第十三章 対決ラージャック
母船に格納された小型船から二人の男が降り立った。鋼鉄の床を踏みしめて青い顔の男に続いて銀髪の男が続いた。青い顔の男は大事そうに球体を触っていた。
「ザヴィエラ様、それはなんですか?先程から熱心に調べているようですが?」銀髪の男ラージャックが問いかけた。彼の目には、大統領婦人の家から戻ってから、ザヴィエラが妙なヒィアートツールを弄くり回しているように見えていた。事実、母艦に着いてからも未だにツールを触っている。
「・・・なに、ちょっとした玩具さ」するとザヴィエラは少しだけ応えて、皺だらけの顔に笑みの皺を増やした。彼の掌の上で球体が点滅したり、振動したりしている。
そうして長いローブをするするとなびかせて、ザヴィエラは戦艦の奥へと進み始めた。
「ラージャック、君はすこし休むといい――また用があったら声をかけるさ」
「は、はぁ・・・」
それだけ言い残して、ザヴィエラは何処かの部屋へと消えていき、親衛隊長のラージャックは「休め」と言い渡され戸惑っていた。
彼にとって「休息」というものは、余り無いに等しい生活を送ってきていた。ザヴィエラに仕えるようになってからは、軍や警らの仕事に手を貸し、多くの違法者を捕らえてきた。それも副大統領の指示あってこその行動であり、恥じることのない正義の行動である。
「ふーむ・・・急に言われても――」と、思わず呟いたラージャック。その首元ではギンの首飾りが鈍く光っていた。
戦艦内は軍人や作業員が多く、慌ただしく、動き回っている。副大統領を乗せ終えたのだ、このまま魔法惑星を出発する手筈のため当然のことであった。出発を報せる号令や、やかましく駆動音が鳴り響いている。
――そこへ。
「隊長!ここにいましたか!」部下である軍服を着た羊族の男がやってきてラージャックに声をかけた。
「聞きました?あの列車で掴まえた便利屋、脱走したって?」
「・・・あぁ。通信で聞いた――が、しかしバシリアから脱走とは、やるものだな」
感心するラージャックに部下は肩をすくめた。
「それがですね・・・!なんと今、この星にいるらしいんですよ!それも誘拐したはずのご令嬢と一緒に!」
「なに?どういうことだ――?誤報だったいうことか?・・・いや、しかしザヴィエラ様の指示だったはず――」
ドカン!!
突如として轟音が響いき、船内が揺れた。
「――なんだ!?」ラージャックが叫んだ。
今まで鳴っていた号令が警告音と緊急事態を報せる放送に変わっている。
『未確認の飛行物体が衝突!航行を妨害されています!』
その放送を聞くと同時にラージャックは部下に「確認を急げ!」と指示を飛ばして、自らも原因追求のためにと駆け出した。
※
リバリー号は唸りを上げて、自身の何杯もある戦艦の腹に体当たりを仕掛けていた。メキメキと装甲が剥がれていくのがわかるが、それもお構いなしに体当たりを続ける。
操縦席からはバルンへと激しく指示を飛ばすジョットが見え、そして、船のハッチ部分からはドリューが身を乗り出していた。
「ほほほ本当にこの作戦しか無いかな?!」急風に煽られてドリューのすくみあがった声が流れていく。
「あぁ!というかこれしか思いつかなかった!ミカ!お前もしっかりドリューに掴まってろ!」
「わ、わかったわよ!」ケントとミカがドリューの後ろから顔を見せると、それぞれに腕を伸ばしてドリューの毛もじゃな身体にしがみついていた。そうしてケントが「よし!」と意気込むと同時に彼の手から赤いオーラが溢れて、それはドリューへと伝わり大きな爪を赤に染めた。
「行くぞドリュー!覚悟決めろ!!」
ケントの声にドリューは赤い爪を見ながらに息を呑んだ。
