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011 ロマンを求めすぎたみたいです

 





 着地した瞬間、コクピット内は激しく揺れました。

 私はテーリアを抱きしめながら、衝撃に耐えます。

 さすがS級魔術師の操るゴーレムさん、まさか一度の跳躍で敵の前まで届くなんて。

 でも……関節部あたりから軋む、というより砕けたような音が聞こえたような。


「これ、大丈夫なんですか?」

「問題ない! ……と思うけどねえ、たぶん」


 そこは断言してほしかったです。

 ですが派手な着地をしたおかげか、ファイアドラゴンの視線がこっちに向きます。

 この隙に、町の人達が逃げてくれるといいんですが。

 相手は様子を見るように、こちらにゆっくりと近づいていきます。

 フェートスも同じように後退し、時間を稼ぎ、なおかつ相手の出方を見ようとしたようですが――


「あれ、うまく動かない……」

「ロゼさん、前にっ!」

「わかってるっての、でも動かな……まさか、さっきの着地の影響で!?」

「そんな貧弱なんですか!?」


 操縦席内は、腕の中で幸せそうな顔をしてるテーリアを除いて、もう大混乱です。

 ロゼさんは必死で魔力を込めましたがやはり足が動かない様子。


「やっぱりあの話、本当だったってことかい!」

「あの話とは?」

「機動性は第二世代としては及第点。そのかわり、変形機構のせいで関節部の耐久力に難があるって!」

「それって……」

『欠陥品じゃな』


 ああ、スノウさんが言い切ってしまいました。

 でも誤魔化したって仕方ないですしね、事実は事実として受け入れるしかありません。


「お姉さま、ロゼさん、敵が迫っていますわ!」

「ダメだ、避けきれないッ!」

「きゃああぁぁぁああっ!」


 吹き飛ばされ、焼けた民家の上を転がるフェートス。

 着地時とは比べ物にならないほど激しい揺れに、私は声をあげながらもテーリアを必死で抱きしめ、どうにかこらえます。


「クソッ、いくら機兵(ゴーレム)に乗ってるからって、このレベルのSS級モンスターを相手にするのは厳しいっての。ましてやこんな機体じゃッ!」


 どうやらこのファイアドラゴンとやら、SS級モンスターの中でも相当に強い部類らしいです。


『比喩などではなく、実際に国を滅ぼしたこともあるモンスターじゃからな、仕方あるまい。じゃが、一度腹いっぱいになると、数百年は住処である山からは降りてこん』

「すっごく珍しいってことですか?」

『うむ。我と出会ってしまったことといい、お主は妙に運がいいというか、運がないというか』


 自分でそれ言っちゃうんですか。

 魔力がないんですから、その分だけ幸運を詰め込んで欲しかったものです。


「はあぁぁぁああああッ!」


 ロゼさんはフェートスを立ち上がらせると、不自由な足をどうにか動かし、ファイアドラゴンに立ち向かいはじめました。

 両腕のドリルがキュイイィと高速回転を始め、その先端が敵の心臓をめがけて突き出されます。

 しかし分厚い皮にぼよんと阻まれ、傷を与えることしかできませんでした。

 これに関しては、フェートスの出力が低いせいではないのです。

 それだけ、ファイアドラゴンが恐ろしいモンスターだということ。

 一方で相手は、鋭い爪による殴打だけでなく、大きな尻尾で薙ぎ払ったり、さらには空飛んで火を吐いたりと、近づいても、離れても、隙のない攻撃を仕掛けてきます。

 戦闘が長引くほどに、脚部以外も軋みはじめていますし、このままでは撃退すら不可能でしょう。


「ロゼさん、他に武器はありませんの?」

「無いッ!」

「言い切りましたわこの人……」


 本当に無いんですか。

 あまり言いたくないんですが、このゴーレムさん、もう間違いなく欠陥品です!


「無理に変形機構なんて入れるから、武装もオミットされてるんだよ!」

「だから、武器がドリル以外に無いと?」

「ドリルさえあればどうにかなるって、開発の連中がゴリ押しするから! どう考えてもどうにかなるわけないじゃないか!」


 ロマンを求めすぎた結果がこれですか!

