表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編小説集

暗闇から抜け出して

作者: 卯月 幾哉

 僕は一人きり、この真っ暗な世界で生きてきた。

 この世に生まれてから、ずっと。


 外の世界はもっと明るく、色彩に満ちているらしい。でも、そんなことはどうでもよかった。この闇の中でも、音と匂いを頼りに生きていけるのだから。

 僕は誰にも頼らず、一人きりで生きていた。


「外に出たことがないだって!? なんてもったいない!」


 ある日、外の世界からやってきたという少年が言った。少年は、この闇世界でしか手に入らない水晶を探しに来た、トレジャー・ハンターだった。

 大きなお世話だ、と僕は思った。でも、客人に無礼を働いてはいけないという決まりがある。いくら一人で生きているとは言え、集落を追われると面倒だ。なので、僕は黙っていた。

「行こう」

「え?」

 彼は強引に僕の手を引き、外界へつながる階段の方へと走り出した。

「ちょ、ちょっと待ってよ。君、黒水晶を探しに来たんじゃないの」

 それは後でいい、と彼は即答した。

 めちゃくちゃだ、と僕は思った。

 この少年は、僕だけの暗く静かな世界に、ずかずかと音を立てて踏み込んで来る。族長はなぜ、僕に彼を案内させたのか……。

「君は一人ぼっちなんかじゃないよ」

 どきりとした。彼の言葉は、まるで僕の心を見透かしたかのようだった。

「生まれてからずっと、一緒にいるじゃないか。見せてあげる」

「え……?」

 少年と僕は手をつないで階段をひたすら登った。

 あるとき、空気の温度が変わった。地上はもうすぐだ。


 外の世界への扉が開いた。途端に、目を灼くような光と色の洪水が飛び込んできた。

 ほら、と彼が言う。

 僕は恐る恐る、ゆっくりと目を開く。


 彼が指差していたのは、僕の足元だった。

「これって……」

 僕はまじまじとそれを見つめる。

「今まで見えなかったかもしれないけど、どんなときもずっと一緒にいたんだよ。うれしいときも、つらいときも、君に寄り添い、君のどんな話も黙って受け止めてくれる」

 それは僕の影だった。

 生まれて初めて見た空の下で、僕は生まれて初めて影に出会った。


 僕が影に手を振ると、影も僕に手を振り返してくれた。


 影が笑った、気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