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烏は群れを成して劈く  作者: TSK
第一部第1章
4/32

面影を追いかけて

遠い遠い存在へ、手を伸ばす。

色が薄く形があやふやな影へ、手を伸ばす。


 任務を終え、調査班と回収班に現場を任せた智和率いる部隊と通信科の生徒は、本部としていた通信拠点を片付けて輜重科の生徒が運転する車でIMIへと帰還した。

「神原先輩」

 輸送トラックを降りた時、M4A1カービンを貸した中期生が話しかけた。

「ありがとうございました」

 礼を言って小銃を智和に返す。

「今度は壊すことないように」

「気を付けます」

 中期生は遠くに固まっているグループへと駆けていく。

「お疲れさま~」

 今度は瑠奈が声をかけてきた。

 いつも通りの笑顔を見せており、こんな純粋な少女が銃撃戦をしていたなど到底想像できない。

 が、肩から下げている銃は整備やクリーニングが施されて新品同様とはいえ、使い込まれていたそれは事実でもある。

「誰か気になる子いた~?」

 中期生で特別な何かを感じた者はいるか、という解釈をする。

「まぁな」

「誰~?」

「水下龍。バラクラバ着けて完全武装の奴だ」

「あ~。わかるよ~。なんか雰囲気がトモ君と似てるしね~」

「先に装備を外してていいぞ。少し用事がある」

「それじゃまた後でね~」

 瑠奈は手を振りながら倉庫の中にある更衣室へと走っていった。

 軽く手を振って瑠奈を見送った智和は、簡単に小銃の全体を見渡した後にタクティカルベストのチャックを外した。

 学生服の上着を脱いでいたとはいえ、ワイシャツの中は汗で蒸し暑くなっていた。それがチャックを外したことで涼しい空気を受けて幾分か楽になる。

 タクティカルベストを脱げば爽快だった。汗で背中がべとつき多少の不快感もあったが、それをも上回って気分を良くした。

 タクティカルベストを持ち、スリングで小銃を肩から下げた智和は、まだ中期生のグループがいることを確認する。

「龍! ちょっと来い!」

 距離があったので叫ぶと、龍が振り向いてこちらに走ってきた。まだバラクラバを着けているどころか、タクティカルベストのチャックすら外していなかった。

「何ですか?」

「任務じゃいつもその格好か?」

「ええ、まあ。バラクラバは暑い時は外してますが装備はいつもこれで」

「そんな真面目な奴は見たことないな」

「そんな真面目が命を守ると自覚してますが」

「その通りだな。いつも通りのことができるのはいいことだ」

「ありがとうございます」

「強襲の場面。自分で片付けたかったか?」

 突然の話題の変更と智和の声が低くなったことで、龍の目付きも変わった。

「ええ。はい」

「そうか」

 強い口調で答えた龍とは反対に、智和は至って普通だった。

「だったら練習しろ。経験を積め。実力を伸ばせ。ここでの一番の近道はそれで、教師達もそれを評価する」

「……はい。わかりました」

「まぁ気長にやれ」

 龍の肩を軽く叩いて倉庫の中を歩いていく。

 途中、輸送トラックの下に潜り込んで下半身だけを出している生徒を見つけた。

「帰って整備とは仕事が早いね強希君」

「うるせぇ馬鹿。口調が広山のハゲと丸被りで気持ち悪ぃンだよこの野郎」

 強希は顔を出さず、黙々と整備と点検をこなす。

「仮にも輜重科の教師だぞ、おい」

「教師に嫌われてるんだからかまわねぇよ」

「あ? 長谷川は評価してるだろ」

「そうか? 初耳だな」

「というか一部に嫌われてるだけで、お前は意外と好評だと思うぞ」

「別に嬉しくもねぇからどうでもいい。ほらさっさと行け、俺は車イジリで忙しい」

 それを最後に強希は黙々と整備を続けた。

 智和も邪魔にならぬようそれ以上は話さず、更衣室へと進んでいった。

 更衣室に到着し、備え付けのシャワーを使って汗を流して着替えを済ませた。今回は血を浴びてはいないのでいいが、浴びた時は石鹸水とレモン水でよく洗わなければならない。

「やっほ~。おっまたせ~」

「待つ記憶も待った記憶もないぞ」

 更衣室を出た直後、タイミング良く瑠奈も出てきた。

 瑠奈もシャワーを浴びていたらしく、ツインテールにしていた髪は真っ直ぐ地面に流れ、しっとりと濡れている。

 首にタオルを掛け、手にはタクティカルベストと小銃を入れたバッグを握っている。

「一緒に行こ~」

 タクティカルベストを倉庫の隣にある武器保管所に返そうと、先程来た廊下に進行方向を向ける。

 するとその先にララが立っていた。隣には長谷川もいる。

「二人共、ご苦労だった」

「お出迎えなんてどんな風の吹き回しだ?」

「ちょっとトモ君……」

 相変わらずララを見て臨戦態勢に入る智和に、小声ながらも仲裁に入った瑠奈はとても居心地が悪そうに見えた。

「そのことで話がある。ララ、後は自分で言え」

 長谷川に促され、小さく息を吐いたララは智和を見る。その表情には敵対の意志はなく、また、全身から伝わっていた強い警戒心も感じられなかった。

「貴方にレオンハルト逮捕による正式な協力要請を申請するわ。貴方の力を借りたいの、是非とも協力して欲しい」

「あ?」

 あまりにも素直過ぎた要求に智和は力の抜けた声を漏らした。

 そんな返事にララは不満な顔を見せる。

「何よその返事。素直になって私なりの礼儀で申し込んだのだけれど、不愉快かしら?」

「いや、素直過ぎて驚いた。というか何でまた?」

「……その理由は、言わなければいけないのかしら?」

「別に必要ない」

「……そう。良かった」

 レオンハルト捜索に対するララの目的と関係性、智和の実力に驚いたことを言わないで済んだことにララは思わず安堵した。

「決まりだな。お前達は早速ララと行動してくれ。手配や準備が必要なら私に連絡しろ」

「わかった」

 長谷川が立ち去って廊下には三人が残った。

「ベストを保管所に返さなきゃならない。歩きながら話そう」

「ええ」

 三人一緒になって来た道を戻り始めた。

「最初に何をするんだ?」

「正直に言って目星はないのよ。手掛かりは今朝拘束したあの三人だけ」

「二人は意識不明だから一人だな」

「嫌味かしら?」

「事実だろ。まぁ今更なに言っても遅い。やれることは全部やらなきゃならないってのは確かだ」

 倉庫を出て隣接している武器保管所にタクティカルベストを返し、ついでに小銃も預けた。

「とりあえず残っているもう一人から事情聴取をするべきだな」

「そうなるわね」

「穏便にだぞ、穏便に」

「やけに強調するわね」

「ゲシュタポ並の事情聴取だったからな。今回は俺と瑠奈も同席する」

「わかってるわよ」


――――――――――◇――――――――――


 三人は諜報科の建物の近くにある拘留所へと向かった。

 倉庫からそこまでの距離が広過ぎて歩くのが怠かった。ララは平然としているのだが智和と瑠奈は今日だけで二回も任務を行っている。智和に関してはララとの模擬戦も経験していた。

