんできた。

 パニックに陥った春虎は、思っていることを全部言ってしまった。


「ごめんなさい!無理です!ボクにはこれ以上恥ずかしくて読めません!!それに、船長と副船長はちゃんと女の人が好きなはずです!腐らせないで下さい!!腐らないで下さい!!ごめんなさい!!!!」


「「「…………」」」


 春虎の叫びに広間は静まり返った。

 しかし、女王並びに、その他の腐った同志達は直ぐに立ち直った。

 そして、瞬時にいい笑顔になった。それはもう、凄くいい笑顔に。


「人前がダメなら、人がいない所なら読めるよね?それなら、ちょっとあっちに行こうか」


 そう言って、春虎は女王に連れられて止める間もなく広間を連れだされてしまった。

 広間に残った者たちは、困惑した表情で連れられて行った美少年の無事を祈ることしかできなかった。


 そして、春虎は別室で、女王達が満足するまで写しではなく、原本の薄い本の数々を朗読させられたのだった。

 そして、朗読会に参加した腐女子達はというと、「恥ずかしがる美少年に音読してもらう、最高に萌える!!」だったという。

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