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スーパーギャラクシーズ 小さな大冒険  作者: モリサワツカサ
第ニ章 港町ララックルルック
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第2章 港町ララックルルック

 朝になってミカは窓から差し込む朝陽を鬱陶しく思いながら眠気眼をこすっていた。スタアの計らいもあって宿泊に成功したが、与えられた部屋はケントの部屋だった。当の本人は子供たちと川の字になって寝ることを義務付けられ、しょぼくれていたのを覚えている。

 寝床を探していたものの、まさか同年代の男の部屋のベッドを借りることになるとは思って見なかった。しかし、恥ずかしいというより、ベッドとテレビと少しのコミックがあるくらいの殺風景な部屋の様子に別段思うところもなく。若干、マットが硬いかなぐらいの不満をもって爆睡を遂げた。

 ゆっくり着替えたミカは部屋を出て食卓に向かった。そこでは既にスタアが朝食を準備しており、エプロン姿で忙しく動いていた。

「ふわぁ、おはようございます」

「おはようミカちゃん」

テキパキと食事を並べていくスタア。と、ミカはあの小煩かった子供たちがいないの気がついて辺りを見渡した。

「朝稽古中よ」スタアが気がついてミカに指差して教えた。

スタアが指差した方向には広い部屋があり、戸の入り口には『稽古場』と書いてある。そして、広い場の中央では、あの猿の師匠が見違えるようにシャキッとして、前に子供たちを並べさせていた。子供たちもビシっと頭の天辺から足の先まで筋を伸ばして深々とお辞儀をしている。

「ありがとうございました!!」

「うむ」

目が覚めるくらいの子供たちの混声と、しっかり胸に響くソーン師範の頷き。

 なるほど立派な道場だと感心したミカだったが、それはすぐさまに打ち砕かれた。

食卓に向かってくる子供たちのすぐ脇で、ゴミクズのように転がったケントがいたからである。あからさまに気だるそうで、なんどかゴロゴロと身体を蠢かすと、隈の出来た目でミカを見た。

「……よぉ、早起きじゃないか」

ケントは嫌味で言ったつもりだったが、力ない声にまったくの効果も得られない。

「なんて顔してんのよ」

「寝てないんだよ…、というか寝られるかあんなの…」ケントが次々に席について食事を待つ子供たちを睨んだ。

「寝相をいいことに蹴るは殴るは――やむなく師匠のところに行けば、ウルトラ早朝マラソンからの今に至るわけだ――」

自分が部屋を借りただけでそんな事になっていのかと溜息のミカだが、それにスタアが口を開いた。

「子供たちの相手も朝稽古もサボってるから、こういう時に痛い目見るのよ」

「それを聞くと、あまり可哀想に見えないわね」

「・・・お前な」

もはや完璧に上から目線になっているミカを更に睨むケント。

 しかし、未だに気怠い身体をのそのそと動かしていたケントをソーンが見下ろしていた。

「はよ起きい、朝飯じゃ」

瞬間、師匠のくすぐり攻撃がケントを襲った。手足、さらには尻尾を使って全身をくまなくくすぐっていく。ケントはこの攻撃だけはいつも耐えられず、爆笑の呪いを掛けられてしまう。

そうやってひとしきり笑い転げた後で、ようやく食卓の席にケントは座った。もはや一日の仕事を終えたぐらい疲労を見せ、肩で息をきっている。

「朝から大変ね」

「――お前が泊まったせいだろ」

まるで他人事のように告げたミカにケントが振り絞って返した。

 ケントが席についたときには既に食事は始まっていた。ミカはまた人参を避けて食べており、スタアは子供の中でも一番小さな人間族の子に御飯を食べさせている。ソーンは目につくモノを片っ端から手にとってムシャムシャと口に放り込んでいく。まったくもって老人の食欲には見えない。