「わ、わかったよ―・・・だけど自分のタイミ」「今だ!!」ケントはドリューを無視して、二人を掴んだままに、ハッチを飛び出した。突然の事にミカもドリューも悲鳴を上げているが、ケントは宙空を素早く動く中で、ぐんぐんと敵戦艦の装甲板が見えてくるのに笑みを作った。
「ドリュー!」「え?あ!ここだ!!」
瞬間、ケントの叫びとともにドリューは真っ赤な爪を戦艦の壁に突き立て――えぐり取った。鋼鉄の壁が畑でも耕すがごとく掘り返されて、風穴を開けた。
「流石だドリュー!」「あ痛!」「ひゃ!」風穴から戦艦内に入り込んだ3人。きれいに着地を決めたケントに対して、ドリューとミカは、ケントから無造作に手を離されたことで尻もちを着いてしまった。
「もうちょっと優しくしなさいよ!」
「贅沢言うなよ――ほら、いくぞ!すぐに敵がやってくるぞ!」
地に腰をついた二人を引き起こしてケントは言った。その言葉通り、次には異常事態に駆けつけたて来たのだろう、多くの兵士たちの声が聞こえてきた。
三人は、大きく頷いて、足早に戦艦の奥へと向かって走り出すのだった。
※
「襲撃か?!」「いや事故かもしれん!」「外壁に穴が空いてるぞ!」戦艦内に様々な声が飛んでいた。慌ただしく右往左往する白い軍服の兵士たち。異常事態の原因は何なのかと混乱しながらも、テキパキと対象を行っている。
作業員チームが修繕用のヒィアートツールを持って駆け抜ける。その、すぐ脇でケント達は身を潜めていた。兵士たちの休憩室かそれともストックヤードだろうか、雑多に機材や小物たちの並ぶ部屋に隠れて、3人話し合っていた。
「ザヴィエラのやつどこに居ると思う?」ミカが言った。
「やっぱり指示を送るために司令室にいるんじゃないかな?」
と、ドリューは部屋の壁に貼られた『緊急避難路』と書かれた地図に、簡易的な船内の見取り図を見つけ、その中から『司令室』の文字を指差した。
「なるほど・・・あり得るわね」言いながらにミカはすかさず、スマートツールで地図を写真に撮った。
「よし、じゃ、とりあえず司令室だな」
ミカが頷くと同時にケントがポンと手を叩いて言った。そしてそのまま部屋を出ようとしたがケントだったが、ミカが彼の肩を掴んで引き止めた。
「待ちなさい単純赤男」流れるような暴言に、ケントの心にザクリと刺さった。
「いい?二手に別れる必要があるわ――ザヴィエラを探す方と、この船から逃さないように細工する方とでよ」「細工って?」ドリューが聞いた。
「この船のエンジンを壊す・・・のは、まずいわね。墜落されたら困るし――・・・いいわエンジンを停止させて補助エンジンに切り替えさせる、それなら惑星の外へ出るほどの出力はでないはず・・・あとは他の脱出艇になりそうな船は使えないようにする」
人差し指を立てて言うミカに二人は感心して頷いた。
「そこで、細工の方はドリューにお願いしたいの――私とケントは、ザヴィエラを探すわ」
「なんで勝手に決めるんだよ」ケントがここぞと声をあらげた。
「あんたは虹色お兄さん対策よ――なにより説得してこっち側に付いてもらうのよ」
「あのな、何回も言うけど、ラージ兄ちゃんのオーラが虹色なのは超レアな時だけだからな」「どうでもいいわよ」ミカがピシャリと言ってケントに寂しそうな顔をさせた。
そうして、廊下を臨む扉窓から少し様子を伺ってミカが首をクィッと傾け、作戦続行の機会を伺った。
「・・・もうひとつ言っておくわ――介入機を取り返せなかったら――あんたらの職星の話もなかったことにするわ」
「んな?!お前!もう、結構手助けしてきただろう!?それに装置を取られたのお前のせいだろ!?」「そうだよミカ!」ケント、ドリューが講義の声を上げたがミカの視線は冷ややかだった。
「いいのかしら?レッドパスを粉微塵にしたのが誰か大統領に言うわよ?」