 それでも愚痴一つこぼさず、更には敵対していた人物にすぐ協力できるというところを、ララは口にせず心の中で評価していた。

「着いたぞ」

 拘留所の外観は侘しかった。別に費用をかけていない訳ではないが、あまりにも外観を手抜きしてるだろうと三人は思う。そんな無機質な塊に到着した。

「悲しいわね」

「金はそんなにかけてないからな。それに外観にまで気にしないんだよ」

「だとしても廃墟みたいな感じはね~……」

 ぶつぶつと言いながら中に入る。

 中は少しばかり小綺麗だったが、やはり古臭く感じてしまう。コンクリート丸出しの廊下や天井や壁。威圧感はないが、冷たく見放されているような感覚を覚える。

 入れば開けたスペースがあり、すぐ左側に受付があった。受付と言っても防弾ガラスで覆われて防弾チョッキを着用し、壁にはショットガンM870を、すぐ手元には暴徒鎮圧用の拳銃型スタンガンがある要塞だが。

 受付には二人の男子生徒。奥の部屋には女子生徒が一人いる。

「よう智和」

「椅子を拭き続ける任務でもしてるぐらいに座ってるだろ」

「だったら代わってくれよ。飽きた」

 簡単で面白くもない冗談を交えてから本題にはいる。

「残念だが代わってやれない。用事がある。今日ここに連れてきた奴の尋問をしたい」

「尋問……ああ、その西洋人か」

 一気に雰囲気が重く、あからさまな敵意を示す。どうやらララのことをあまり気に入っていないらしい。

「知ってるのか」

「知ってるもなにも、連れてきた二人のうち一人を潰れさせた西洋人のことを忘れる筈がない」

 そう言って男子生徒は防弾ガラスに顔を近付け、ララを睨み付けながら続ける。

「この女は大事な証人を潰した。残る二人のうち一人もまだ意識は戻っていない。諜報科にとって最後の一人もノックダウンされるのは気に食わない。それに尋問室の部屋も汚した。長谷川先生の頼みじゃなきゃ、とっくに知らせて西洋人を送り返してる」

 諜報科の言い分はもっともだった。彼らは預けられた物を壊されたような気分だ。

 彼らの愚痴は智和もわかる。この後の尋問もララがあっさり手の平を返して顔を潰してしまう可能性もある。それに、簡単に協力してくれるとは到底思っていなかった。

 それでも智和はララに協力する。彼女の気持ちを信じて。

「……わかった。先輩の言いたいこと、諜報科の言いたいことはよくわかった」

「お前もよくわかるだろ? 正直、厄介事には巻き込まれたくないだろう」

「ああ巻き込まれたくない。だけどな」

 先輩だとしても引かず、冷静になって物事を運ばせる。

「俺達がIMIに所属している時点でもう厄介事に巻き込まれているぞ。それに今回は長谷川直々の権限で俺はララに協力している。最初はムカついていたが、そんな馬鹿馬鹿しいことは言ってられない」

「直々? はっ! だったらその権限とやらを見せてみやがれ。薄っぺらの書類だけじゃ尋問させねぇぞ」

「だったら今すぐ長谷川に連絡して確認しろ。アンタの対応次第なら長谷川が書類じゃなく怒号が届けられる。なんなら俺の携帯電話から連絡してやってもいい」

 諜報科の言い分はもっともだった。彼らは預けられた物を壊されたような気分だ。

 彼らの愚痴は智和もわかる。この後の尋問もララがあっさり手の平を返して顔を潰してしまう可能性もある。それに、簡単に協力してくれるとは到底思っていなかった。

 それでも智和はララに協力する。彼女の気持ちを信じて。

「……わかった。先輩の言いたいこと、諜報科の言いたいことはよくわかった」

「お前もよくわかるだろ? 正直、厄介事には巻き込まれたくないだろう」

「ああ巻き込まれたくない。だけどな」

 先輩だとしても引かず、冷静になって物事を運ばせる。

「俺達がIMIに所属している時点でもう厄介事に巻き込まれているぞ。それに今回は長谷川直々の権限で俺はララに協力している。最初はムカついていたが、そんな馬鹿馬鹿しいことは言ってられない」