「はぁ…とっとと食って…と」

賑やかな食卓にため息混じりのケントは、ようやく自分も何か食べようと、スタアの十八番スーパースクラブルエッグの皿を手に取った。

が、エッグは横にいたコオロギ族の少年にかっさらわれ、取り返す間のなく平らげられてしまったのだった。

「……おい!」

「早いもんがちだ!」「サボってるのが悪いんだ!」「そーだそーだ!」

悪びれる様子を見せない子供たちを相手に、ケントは再び疲れる行動を余儀なくされるのだった。


                    ※


ようやく出発の準備が整った。ケントは動きやすい軽めの服装に小さなバックを肩から斜めにかけている。ミカは昨日と同じで、変なマークがプリントされたキャップ帽を目深くかぶっている。

 道場の前に立った二人を、スタアとソーン、それから子供たちが見送りに出ていた。スタアからはアレコレと世話を焼かれ、ソーンと子供たちは「お土産よろしく」ばかり言っている。

 しかし、そんな中でミカはキョロキョロと辺りを見渡していた。

「それで、もう一人ってどこよ?」たしかケントが同行者を増やせと言ったはずだと、ミカは思っていた。

「ん?あぁ、朝は弱いやつだからな、昨日の内に連絡しといたけど――ま、無理」

そこまで言いかけたケントだったが、次には遠くから飛んできた聞き慣れた声に遮られた。

「おーい!ケントー!」

「ドリュー!起きれたのか?!」

モグラ族のドリューが大きく手を降ってやってきたのだった。

「深夜に宇宙アニマルチャンネルやっててさ、徹夜で見てたんだよ!希少生物ゲルゲールの特集でさ…!」

ドリューは小さなサングラスをかたかた揺らして身振り手振りを大きく説明しだした。

ケントは慣れたように「また、そんなよくわからないの見てたのか…というかお前も寝てないのか」と呆れ顔である。

一方でミカ「これが追加のもう一人なわけ?」とキョトンとしていた。

 そんなミカに、長々と喋りたくっていたドリューが気づいてチラリとだけサングラスを上げて、品定めのように上から下まで眺めた。

「やるじゃないかケント!」突然、ドリューが声を上げた。

「……?なにが?」ポカンとしてケントが言う。

「ロボットだろ?!この子?四つ星レベルの課題もロボットで万事解決ってわけだ!!」

これでもかとガッツポーズを取るドリューだが、まわりは冷めた目で見ていた。

「……ねぇ、本当にこのモグラも連れていくの?」

「親友なんだ当然だろ――…とりあえず、現時点では…」ケントは苦笑いで言った。


                   ※


スタアらに別れを告げ、ケント達三人は郊外へ向けて歩き始めた。ケントもドリューも睡眠不足の中を足をすすめるが、ミカは先頭を歩いて何かを見ていた。

 地図用のヒィアートツールである。掌より少し大きめの筒から、淡い光の帯が伸びてそこに地図が記されている。見れば、所々で光が点滅している箇所がある。

「え…と、あれ…おかしいな、消えてる…」何か呟くミカは首を傾げた。

「おい、これ、どこに向かってるんだ?」

 嫌な予感がしてケントが問いかけると、ミカの足がピタリと止まり、後ろからでも冷や汗をかいているのがわかった。

「え?どこに行くかわかってないの?」

 思わず言ってしまったドリューをミカが睨んだ。

「うるさいわね!わからないわけじゃないわよ!昨日まであった目印が消えちゃってるのよ!」

ミカが怒鳴った。その手には地図ツールを持って、二人に表した画面を突きつけた。

ケントは怒声に頭痛を覚えながらもミカの言う目印あった位置の地図を眺めてみた。

「……ララックルルックか、それ?」

「あー、たぶんそうだよ」ケントの言葉にドリューも地図を見て頷いた。

「え?ララ、なに…?」

「港町だよ、とりあえずこの辺じゃ一番大きな街かな、でも少し距離があるよ。行くにしても歩きじゃ流石に無理だよ、まあ、普通に行くなら、バスとタクシーの乗り継ぎかな」

ドリューからの情報にミカは「ほほぅ」「なるほど」「他星のバスにタクシーか」と呟いて地図を改めて確認しては頷くと、「よし!」と言ってポーチに片付けた。

「とりあえず、その港町に向かうわ!」

 ビシっと方角さえわかっていないだろうが指を指し示すミカ。ケントは背後で「とりあえずってなんだよ」とげんなりしていた。