ポーチから銃を取り出し構えるミカ。扉越しに兵士たちが、少なくなるのを伺った。
「・・・あいつ、独裁者になれる素質があると思うな」
「・・・うん、僕もそう思う」
そうしてあきらめ声の二人に、ミカが指示すると同時に、新たな作戦が始まった。
※
「急ぐわよ」「あぁ――任せたぞドリュー」
「う、うん・・・やってみるよ」
ミカとケント、そしてドリューは二手に別れた。ザヴィエラを探し装置を奪還する方と、船の航行を妨げる方だ。どちらも猶予はないものであった。リバリー号の突撃が、長くは続くはずもない。脱走犯の船だとすぐにでも識別され、更には襲撃者の汚名まで着せられてしまうだろう。
「・・・よし、いいぞ」ケントが壁際に張り付いて、通りの確認をしながらに言った。
「こっちよ」すると、スマートツールを睨んでミカが言った。
ミカが地図を頼りに先導している。兵士たちは騒ぎの中心に向かって急いでいるようで、ケント達が向かっている司令室に近づくに連れ、人が少なくなっているように感じられた。
事実、身を隠しながらに進むのが随分とスムーズである。そうして、身を隠しては進むを繰り返して、ケント達はどうにかこうにか、地図通りならば司令室の扉が見える通路までやってきた。途中、ミカがたびたび現れる見張りの兵士たちに「面倒くさい」と銃を撃ち放とうとしたのを、何度か引き止めたりとケントは、作戦のメインを行う前にどっと疲れていた。
「・・・あの先か―――よし、行くぞ」
「ちょい待ち」ミカが今にも飛び出さんとしたケントの服を引っ張って止めた。おかげでケントは息が詰まって涙目になっていた。
「司令室があったとして、入り口はロックされてるわよ、確実に」
「――あ、あぁ、そうか」ケントは咳をしながらにミカを恨めしく見ながらに応えた。
「まず、あんたのオーラケンポーでぶっ壊してみる。それで駄目なら私が触って暴発させる」
ミカが、またまた指を立てて提案を出した。
「あぁ、そういえば魔法族だったな」
ガン!
ミカが銃の柄でケントを後頭部から殴りつけた。そによって痛みが全身を走って目からは火花が散った。
「そういえばって何よ!」
「――だからいちいち殴るな!」
いがみ合う二人だったが、ケントは、ふと背後に気配があるの感づいた。
「――止まれ」声がした。
静寂なる空間に、挿すような低く冷たい声が背後から聞こえた。
振り返ったケントとミカは、顔を強張らせた。そしてケントは思わず呟いた。
「ラージ兄ちゃん・・・」
白い軍服に帯剣した銀髪の男。奇妙な首飾りを提げて、容姿端麗なる顔立ちから冷たい視線がケントとミカを射抜いていた。
「貴様ら、どこから入った――それに・・・――まさか、ミカ・フェリア嬢?」男がミカを見て瞬いた。が、次の瞬間。
「ラージ兄ちゃん!!」「なに?」
ケントが男の名を大きく叫んだ。無論、そちらに反応した男は、ミカから一度視線を戻してケントへと向けた。
「私はラージャックだ。しかし私をその名前で呼ぶのは」「俺だよ!ケントだ!ソーン流武術道場の弟弟子!師匠もスタア姉ちゃんも元気だ!!」
ケントは忙しく言い並べて、言葉の終わりには両腕に赤いオーラを現せて、己の存在をしっかりと示した。
「・・・ケント!?あの小さかったケントか!!」ラージャックは一瞬、目を輝かせてケントたちに踏み寄ろうとしたが、すぐに押しとどまって剣に手を添えた。
「――・・・ケント。いや、本当にケントだとして、なぜここに居る?この先にいるのが誰かわかっているのか?」ラージャックの目がギラリと光った。
「ラージ兄ちゃん聞いてくれ!ザヴィエラは何かを企んでいる!それで傭兵たちまで雇って時間介入機を手に入れたんだ!」
