耳-4
そう言えばそろそろ体育祭だな……。
僕はそう思いながら黒板に文字を書いていく体育委員の姿をチラリと見た。 別に運動神経は可もなく不可もなく、 だ。 だから適当にいつもつるんでるメンバーと同じ種目にした。
西川はドッヂボールにしたらしい。 少し意外だったがボンが「当てられても特に反応もしない奴ってやっぱ当てにくいんじゃね?」
と、 言っていたので納得した。
かなり迷惑な作戦じゃないかそれ? とも思ったが口に出すのは憚られた。 無言の圧力と言うのだろうか、 が凄かったのである。
そうして最後の一つまではあまり争うようなこともせず参加種目が決まっていったのだが、 何故か男女二人で踊るダンスという種目もありそこは全員参加という最早何かの嫌がらせのようなものまであった。
しかも僕達のクラスだけ、 男女の人数が同じなのだ。
クラスメイトの顔を見れば笑顔の奴も居れば、 嫌そうに顔を顰める奴も居る。 僕の方にも何人か視線を送ってくる奴も居るが、 僕が誘うのは決まってる。 僕はその女子の前に歩いて行った。
「西川さん、 俺と一緒に踊らない?」
周りの人間が呆気に取られてるのが伝わる。 何人かは絶句し、 意味がわからないと言うように頭を傾げてるのもいる。
「……ええ、 喜んで」
だから西川の返した言葉で空気が止まった。 僕は頷き自分の席に戻る。 その間も周りからは奇異な視線を返されたが僕は別に気にしなかった。 西川もまた、 気にしてないようだった。
「なんでお前西川誘ったん?」
授業が終わり帰りのHRがはじまるまであと数分という時にマルとボンに話しかけられた。 まあ、 気になるだろうな。 事実、 ほかのクラスメイトもおしゃべりに興じながらこちらに耳を傾けている。
「ん~? いや、 西川さん誰にも選ばれないとか可哀想じゃん? それに俺だってほかの誰かに誘われる訳ないからさ、 だから誘ったんだよ」
「いや、 お前と踊りたい奴なら居るだろうが。 ハルカとか早川とか」
「うんうん、 俺が知ってる限り新垣と村山と城島もだな」
「そうなのか? それは……悪いことをしたのかもな。 でも、 もう決まったことだし、これ以上言うのは西川さんに失礼だよ」
「ま、 そりゃそうだ」
ここで担任が来て雑談は終わった。
別に悪いことをしたとかそんな気持ちは無いが、 僕と踊りたいと言う人が居たのは素直に意外だった。
まあ、 所詮噂だ。 気にする方が負けというものだろう。 僕は結局、 放課後になるまで周りから質問の嵐を浴びることになった。
「……どういうつもり?」
西川は早速僕に聞いてきた。 明らかに迷惑そうな不満げな表情だ。 周りからはいつも通りの無表情に見えただろうし、 声にも感情がこもってなかった。
周りを誤魔化すのには成功していたが僕には通用しない。 親密とかそういうのではなく、 僕も同じような顔をするからだ。
「なにが?」
僕がとぼけて見せるとより一層迷惑そうな顔になった。
「さっきの事よ……、 どうして私を誘ったの?」
「理由聞こえて無かったかい? 結構大きな声で話してたと思うけど……」
「あんな理由で私が納得するとでも?」
「そんな怒るなよ」
「別に怒ってはいないけど……」
「僕たちがペアを組めば、 放課後一緒に居ても別に不自然ではないからさ」
「……そういうこと」
僕が少し声を潜めると西川もその意図がわかったようだ。