                      ※


 ドリューの言ったとおりバスに乗り、そしていまはタクシーで移動中のミカ。しかし彼女は不機嫌であった。なにしろ思っていたものとの違いがありすぎたからである。

 今だって、タクシーがまさか、大きめの水鳥型のボートで湖上を行くものだとは夢にも思わなかった。

 横ではケントもドリューも、移動中なら寝れると言って爆睡している。耳を壊すような二人のイビキだけでも少し不機嫌なのに、更にはタクシーが揺れると、その拍子に水中からレイクモサカエルという毛深いカエルが飛び出してミカの顔面に止まった。

 ミカがキレた。水かきの感触と妙な剛毛の感触も無視して、張り付いたカエルをひっぺがすとそのまま湖に叩き返した。

「ちょっと!!」

「あだっ!?」

 同時に、今度はケントをはたき起こした。

「なんなのよこれは!?」「なにがだよ?!」突然のことに眠気をすっ飛ばされてケントが言った。

「なんでタクシーがアヒルなのよ!?」

「アヒルじゃない!白鳥だ!正確にはスワン・ザ・グレート号で、昔はレースにも出てた名機なんだぞ!」

「そんなものどうだっていいわよ!」

 怒鳴り合う二人だが、ドリューは眠ったままである。

「それにさっきのバスもそうよ!なんで馬の運転手が二人もいるのよ?!というか運転席が2つある意味がわからないわ!」

「あれがポニーズバスの売りなんだよ!二人いるんだ、馬力は二倍なんだぞ!」

「んなわけないでしょ!!」

 タクシーの前に乗ったバスについても怒鳴りだしたミカ。ホースズバスは馬族が主に経営するパングリオンでは大手のバス会社で『通常の倍』が売りである。そしてスワンタクシーは、長く愛される湖上タクシーでカップルで乗るもの少なくない。

 だが、今のミカにとってはどうでもいいことだった。

「あんたの星には、マヌケな乗り物しか無いわけ?」

「この地域の伝統的なものなんだよ。いずれ惑星遺産になるかもしれん」

なるわけないだろ、と、少し落ち着きを取り戻したミカがため息混じり腰を降ろした。

しかし、何か奇妙なところがあるのに気がついた。景色が変わっていない。というより、出発した陸地から全然離れていない。

おかしいと思いタクシーの運転席を覗き込んだミカ。するとそこには人間サイズに造られたペダルを必死に回すネズミが二匹いた。

「ぜえ!ぜぇ!まだやれるかジェイム!?」

「あぁ!だがそろそろヤバイぜキャリル!」

おそらくネズミ族だろう。小さな体に小さな作業着を着て、額に汗してペダルを回し続けている。

「………」ミカは無言で、そして冷めた目でそれを見た。見てやった。

彼等の頑張りは立派だが、さっきからほんの数センチしか進んでいない。

ミカはそのまま向きを変えると、「目が冴えた」と呟いているケントの頭上にチョップを繰り出した。


「痛っ?!今度はなんだよ?!」

「出番よ赤男、ちょっとだけ身体能力あがるんでしょ?」

クィッと首だけで合図して、運転席へ移れと指示するミカ。「いちいち殴るな」とボヤきながらにケントも運転席を覗き込んだ。

「ジェイム!ジェイム?!おい!どうしたってんだちくしょう!」

「あとは任せたぞ相棒…」

ネズミ達の茶番劇場がクライマックスを迎えていた。

ミカが怒って呆れるのもわかると思いケントは、とりあえずは適当な拍手を送りながらにペダルからネズミたちを追い払った。

「あとで、『いいね』、しておくよ」フォローの言葉を送ってケントはペダルに足を置き、その足に真っ赤なオーラを纏わせた。

「せーの!!」

 瞬間、ペダルは真紅の渦巻きを作って高速回転を始めた。

同時にスワンタクシーは湖を割って、一気に向こう岸にたどり着くのであった。


                  ※


 港町ララックルルックに着いた頃には、もう夕暮れであった。いろんな船が出入りを行うための巨大な港、ガガノートよりもあきらかに大きな建物がひしめき合っている。そして外との繋がりも多く多種多様の種族が暮らしているようだ。それらが夕焼けに照らされて、あちこちに駐めてある船舶や宇宙船がオレンジに染まっている。そんな、美しい光景に「きれい」と感動の声を漏らしたミカだったが、その手には大きめのバーガーが握られていた。