「直々? はっ! だったらその権限とやらを見せてみやがれ。薄っぺらの書類だけじゃ尋問させねぇぞ」

「だったら今すぐ長谷川に連絡して確認しろ。アンタの対応次第なら長谷川が書類じゃなく怒号が届けられる。なんなら俺の携帯電話から連絡してやってもいい」

 両者が睨み合い、己の意見を貫き通さねばと譲らない。

 確かにララのやり方は間違っているだろう。まともな尋問すらできず、感情に任せて行動してしまっている。

 そんな彼女がようやく助けを求めてきたのだ。彼女の意志が本当だと智和は信じて協力している。

「…………わかった。わかったよ」

 折れたのは諜報科の生徒だった。

「長谷川先生の権限なら仕方ない。尋問する許可をくれてやる」

「そりゃどうも」

「おい。言っておくが長谷川先生の権限とお前だから譲ってやるって意味だぞ。お前個人に依頼された訳じゃないだろうな?」

「当たり前だ。俺の部隊に依頼された任務だ。瑠奈もいる」

「新一と恵がいないぞ」

「二人は今研修中だ」

「あーくそ。千夏、二番の部屋に案内してやれ。倉田ぁ、Fー5にいる奴を二番に連れてけ」

『わかった』

 監視役に伝える役目のマイクを投げるように置いた。それだけで苛立ちがよくわかる。

「あーくそ、納得できねぇ。智和、なんか見返り寄越せよ」

「それじゃ新一とやったポーカーの勝敗無効に、先日見かけた浮気現場を話さないでおいてやるよ」

「ポーカーはイカサマだっただろうがテメェ! それに何で見てやが……ああくそ! さっさと行きやがれ!」

 火に油を注いだ智和と、瑠奈とララの三人は、千夏と呼ばれた女子学生の後を着いて奥へと進んでいった。


――――――――――◇――――――――――


「智和君って」

 途中、千夏が話し掛けてきた。

「人をおちょくるの好きだよね」

「なんか嫌な言われ方だ」

「だってそうでしょ。まぁ皆は理解してるけど。何でそんな感じになっちゃったんだろうね」

「生まれた場所がこんなのだからこうなった。話し変わるが、監視任務を始めたんだろ。何でここにいる?」

「今は授業中。任務しながらちゃんと授業受けないと」

「諜報科は忙しいな」

「まったくです」

「…………ねぇ智和」

「ん?」

 区切りのいいところを見計らって、今度はララが話し掛ける。

「私のことを信用したの?」

「は?」

「私の態度や行動が気に食わないでしょう?」

「そりゃまぁ」

「嫌なら断っても良かった。なのに何故私なんかに協力したの?」

「はっきり言えば長谷川からの命令だ。上司に部下が逆らえないように、教師に生徒は逆らえない」

「あなたの対応を見ればそうでもなさそうだけど」

「例外だ、例外。期待以上の働きを見せてるからある程度のことは許される。それに……まぁ、単純に興味が出た。我が儘だったお前が頼るなんてことに」

「そう…………そうね。私は、我が儘……でしょうね」

 最後の言葉をとても小さな声で呟いたので聞こえづらかったが、あえて智和は聞かないまま歩き続けた。

 階段で二階に上がり奥を進むと一人の男子生徒が部屋の前に立っていた。扉の上には『二番』と印された札が下げられている。

「準備はできてる。時間は十五分だけ。カメラはないが防音じゃないから何かあったらすぐわかる」

 最後の言葉が自分達の身の安全を心配しているのではなく、犯罪者に対する心配だと三人はすぐに気付いた。

 おそらく暴行でもして物音をたてれば、すぐに部屋へと押し入るのだろう。

 最初に智和が部屋に、瑠奈、ララの順番で入る。

 拘留所の尋問室は諜報科の尋問室に比べればかなり質素だった。多少広いがそれだけで、壁と天井は塗装さえされておらずコンクリートが剥き出しである。

 中央に設置された椅子に男が手足を固定されて座らされていた。

 ララが男と真正面に向き合い、智和と瑠奈は扉の横で様子を伺う。

 威圧感を与えるかのように見下ろすララに、男は目を合わせることができないのか、少し俯いて目を背けた。

「……私は尋問が苦手。だから率直に聞くわ。レオンハルトに関する情報を提供しなさい。もし協力するならそれなりの待遇を受けさせる」

「…………」

 前回の尋問に比べて、かなり柔らかい対応になったのは智和が見てもわかる。しかし、力尽くにでも聞き出したいという焦りのようなものも感じられた。

 このまま沈黙が続けばララが先に手を出すか、それかなにも得られずに尋問終了になってしまう。

 だが、智和の予想は外れた。

「…………い、今はわからないが」

「ん?」

「奴が……レオンハルトが使っていた場所なら知っている。多分いないかもしれないが、何かしらの情報ならある筈……だ」

 まさか簡単に情報を提供してきたことに、智和は内心驚いた。自分を殺しかけた人間なのに。

 ララはそんな疑問を持たず、男に追及する。

「それはどこ?」

「大田区の大森東○丁目の○○-○。もう潰れて誰もいない」

「……やけに詳しいな」

 思わず口に出た智和の言葉に男は少し戸惑いを見せた。

「な、仲間から伝わっていたんだ」

「仲間内と伝えあってどうするつもりだったんだ?」

「それは……」

「それに、その情報源が誰から貰ったのかも興味がある。お前達があの場所で何をしていたのかもな」

 智和に振り向いたララも同じように疑問を覚えた。

「……そういえばそうね。エリクに言われた通りに行動していただけだからなんとも思わなかったけど、今更ながら考えてみればあんなところで何をしていたのかしら? 是非とも教えて欲しいわね」

 ララが追及しようと目線を智和から男に変えた直後、尋問室の扉が開かれた。

 そこには待機していた男子生徒がいた。

「悪いが予定変更。終了だ」

「ちょっと待て。まだ五分も経ってないぞ」

「それはわかってる。事情が変わったって言ったろ。今すぐ出ろ」

「納得する理由がなけりゃ予定通りあと十分はここにいる」

 強情な智和に観念したのか、男子生徒は耳元で囁く。

「お前の依頼主の諜報員がそいつと話したいと言ってきやがったんだよ」

「ララと?」

「違う。尋問されてる奴だ」

 何故この場面でエリクが出てくるのかわからない。しかも相手はララではない。

「何でまた?」

「知らねぇよそんなこと。受付の話だとソイツは許可証ちらつかせてるんだよ。教師達がそんな便利グッズを身元不明の奴に出すとは思えないが、実際に持ってるんだよ」

「だけどな」

「智和。お前の言いたいことはわかる。だけどこれはもう優先順位が変わった。それにな、今のお前達はララ・ローゼンハインっていう“問題商品”を抱えてるんだ。俺や廊下にいる千夏はなんとも思ってないがお前達の、智和と瑠奈の為に言っとくぞ。ララ・ローゼンハインを連れたままIMIを回ったら時間の無駄だ」

「だとしても時間は守られるべきだ。せめて五分」

「強情だな。だけど無理だ。これ以上この部屋に留まったら妨害行為と見なすぞ」

「やってみろ。諜報科の連中がまともにやれるのか一度試したい」

「トモ君!」

 瑠奈の叫び虚しく、智和の右手がズボンのベルトに装置されているナイフへと伸びる。

 その一瞬の挙動で男子生徒は妨害行為ではなく戦闘行為と見なし、装備していた伸縮警棒を振り払う。

「待って!」

 だが、警棒を握る男子学生の右手は一挙動で警棒を伸ばしただけで止まった。

 ナイフに手を伸ばした智和の右手を、ララが掴んで制止させていた。

「お前……」

「……もういいわ。必要なことを聞けたから充分よ。出ましょう」

 手を離し、静かに部屋を出たララを追うように瑠奈が足早に出ていく。

 警棒を縮めて戻した男子生徒が溜め息を漏らし、冷や汗を拭って口を開いた。

「……お前、マジで抜くつもりだったろ」

「そんなつもりはない。壁際じゃ振り抜けないしな」

「でも蹴りとか入れる気だったんだろ」

「ああ」

「洒落にならない」

 呆れる男子生徒の隣を通った時、男子生徒はまた口を開く。

「おい智和。知らないうちに変なことに巻き込まれてないか?」

「そんなのいつものことだ」

「だけど、今回は一つ間違えば厄介事になるぞ。わかってるだろうな?」

「わかってる」

「お前に関してないと思うが……何かあったら連絡しろ。長谷川先生が直々だったら尚良い」

「覚えとく」

 素っ気なく答えた智和は部屋を出る。

 そこには千夏と、順番待ちをしていたエリクがいた。

 口元だけ緩ませて笑いかけるが、それが不気味さを漂わせて何か危険なものを感じさせている。智和は反応も示さず横を通り過ぎた。

「……どうも苦手だ」

 どんな諜報員でも嫌なものだが、エリクに関しては特にその気持ちが強かった――ただし諜報員と接触したことはない――。

 男子生徒がエリクに簡単な説明を始める。前を向いて、先に歩くララと瑠奈の二人を追い掛ける。

「あの諜報員と話したか?」

「いいえ」

「疑問は残ったままだが場所は聞いた。次はそこまでの足探し……か」

「……ねぇ。智和」

 ララが俯き加減で、何故か申し訳なさそうに声を発した。

「どこかの科に協力を要請するなら、その時私は……立ち会わないわ」

「何言ってる。依頼主がいなけりゃ意味ない」

「だとしても、さっき諜報科の学生が言っていたのは紛れもない事実よ。私は他の科に無理難題を申し付けた。初めて私を見たのはIMIの正面入口でしょう?」

 智和は、瑠奈と共に射撃場に向かう途中のことだと判断した。

「ああ」

「あの時既に断られていたのよ。だからエリクが手配した車で現場に向かったの。ここじゃあ私は嫌われ者になってしまっている」

「だから」とララは続ける。

「私がいれば通る協力も通らなくなる。任務に支障が生じるけどそれは私の責任。私が招いた失敗」

「だったら少し考えて動いてくれ。もう遅いがな」

「……ええ、そうね」

「だがな、お前を立ち合わせないなんてしないからな」

 思わぬ言葉にララは顔を上げた。

「なに言ってるの? さっき私が足を引っ張るって言ったばかりじゃない」

「これはお前の依頼だ。お前抜きでやるなんて馬鹿馬鹿しい」

「だとしても」

「うるせぇ。だとしてもじゃない。お前がここで何をして嫌われたか知らないがそれでも連れる。そして、それでも足を手に入れる。別に現段階は中隊規模の部隊を要請するようなものじゃない。お前が嫌われ者? 関係ない」