 確かに変形したのはかっこよかったですし、ドリルにこだわる人の気持ちも、なんとなく『そういう人もいるのかなー』程度には理解できます。

 だけど、実用性を犠牲にしたら本末転倒だと思うんです。


「こう、腕のドリルを飛ばして必殺攻撃! みたいにはできませんの?」

「ミスリル製のドリルなんだ、一体いくらすると思ってるんだい」

「値段の問題ですのね……」

「しかし、これ以上攻撃を受けたら……!」


 ロゼさんは、あえてその先を言いませんでした。

 ですが何を言わんとするのかはわかります。

 大破、しちゃうんですね。

 まあ私は核に逃げ込めばいいんで問題ないんですけど、このままファイアドラゴンに暴れさせておくのも嫌です。


『アナリアよ、エルプティオで出るか?』

「ですがここから姿を消せば、ロゼさんも怪しみますよね」

『大破するまで待てばよい』

「ロゼさん死んじゃいます」

『ふむ……ならばいっそ、その女をこちら側に引き込むか?』

「引き込む……?」

『どのみちバレるのなら、堂々と力を見せつけて、逆らえぬようにしてしまえばよい。そうすれば、そのフェートスとやらも合法的に(・・・・)いただくことができよう』


 そこ、かなりこだわってますね。

 でも確かに、ヒージュ伯側の人間であるロゼさんが寝返ってくれれば、情報も手に入るでしょう。


『いざという時は捕虜にでもすればよい。そのあとで、我らが逃げぬように教育してやろう』


 教育って何されちゃうんでしょう。


『ナニじゃな』

「心を読まないでください!」


 ですが今は、そうするしかないん……ですよ、ね?

 なんか慣れてきちゃってる気もしますが、今は深く考えないことにします。

 ファイアドラゴンに襲われている町の人たちを助ける意味でも、私が戦った方がいいに決まってますから。


「スノウさんとの話は終わりまして?」

「ええ、私が行きます」

「わたくしもそれがいいと思っていましたわ」


 私はロゼさんの方へ、強引に身を乗り出しました。


「あんた、何をしようってんだい!?」

「交代してください、私が操縦します!」

「そんなの無理に決まってるだろう、そもそもあんたは無能核で!」

「ですが、あなたよりも強いです」


 首根っこを突っ噛むと、彼女の体はあっさりと持ちあがってしまいます。

 さらに魔術によってふわりと浮かび、隣の席へ強制移動。


「な――!?」

「ねっ?」


 するりと操縦席に滑り込んだ私は、前方に配置された二個の水晶に手のひらを置きます。

 すると、前方からファイアドラゴンの爪が迫っていました。


「危ないですわッ!」

「問題ありません!」


 横に飛び込み、くるりと回りながら受け身を取ります。

 そして膝立ちの体勢から懐に飛び込み、私の魔力によって高速回転するドリルで、脇腹を一突き。

 ギュオォアァァアアアッ!

 ドリルの回転は、ロゼさんが操縦していたときよりも遥かに激しく、何倍にも威力を増してファイアドラゴンの分厚い皮を貫きました。


「なんて威力……! あたいだってS級だってのに、比べ物にならない! どうして無能核がここまでできるんだいっ!?」

「それは、お姉さまがSS級を超える、最強の魔術師だからですわ」

「最強の……魔術師……!」

「みんなの力を預かってるだけですよ!」


 ファイアドラゴンは苦痛にわめき、乱暴に尻尾を振り回してきました。

 跳躍してそれを回避します。


「せええぇぇぇいッ!」


 そこから落下の勢いを利用して、かかとを脳天に!

 着地して、さらにもがき苦しむドラゴンのお腹に、膝蹴りをお見舞いしちゃいました。


「アナリア、膝のドリルを使うんだよ!」


 ここにもドリルがあったんですか!?

 意識を膝の部分に集中させると、装甲がガコンと開き、中から小さめのドリルがせり出していきます。

 回転がドラゴンのまるっとしたお腹をえぐり……えぐって……うわぁ、えぐい……。

 血がっ、なんかぶじゅるるるるっ! って音を立てながら、血とか色んなものが飛び散ってるんですけど!?

 ああ、でもビビってる場合じゃないんですよね、放っておいたら人が死んじゃうんですもんね!


『ぐもおおぉぉぉおおお……』


 お腹を抑えてよろめくファイアドラゴン。

 ちょっとかわいそうな気もしますが、これまで何千人、何万人という人間を殺してきた極悪モンスターです。

 私は腕のドリルを構えると、今度こそ心臓を貫くため、さらなる魔力を込めて回転を早めます。

 ギュイイイィィィィィイイッ!

 渦巻く空気を纏い激しく音を立てるドリルをかかげたまま、私は助走をつけてファイアドラゴンに迫り――


「てやああぁぁぁっ!」


 胸に、鋭い先端を突き立てました。

 皮を裂き、肉を穿孔し、ドリルが体に沈んでいきます。


 ブチュッ、ブジュルルルッ、ブシャアアァァァアアアッ!


