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引きこもりは再び伝説を紡ぐ  作者: 伊藤友介
一巻
4/4

エピローグ

 首都アルバ、機関施設後方に位置するこのなだらかな丘。

所々には小さな池。辺りは桃黄青、淡色の色とりどりな小花野花と瑞々しさを感じる野草。まさに花鳥風月のそれは、四季が変わるたびにその色に染まり、雪月風花を魅せてくれるという。

この丘は昔、大規模な討伐後の宴によく使われた場所だという。最近はヴァイル・ギルドが主流で、リーダーの影響なのか、討伐からの帰還後はそのまま街でお祭り騒ぎになるのでこの場所は長らく使っていないらしい。

今、真っ白なテーブルクロスが敷かれた丸いパーティ用のテーブルがいくつも散りばめたように置かれ。その卓上にはアルバの各宿舎、その料理人や機関が腕を振るって催す料理が。

形式は宮殿で催されるような貴然のそれだが、今この場にいる者たちは違う。

酒場で酒を酌み交わすような豪快さ、白いテーブルの間を縫うように走り回る子供たち。

それはお祭り騒ぎと何の変わりもなかった。


「レン、すっかり人気者ね」

 レンは自分たちとは離れた場所でヴァイルやマックス、他のギルドの主要人たちと言葉を交わしていた。

「あれが本来の……レンなのかな」

 シーナと共にいるイーナも、料理の乗った皿を片手に微笑を浮かべながら話し歩くレンに、少し違和感を感じていた。


【生ける伝説】がシーナ・ギルドに加わったことは、国民を、全てを、長く震撼させた。


街の皆でこの丘に移動した後、シーナたちはラウナとも話をした。

「……最初から、私が馬車で迎えに行った時から。全て分かっていたの?」

「ん――……、分からないわ」

 ラウナは少し困ったような顔をしていたが、やがて何かを納得したように微笑を湛え、機関職員の方へ戻って行ってしまった。


「ヴァイル・テイルだ。よろしく」

 先まで機関長やレン、各ギルドのリーダーたちと話をしてたヴァイルが、シーナとイーナに挨拶しに来た。

シーナは一度面識があったので、すんなりと交わしたが、イーナは初対面で緊張で上がっていた。

その直後、大勢の主要人たちが二人の少女に挨拶をしようと押しかけて来て、緊張ながらその対応に追われた。

 

レンは機関長とも話をしていた。何の話をしていたかは分からないが、互いは笑い合っていた。


 ――夕方。

照明のない丘ではもうお開きの時間。

パーティの時間はとても早く感じた。

ヴァイルや街の皆は戻ったらまた夜道しでお祭り騒ぎをするのだろう。

ぞろぞろと、まるで大討伐の後のように街に戻っていく人たちの中、シーナとイーナは機関の後片付けを手伝った。二人が家に帰宅したのは、日が完全に沈んだ頃だった。

 

 ――――――…………。


***


――早朝。

「これで二〇五や壊れたところを直してくれ」

 マックス――本名、マキシマム・クロードがホテルフロントを務めるホテル、そのエントランス。

今ここにいるのはレンとホテルフロントだけ。

レンは金貨の入った袋をフロントカウンターに置いた。

それは、一度はすぐに持ち主の手に戻ってしまった袋。

しかし今は。

「これでやっとお前の金を受け取れる」

 ホテルフロントは袋を掴む。

 ――とうとう、この日が来たか……。

目の前のレンは、相変わらずのマント姿。しかしいつもと違うのは、何か重いものを下ろして身を軽くしたような――、……そんな表情だった。


「変わったな、レン」

 ホテルフロントは笑いかける。


「そうか? 俺は変わっていないぞ?」

 

――俺はずっと、こうなるこを――――望んでいた。


そう。レンは、ちょうどホテルを出発するところだった。


「――世話になったな」

 レン、薄笑みを浮かべる。

「ふん、柄でもない」

 マックスもまた、笑みを浮かべていた。

「ハッ――、そうだな」


 レン、出口に向かって歩き始めた。


窓が全て開け放たれて冷気が漂い。だが、とても柔らかい、白い日光がエントランスに差し込んでいる。

ホテルフロント、眼を瞑り。無音と白い光の空間の中。レンの足音を噛みしめ、味わうように聞いていた。

レンの足は、エントランスの床、低い音を鳴らして踏む。

それは無音の空間に響き、余韻を残す。

すぐに扉は目に前に。


ギィィ……。


レン、両開きドアの左側に手を置き、僅かに力を入れる。

そして今歩いてきた道に、ホテルフロントに振り返り。右手を軽く挙げ、言う。

「――じゃあな」

「……ああ」

 