 なぜなら一行が街に辿りくと、ミカが「お腹すいた」と喚いたからだ。彼女のわがままのまま、目につく飲食店や移動販売車など見て回った。大きな街のため店舗も多く、それに比例してミカの食への意欲が沸いて来るようで目の色が違って見えた。とぐろを巻いた形が特徴の『蛇りんご雨』。青い鶏の『スカイからあげ』。超高温の水域に生息する、はぐれカニエビを使った『クロブスターバーガー』。いろいろあったがミカはバーガーを気に入って袋いっぱいに買っていた。

「これ、めちゃくちゃ美味しいじゃない!」1つまた1つと、たいらげていくミカ。

横ではケントとドリューが呆れ顔で、緑と茶色のよくわからないスムージーをズズズとすすっていた。

「……思ってたけど、お前絶対観光気分だろ」

「太るよそれ」

二人の声にぎくりとしたミカが振り返って睨みつけた。

二人は呆れた目をそのままにスムージーをすすり続ける。

「ち、違うわよ!ていうかこれ太るの!?先に言ってよ!」

ケントとドリュー、両者に吠えてミカはバーガーの手を止めるが、口をつけていた分だけは中途半端はよくないと結局そのまま食べてしまった。

 バーガー一個だけなら、大して影響ないだろうが、問題は量だと心内でケントが呟く。眼前では、まだまだ袋にいっぱいのバーガーを抱え込んで、「太らずに食べるにはどうすればいい」と一応乙女っぽいことで悩むミカが頭を抱えていた。

 そんな彼女を見かねてかドリューは「ちょっと休憩しよう」と近くにあったベンチを指差し提案した。ケントもミカも承諾してそちらへと足を推めた。その間だけでも結局バーガーはひとつ減ることになった。


「それで、どうやってこんな広い街で人を探すの?というか誰を探すのさ?」

「…―えーと、あれ?そう言えば聞いてないな」

「言ってなかったけ?」口についたソースを拭きながらにミカが軽く言った。

「お前の『先生』と、しかな」ケントがスムージを飲み終え、側のゴミ箱に捨てた。

するとミカは「ごめんごめん」と可愛く謝りながらにポーチを探り出して、中から小型のツールを取り出した。

 今では誰でももってる通話もネットもできるスマートなヒィアートツールだ。それを慣れた手つきで、画面をスライドさせると半立体映像の新聞が扇状に広がった。

両の掌に収まるぐらいの扇形新聞を眺めて、一枚の記事を指で弾くと、そこだけポコンとはじき出されて、完全な立体映像となった。

 宙に浮いた立体映像の記事は、何かの授与式のようで、大きく受賞者の写真が映っていた。肌が赤く髪は長くて純白な、眼鏡の美人女性が白衣を着たイルカのぬいぐるみを抱えていた。

「メガット博士よ。私のヒィアート学の先生でもあるの」

「ふーん…有名なのか?」

ケントの声にミカがムッとした。

「博士を知らないの?!過去には宇宙メグムッチャ科学賞を受賞したこともある人なのよ?」

少々興奮気味のミカに、ケントは身を仰け反りながらにドリューへと「知ってるか?」とアイコンタクトを送るが、首を横に降った回答が返ってきた。

「と、とにかく、すごい科学者なんだね、その博士?でも探してるってことはいなくなっちゃたの?」

「そうなのよ。すっごい発明が完成間近だって言ってたのに、急に『休暇』を取っていなくなっちゃったの…だれにもなんにも言わないで」

「本当にただの休暇なんじゃないか?」

「そう言う人もいたけど、何か妙なのよね――…部屋や実験室はいなくなる前のままだし、まるで着の身着のまま逃げ出したみたいな――」

夕焼けを睨んでミカが難しい顔を見せた。どうやら人探しについては真剣な思いのようで、ケントもドリューもその真面目な横顔にようやく本腰を入れる気になった。


「…――それで心配になって博士を探しに来たのよ。博士の実験道具には紛失防止のために探査装置がついているの、で、私はその信号を辿れるようにマップに落とし込んだ」前に見せた地図がそうだとポーチから出して教える。