「……呆れた。貴方は本当の馬鹿ね。自信家か馬鹿のどちらかと思ってたけど、狂ってる馬鹿よ」

「俺に狂ってるなんて誉め言葉だ」

「…………ありがとう」

「どういたしまして」

「……あのさ~、トモ君にララちゃん。ちょっと良い場面に口出すのは申し訳ないけど~、この後はどうするの~?」

 珍しく瑠奈が正当な意見を告げた。

 ララがいるだけで協力ができなくなるとしたら大変な問題である。

「ララちゃんの話が本当なら、長谷川先生に連絡して無理矢理にでも協力してもらったほうがいいと思うよ~?」

「長谷川にはまだいい。そんな大事じゃない」

 智和の発言にララは軽く溜め息をく。

「大事じゃないって……私が言うのもなんだけど、なにか頼れるものでもある?」

「科に頼むのが無理なら個人に頼む。心が広い奴に協力してもらう」

「……そんな人間いたらとっくに私が見つけてるわよ」

「うるせぇな。まぁ一応いるんだよ。こう見えても俺は人脈が広いから、期待してもいいぞ」

「泥船に乗ったつもりで期待するわ」

「絶対期待してないよな」

「する訳ないわ」

 泥船と評され悪態つきながらも智和は歩みを止めない。

「ねぇ。どこに向かっているのかぐらい教えなさいよ」

「輜重科。瑠奈は誰に頼むかもうわかったろ」

「わかったよ~」

 輜重科とは輜重・航空・車輌科のことであり、車輌や航空機の運転技術や整備、輜重の役割を担う科であり、バックアップを担う重要な存在ということであり、輜重科と短縮されて呼ばれている。

 F区(元江東区)とO区(元江戸川区)のちょうど中間点に建設されている。輜重科の授業を受ける建物はF区側に位置し、O区側には授業用の乗り物を有する倉庫が隣接している。

 輜重科の一番の特徴は、運転技術の高さと運転する乗り物の種類の多さである。

 輜重科中期生の一年は陸海空の乗り物の内部構造や特徴、整備や修理などの知識をみっちり教え込まれる。これは乗り物のことを完全に把握し、誰からの手も借りずに整備または修理できるようにと、一年時から整備士として後援で働けるようにと定められている。故に運転などさせてもらえず、普通でも中期生の三年、早くても二年の後半からである。

 ――だが、そんなルールをまったく無視した生徒がいたのだ。

 輜重科の倉庫は第三倉庫とされ、倉庫としては一番の大きさを誇る施設となっている。

 そこに三人が出向いた時、輜重科の生徒数人が一台のハンヴィーに群がっていた。中期生だ。

 近付けばもう一人いた。中期生かどうかわからないが、車両の下に仰向けで潜り込んで作業していた。

「ちょっと退いてくれ」

 後ろから声をかけられた中期生は振り向いて智和だとわかると、慌てて道を作った。

 潜り込んでいるのが中期生じゃなく、探している人物だとすぐにわかった智和は。

「おい。顔出せ強希」

 爪先で脇腹を軽く突いた。

「ンだようっせぇな。邪魔すんな」

 悪態つきながらも顔を出したのは強希だった。

 手にしていた工具を箱に戻して、上半身を起こして智和を見上げる。

「何の用だ?」

「部隊任務だ」

「……あっそ。後は指示通りやってみろ。終わったら担当の教師に報告しとけ」

「わかりました」

 指示を出して立ち上がった強希は中期生達に礼を言われ、軽く返事をしてその輪から離れれると倉庫の奥へと歩いていった。三人は後を追う。

 少し歩き、私物と思われるバッグと制服の上着が置いてある棚で立ち止まる。薄汚いタオルでオイルだらけの手をよく拭いた。

「お前の担当時間は終わっただろ。何してた?」

「車イジってたらアイツらが手伝ってくれと来たから手伝ってた」

「優しい先輩じゃないか。さぞかし後輩からの信頼は高いだろうな」

「おちょくる為だけにここに来たお前よりはマシだと思うがな」

「言ったろ。部隊任務だと」

「どんな内容だ?」

「足が欲しい」

「そンだけなら申請して車借りれよ。ンな怠いのは御免だ」

「部隊任務だ。お前を足として使う」

「あ、ふざけンなよ……あー、“そういう訳”か」

 瑠奈の後ろにいたララを見つけた強希は納得したように声を出し、ララは気分が悪いように顔を背けた。

「輜重科の連中が『あの西洋人は平気で他人を足として注文してきやがる』ってボヤいてたぜ。まぁお前もだがな」

「うるせぇ」

「車準備してくるからそのうちに準備しとけ。十分でここに来れる」

「だったら第三武器保管所の前だ」

「へいへい」

「ちょ、ちょっと?」

「ンだよ。何か注文か?」

 サクサクと話が拗れることなく進んで解決してしまい、望んでいた筈なのにララは驚きを隠せなかった。

「貴方、そんな簡単に受けていいの?」

「あ? 部隊任務だろ。引き受けるのは当たり前だろうが」

「いえ、そういうことじゃなくて……その、貴方は私のことで……えっと、嫌いじゃないの?」

「……こんな自意識過剰な奴は初めて見た。きっと大物になれるぜ」

「誰が自意識過剰よ! そうじゃなくて、部隊任務だとしても私は貴方の依頼を引き受けることになるのよ。それが嫌じゃないの?」

「別に。気にならねぇ」

 素っ気なく即答されたララは目を丸くしてしまった。

 強希は当たり前のように言う。

「お前が嫌な性格だから依頼を断る? お前が迷惑ばっかかけるから関わりたくない? 馬鹿だろそれ。ンな個人の感情で依頼取引するなんざ三流のすることだろ。俺、なんか間違ってること言ってるか?」