「・・・いきなり何を言っている?介入機?それにザヴィエラ様が企みだと?ケント、どういう理由があるかわからんが――感動の再会は牢屋で行うことになるぞ」
そう言うとラージはゆっくりと剣を引き抜いた。
しかし、そこへミカが一歩踏み出した。
「ちょっと待って!ラージャックお兄さん!」ミカが叫んだ。
「本当なの!ザヴィエラは、連鎖の印で失われた儀式を行おうとしている!そのためにメガット博士の造った介入機を奪ったのよ!」
「・・・・・・・――ミカ・フェリア嬢。なぜ、あなたのような立場の人間がここにいて、わけのわからないことを言うのか―――、ケントに何か弱みでも握られましたか?」
「いや、兄ちゃん、それは逆で」「黙ってなさい」ゴスっとミカの肘打ちがケントに刺さった。それを見ながらにラージャックは睨みを強めて口を開いた。
「――それに、あなたは誘拐被害の対象になっていたはず」剣を握る手に力がこもる。
「ケント・・・!おまえまさか、あの便利屋共と共犯か!」
「違う!半分あってるけど誘拐なんかしてない!」
「そうよ!それに星間列車の強盗だってザヴィエラの雇った傭兵のせいよ!そいつらもさっき私達がやっつけたから、捕まえて吐かせればいいわ!」
いつの間にか、忍者傭兵を倒したのが『私達』になっているが、ケントは突っ込まないでおこうと、ただ頷いてラージャックが剣を納めてくれるのを願った。
「お前たちは、何から何までザヴィエラ様が裏で糸を引いていて、今も、この連鎖の印で悪巧みをしている。と、そう言いたいのか?」
「えぇ、そうよ。そのために介入機を使えば、副作用でそこら中の空間が消失するわ――ザヴィエラは、それもお構いなしに装置を使う気なのよ」
「兄ちゃん!あいつが完全に装置を使いこなす前に取り戻さないといけないんだ!それに儀式を成功させれば、連鎖の印のせいできっと兄ちゃんに悪いことが起こる!」
ケント、ミカとまくし立てたが、ラージャックはそっと首元に手を伸ばして、首飾りである連鎖の印のチェーン部分を持ち上げた。
「……これは、ザヴィエラ様の種族に伝わる厳かなものだ。己の知恵の全てを継ぐ後継者を選び、そして全ての信頼を寄せるものにしか与えることの無いもの――それを、私は頂いたのだ――私は・・・あの方の信頼に応えねばならない」
剣先が改めてケントを向いた。
「ケント!お前にも言い分はあるだろうが、私にも裏切ることのできないものがある!!――その先に進むというのなら・・・久々に私の剣を受けることになる」
ラージャックの、その声と、眼差しにケントは「これはもう引くことはない」と悟った。
「・・・やっぱり、こうなるか」諦め声でケントが呟くと、脇をしめ身構えた。そんな横ではミカが隠れるところを探そうとキョロキョロしていた。
「ちょっと!勝てるの?!」
「言ったろ?―――・・・期待するなって」
そう言ってケントは全身を赤に染めた。
※
「ラージ兄ちゃん!どうしても話を聞いてくれないか!?」
ケントは己の身を真っ赤に燃やして構えを取って言った。
「聞かせたかったら、私に勝つことだ」
それにまったくの尻込みもせずラージャックは剣先をケントに向けたままに、言葉を返した。
まるで切り抜かれた空間のように二人の間の空気が重く冷たくなっているように思えた。
瞬間、両者は同時に飛びだした。
「は!」ラージャックの剣が高速で薙ぎ払われてケントに迫った。
それを間一髪、飛び上がって回避ししたケントはそのまま飛びげりをお見ました。しかし、それもラージャックの恐るべき反射神経のせいで、剣の柄部分で防がれてしまった。
「な!?」「あまい!!」
