異世界 短編
「この者が我が国を救う勇者だと!?、ただの小娘ではないか!!」
二人の出会いは最悪でした。
「はぁ~小娘?、貴方、私と同い年ぐらいでしょ!?、ちょっと指ささないでよ!!」
これは、ある異世界に勇者として呼ばれた少女と平和を望み勇者を召喚した王子の物語。
「魔法が使えない!?、ふざけるな!!」
「魔法!?、私の世界にはそんなもん使える人いないし!!」
魔力が絶対視される異世界に喚ばれた勇者は一欠片の魔力のない少女でした。
しかし彼女には、この異世界で誰も持たない力を持っていたのです。
「……魔法が!?」
彼女は火、水、土、風……あらゆる属性の魔法が効かず、しかも威力を倍にして跳ね返す力がありました。
けれど物理攻撃は別です。
「っく」
「怪我をしたのか!?」
「こんなの平気」
「っ、平気なわけがあるか……お前は女だ、傷でも残ったら」
「……王子が優しい、明日は魔物が降るかもね?」
「っ」
王子と少女は互いに少しずつ惹かれていきました。
「……明日、世界の幾末が決まる」
「ヘタレ王子、怖い?」
「ヘタレ?、なんだそれは……なんとなく貶されている気がするぞ」
「じゃあ、ダメ王子?」
「誰がダメ王子だ!!」
「ふふ、大丈夫……私が護るよ、王子の大切なもの、全部……だって私は勇者様だし?」
「この………バカ勇者め、無茶はするなよ、お前に何かあったら……」
異世界の命運が決まる日がくる頃には二人は互いを想い合っていたのです。
「くっ!!」
「この魔法も効かないだと!?……ぐぁあぁ」
「とどめだ!!、っはぁ、はぁ……終わったのか……っ」
「くそぉおぉ、王子、貴様だけでも道連れにしてくれる!!」
魔力を使い果たしたのか、なりふり構わず落ちていた剣を広い王子に振りかざす。
「やめてぇ!!」
「な!?」
「あははは…王子は討てなかったが……忌々しい勇者は片付けられた!!」
「貴様ぁあ!!」
勇者の身体が切り裂かれ倒れ王子が腕を伸ばし抱きとめ叫ぶ。
「しばし私は眠りにつき機をみよう……次、貴様らを倒すのは容易そうだしな」
残忍に笑い揺れ消える。
「ぉ……じ?」
「喋るな!!……今…いま……」
「こ……んな…のへー、き」
「ッ、今すぐ勇者に治癒魔法をかける、全員でだ!!」
ボロボロだった、その場にいた全員が懸命に治癒魔法をかけるも跳ね返り術者の傷が消えていく。
「嫌だ…こんな…嘘だ」
「……王子…もう」
「そんなぁあ、勇者さまぁ」
「離れないと……誓ったのに」
血に濡れた愛しい勇者を見つめる。
治癒魔法は効かない。
自分も誰も彼女を救えない。
「ぁ」
王子は少女が話た世界のことを思い出した。
「っ……」
離れたくない、帰したくない。
失いたくない。
しかし、この世界は彼女を救えない。
「愛している、お前を誰よりも…何よりも」
王子は愛を誓いながら自分の指から美しい赤色の石がついた指輪を抜くと彼女の指へと嵌めた。
「……皆、手伝え…僕の後に詠唱しろ!!」
光る魔法陣、王子の腕から勇者の身体が浮いていく。
彼女は気を失い、こちらを見ない。
「……必ず…」
少しずつ光の粒子になり吸い込まれ消えた。
「会いに行くから」