「いや。正しい」

「…………」

「気が済んだか西洋人…………西洋人って呼ぶの面倒だな。名前なんだ? 名前。もしくは何て呼べばいい?」

「……ララよ。ララ・ローゼンハイン」

「ローゼンハインなんてカッコいいな、それ。で、気が済んだか? ララ」

「ええ、気が済んだわ。引き止めて悪かったわね」

 ララが言い終わる前に強希は背中を向け、車両の準備の為に倉庫の更に奥へと歩いていく。

「……不思議な感覚」

 ララが呟く。

「名前を呼ばれるだけなのに不思議な感覚」

「何だそれ?」

「わからない」

「……まぁいい。ララは自分の装備持ってるか?」

「持ってる。できれば弾を調達したいけど」

「俺と瑠奈は持っていないから都合がいい。第三武器保管所はすぐそこだ」

 智和の言う通り第三武器保管所はすぐそこ。輜重科から百メートルもない距離にあった。輜重科は後方支援を行う際、すぐに武器弾薬を運搬できるようにする為である。

 第三武器保管所で智和と瑠奈はベレッタM92とマガジン三本、ララはワルサーP99のマガジンとMP7のマガジンを一本ずつ受け取った。

 二人はレッグホルスターも借りて両太股に着け、拳銃とマガジンを装備する。

「今更だけど」

 両太股のレッグホルスターにマガジンを装備したララが口を開いた。

「これって借り物よね?」

「ああ」

「使い終わったマガジンはどうするの?」

「使い終わったマガジンは消耗費として金取られる」

「任務で借りる度に?」

「入学同時に生徒全員にM4とベレッタが支給される。整備なんかは自腹、マガジンも自腹。個人の任務費用も自腹だが、教師から頼まれた任務や部隊の任務なんかじゃ費用はかからない。そのレベルまでいくと依頼主が費用を持つ。保管所はあくまで保管所。大多数の生徒達は個人で任務を行う際に必要な物を揃える為に使ってる。

 まぁ銃を破損させたら修理代を請求されるし、マガジンの消耗費も請求される」

「今回の場合は?」

「部隊任務だが個人で通した。だから後で請求される。長谷川に言っても良かったが、書類申請が面倒でな。ララはあの諜報員が費用持つんだろ?」

「契約上ではそうなっているわ」

 マガジンが落ちないか確認し終えたララは、目線をホルスターから智和に変える。

「正直、私の無茶も揉み消してくれてるのは確かよ」

「まぁそうだな。瑠奈、準備はいいか?」

「髪結び終えたらオッケ~」

 瑠奈はポケットから髪留めのゴムを取り出し、腰以上の長さがある黒髪をツインテールに結び始めていた。

 慣れた手つきで結び終えた直後、少し離れた位置に車が停車してクラクションを鳴らした。

 黒のトヨタ・カローラアクシオの運転席には強希が座っていた。

 近づくと窓が下がり、強希が不満そうな表情を三人に向けた。

「こンな車しか貸さねぇなンて頭おかしいぞアイツら」

「お前の車の趣味なんて知るか」

「うるせぇ。さっさと乗りやがれ」

 若干苛立ちが混じる催促を受け、智和が助手席、瑠奈とララが後部座席に座る。

「ところで当たり前のこと聞くけど、免許は持ってるのよね?」

「当たり前だこの野郎。一年の時に取った」

「一年? 高期生の?」

「中期生だ」

「はい?」

「聞こえないのか? 中期生だっつってんだろ」

 車に不満を持ちながらも強希はハンドルを握り直し、IMIの正面入口へと向かった。

「中期の一年で免許取ったですって? 一年目は整備とか構造理解について学ぶ筈よ。そもそも教師が許さないわ」

「ガキの頃から車が好きだったし、乗り物全般が好きだった。まぁ親がクソッタレだった影響が強いがな」

「何したの?」

「車泥棒。っては犯罪地区に売っての繰り返し。車だけじゃなく色ンな乗り物扱ってたし、挙げ句の果てには密輸にも手出しやがった。俺も見事にやってた。

 馬鹿親は挙げ句の果てに、クスリに興味持ったおかげで頭がクルクルパーになって宇宙人だ。キメてから盗るようになって、七回目で事故った。体がへし曲がって人間の形じゃなかった」

「それでIMIに、と」

「ああ。妹の学費払いも便利になった」

「妹がいたのね。意外だわ」

「よく言われる。まぁそンなクソ親のおかげで輜重科の免許取得は楽勝だ。中期生のうちに陸海空の乗り物は運転できる。で、場所はどこだ?」

「大田区の大森東。詳しくは着いてからだ」

 智和が告げると強希は車を発進させ、大田区へと向かった。


――――――――――◇―――――――――


 強希が運転する車は、男から聞き出した場所に到着した。

 住宅街に混じっていた町工場は古ぼけていて、人が出入りしている気配はまったくなかった。

 駐車場らしき小さなスペースがあり、車をそこに停めさせた。

「堂々と駐車できたってことはいねぇよ」

「確率的にそうだろうな。まぁ潜んでる可能性も捨てきれない」

 強希を残して三人は車を降りる。

「エンジンは停めるな。それと何か銃は持ってるか?」

「あるよ。早く行ってこい」

 懐から45口径拳銃のコルトガバメントを取り出し、気怠そうに答えた強希から目線を女子二人に向ける。

 ホルスターから拳銃を抜いていた瑠奈は智和の視線に気付くと、振り向いて笑顔を見せた。

 反対にララは荘厳な面持ちで拳銃を抜き、スライドを引いて装填。智和が見たことのない表情だった。

「準備いいか?」

「ええ勿論よ」

 一段と低く、冷えきったララの言葉には鋭さしかなかった。智和も拳銃を抜く。

「一階から順番に制圧する。ララ、前行けるか?」

「当然よ」

「よし。行ってやれ切り込み隊長」

 言い終わるほぼ同時、ララは施錠に数発撃ち込んで壊すと蹴り飛ばした。

 もう少し穏便にできなかったのか思った智和だが、やってしまったことは仕方がない。それにララを前に決めたのは智和本人なので、口出しできる立場ではなかった。

 突入した部屋は広かった。剥き出しのコンクリートの地面には、機械が置かれていたであろ跡が所々に黒く残っている。

 奥にはもう一つ小部屋があった。そして左側には二階へと続く階段がある。

「二人は上に行け。俺は奥を確認する」

「了解」

 二人が階段を上がっていくと共に智和が慎重に、尚且つ素早く奥へと移動して扉に張りつく。

 そして先程のララと同じように扉を蹴り破った。

 ララに言いたかった言葉を完全に忘れている智和は銃を構えるが、なにもないことを確認して構えを解いた。

 事務室らしき小さな部屋は多少埃が舞っていた。棚も埃を被っている。

「…………ん」

 埃を被っていない棚を見つけた瞬間に思わず声を出してしまった。

 拭き取った跡ではなく、何かを置いていたような長方形の形が残っていた。

 棚に顔を突っ込んで隈無く見れば、上部に穴が空けられていた。直径二センチほどの穴。

 顔を出し、今度は反対側の壁に触れながら探す。なにもおかしい様子が見られない場合、智和は僅かな痕跡を見逃さない為に手で探す。

 それはすぐに成果を出した。

 またもや穴。見れば同じく二センチほどの穴。

 その先の光景を穴から覗いてみれば、智和達が突入してきた入口に焦点がピタリと合っている。

「棚の穴にコード通して二階に繋げるのはわかるが、この穴は何だ? 穴から赤外線を使った警報か、小型カメラを穴に設置した監視か……どちらにせよ、レオンハルトとやらがいたのは間違いなさそうだ。だとしたら――」