「だけど調子が悪いみたいで…この街までで消えちゃったってわけ」

「なるほどね」ドリューが最後のスムージーの最後の人すすりを終えて頷いた。

「と、いうことは…だ。この街でその博士を見つければ任務完了!俺達は卒業確定というわけだ…!」

意気込むケントがドリューに顔を向けて「やるぞ!」と握りこぶしを作る。合わせてドリューも「一日で達成だ!」と笑顔を作った。

するとケントは改めて博士の顔を確認しようと映像を覗き込んだ。


「……にしても、この博士いろっぽ…じゃなくて、えらい美人さんだな。こんなのがいたらすぐに騒ぎなりそうだけど。あ、もしかしてこの美人がお前のお父さんとかってオチじゃないだろうな?」

冗談交じりに言ったケントだったが、ミカの目が腐敗した食物を見るかのような目でこちらを見下しているのがわかった。

「はぁぁ、これだから男ってのは…!」心の底から軽蔑した溜息を漏らすミカ。

「その!色っぽくて!美人で!巨乳の!彼女は!助手のリーナスよ!博士は、リーナスが抱えてるそのイルカよ!!」ビシっと映像の中央を指差した。

「んな?!ぬいぐるみじゃないのかこれ?!」

「それで白衣着てるんだ」

驚愕のケントと納得のドリューが言った。ドリューは美人だろうと人間族では興味がないのか、特にそういった目で見てはいなかった。しかし、ミカのケントを見る目は軽蔑の最上級のものになっていた。

「ケント、あなたへの評価が今までも最低だったけど、その更に下をいく評価を達成したわ、おめでとう」

冷たく鋭い声がケントに突き刺さる。

 巨乳とまでは言ってないだろ、という反論も無駄だなとケントは声を押し殺して罵声を浴びた。映像ではよくわからなかったが胸が大きいとわかったことは得したと胸の内に秘めておくことにした。

 そうして、火のついたようにケントへ罵詈雑言を飛ばすミカ。中にはケントというより男全てに向けての台詞もあったりと、ほぼ八つ当たりであった。


                       ※


「あいつは全女性の代表か?」

「まぁ、でもケントが悪いよ」

 手分けして博士を探すことになった三人。ミカは勝手にひとりで行ってしまい、ケントは怒られ疲れた愚痴をドリューに漏らしていた。

手がかりはミカが見せてくれた博士の映像写真。完全にただのイルカだった。そういう種族なんだろうが、むしろどうやって移動しているのかが謎である。普通に足でも生えて歩いてるのだろうか?そんなことを考えながらもケントは更にドリューとも探索のために別れて、二人とは違う方面へと歩き出した。

 日は沈みかけて、街には夜が迫っている。大きな街のため夜でも明かりには困らないが、日中よりも探しにくいのは当然だ。さっさっと見つけて、早く終わらせよう。

そう思ってケントはごった返す街の中央部から探し始めた。


                         ※


 一方でミカは停泊してある船舶が並ぶ港の方を調べていた。波の満ち干きでゆっくりゆれて、ギィギィと独特の音を上げている。港の近くにはリゾート客や観光課客向けだろうか、綺麗な海岸が続いている。

「ここでみる日没が格別なんだ」とウサギ族のカップルの男のほうが格好つけて囁いているのが聞こえた(どっちが男か服装以外ではわからないが)。女の方は何故か泣き出して、もともと赤いだろう目を真っ赤にしている。

「…いない、かな」そんなドラマで見るようなワンシーンを尻目に海岸の端から端までを眺めてみる。が、博士らしい人物は見つからなかった。

 既に日は落ちて完全なる夜へと移行した。港の方にも僅かばかりの街灯が灯されて、また違った雰囲気を出していた。星の海の色を映した黒い波が、人気のなくなった海岸に寄せては返している。

