第六話 案内
「あ、あの。どこか行きたい場所とかありますか?」
「へ!? い、いや……得には…」
しまった……会話が続かない。
俺って人見知りだったっけ?せっかく案内して貰えるんだから、何か言わないと!
「じゃ、じゃあララちゃんのオススメの場所に行きたいなぁ」
「オススメ…」
うわあああ!
何言ってんだよ俺。ホストかよ
「なら、こっちかな。こっち…です」
「あ、うん」
何気に手を引かれ、やって来たのは八百屋さん?見た事ない野菜が売っている。
「ここがオススメ?」
「はい!」
ララちゃんは嬉しそうに微笑む。そんな笑顔に不覚にもドキッとしてしまった。
「おや…ひ、じゃなかった。ララちゃん! と、そちらは見た事ないなぁ」
「初めまして。アレスです」
「おぅ! ほれ、これはサービスだ。持ってきな」
八百屋のオッサンはリンゴのような果物を渡された。ツヤツヤしてて美味そうだ。ララちゃんにも同じく渡されていた。
「…アレス…君、これ美味しいんですよ」
「そうなんだ! いただきます…」
一口かじってみる……噛む度に甘さが広がる。シャキシャキという音が聞こえる。うん、リンゴだ。でもこんな美味いリンゴは初めてだ。
「美味しい!」
「…ふふっ」
そう感想を言うとララちゃんは嬉しそうに笑った。
「…あの、アレス君。アレス君はいつまで王都に居る予定ですか?」
「えっと…今日は宿に一泊してからリュグネスに戻るって父様が言ってた…よ…」
不思議だった。オススメの八百屋さんを案内して微笑んだよりも、美味しいと言って笑った時よりもキラキラした笑顔をしていた。
「…こっち」
「え…」
また手を引かれ走る。でも沢山ある店を無視して城下町を降っていく。どんどん人気が無い森のような場所に入っていく。
「ちょっ、ララちゃん!」
聞こえてるのか、無視してるのか分からないがララちゃんは変わらず森を進む。日は落ち掛けていて、少し暗い。と、目の前が明るくなってる事に気付いた。そして、一瞬の眩しさのあと花の香りがする。
「……わぁ!!」
満面の花畑。色々な花が咲いている。日は落ちてる筈なのに空は明るいままだ。
「…ここは魔法空間なんです」
「ララちゃんが作ったの?」
「はい。この花は日に当たっていないと咲いていられません……なので、魔法で…」
「へぇ〜! ララちゃん、魔法使えるんだね」
「か、簡単な魔法なら少しは…」
この空間はララちゃんによって作られた場所なのか。なんか優しい感じがする場所だ。
「アレス君に言わなくちゃいけない事があります」
「…な、何?」
「……私、アレス君をずっと騙してました」
「…………」
唇をぐっと噛み締め、俯く。よっぽど言いにくい事なんだろうか。そんな辛い顔をして言うならいっそ、聞きたくはない。
「ララちゃん。言いにくいなら僕は別に大丈夫だよ」
「…ありがとうございます……。でも、言いたいんです。次、いつ会えるか分からないから…」
え?
なんだこの雰囲気……こ、告白じゃないよな。だって会ったばかりだし。
「…アレス君、聞いて下さい」
「は、はいっ」
「…ララという名前は嘘なんです…」
「え…」
「…本当の名前は…ラファ。ラファ・イグネシア。イグネシア王国の第三王女です」
「お、王女!?」
まさか王女だったなんて…。
凄いカミングアウトだけど、なんだろ……あんまりドキドキしない。
「ララちゃ…うっ!?」
なんだ……急に眠く。
気付いたら俺は地面に倒れていた。瞼が重い……。いいや、少し寝たらララちゃんに言わないと…。
……
「あ、アレス君!?」
「……いけませんよ、ラファ様」
木の陰から声の主が姿を現した。一人ではなく、二人いる。
「あ……レオン…ユーリア」
「この街の住民でない、しかもこんな素性の知らぬ者に御自分の正体を証すなど…どういうおつもりですか」
「レオン、その辺で…それよりご無事で何よりです。ラファ様」
レオンという少年は髪をかいてため息を付く。寝癖だらけの翠の髪に金の瞳。まだ幼い顔立ち、身体付きをしている。一方でユーリアという少女は肩ぐらいまである髪を前で結んでいる。髪と瞳はレオンと同じだ。
「…ごめんなさい。レオン、ユーリア………迂闊でした」
「……業務終了! ってかラファ。俺達がどんだけ探したと思ってんだ」
「止めなさい、レオン……それでラファ。ほんとにこの子供は何者?」
「あ…アレス君はジェイド様の息子なんです」
「あ〜! あの厳ついオジサンか」
「レオン、言い付けるわよ」
「うぐっ。やめろ、それだけはやめろよ!」
「……ユーリア。アレス君は…」
ラファの瞳がアレスに向けられる。
「……ラファと出会ってから正体を明かした所の記憶を消すわ」
「…っ!」
「……当たり前だろ。今までだってそうしてきたし、いつもと何も変わらない」
「…………」
「…大丈夫よ、ラファ。ラファが魔法学校に行くならまた会えるわ」
「それは本当?」
「断言は出来ないけど……この子、魔法の素質あるみたいだし」
「………そうですね…」
「……レオン。ラファと一緒に先帰って。後始末は私がやっておくから」
「…分かった。行くぞ、ラファ」
「あ、待って…」
地面に横たわるアレスをラファは見つめる。
「アレス君。また会いましょうね…」
「……行くぞ」
「…はい」
風で舞った花がラファの心を映してるようだった。