 台詞を遮って携帯電話が震えた。マナーモードに設定していたので音は鳴らない。

「ほらな」

 予想通り。

 瑠奈から電話だった。

「いなかったか」

『うんいなかった~。もぬけの殻。でも証拠品は一杯あるよ~』

「証拠品?」

『うん』

「今行く」

 電話を切って小走りで二階に上がる。

 二階も広いスペースでその一部屋しかなかった。小さなテーブルをいくつも並べ、その上には色々な『証拠品』があった。

「これだよ~」

「証拠品……かはわからないが、まずは探せるだけ探せ」

「りょうか~い」

 瑠奈とララは既に銃をホルスターに入れて警戒を解いていた。

 テーブルの上に無造作に広げられているのは地図と、何冊もの分厚いファイル。それに叩き壊されていたノートパソコンと携帯電話に、一階の小部屋に置いていたであろう機械。

 何気なくファイルを手に取ってみた時、紙のような何かが落ちた。

 ボロボロの写真だった。

 半分に折られている写真。左側から屈強な体格の男性と、その男性に肩車されている小さな男の子。まだ二十歳にもなっていないような若い男性がいた。

 折られていた右側を見ると、若い男性の腕に抱きついている笑顔の少女と、その少女に負けじと男性の腰に抱きつく更に幼い少女、その隣に気品さ漂う少し背の低い女性が写っていた。

 簡単に考えれば家族写真にも思える。それは調査しなければわからない。

 だが問題はそこではなかった。

 若い男性の腕に抱きつく少女。智和がどう見ても――少しだけ幼いララ・ローゼンハインが、そこにはいた。

「…………あー」

 正直なところ、面倒なものを見つけてしまった。

 何だか事情がややこしくて込み合ってきたことになってきてしまった。否、これは“元からややこしい”。

 諜報科の友人から言われたことを思い出す。

「もう首突っ込んじまった。もう遅ぇ」

「何か見つけたの? 智和」

 手遅れとなった愚痴を吐いた時、ララが隣にやってきた。

「何よ、それ」

 写真のことをどうしようか少し迷ったが、隠すことせずなにも言わずにララに差し出した。

「…………っ」

 初めは無表情だったララの表情が一気に変わってしまった。口が少し開いてしまっている。

「どうしたの~?」

 そこへ瑠奈がやってきてララの後ろから写真を見た。

「…………これって」

「言わないで。ちょっと整理してるから、なにも聞かないで」

 瑠奈を押し退けて奥へと逃げるように歩いたララは、無言でしばらく写真を見続けていた。

 しかし時間は限られている。ここにレオンハルトがいた形跡が残っており、もしかすればまだ近くにいる可能性もある。

「悪いが時間をかけている暇はそんなにない。それに、そろそろ事情を教えて欲しい」

「……レオンハルトは私の兄よ」

 写真を見続けるまま、ララは口を開いた。

「兄は優秀なドイツIMIの学生だった。二年も飛び級していて更に首席で卒業した。その後はドイツIMIの援助を受けて個人企業を設立して、詳しくは知らないけど情報解析などの仕事をしていたわ」

「それがどうしてこうなった?」

「……兄が追われてるって知ったのは、エリクがドイツIMIに訪ねてきた時だった。兄が《7.12事件》の首謀者との関係を持った証拠を見せてきたことと、同時に私の実家が何者かに襲撃されたことを告げてきた」

「家族の人達は……無事だったの~?」

「妹と弟は学校に行っていて問題はなかった。だけども両親が重傷だった。それも兄の仕業だと言われた」

 写真を丁寧に折り畳んで上着の内ポケットに片付け、一呼吸おいてから続け、手掛かりの探索も再開する。

「病院で両親に会って、妹と弟の面倒を親戚に見てもらうことを約束して、私はすぐにエリクと行動を共にした」

「正式な依頼を申し込まれたのか?」

「……いいえ。そもそもエリクは素性を知られたくなかった。だからドイツIMIには依頼申請しなかった」

「じゃあどうやって…………まさかお前、無断で抜け出してきたのか?」

「ええ」

 素っ気なく答えたララに「馬鹿だ」と呆れ気味に呟いた智和は頭を抱える。

 国が違えど、IMIの基本的な規則は変わらない。その規則の中で、なんの断りもなく国内及び国外への移動は基本的に禁じられている。

 IMIの周辺地域ならまだしも、勝手な移動はIMIの規則を破ることとなる。それが無断でこんなことをしていると相手が知ったなら、重い処罰が下されるのは免れないだろう。

「今、貴方が考えてることがなんとなくわかるわ。『何で抜け出したのか?』って」

「そこまでして兄を追うのが重要なことだったのか? それと、お前が抜け出して迷惑だって奴もいるだろうに」

「……いないわ。そんな人間」

「あ?」

「貴方達なら私のプロフィールを見た筈よ。私は部隊には所属していない。ずっと一人でやってきた。たまに合同で任務をしたけど、貴方達と初めて共同作戦したみたいに勝手にやっていた。だからあっちでも一人よ」

「だからって兄にそんな執着するか?」

「……ええ。執着するわ。瑠奈、悪いけどこれ運ぶの手伝ってくれない?」

「うん。いいよ~」

 呼ばれた瑠奈はララと共にファイルを整理し始める。

 ララが何故それほどまで兄のレオンハルトに執着しているのか疑問が残った智和だが、それを追及しようとも思わなかった。

 証拠整理に取り掛かろうとした矢先、また携帯電話が小刻みに震えた。

 長谷川からの電話で、二人から離れ部屋の隅に移動してから電話に出る。

「何だ?」

『留置所に入れていた一人が死んだ』

「あ?」

『諜報科の二人が尋問室から連れ出して戻そうとした時、突然苦しみだしたそうだ。急いで衛生科に運んだが死亡した』

「死因は?」

『詳しくはわからないが薬物投与のようだ。注射器で刺した訳でなく口から直接』

「口から直接? やけにガードが緩いな」

『その点から最後に立ち会ったエリク・ダブロフスキーに話を聞きたいが……奴がいない。どうもおかしな状況になっている』

「こっちもおかしな状況だ」

『何か掴んだか?』

「今から整理するからまた後で連絡する」

 電話を切り、色々と状況がおかしな方向に向かっていることに、また自然と溜め息が出てしまった。

 テーブルに戻ればララと瑠奈が全てのファイルを棚からテーブルに移し終えていた。

「大体この程度ね」

「やけに多いが……まずはこの地図からだな。印がつけられてる」

「ここ……準進行不可区域だよね~?」

「川挟んでるがな」

「どうかしたの?」

「足立区と北区は《7.12事件》後、区として完全に修復できなかった。それどころか犯罪者の溜まり場になってな。国は対処できず、周囲は建物の修復をせずそのままにした。だから二区の周囲は何百メートルか瓦礫の山が続いていて、それより先は誰も近づかない」