そんな波打ち際に立ってミカは今一度地図を広げた。相変わらず、博士の信号は消えたままだ。信号自体は実験道具から発せられているものであり、彼の実験室の道具は全てその場で信号を確認した。したがって唯一、離れた位置で確認できた信号は消えた博士が持ち歩いている踏んでいた。

「なにかの手違いで道具だけ、ここにあったとか?で、それが壊れた――とか…」うーん、と頭を捻るミカ。

だとすれば、壊れた道具がどこかにあるはずだが、流石にそれを探すのは人一人探すより無謀なことだろう。

 ザクザクと暗い砂の海岸を歩いてミカが星空を見上げる。自分のやってきた星はあの辺りかと、少し考えてみる。正直言って、そこまで簡単に見つかるとは思っていなかった。

とはいえ、それこそ本当にただの休暇で、誰にも邪魔されず休みを過ごしたいだけなら、野暮というものである。

おそらくケントもドリューも、町中を探し回ってくれているのだろうが、少し悪い気がした。

「もし最後まで見つからなかったらどうしよう」視線を下げて呟いた。

彼等も、それなりの理由を持って協力しているのだ、もし見つけられなくてもそれなりの御礼はするべきか。

そう考えていたミカだったが、背後から砂浜を踏む足音が鳴ったのに気がついた。ケントかドリューが、「いなかった」という報告でも持ってきたのかと振り向いた。

 だが、そこにいたのどちらでもなかった。ダークベージュ色のロングコートを羽織った2メートルを超える大男がそこに立っていたのだ。妙な形のフードを深くかぶり、その下からは鋭いブルーの瞳が覗いていた。

誰?と思うミカだったが、彼が発した言葉で息が詰まった。


「アージェナルド・ミカ・フェリアだな?」

「――!?」

ミカは『本名』を言われて、すぐさまに銃を抜いた。


                  ※


「ここにも――いない――と」

 足と目に淡い赤色を纏わせてケントは夜の町中を猿のように駆け回っていた。普通に探し回って入れば結構な時間がかかるところを武術のお陰で、何倍も早く探索ができる。

ホテルにレストランにレジャー施設など、人が集まりそうなところはだいたい回ってみたがどこもハズレであった。その分、不幸なこともあり、顔に傷のある怖いワニ族にぶつかったり、長寿で有名なシエルフィー族の婆さんに痴漢に間違われたりと散々だった。

もう充分だろう。というか、これ以上小さな不幸に見舞われたくないというのがケントの本音であった。

と、そこへ救いの手が差し伸ばされたようにドリューの声が聞こえた。

「おーい!ケント!」

オシャレな喫茶店のテラス席からドリューが手を振っていた。ちょうど良かった、と、ケントはそちらへと向かって駆けた。

「見つかったか?」

「ううん」首をを横に降ったドリューだったが、すぐに「けど」と付け足してテラス席に座っていた人間族の男性を紹介した。

「この人が、僕達みたいに博士のこと聞いてたやつがいたって」

「…へぇ」ケントが言った。

 男は中年でボサボサ頭に無精髭生えており、痩せ細っていた。とてもこんなオシャレな喫茶店が似合わけもなく、おそらくドリューが奢ったのだろう注文に舌を巻くコーヒー(ココア?)を飲んでいた。

