黒猫の考察 ~兄は天然~
緋月による兄、夏樹の観察と考察。
兄さんは天然だ。それもドが付くド天然。
昔はまだそこまでではなかったはずだ。
まず一つ。兄さんに気がある女どもの熱視線に気づかない。
告白されても全く気付かない。
「季羽先輩、好きです!付き合ってください」
「?ああ。どこに付き合えばいいんだ?」
真顔で言う。
兄さん本人にボケている自覚がない。本気だ。
兄さんは本当に告白に気付かず、どこに付き合うのか真剣に聞いているのだ。
ここは緋月の友人である日和が店主を務める喫茶店。
僕や兄さんの友人の黒崎の双子と海藤蓮、この喫茶店のマスターの此永日和は目の前で起こった突然の告白劇に一瞬固まったが、兄さんの本気のボケに僕は溜息を吐きたくなった。
これは酷い。本気で伝わっていない兄さんに、
鈍い鈍いと思っていたがここまでとは思わなかった。
何故、目の前に顔を真っ赤に染め上げた女が好きだと言っているのに
この朴念仁は気が付かないのか。
抜けているかと思えばしっかり考えているので油断ならない男なのだが、
この兄は恋愛ごとに疎すぎる。
(……僕でも告白だと分かるのに)
捻くれた見方をする僕でも、顔を真っ赤にして兄さんに迫るこの女が
兄さんに気があると一発で分かるのに……
他のことではまだ頭の働く兄さんは、
恋愛ごとになると人の気持ちが全く分からなくなるのだ。
兄さんに告白するには「愛している。結婚してくれ」
ぐらい言わないと気が付かないだろう……
「何でもないです……」
結局、告白に気付かれなかった女は泣きながら店を出て行ったが。
兄さんは天然の人たらしだ。
兄さんの周りには彼を慕う人が集まってくる。
「夏樹は相変わらず鈍いな」
「そうか?鈍くは無いと思うんだけど」
「……朴念仁」
「僕まだ朔夜よりはマシだと思うんだけど」
兄さんはさらりと酷いことを言っているが、悪意はない。
思ったことを素直に言っているだけに過ぎないのだ。
悪意のない兄さんは本当に質が悪い。
兄ちゃんはニブチンです。恋愛ごとに鈍感な兄ちゃんです。
酷いことを言った自覚もないです。ただ思ったことさらっと言っただけ。
夏樹は結婚できるのか。それが弟と友人たちの大きな疑問。