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烏は群れを成して劈く  作者: TSK
第一部第1章
3/32

嘆き、泣き

喚いて、叫んで、劈いて。

吐いて、飲み込んで、また吐いて。


 惨事を目の当たりにした諜報科の女子生徒二名は案の定、困惑した様子で男を尋問室から連れ出した。

「ねぇ、どうする……?」

「えーと……衛生科の医務室に連れて行こっか……」

 微かに聞こえた会話から、どうやら拘留所か医務室に連れていくかで迷っていたが、熟したトマトが地面に落ちたような酷い顔を覗き込み、医務室行きと決定した。

「まだ私はやることがあるので失礼しますね」

 そう言って傍観室を出ていった琴美に長谷川が「ああ、頼む」と言っていたので、長谷川が用事を頼んだことはすぐわかった。

「予想通りの結果だ。付き合わせて悪かったな」

 どうやら長谷川はこの事態を予想していたらしい。道理で慌てる素振りを見せずに注意したり、今も録画録画した数本のテープを機器から取り出している。

「予想してたなら止めろよ」

「私はあくまでお前達の担当だ。部外者の管理は仕事に入っていない。まぁ、好き勝手やって規則を破るのは少々度が過ぎてる」

 数本のテープを取り出して部屋を出た長谷川の後を追うように、智和と瑠奈も尋問室から出る。

「……ん?」

 これからどうするのかと智和が切り出そうとした時、廊下の奥から見知らぬ男がこちらに向かって歩いてきたのを見て口の中に収めた。

 IMIの人間ではない。教師なら全員知っている。

 黒の短髪で青い瞳の男は外人で少し背が低い。色の明るいスーツを着て、皺の深い顔を笑みで緩ませて三人を見ていた。隣にはララもいる。

 向かい合った両者。先に口を開いたのは知らない男だった。

「映像と音声はそのテープに?」

「ええ」

 長谷川は短く答えるとテープを差し出し、受け取った男は特に関心を持たなかった。

 一般人ではない立ち振る舞いは智和と瑠奈に警戒心を生み付け、智和の右手は自然と腰の後ろへと静かに伸びる。

 しかしいつもの装備をしていないことを思い出し、右手は力なく床へと垂れた。

 この男が何者なのか気にはなるのだが、この手の人間は表情や目を見たり、雰囲気を感じただけでろくな人間ではない、もしくは同じ人間だとわかる。智和は己の直感を信じて前者だと予想した。

 ろくな人間じゃないと密かに予想されている男は二人に目線を移し、全体を見回してまた長谷川に戻った。

「この二人は貴方の生徒?」

「少し違います。私はこの二人が所属する部隊の担当です」

「なるほど。私のことは話しましたか?」

「いいえ。必要ですか?」

「共に協力しあう者同士、互いを知らないと信用できる筈がない」

「ではそこの尋問室で話しましょう」

 拷問まがいの尋問が行われた先ほどの尋問室に五人が入る。

 血で汚れていたテーブルは男を連れていった女学生達が雑巾で丁寧に拭き取られ、惨事なんて起こってませんよ、と言わんばかりに輝いていた。

 テーブルを取り囲むような位置に立つ五人。

「この人が今回の依頼主、エリク・ダブロフスキー。BNDに所属している」

 長谷川の紹介に智和と瑠奈の二人は思わず固まった。

 BNDとはドイツの情報機関であり、連邦情報局などの呼び名がある諜報機関だ。

 諜報員が世界を飛び回るのは勝手なのだが、何故こんな国まではるばるとやって来た理由がわからない。

 問題なのはその『理由』だ。目的のわからない理由ほど恐ろしいものはなく、それが諜報員というオマケ付きとなれば誰もが嫌な顔をするだろう。

「そんなに警戒をしないで欲しい。別にIMIを探りに来た訳ではないし、意味がなく我々にも利益はない。それは私の隣にいる彼女が証明している」

 見事に警戒心を探り当てたエリクはそう述べる。

 確かに意味はなかった。IMIは独自の国際機関として成り立っているが、別に敵対している訳ではない。むしろ積極的に協力している。

 実際、そういった諜報機関から依頼を受けた過去の例を智和は知っており、エリクの隣にはIMIに所属するララがいる。それだけで充分な説明だ。

 では、エリクは何故ここまでやってきたのか。理由は本人の口から話された。

「この男を探している」

 懐から取り出したのは一枚の写真。テーブルに置いて日本人の三人に見せた。

 写っているのは金髪と青い瞳が印象的な白人だった。全体は写っておらず移動中の撮影だったようで、白人男性はピントに合っていない。あと細身な人間である。

「名前はレオンハルト。22歳。機密情報の漏洩などの容疑がかけられているが、私はもう一つの容疑を重要視している」

「もう一つとは?」

「《7.12事件》」

 その一言に三人は同時にエリクへと目を向け、ララは黙って写真を見続けていた。

「世界規模で発生した世界同時多発テロ。死者、行方不明者、負傷者は七百万を優に越え、正確な数字は未だにわからず、犯人も根絶やしにできたとは言えない。そんな人間と思えない畜生達に彼が接触したらしい」