飛び蹴りが失敗し宙空で制止したところで、ケントは足をラージャックに掴まれてしまった。そしてラージャックが僅かにだが己の手に『金色』のオーラを現すと、そのまま力まかせにケントを床に叩きつけるのだった。
「がっ!」「ケント!」
床を転がって痛みに声を荒げるケント。ミカも思わず駆け寄って様子を伺った。
「なにやってんのよ!」
「さ、さすがに・・・一筋縄じゃいかないかな――・・・」
ミカの助けを借りずに起き上がったケントは、まっすぐこちらを睨むラージャックに対してまた構えをとった。と、そこへ。
「ちょっと、ちょっと!なんでお兄さん剣使ってるのよ?あんたのとこ拳法って素手だけじゃないの?」
「・・・武術だから武器の扱いももちろんあるさ――俺は素手の方が得意なだけだ。それを言ったらスタア姉ちゃんは薙刀が得意だし」
すると、そんな話し声が聞こえたのかラージャックが、おもむろに口を開いた。
「ケント、少しは鍛えていたみたいだが、未だに他の武器術も扱えないなのか?」呆れたような声で言った。
「う・・・。合わないだけさ――それに、こっちの方だけでも随分と強くなったし」
「鍛えていたのが自分だけだと思わないことだ」
その言葉を告げた瞬間、ラージャックが振りかぶった。
「!?」そして次には、勢い良く投げ放たれた剣がケントの目の前まで迫っていた。
ガシ!と咄嗟に腕にオーラを集めて剣の腹を殴ると、真横に弾き飛ばして直撃を防いで見せたケント。だが、その動作の最中、ラージャックが既に己の懐に飛び込んでいるのが見えた。彼の足には金色のオーラが昇っていた。
ドスン!!とケントの腹部から鈍い音が響き、彼の目が白黒した。そして続けざまにラージャックの回し蹴りがヒットしてケントは赤いオーラを纏ったまま壁に激突した。
「ケント!!」ミカが叫んだ。
ケントのぶつかった壁は装甲がパラパラと崩れている。ミカはそちらに駆け寄るが、ラージャックは勝負あったと言わんばかりに、一度ゆっくり瞬いてから、先程ケントに弾かれた剣を拾おうと、そちらに動いた。
が、その瞬間。
「――!?」剣に手をかけていたラージャックの顔面スレスレを小さな赤い物体が豪速球で通過したのだった。何事か驚き、身を引いたラージャック。赤い物体はその正体・スマー路ツールだったものは、そのまま壁に衝突し粉砕してしまった。
「今のは」「お返しだ!!」壊れた物体に意識が向いてしまっていたラージャックに思いがけない声が背後から飛んだ。そして、『回避』だと身体を動かすよりも早く、ケントのドロップキックがラージャックの背中に直撃して、反対に彼を床に叩きつけてみせた。
「まだ、やられてないぞ兄ちゃん!」傷を増やしながらにケントが言った。その横ではミカが先程の心配そうな顔を消し去って、小さくガッツポーズをしていた。だが、それも床を転がったはずのラージャックが即座に復帰してきたことで、、またすぐに宜しくない気持ちになってしまった。
「兄ちゃん、今日は金色か?虹色じゃないだけ幸運が足りないのかもよ」
「ふん。オーラの色は戦いに関係ない。――だが、あえて言うなら金は虹色の次に出が悪い」そう告げると共に、ラージャックの身体から金色のオーラが吹き出した。
同じくケントも改めて己の赤いオーラを現すと、今一度、勝負とお互いに構えをとった。ケントは拳を、ラージャックは改めて拾い上げた剣を構えて、睨み合いを強くする。
しかし、そんな張り詰めた空気の中、ミカは何かを思いついたようにケントに耳打ち仕出した。
「な、なんだ?いま、すっごいシリアスなところなんだぞ」
「いいから聞きなさい――あのね、・・・だから・・・私が・・・するから――ね。どう、できる?」