「瓦礫の山の向こうに変なのがあったのは見たけど、それがその二区だったのね」

「無法地区となった二区の対処は完全にできていない。ただ犯罪者をそこに押し込めさせただけで、更に好き勝手やられてる。それに、もう見限ってる」

「大変なのね」

「俺達の仕事じゃないから知らん」

「で、結局ここはその犯罪地区なの?」

「正確に言えば違う。この地図は川の手前に印がつけられているから犯罪地区の範囲外だ。かといって近づいていい場所でもない」

「国から近づいちゃいけないって言われてるしね~」

「で、問題はこのファイルなんだが…………何書いてるのかまったくわかんねぇ」

 智和が何気なく手に取ったファイルの中身は、何の資料なのかわからなかった。

 予算表のように見える資料は他のファイルにも整理されている。

 そこへララが素っ気なく言った。

「ドイツ語ね」

「何が書いてる?」

「予算表みたいだけど違うみたいだね」

「数字はドルらしいからなんとなくわかるが……だとしたら桁数が半端ないな」

「……これ予算表じゃないわ。銀行への貯金額よ」

「……じゃあ、隣の文字は銀行か」

「ええ。それも世界各地の。年数が二十五年前だから今もあるのか不明だけど、この時まで確実に存在していたわ」

 細かく記載されているのは銀行名と口座番号、それに貯金額などだった。幾つもの銀行にかなりの額を預けていることが一目でわかるようになっていた。

 後ろのページからはいつ、どこの銀行で、預けたのか引き出したのか、どれ程の額か、どんな口座番号かなどといったものまで記録されている。

「気味悪いぐらいに記録してるな」

「何に使ったんだろ~?」

「知るか。それは本人に聞けばいい」

「ねぇ見て」

 ララがあるページを二人に見せる。

「この記録は新しいわ。今年の一月にドイツの銀行から引き出してる」

「今までより額は少ないが、かといって個人が持ち出す額とも考えられないな」

「どう思う?」

「これだけで結論出すのは無理だ。点はあるが、線で結べない」

「何よ、それ?」

「証拠はあるが説明できない。第一、俺達は探偵じゃないぞ」

「そんなのとっくにわかってるわ。私だってそうだもの。ただ言えることは……この場所にレオンハルトがいるかもしれないってことね」

 ララの睨む先に、赤い印がつけられた放置地区があった。

 ありったけの証拠を探した三人はその場を後にして外に出た。

 車で待っていた強希はというと、席の位置を一番後ろまで移動させ、背もたれを倒し、両足をハンドルに乗せるような形で寝そべりながらラジオを聞いていた。

 建物から出てきた三人を見つけると、怠そうに足を下ろして席を直し始める。

「何か収穫あったか?」

「まぁな。次の行き先が準進行不可区域になった」

「はぁ? 何でまたあんな場所に?」

「知らねぇよそんなこと」

「だろうな」

「うるせぇ。それと途中まで送ってもらえればいい。その後IMIに戻ったらお前は部隊編成の準備に取り掛かってくれ。長谷川には車の中で俺が要請する」

「また随分と急だな」

「まぁな。できるだけ上の部隊を寄越してもらえるよう長谷川に努力してもらうが、俺個人の要請だからどうだかな……」

「せめて中期生の集まりは勘弁して欲しい」

「俺もだ。ララと瑠奈、出発しよう」

 三人を乗せた車は町工場から智和が指定したポイントへと出発した。

 後部座席に座るララはワルサーP99、MP7の順に銃の確認を始めた。例え使用していなくとも必要なことである。

 対して瑠奈は車に乗る前にさっさと済ませてしまい、智和は携帯電話で会話していた。

 相手は長谷川である。

「証拠はそのままにしてある。学生に回収してもらうように手配してくれ」

『わかった』

「それと部隊要請がしたい。今から俺達は現場に向かうが強希をIMIに帰す。強希に航空支援を任せたい。少人数でも構わないが車両移動じゃなくヘリからのラベリングが必要になるからなるべく“上”の部隊を要求したい。あと通信は北原先輩」

『部隊要請か……。強希と琴美はいいとして、お前個人の要請ならば果たしてどの部隊を動かせるか疑問だな』

「そんなのこっちだってわかってる。だから長谷川に連絡したんだ。最低でも展開部隊だ。中期生の集まりや場数のない高期生で編成した部隊じゃ駄目だ」

『どうしてもか?』

「ああ。どうやら事態が予想以上に大きいらしい。もしかしたら大規模な銃撃戦になるかもしれない」

『なんとか要請してみるさ。ただ少し時間が掛かる』

「何か問題が?」

『いや違う。病院に送られた奴が意識を取り戻した。時間制限有りで事情聴取する為に移動している。琴美には私から連絡する。強希にはIMIに着いたら第三倉庫で準備し、琴美の指示に従うようにと伝えろ』