レンの姿は、白い朝日を浴びて逆光。


次に、レンは姿をドアの向こうに消す。


ドア、閉門。その余韻はエントランスに響く。

ホテルフロントはその音を、いつまでも聞いていた。


そして。


「――伝説は再び、――始まる、か……」

 ホテルフロント、白い朝日を仰ぎ。冬の朝のような、とても清々しい気分で。

満面に、未来を見るような、笑みを浮かべて。


自分が為せないことを為した、生ける伝説を想って。


 ***


そして。……数日後。


「――さ、早くいくわよ! レン!」

 シーナとイーナ、朝日の中。既に家の外で待っていた。

「チッ、そう急かすな」

 遅れてレンが外に姿を現す。

その姿は、これは譲れんとばかりにマントこそ羽織っていたが、フードは被っていなかった。

そこには、シーナ・ギルド、三人の姿が。


 レーゼン討伐、報告会の後日、一つの法が可決された。

――シーナ・ギルドに対する直接依頼の禁止。

これは、レンが加わったシーナ・ギルドに依頼が殺到するのを防ぐ最低限の手段。

よって、機関に行かないと依頼は受諾できない。

しかし、これはレンが受動的ではなく自発的に依頼を受けれるというためでもある。

シーナ・ギルドは積極的に北の最果て付近の依頼を受けた。

そこは二人の故郷があった場所でもあり、防衛線の再構築の最中の地域でもある。

今はこれで、依頼を受諾、討伐しすぎて、均衡が崩れることも無い。

イーナは北の最果てを訪れる度に北の方――北の霊峰を恍惚の表情で見つめていた。


シーナ、イーナ、モンスター討伐の時にはレンに闘い方を教わった。

レンは個々の技術、つまりシーナからすれば剣の技術、イーナからすれば、レンは最低人間であり魔法には無干渉だが主に魔法の技術。

レンはそれこそ闘い方を教えてくれるが、先の個人の技術というよりは、連携――魔法と剣が同じ場所で同じ目標を討伐する、ということを重要視しているように思える。


レン曰く、

「力で葬ろうとするな、モンスターの動きを把握、脳に沁みるまで身体に覚え込ませろ、次にどう動くかを常に確信を以って予想できるようにしろ、モンスターを誘導さえできるようにしろ、攻撃する部位を考えろ、隙があれば眼を奪え翼足移動手段を奪えそうすれば近距離ではない魔法で決められる」

 あとは――、

「致死量が流れるくらいの傷を与えればあとは自然に死ぬ、生息する全てのモンスターの動脈の場所を把握しろ」

 ――だそうだ。


これはレンが引きこもる前、腐るほどモンスターを討伐してきた、訓練所の指導者が目を剥く程の経験があるから言えることだろう。如何にレンがモンスターとの世界、その深いところにいたかが容易に想像できる。


シーナたちは日を重ねるごとに熟練の討伐者に近づいていくことだろう。

そして将来、二人はお互いの夢を叶えるかもしれない。

探検家、そして英雄。


そしてその夢を、夢で終わらせない、現実に導く新たな存在、レン。


紡がれ始めた伝説の第一打の次は、果たして――――?


***


如何だったろうか。

これが、この世界で。現代をく伝説、生ける伝説の、復活を記した物語である。


――まあ、多少省(・・・)いた(・・)部分(・・)()あるが・・・、それはおいおい、今後綴っていこう。


……さて。


果たして世界は、伝説の復活に伴って動き始める。


伝説は再び動き出したのだ。

長らく止まっていた時計が、再び時を刻むように。


今、フィーアから東、遠く離れた地で。

「やっと動き出したの? ――レン?」

 生ける伝説が復活した瞬間。世界を、歴史の動きを感じ取ったのだろう。

――それは白髪青眼の獣人の女性、玉座の上で嗤う。



世界が動き出す。

伝説の復活と共に。



――――全てはここから始まった。



では紹介しよう。

これから未来を生く、伝説を。

さしあたり、その本の題名を。その人物の名を。


太古の昔――、本当にあったかもわからない、誰かの空想かもしれない伝説に沿って。 

〝翼無き者〟は、彼を――、〝生ける伝説〟と呼んだ。



以上で一巻終了となります。ここまで読んでくれた方々、評価をして頂いた方々、ありがとうございました!この作品を書いたきっかけは、あるひきこもり特集番組を見たことでした。引きこもりだって昔は夢があった、どうしても叶えたい、実現させたい夢が。でも、今となってはそれはもう叶わない。そんな悲痛な想い。それをテレビの中の引きこもり達を見てて、連想しました。「昔は俺にだって夢があった!」

レンのこの言葉は、その悲痛な想いがこもっています。そして、レンにとって光になる存在。暗闇の底から引っぱりあげてくれる存在。『女の子が引きこもりを救う』――この一文が、全ての発端です。

さて。一巻挿絵を描くので、二巻プロローグは一月になると思います。

手元には二巻、三巻のプロットが既にあり、頭の中には十巻までのやりたいことがつまっています。なので二巻もそこまでお待たせすることはないと思います。評価や感想をお待ちしています!



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