「目的は?」

 智和と瑠奈は基本聞いているだけであり、質疑は長谷川がする。応答も同じだ。

「目的を知る為に私は追っている」

 実に単純明快な答えだった。

「レオンハルトが日本にいることを掴んだ私は、ドイツのIMIと協力してララ・ローゼンハインを連れてはるばる来た。日本のIMIに極秘ながらも協力要請を依頼した。なんとしてもこの男を逮捕しなければならない」

「だったらあまり出過ぎた真似をさせるな。好き勝手やられるのは好きじゃない」

 我慢できずに智和は愚痴をこぼした。

「それについては私から謝ろう。彼女には自由に行動できるよう特別な制限はしていないのが事実だ」

 意外と素直に謝罪したエリクに少し戸惑った智和だが、表情には出さず沈黙を守った。

「改めて依頼しよう。レオンハルトを逮捕する為にララ・ローゼンハインと協力しながら追い詰めてほしい。やり方は任せる」

 写真を上着の内ポケットに片付け、尋問室から退場しかけたエリクは扉を半分開けた状態で振り向いた。

「あまり公にはしないでほしい。荒事もできればしてほしくない」

 そう言って部屋を出た。

 溜め息を漏らした長谷川は面倒臭そうに、閉じられた扉へ目を向けていた。

「あんな酷い諜報員は初めてだ」

「何度か会ってることに俺は驚いた」

 長谷川は諜報科ではなく普通科担当だろうに、諜報員と接点を持っていることに疑惑の目が向けられた。

「受けたものは仕方がない。今回は正式に引き受けてしまっているし、既に報酬も半分貰ってしまっている。断るに断れない」

「……だろうな。まぁ、うん。仕方ない」

「別にかまわないわよ」

 いつの間にか智和の隣に立っていたララ。瑠奈が立っていた筈だが、本人はララに怖じ気ついてしまったのか端にいた。

「実戦経験のない平和ボケした日本人なんて邪魔なだけ。撃たれたくないならさっさと手を引くことね。これじゃ、日本のIMIの部隊レベルなんて底が知れたわ」

「……いい加減にしろよ、ドイツ人。好き勝手に言うその口を閉じさせるぞ」

 一段と声に重みが現われて少しばかり口調が変わった智和に、部屋を出ようと歩きだしていたララは再び足を止めた。

「あら。本当のことを言ったまでよ」

「実際に見てから言えよ」

「見なくてもわかるわ。ルールなんかにこだわって枠から外れようともしない。言われた通りにしか行動できないのが日本人でしょう」

「……へぇ。今どき人種差別で物事決める馬鹿がいるとはな。それにゲシュタポ並の鬱陶しさ。これじゃ周りに人がいないわけだ」

「ちょっとトモ君……」

「ただ群れるだけの貴方達とは違うと思うけれど?」

 言い過ぎだと瑠奈が止めに入るが、先にララの言葉で遮られてしまう。おかげで口論は止まらなかった。

「独りぼっちで我が儘振りまくクソガキよりマシだろうに」

「いい加減にしろ、クソガキ」

 瑠奈が止められなかった口論を長谷川が、拳を振り下ろしてテーブルをへこませて止めた。

 至って冷静な表情を見せている長谷川の表情が、悪魔の仮の表情であるかの如く冷たい表情に見えたのは瑠奈だけである。

「勝手に喧嘩始めて何をやってる? 智和、貴様は馬鹿だ」

 決定された智和は嫌な顔を長谷川に向ける。

「ララ・ローゼンハイン。貴様の言動と行動にはいくつか問題がある。ここは日本で、日本のIMI施設だ。それ以上侮辱し、ルールに反した場合は即刻ドイツに送り返す」

「……いいでしょう」

 さすがのララも教師である長谷川には素直に頷くことしかできなかった。

 それでもまだ腑に落ちない二人を察し、長谷川は言葉を続ける。

「もし貴様らがまだ納得しないなら、今から体育館に行って得物なしで戦って白黒つければいい。私は別に止めはしない」


――――――――――◇――――――――――


 長谷川の提案によって白黒つける為、諜報科に隣接している体育館へと移動した四人。

 格闘技術の授業などで使われる体育館には誰もおらず、バスケットコート四面分の広さは静寂に包まれていた。