「はぁ?それは、お前しだい・・・というか、兄ちゃんの力量しだいだろうな――それに、それだと一対一じゃなくなってフェアじゃないというか」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」提案に、いまいち乗り気じゃないケントをミカが一喝。無理矢理したがわせると、ケントを再びラージャックの視線の相手に差し出した。
「いい?なんとか動きを止めなさい」ミカがそう小さい声で伝えると、自らは忙しそうに銃を弄くり始めたのだった。
「相談は終わったか?」ラージャックの鋭い視線が二人に突き刺さった。どうやら、先程のケントの攻撃が怒りを買ったらしく、それまで小出しだったオーラが全身から吹き出しているのがわかった。
ミカはそれを見て息を呑んだ。たしかケントは『オーラは極めれば極めるほど、出す必要が無くなる』と言っていた。実際、ラージャックはケントとは違い、ほんの僅かな瞬間瞬間で金のオーラを現していた。ケントが常時全身にオーラを纏っているのとは真逆であり、それこそ彼がケントよりもオーラ術を極めてる証でもあった。
しかし、それが今、あちらも同じく全員を金に染め上げだしている。つまり『本気』だと理解した。
「おとなしく投降しろケント」
「ザヴィエラを止めてからなら、すぐにでもするよ!あ、あとキチンと卒業もしてから!」
冗談っぽく言って、構えを取るケントだがラージャックの冷ややかな瞳と、本気の気迫に少しだけ見せてみた笑みを消し去った。
刹那、ラージャックが動いた。まるで金色の閃光となってケントに迫ると、オーラを乗せた剣を振るった。
「うぉおおおお!!」それをケントは躱すではなく、クロスさせた両腕に全オーラを纏わせて金色の剣を受け止めた。燃え盛るように赤と金のオーラが衝突して空間を包み込む。
ケントとラージャック、両者ともに一歩も引かずに攻防を続ける。
が、やはりラージャックの方が経験と鍛錬の差か、推し始めた。
「・・・ぐっ!――・・っ!?」堪えきれなくなりそうなケントだったが、そのとき、別の嫌な音を聞いた。バチバチという稲妻のような音。あの時、警官隊に囲まれた時に聞いた音だ。
「まずい!」「なに!?」瞬間、ケントは咄嗟に手を引いた。それによって振り下ろされた剣は床を切り裂き突き刺さった。が、それよりもケントは「次に起こる」ことを恐れて、ラージャックに飛びついて、その場から一緒になって転がった。そのせいで、剣は床に刺さったままになった。が。
バチン!!
次には、青い白い稲妻が疾走り、剣のあった床ごと空間をえぐり取ってしまった。
「・・・く!離せ!ケント!」「ダメだ!今の見ただろ兄ちゃん!あれが装置の影響なんだって!」ケントが飛びついたことによって、ラージャックは羽交い締めをされている状態になっていた。当然のことに暴れるラージャックだが、ケントはなんとか抑え込もうと必死に食らいつく。
と、そこへ、ミカが分解し終えた銃の中身を現して駆け寄ってきた。
「ケント!そのままよ!!」「――!?」
ケントにだけ意識を向けていたラージャックは、思いがけない一手に驚き、遅れをとってしまった。息をつく間もなくミカが銃の弾倉部分をラージャックの胸元に押し当てた。
「な?!」
銃が金色に光り輝いた。あまりの眩しさに、行ったミカ本人も驚いて「わわわ!」と声をあげた。そうして、輝きはやがてミカの銃の弾倉部分に全て吸い込まれていくのだった。
「す、すごい・・・増やして貰ったタンクが一回で満タンだ」ミカは黄金に輝くタンクと銃を見ながらに感心の声をあげた。
「ミカ!離れろ!!」と、ケントが叫んだ。同時にラージャックがケントを振りほどいて、二人に最大級の警戒の目を向けた。
「・・・なにを――した・・・!」
ラージャックは言った。が、その身は先程より疲れきって見えて、表情も険しくおぼつかない様子であった。
