第七話 謎の女の子
『おい……おい、アレス。起きろ』
「ん………?」
妙な重みを感じて目を覚ます。するとパイモンが乗っていた。しかし様子がおかしい。少し涙目だ。
「…パイモン。来てたのか」
『せっかく来てやったのに、無視するとは万死に値する!』
訳分からない…。
いきなり来てそんな事言われても理解が出来ない。それはともかく、パイモンに会うのは久しぶりだったか。
「ごめんごめん……リュグネスに戻る前にお菓子を買いに行こうか」
『っ! しょうがない。アレスがそこまで言うなら行ってやろう。フフフ…』
凄い嬉しそうだ。
そう言えば、ギルドに行ってから後の記憶が無いんだよな………どうやって宿まで来たんだろ?
『何している、アレス! 早くしろ』
「あ、あぁ」
考えるのは後でいいか。
身支度を整えてから部屋を出る。
ーーーーー
「アレス、おはよう」
「父様! おはようございます」
下の階に降りると父様がいた。何やら受付の人と楽しそうに喋ってたようだ。
「アレス。私はこれから城に顔を出すつもりだが、一緒に来るか?」
「え、城にですかっ!」
行きたい!と言おうとしたが、パイモンがこっちを睨んでいたのでやめた。
「…いえ、僕はちょっと城下町に行きます。母様やエリぜにお土産を買っていこうかと思って」
「そうか…分かった。では昼までにここへ戻って来るように…」
「はい!」
宿を出ると城下町は既に賑わっていた。朝だというのに賑やかで人が忙しそうに通り過ぎる。隣を見るとパイモンが目をキラキラさせて辺りをキョロキョロと見回していた。
「あはは……行くか、パイモン」
『あぁ! 最初はこっちだぞ』
パイモンを先頭に、俺は後ろを歩く。向かった屋台には甘そうなお菓子が沢山並んでいる。ざっと見ただけで二十種類ぐらいはありそうだ。と、パイモンが一つのお菓子に手を伸ばそとしていた。
「こらっ! お金払ってないのにダメだぞ」
『いだっ』
急いでパイモンの真っ白な手を叩く。叩くと言っても軽くだが…。しかし、そこまできて気付いた。パイモンは俺にしか見えない。つまりは俺が一人で喋るおかしな人、と周りの人から見られるのだ。恐る恐る屋台の主であるオジサンを見てみる。やっぱり怪訝そうな顔をしていた。
「えっと……アハハハ……失礼しました!」
『お、おい!』
全速力でその場を後にした。城下町じゃ人が多くて怪しまれる為、路地裏に移動する。路地裏は陽が当たってないせいか寒い印象を感じた。
『おい、アレス! どういうつもりだっ』
「……どういうつもりって。あれはパイモンが悪いだろ、どう考えても…」
未だに納得出来てない様子のパイモンにため息が出てしまう。それにしても路地裏は寒いな……ここにずっと居たら風邪引きそうだ。まだ怒ってるであろう、パイモンには違う店に行こうと説得させるとして急ぐか。心の中で計画を立てて話しかけようとした。が、何故かパイモンの表情は暗い。
「……パイモン? お菓子の事なら違う店を探そう。それじゃダメかな」
『…今はそんな事どうでもいい……奥から、奥から何か同じ力を感じるぞ』
同じ力、つまりはパイモンと同じ悪魔か。奥という事は路地裏のもっと奥を進めと言ってるんだな。しかしながら俺には何も感じない。こういう時は警察を呼んだ方が良い気もする。
「…行かなきゃダメか?」
『当たり前だ。早く進めっ』
パイモンに言われて仕方なく進む。薄暗い路地裏は奥に進む度、ゴミが酷くなる。一本道を進みながら周りの状況も見逃さない。ずっと進むと奥に小さいスペースが見えた。すかさず俺は置いてあるゴミ箱の後ろに隠れる。そこから警戒しながら様子を見てみる。
「……女の子?」
女の子を挟むようにして二人の男が立っている。一人の男の顔にはには見覚えのある刻印があった。刻印があるという事は『アクリア』の連中だ。連中は女の子を捕まえようとしてるのだろうか。
「あの子を助けないと…」
『あの連中、ただ者じゃないぞ?』
「分かってる……だからパイモン。力を貸してくれパイモン」
『ふっ、分かったぞ』
『アクリア』の奴らは俺と同じように悪魔と契約しているらしい。多分、いや俺より強いだろう。だからこの勝負奴らに悪魔を使わせたら負けという事になる。勝負は一瞬…。
「やめろっ!」
突然の乱入に『アクリア』の奴らの視線は俺に集中した。俺の魔力は少ない。だから魔力をパイモンから貰い、一時的に魔力を最大で放出する。
「リ・リグルト・ライトっ!」
詠唱を唱えると視界が真っ白になる。こうなる事が分かってた俺は目を瞑って回避した。今の魔力じゃ一瞬しか効果が無いが、この魔法は目潰しだ。目潰しと言っても殺傷力は無い。初めて使ったが成功して良かった。『アクリア』が苦しんでるうちに女の子を連れて表へ走る。
「ハァハァハァハァ…」
呼吸を整える。冷静になると女の子と手を繋いでる事を思い出して慌てて離した。
「…助かりました。礼を言います」
やけに冷静な声に、喋ったのは誰なのか周りを確かめてしまった。確かに隣りから聞こえた気がした。チラッと隣りを見る。今思うに女の子は女の子だが凄い格好だ。巫女さんが着てるような服にすらっと長い黒髪。
「えっと…」
「ふふっ。私はユースティア…聖女とも呼ばれています……助かりました」
聖女。それはまだ幼いが彼女にはピッタリだと思った。
この世界には聖女が居るんだな。
「ユースティアさんは、何であんな所に?」
「呼び捨てで構いませんよ。私は聖女という身分の為、あまり外の世界を見れないのです……少し友人の影響を受けてしまいましたね」
口元に手を当てて上品に微笑んだ。そっか、ユースティアちゃんは軟禁されてるような物なんだな。そう考えると少し可哀想に思えてくる。
「では、私はそろそろ行きますね」
「え!」
「…またお会いしましょう。アレス様…」
「なんで…俺の名前……」
俺の声は届かなかった。目の前にいた筈のユースティアは一瞬にして消えたのだ。
『アレス。今のは実体じゃないぞ』
「そうなのか?」
『あぁ……だが触れなければ見破れない。高度な魔法だ。流石は聖女だな…フンっ』
「……何怒ってるんだ?」
『何でもない。それより、お菓子を買うぞ!』
「あ、あぁ」
またお会いしましょう、か。まるでまた会うと言ってるようにも聞こえた。ユースティア………不思議な子だ。