 長谷川と瑠奈はコートの外に立ち、中にいた智和とララは三メートルほど距離を広げて睨み合っていた。

「……あの~、長谷川先生~。トモ君とやらせてホントにいいんですか~?」

「本人達は白黒つけたいのだろう? ではやらせればいい」

「そういう問題じゃないと思うんですけど~……。もう、なんでIMIの人達って無茶苦茶な人が多いのかな~……」

「お前も、その部類なんだがな」

 野蛮なことでしか物事を片付けられないIMI関係者に、頭を悩ませていた瑠奈に言及した長谷川は続ける。

「ここで決めたほうが今後の活動に支障は出ない。どちらが上でどちらが下か、関係をはっきりさせればやりやすい」

「だからって~……」

「なに気にするな。智和は引き際を知っているから無理はしないだろう」

 睨み合う二人からは敵意剥き出しの闘争心が溢れ出ている。

 智和はただ立っているだけのように見えるが、目付きが違っていることを長谷川と瑠奈は知っていた。あれは“戦う者の目”だと。

 ララも構えはしていないものの、拳が小刻みに震えている。怖じ気ついているだけかもしれないが、智和のやり取りを聞いていれば、それが武者震いで早く殴り倒したいのだと判断できる。

「特別なルールはなく無制限。が、私が許可したものだがあまり派手に傷をつくるな。つくるなら服で見えない位置につくれ」

「ああ」

「常套手段ね」

「それでもやり合って命の危険に関わるようなら、私が無理矢理にでも止める。異論はないな?」

「ない」と二人同時に返事する。

「それでは始め!」

 開始早々、ララが動く。

 たった一歩の踏み込みで間合いを縮め、上半身を前のめりにさせて掌底のような構えを見せた。

 見せた、というには一瞬の時間に等しいが見たことには変わりない。智和は受け止めることなく体を横にしてかわした。

 ララの右側に移動するように躱せばいくらかは攻撃が限定され、左手や左足からの攻撃ならば動きを見るだけで対処できる。それに前へと体重移動している場合、更に行動もわかりやすかった。

 右腕を振り回すか、立ち止まって左足の回し蹴りなどの攻撃に備えていた。

 が、ララは右腕を振り回すことはなく、立ち止まることもなければ、両手を床に置いて逆立ちの状態になったのだ。

 どちらでもない行動に意表を突かれた智和の左から、踏み込んだ力と振り上げた際の力が重なった両足が襲い掛かる。

 身構えていたおかげで左手を盾として受け止めることができたが、この蹴りが細身の少女から出された攻撃なのかと疑問を持つほど重みがあった。

 ララが逆立ちした状態で背中を智和側へ向け、左足を智和の肩に乗せると、内股をフックみたいに首の後ろに掛けて引き寄せる。

 前のめりになってしまい、バランスを崩した智和は咄嗟に片膝をつく。その際にララの右足を自由にしてしまった。

 ララが床に寝て更に引き寄せると、右足の膝裏で自分の左足首を挟んで固定。右手でも引き寄せる。内股で相手の頸動脈、相手自身の肩で反対側の頸動脈を圧迫する絞め技──三角絞めだ。

 がっちりと固定されて前後から万力のように、首を絞められた態勢になってしまったのだ。

 必死に引き剥がそうとするが、酸素を取り込めない為にうまく力が伝わらない。

 顔がララの股の近くにあり、スカートが捲れて穿いていた生地の薄い純白の下着が見えていたが、こんな生き死にの場面で興奮できるほど智和はマゾヒストの性格ではなく、況してや性欲が生まれる変態でもなかった。

 このままで気絶してしまう。絶対に避けたかった智和は最終手段に出る。

 そもそも、ララと格闘戦をすることを望んでいた智和ではあるが、知らない女子を殴るには抵抗を示していた。現に智和は“一度”も攻撃態勢にはなっていなかった。

 それが首締めによって解除された。もうなにも彼を阻むものはない。

 足に力を込めて立ち上がる。右手を掴まれていたララの左手を掴み、抜け出す為に渾身の力を込めると──なんと、ララの体を持ち上げて床に叩きつけた。総合格闘技などでバスターと呼ばれる、三角絞めを仕掛けた相手をパワーボムの要領で叩きつける力技だ。