「ねぇ、おじさん、その人ってどんな人だった?」

「あぁ…熱っ――それはね熱ッ!凸凹コンビっていうか変な二人組で――熱熱ッ――…!」

コーヒーを置けよと眼差しで伝えるケントだが、男はそんなものは汲み取らず話を続ける。

「ちょっと危なっかしい感じ見えたかな――あ、やっとちょうどよくなった…」なんとか小さな飲み口からコーヒーを啜って満足げな顔を見せる男。

「モグラの坊やありがとうね」

そうしてそれだけ告げて男は去っていき、小さな背中は人混みの中に消えていった。


「――どう思う?」

「博士ってのがお偉いさんなら付き人ぐらいいるんじゃないか?そのコンビは付き人で、迷子になった博士を探してるとか?」

「でも、誰にも言わずに消えたって言ってなかった?付き人も一緒に消えてるんだったら、ミカもそこまで心配しないんじゃない?」

「…それもそうか」

思いついた案を言ってみたもののドリューの応えに、腕を組んで悩むケント。

「とりあえずミカに報せてみようよ」

「…そうだな。あいつどこいった?」

ドリューが「たしか港のほうだったよ」と応えて、二人はミカの元へと向かった。


                      ※


「あんた…!なんで私の名前を…――!」

 小銃を大男に向けてミカは震えていた。

「メガット博士の居場所を教えろ。――従わないなら……」

男は低くも特徴的な声でいって拳をボキボキと鳴らした。まるで用件だけを告げ、それだけを望んでいるような鋭い目でミカを睨む。

「わ、私を殺す気?それに教えろって?私だって知らないわよ!――だいたいあんた何者よ」

「………仕方ない」

同時に大男の手がゆっくりと自分に伸びてきたのに、ミカは殺されてしまうと思い反射的に引き金を引いた。

銃が緑に光って、小さな光弾、ビームを撃ちだした。それは真正面から大男の胸部に衝突した。

「……うそ」

 しかし、大男はまったくの無傷だった。それどころか服に焦げ跡ひとつついていなかった。そのことに驚愕と不安が一緒になって襲ってきたミカだったが、攻撃の手を休めることなく何度も引き金を引いた。

バン!バン!バン!小さなビームが何度も大男を襲うも結果は同じ。大男は服にホコリがついたように少しだけ払っては、また迫ってきた。

 するとミカは、銃口を少し下げて狙いを変えた。男の足元の砂浜を狙ったのである。その瞬間、連続のビームは砂を巻き上げて大男の視界を奪ってしまったのだった。

「ッ!」さすがにこれには驚いたのか僅かに動きを止めた大男。ミカはその隙に、逃げるよりも数歩、大男に迫っていた。

「最大出力!!」

 舞い上がった砂が晴れると同時にミカが吠えた。銃は狼男が触ったときよりも更に激しく美しく輝いている。緑よりエメラルド色に海岸が染まるくらいの光量と、そしてそれに比例するように巨大なビームが大男の襲った。

「…な?!」

あまりにも膨大な熱量に大男は声を上げ、防御のためにと片手を突き出した。そこへ容赦なく巨大ビームが男を飲み込んだ。稲光を帯びてビームは一直線に夜の海を裂き、水平線の彼方に消えていった。

「これで、どう…?」呼吸を整えながらにミカが呟く。ビームによって更に砂が巻き上がって男のいた位置を隠していた。ミカは目を細めて男の存在を確認した。しかしそれがまた言葉を詰まらせた。

「なかなかの威力だ」男は健在であった。無傷ではないが、服が少し焦げたりかぶっていたフードが取れて、カブトムシみたいな角の生えた素顔が見えたくらいで、後は『かすり傷』程度であった。

そして何より印象的であったのが、巨大ビームを防いだのであろう突き出した片手。それがミカには、最初にケントを見たときとダブって見えたのだった。

「……どうなってるのよ…――それにあんたどこかで…」

絶望的な声で呟いたミカ。そんなミカの腕を大男は無作法に掴んで銃を離させた。「痛!」とミカが叫ぶ中、銃は砂浜に転がってしまう。

絶体絶命、あまりの痛みにミカは膝をついてしまう。そんな彼女を無視して大男は力任せ、グイッと引き上げようとした。


その時――。


「はぁっ!!」「…?!」

――突然の赤い炎が大男を『蹴り飛ばした』のだった。あまりの衝撃に砂浜を転がっていく大男。それによってミカを手放してしまう。

「大丈夫!ミカ!?」

「ドリュー…」

そこには駆けつけたドリューが急いでミカを介抱する姿と、両足を真紅に燃やすケントの姿があった。


「俺達の卒業がかかってるんだ…邪魔するなよカブトムシ野郎!」

武術の構えを取って、起き上がった大男にケントは吠えた。


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