「魔力タンクにヒィアートを分けてもらったわ・・・・これだけ頂いたんだから、体力も体内ヒィアートも空っぽに」
「半分ほど、もって行かれたか・・・!」グッと力を込めたラージャックが、再び金のオーラを発現させる。
「は、半分!?これで!?ど、どんなに詰まってるのよ!」
「それがラージ兄ちゃんだ・・・、だけどこれで互角ってとこかな」
ケントが最終段階だと構えをとった。
「・・・ケント、大きく出たな。だが、互角で勝利は得られんぞ」
ラージャックは軍服の上着を脱ぎ捨てて、残った全てのヒィアートを拳に集め、金のオーラとして纏わせた。それを見てケントもまた拳に赤のオーラを集める。
二人が、強く睨み合い、お互いに一撃を御見舞するために機会を伺っている。そうして二人共に三度ほど深い呼吸を行うと同時に、ギラリと目を光らせ駆け出した。
「おおおぉ!!」「はぁぁっ!!」赤と金のオーラが交差する。
その結果。
ケントの拳はラージャックを仕留めること叶わず、頭部側面を掠め、反対に金の拳を身体の正面から受け止める羽目になった。
「ぐぇ・・・!」目を白黒させるケント。
ラージャックは勝利に笑みを見せたが、すぐにその笑みを引っ込めた。手応えが可笑しいのである。ケントの鳩尾に食らい込ませた拳が何か、肉体ではない鋼鉄にでも当たったかのようであった。
「・・・まさか―――!」ラージャックはハッとして拳の先が赤い靄を上げているのが見えて理解した。ケントは自分が狙ってくる箇所に全オーラを集中させ防御力を上げたのだ。
その証拠にケントの拳のオーラが消えている。
「俺の勝ちだ!兄ちゃん!!」
その瞬間、ケントが息を吹き返したように言うと、ラージャックの突き出した拳を掴みかかった。そうして、全力を出し切り反応の鈍いラージャックの腕と脇を思いっきり抱え上げると、そのまま一本背負いで投げつけた。
ズシン!!
ラージャックの身体は、硬い鋼鉄の床に叩きつけられて一度はずみ、そしてその衝撃で彼の意識は遠のいてしまうのだった。
「・・・はぁ、・・・はぁ――やった・・・なんとか、勝てた」
息も絶え絶えケントが呟いた。その足元には気絶した兄弟子が倒れている。
「凄い!よくやったわケント!・・・でも、お兄さんに悪いことしたわね」
ミカが嬉々とした声を上げながらに駆け寄ってきて、ラージャックに申し訳無さそうな顔を見せた。
「――、ごめんラージ兄ちゃん。あとで必ず説明するから」と、息を整えながらにケントは謝罪すると、ミカに「急ぐぞ」と頷かせた。
事実、リバリー号の突撃現場より、今の戦闘音の方が目立ってしまったのだろう。遠のいていた兵士たちの声が近くなってきている。
「わかってる。司令室はすぐそこよ・・・と、その前に」
するとミカは、しゃがみ込むとラージャックの首元に手を伸ばした。さっきは倒れた傭兵を小突いていた彼女である、また同じようなことでもするのかと心配のケントだったが、ミカの手はラージャックの首にぶら下がった飾りに触れたのだった。
「これね連鎖の印っての・・・持っていって突きつけてやるわ」
器用にチェーンを外すと、銀細工の首飾りを握りしめてニヤリと笑った。
「さぁ!あとは装置を取り戻すだけよ!」
満タンになったタンクの銃を引っさげて、ミカはザヴィエラの待つ司令室へと駆け出した。
それに頷きケントも続いたが、ふと、先程、剣が消え去った空間に目がいた。
「・・・自分の乗ってる船がどうなってもいいのか?」
あの現象は介入機の副作用である。またザヴィエラが装置を使ったのだろうが、あまりにも他への影響を考えていなさすぎる。これでは自分自身さえもいつか消し飛ぶのではないか――。そう考えながらにケントはミカの後を追った。