 背中を強打して息が詰まり、力が弱まった。絞めていた足が緩み、手を滑り込ませて足を振りほどき、今度はなんの躊躇もせずに拳を顔面狙って振り下ろす。

 転がって躱されたことにより拳はララではなく床を強打。素手の為、薄っすらと血が滲んでいた。

 左手を振りかざしてすぐに反撃へと転じたララだったが、その攻撃は糸も容易く躱された。それでも立ち上がって身構え、智和も同じ態勢になっていた。

 ララが右腕を鞭のように振り回すがくぐるように躱され、手首を掴まれて行動を制限される。

 距離を広げようとするが背中に衝撃が走って、また息が詰まる。智和の膝蹴りが背中に直撃した。

 完全に動きが止まる。

 膝蹴りを食らったララの体は、その衝撃と引き寄せられたことにより少しばかり浮いていた。膝を引き、左腕全体で背中を強打させ、なおかつ体を完全に浮かせた。

 後は重力によって勝手に床に叩きつけられるが、残念ながらただで済ますことはなかった。

 左腕を引き、右肘をララの鳩尾に突き刺して押し込んだ。

 智和の体重が乗ったことにより落下の勢いが増加。床に背中を叩きつけられ、鳩尾に重たい一撃を浴びた彼女はもはや声を出すこともできなかった。

 勝負は完全に決まった。

 智和の逆転勝利だ。ララに格の違いを見せ付けた。

 だが、ララはまだ諦めていなかった。呼吸ができなかったことで目尻にうっすら涙を浮かべながらも、力任せに智和の左頬を殴ったのだ。

 まだ敵意がある。これだけで智和が攻撃する“理由”には充分過ぎた。

 殴った手を右手で掴むともう片方の手も掴み、ララの頭上の床に叩きつけて使えなくしたばかりか、馬乗りになってララの動きを完全に封じた。

 他者がこの場面から見れば今正に純粋無垢な美少女を強姦しようと絶対に見間違えるだろうが、それよりも智和は衝撃的な行動を選択した。

 空いていた左手が、ララの首を掴み、持てる力の全てを使って締め上げた。

 あらんかぎりの力で絞められるララは虫の息で、酸素を求めるが呼吸ができない。

 足をバタつかせ、上半身を振って必死に抜け出そうと試みるが抜け出せない。それは酸素が行き届かないばかりか背中を強打した後で、パニック状態にも陥ってしまっているのだから絶対に無理だ。

 自然と涙が溢れて滴が流れ、空気が漏れるような音は泣き声と言うには程遠いものだった。

 弱まることのない左手。

 ほどくことのできない右手。

 抜け出すことのできない体。

 意識が朦朧とし、視界が涙でぼやけて徐々に闇が覆い尽くしていく中、最も記憶に残ったのは感覚ではなく智和の“表情”。

「がぁっ……っ」

 意識が――落ちる。

 刹那。まるで鈍器で殴ったかのような低い音が鳴り響き、智和の体が吹っ飛んで床を転げ回った。

 長谷川の膝蹴りが左頬を直撃し、智和を蹴り飛ばしたのだ。

 智和の魔の手から逃れられたララは激しく咳き込みながら体を起こし、痛みが残る首に触れながら周囲に漂う酸素を独り占めした。

 咳はなくなったもののまだ苦しい。何度も深呼吸して呼吸を整え、自分の状態を安定させようとしていた。

「大丈夫ララちゃん!?」

 心配して駆け寄って差し伸べた瑠奈の手を、あろうことかララは弾いた。

 必要ないという強がりと、恐怖に溢れ涙でぐちゃぐちゃになってしまった無様な顔を見せたくなかったのだ。

 勝負に負けた悔しさと勝負に負けた恥ずかしさ。その二つが今のララの表情を作り上げている。

 一方、蹴り飛ばされた智和は蹴られた頬を押さえながら体を起こした。

「いってぇ……」

 痛い、などとは比べ物にならないような膝蹴りが見事にクリーンヒットしたように見えたが、どうやら本人は無事らしい。

 それでも最初から心配などしていない長谷川は平然と罵倒を浴びせた。

「馬鹿者め。模擬戦と言ったのに本気で殺しにかかる馬鹿がどこにいる? この馬鹿が」

「教師という立場じゃなかったら殴りかかってるぞ」

「やってみろ。り返してやる」

 なんとも物騒なこの会話の一部分を聞いたララは衝撃を覚えた。

(本気で……殺しにかかった……?)