「了解」

『それとだな』

「何だ?」

『ララ・ローゼンハインとは仲良くやっているか?』

「急に変なこと言い出したな。順調にやってると思うぞ」

『そうか。それならいい。切るぞ』

 一方的に電話を切られたが、智和はそんなことを気にするほど小さな男ではない。

 携帯電話をポケットに片付けた時におもむろに強希が聞いた。

「話はついたのか?」

「微妙だな。やっぱり個人要請じゃ上は無理そうだ」

「せめて展開部隊にして欲しい」

「まったくだ。それとララ」

 返事がなく、今度は大きめに声をかける。

「ララ!」

「っ! な、何かしら?」

 聞こえていなかったララは智和の強い呼び方に少し驚き、平静を装いながら顔を上げた。

「……そんなに力入れなくてもいいと思うんだが」

「余計なお世話よ。それだけ?」

「お前が撃った重傷患者。意識取り戻したってさ」

「……そう」

「やっぱり力が入り過ぎてるな。瑠奈、抜いてやれ」

「りょうか~い」

 今まで窓の外を眺めていた瑠奈が嬉しそうに返事をして、笑顔を智和からララへと向けた。

 今日初めて瑠奈と出会ったララだが、その笑顔が妙に思えた。

「な、何?」

「いや~。ララちゃんの肩の力を抜けっていうトモ君の命令だからさ~。友好も兼ねて……ねぇ~?」

「ゆ、友好?」

「とおりゃあ~!」

「ちょ、ちょっとまっ……! いきなり飛び付くなんて……って、どこ触ってるの!?」

「おい智和。この車はレズビアンバーじゃねぇぞ」

「今デジカメがあれば、なんて思ってただろ」

「……ビデオカメラねぇか?」

 智和と強希は後部座席で行われている友好を兼ねた魅惑的なマッサージを、バックミラーでチラチラと観察していた。

「ちょ、ちょっと瑠奈! そこは駄目……っ!」

「いや~、トモ君と楽しそうに喋ってるからさ~。私ちょっと嫉妬しちゃったよ~」

「いやこれ明らかにちょっとどころじゃ……って、どうして胸を揉む必要があるのかしら!?」

「だから友好を兼ねてのマッサージを~」

「そんなに深める必要がわからないんだけどっ! あっ……だからそこはっ……!」

「おい智和」

「何だ」

 強希がポケットから携帯電話を取り出して智和に突き出すと、変わらぬ口調で言った。

「ムービーで撮ってmicroSDに保存してくれ」


――――――――――◇――――――――――


「それじゃあ強希。いい部隊を期待してる」

 そう言ってIMIへと帰る車を見送った智和は、先程まで濃厚な時間を過ごしていた二人に目を向ける。

 妙に嬉しそうな瑠奈と、疲れ切った様子のララの二人がとても対照的だ。

「いい感じに抜け切ったな」

「……全てを抜き取られたようだわ」

「瑠奈も嬉しそうでなによりだ」

「えへへ~。楽しかった~」

「そうか。そろそろ行こう」

 三人が降りたのは地図に示された位置と町工場からちょうど半分の位置。そこからは歩いて移動することとした。

 当たり前だが、歩いていればすれ違う人々や走る自動車の数々。それが日常を指し示しており、人々が当たり前に迎える日常なのだと感じれる。

 三人にも与えられるものだが、常人が送っているような日常と三人の日常とは掛け離れたものだった。

「……ところで」

 智和の隣を歩くララがふと聞いた。

「さっき言ってた展開部隊って何?」

「正式名は戦闘展開部隊。日本IMIに所属する学生の中で優秀な中期生や高期生を、夏休み期間を訓練課程にして最終試験に合格した学生で編成された部隊だ」

「貴方や瑠奈もそこの部隊って訳ね」

「いや違う」

「どういうこと?」

「展開部隊は簡単に言えば……アメリカ陸軍のレンジャーは知ってるだろ」

「当たり前よ」

「第75歩兵レンジャー連隊。充分優秀だが更にグリーンベレーやデルタフォースなど登竜門のような位置付けでもある。戦闘展開部隊はそれと同じだ」

「じゃあ貴方が“上”と言っていたのは、更に上位の部隊のこと?」

「そうなる。説明が面倒だから省くが、最上位の部隊に入れれば個人の部隊編成が許可される。まぁ最上位っつっても、個人が編成した部隊が重なり合ってるようなもんだがな」

「なんだか漠然とした話でいまいちわからないわ。私は部隊に入っていないし、入る気もなかった」

「そういえばララちゃんは何で部隊に入らないの~?」

「……」

 瑠奈の質問にララは黙ってしまった。

 いきなり重苦しい雰囲気に瑠奈は戸惑う。

「……え~と、もしかして駄目な質問だった~……?」

「……いいえ。そんなことはないわ。私が部隊に入らないのはレオンハルトの影響だから」

「どういうことだ?」

「言った通り、レオンハルトはドイツIMIで最も優秀だった。諜報科に所属していたけど複数の学科も受講していたのよ。普通科も受講していたから彼にも部隊所属の話がきてたのだけど、片っ端から全部断って一人で活動してた」

「で、そのまま首席で卒業か」

「……こんなことになる前まで私はレオンハルトを尊敬していた。誰の力も借りずに一人で全てこなしてきた兄を誇りに思っていた。周囲は私が彼の妹だと知った時に期待していたのをよく覚えているし、それがプレッシャーにもなってたわ。それに……私は兄とは違う。兄は兄のやり方で。私は私のやり方でやるだけよ」

「兄の背中を追って同じ条件で、って言ってるようなもんだがな」

「まぁ実際にはそうなるのでしょうね。あの時の私は兄のことが大好きだったし、兄に負けぬよう自分なりに努力していたことは認めてる」

「……ねぇララちゃん。このままお兄さんと撃ち合うようなことになっても、ララちゃんはそれでいいの~?」

「……この状況ではエリクの方が話の筋は通る。証拠も残ってる。もう確実よ」

「でも」

「やめろ、瑠奈。作戦前に乱すな」

 追及しようとした瑠奈を智和が強い口調で止めた。

「こんな時に兄妹の情なんかを持ち出して再確認させるなんて無駄なことはするな」

「無駄って……その人はララちゃんのお兄さんでしょ~? 家族なんだよ?」

「家族“でも”だ。その質問は障害を生む」

「でもっ!」

「いいわよ、瑠奈」

 少し呆れ気味に溜め息を漏らしたララは、瑠奈に少しだけ笑みを見せて言う。

「そんなこと覚悟の上だから。充分承知してるから平気よ」

「……そっか」

 瑠奈にはその笑みが、無理をして作っているような気がして堪らなかった。

「トモ君の馬鹿~……」

「俺に当たるな」

 もどかしくて小言を言うが智和は簡単に受け流す。

 智和が強く言ったのは訳がある。私情を挟んで任務に挑んでもロクな結果にならないのだ。

 中一期生から数多くの任務をこなして学び、IMIを卒業したが今でも尊敬している部隊の先輩から散々言われてきた。

絶対に私情は持ち込むな、と。

 人間の感情は時として感覚と判断を鈍らせる。それが一瞬を必要とする最重要な任務であったり、人殺しをする任務では必然的に冷酷にならなければならない。

《7.12事件》以来、日本にも復興不可と烙印を押された都市が存在するようになってしまい、失業率も犯罪率も薬物依存率も死亡率も、全ての負が格段に上昇してしまった。

 IMIの中にはそういう連中に顔見知りの学生もいた。そして実際に、引き金を引くのを躊躇い、逆に引き金を引かれて殺されてしまった学生も智和は何度か目にしてきた。

 これはIMIに所属する学生全員が経験しうることであり、智和も、瑠奈も、目にしてきた。

 故に瑠奈は折れた。彼女は二度その経験があり、尚且つ、助けられなかったという自責を与えてしまった原因でもある。その経験を乗り越え、彼女は衛生科も受講して治療技術を身につけていた。

 私情は任務において邪魔な物。そうなれば当然、相手に慈悲をかけることも問題となってくる。

 犯罪者が罪のない人間達の中で、突然こちらを撃ってきたことだってある。実際、アメリカの軍隊もイラク戦争やアフガニスタンでの戦闘の際、民衆に紛れた民兵やテロリストに対処しきれなかった。そしていつの間にかこちらは撃たれ、IED(即席爆弾)によって爆破されて全員死ぬ。

 IMIでも何件かその事件が発生し、対処が万全でなく苦戦している。

 そうなってくれば最終的にこうなってしまう。

 私情を持ち込まず、感情を持ち込まず、冷酷に、冷徹に、機械のように――

「…………まぁ、言い過ぎた。悪い」

「……ううん。大丈夫~。トモ君は悪くないよ~」

 機械のように。

 それは、ただの“道具”だ。

 それでも智和は、瑠奈は、ララは――IMIに所属する全員は、非日常の世界を歩いている。

「勝手に納得したのなら早く行きましょう。時間が惜しい」

「わかってる」

 ララに急かされ、足早に前へと進む。

 目的地はもうすぐそこに。


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