『グギャオォオオオオンッ!』


 なんだかやばい音とともに、ファイアドラゴンがやばい叫び声をあげ、暴れまわります。

 撒き散らされた血が大地と機体をびしゃびしゃに濡らしています。


「すごい……あのファイアドラゴンを倒すなんて……! やるじゃないか、あんた!」


 ロゼさんはガッツポーズをしならば喜びました。


「ひ、ひえぇ……」


 一方で私とテーリアは色々とドン引きしながら、血まみれで倒れていくファイアドラゴンを眺めていました。




 ◇◇◇




 ロゼさんとともにフェートスから降りた私は、核の中から聞こえてくる声に耳を傾けました。


『みなのもの、今夜の夕飯はドラゴンのステーキじゃぞ!』

『うおぉぉおおおおっ!』


 ファイアドラゴンを送り込んだ核の中は、何やら大盛り上がりです。

 なんでも、ドラゴンの肉は魔力がたっぷり含まれていて、魔族にとってはかなりのごちそうなんだとか。

 人間にとっても、美味しい上に、魔力核の性能を向上させられるとあって、かなり高価で取引されているそうです。


『よぉし、あたしは腕をぶった切るぞー!』

『それなら私は左腕を』


 魔族たちは寄ってたかって、早速ファイアドラゴンの解体を始めているようでした。

 せっかくですし、あとでドラゴンのステーキをごちそうになることとしましょう。

 その前に――ロゼさんに話をつけなければなりませんが。


「驚いた、本当に入っちまうんだねえ。つまり、アスフェン卿が借りてた機兵(ゴーレム)たちがいなくなったのは、あんたの仕業だったってわけだ」


 ざっくりと事情を話し、目の前で力を見せつけると、彼女も理解してくれたようです。


「ええ、ゴーレムさんたちはちゃあんとこの中にいますよ」

「個人で十機を超える機兵(ゴーレム)を所持、その上にSS級のモンスターを倒しちまう魔力もある……それをヒージュ伯に雇われてるあたいに見せちまっていいのかい?」

「問題はありませんわ。お姉さま、その気になればヒージュ伯のことも軽く潰せてしまいますから」


 私の代わりに、テーリアが答えました。

 でも、潰すとかそんな物騒なことをするつもりはありませんよ?

 さすがにヒージュ伯ほどの大物がいなくなったら、周辺地域は大混乱でしょうし、アノニス家も少なからず影響を受けます。


「私は、できれば穏便に話を進めたいと思っています」

「その言い草……あんたたち、もしかして気づいてる?」

「アスフェン卿のバックに、ヒージュ伯がついていたということにですか?」


 ロゼさんは大きくため息をつきました。

 それを知った上で、魔術学園への誘いに乗ってきた――つまり罠ごとぶち壊せる自信があるということの証左です。

 そして、彼女は私の力を見たことで、それが自信過剰などではないことを知りました。


「ロゼさん、ご相談なんですが……私としても、S級の魔術師さんが味方についてくれるととても嬉しいと思っています」

「……それで?」

「ヒージュ伯を裏切って、私の方につきませんか?」


 あえて、言葉をオブラートに包まず単刀直入に問いかけました。

 おそらく彼女は、『断ったら殺される』と思っていることでしょう。

 もちろん、私にはそんなつもりはありませんが、そのままヒージュ伯に私の力を報告されると色々と厄介です。

 できれば、スノウさんたちの毒牙にかからないうちに、私の提案に乗ってくれると嬉しいんですが。

 ロゼさんは考えに考えたすえ、またため息をついて、答えを出します。


「あたいに見返りはあるのかい?」

「お金でしたら、ミスリルを売ればいくらでも」

「それ以外には?」


 他に見返り……ありましたっけ。


『アナリアよ、“勝ち馬に乗れる”とでも言っておけばよい。おぬしはいずれ王になれる器の持ち主じゃ、過言ではなかろう』


 ううむ、そういう自信に溢れた物言い、苦手なんですけど。

 元々は無能核の役立たずだったんですから。

 でも……スノウさんの言葉を借りると思って、試しに言ってみますか。


「勝ち馬に乗れますよ」

「具体的にはどう勝つつもりなんだい」

「私は、この核の中にできる国家の王になります」

「国を、その中に?」

「……は、はい」


 特に私が何をしてるわけでもないんですが、このままスノウさんの思惑通りに進めば、本当にできちゃうんでしょう。

 今も建物が順調に増えて、少しずつ町っぽくなってますし。


「ふっふふふふ……あははははっ! 面白いじゃないかあんた! わかった、あたいもそれに乗ろうじゃないか!」

「本当ですか!?」

「今のヒージュ伯に付き合うよりは面白そうだ。それに、すでに複数機の機兵(ゴーレム)を所持してるって言うんだろう? つまり、下手な小国家よりとっくに強力な軍事力を保持してる。あながち世迷い言でもないと思ってね」


 ロゼさんは笑いながら、私の方に手を差し出しました。

 握手を求めているようです。

 説得がうまく言ったことに安堵した私は、無防備にその手を握ろうとして――割り込んできたテーリアに阻止されてしまいます。

 そしてなぜか、彼女がロゼさんとの握手を済ませてしまいました。


「安易なボディタッチは厳禁ですわ」

「おやおや、王様には恐ろしい騎士様がついているようだ」

「騎士ではありませんわ」


 テーリアはなぜか挑発的に言いました。


「お姉さまが王なら、わたくしは王妃ですもの」


 その言葉に、まだ事情のよくわかっていないロゼさんは、こてんと首を傾げました。






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