免許取得
「あと1分」
で、成人を迎えるは、私立大学に通う19歳の男。
「あと55秒」
小刻みにカウントダウンをしてくれる友人が6人、集っていた。
「あと50びょ…」
「うるせーよ」
他人の成人を待つ友人たちが、本人以上にはしゃいでいる。
「3、2、1……おめでとう!」
日付が変わり2月22日、桐生実朝、20歳の誕生日である。
友人たちのテンションは変わらない。
「よし、飲もう!まず飲もうか!」
カラオケ屋に来ているのに、1時間ほど前から誰も歌わなくなり、飲み食いしかしていない。そわそわと桐生が成人するのを待っていた。
しかし、
「いいよそんなん。酒の味なんてさっきまでと変わりゃしないって。それより、さっさと免許取りてーな」
と、桐生は祝杯を断った。
運転免許ではない。西暦2111年、桐生の生きるこの時代には、成人を条件に無料で作れる免許がある。取得義務はないにも関わらず、免許取得率は99%以上。
「おうよ。そのために集まってんだよ。行こうぜ」
友人の1人が立ち上がり、皆がそれに続く。免許取得所はこの近くだ。
テーブルと液晶画面が一体化しているものに、それぞれがハガキ大のカードをかざす。
「お支払いが完了しました。またのご来店お待ちしております」
テーブルからの声を聞くと、店をあとにした。
免許取得所は交番のような外観で、中に中年の男性が大がかりな箱形の機械をいじっているのがガラス越しに見える。
「こんばんは」
と、桐生が挨拶をして、友人たちもそれに続く。
中年の男性はゆっくりを顔をあげ、
「……7人?」
と、口調もゆっくりと、尋ねた。
「いいえ、私だけです」
桐生が答えると
「そー、する、と。他は見物かな」
「そうッスよ。おれらはもう持ってます。手術してくれたのおじさんでしたけど、覚えてません?」
「そんなもん、覚えてらんねーよ。毎日すんげー人数……してんだよ、あれ、手術な」
桐生がとりにきた「免許」は20歳以上が唯一にして絶対の条件だ。各都道府県に1件ずつあるこの免許取得所に、ほとんどの者が20歳になってすぐ取得してるとすると、1日に数十~百人程度になろうか。
「おじさん、私は桐生実朝。3分前に成人しました」
桐生が学生証を見せながら言った。
「手術、お願いします」