 首を絞められた直後、殺しにかかるとわかっていたのにすぐ止めなかった長谷川に恐怖を覚えた。

 力を込めて首を絞めた智和の“笑っていた表情”に恐怖を覚えた。

 落ち着いてきたララはゆっくり立ち上がるが、首に手をあてたままで顔は俯いていた。

「ララ・ローゼンハイン。異常はないか?」

「……ええ。シャワー室を……借りるわ」

 なにを今更な質問と言いたかったが言う気力すらなく、覚束おぼつかない足取りで体育館内にある女子更衣室へと歩いていく。

 その姿には今まで貫き通してきた傍若無人なものはどこにもなく、後ろ姿がどこか哀愁漂っているようにも感じてしまう。

「トモ君の馬鹿。人でなし。悪魔」

 語尾を伸ばす瑠奈が語尾を伸ばさないのは、怒っている時か焦っている時、または危険な状況になっている時だと智和は知っている。今は怒っていると簡単に理解できた。

「言われ過ぎだろ。と言いたいが、今回はそうだな。ギブアップする前提でやってたから、しないで反撃してきたら狂った」

「馬鹿」

「一番傷つく」

 どうやら本人である智和自身もそこまでやるつもりはなかったらしいが、ララの思わぬ反撃を受けたことで“つい”余計なことをしてしまったらしい。

 智和と瑠奈がくだらない言い争いをしている近くで、長谷川はかかってきた電話に対応していた。


――――――――――◇――――――――――


 体育館の更衣室にはシャワー室が設備されている。だだっ広いシャワー室は個人用に仕切りがあり、同じ色の扉で上半身と下半身が隠せるようになっている。

 制服と下着を脱いだララは蛇口を捻り、少し温めのシャワーを浴びていた。

 俯いたまま先程の模擬戦を思い出し、蛇口を掴む右手に力が入る。

「……あんな奴に……あんな奴なんかに……!」

 今まで一人でこなしてきたララにとって智和との模擬戦は、築き上げてきた自信を崩されることになった。

 ドイツIMIでは同学年でララに勝てる者はいなかった。上級生にも引けをとらないララの能力はとても高く、故に孤独へと結び付いたがかまわなかった。逆にそれで良かった。

 しかし、それが智和によって否定されたように思えたのだ。

 別に本人はそんな意志ないのだが、ララは存在そのものを全否定されたような錯覚に陥ってしまった。

 挫折と恐怖を同時に感じながら首元に手を当てれば、先程の光景が未だ鮮明に浮かび上がり、感触が未だ甦る。

「…………くそっ!」

 壁に怒りを叩きつけ、シャワーを止めて扉を開けた。

 用意されていたタオルで拭き取り、下着と制服を身につける。髪はまだ湿っていてドライヤーもなく、乾かすことはできないのでタオルで拭くしかない。

 タオルをしばらく借りることにしたララは、ワルサーP99とMP7が入れられているホルスターを両太股に取り付けてシャワー室を出た。

「やっと出てきたか」

 苛立ち混じりにこれからどうやって調査しようかと考えていた時、横から声が聞こえて振り向けば長谷川が腕組みして壁にもたれていた。

 上の立場である長谷川に敵意剥き出しでララは問う。

「何か用でも? これから調査を始めたいのだけど」

「そう焦るな。どうせ大した目星なんてついていないだろ。暇なら少し付き合え」

 なんとも勘に触る言い方だが否定はできず、素直に長谷川の後ろを着いていくしかできなかった。


――――――――――◇――――――――――


 諜報科校舎から出て向かったのは普通科校舎。

 普通科校舎は学校の校舎のような形であり、他の科の授業で使用されたり様々な訓練施設が隣接されていることもあって、IMIの施設の中では一番の大きさを誇る。

 他にも任務や部隊を指揮する為の司令室がいくつもあり、ララが辿り着いたのはそのうちの一つだ。

 三十畳ほどの広さの部屋。中央には長方形のテーブルが置かれ、地図や資料が所狭しと広げられている。部屋の両面は様々な機器で埋め尽くされ、生徒達がせっせと働き最終調整を行い、奥には大きなスクリーンとホワイトボードがある。

「長谷川先生!」

 かけていた通信用ヘッドホンを置いた琴美が慌てて二人に駆け寄ってきた。

「いくら依頼人から重宝されているとはいえ、部外者を立ち会わせるのは……」

 どうやらララがここに入れることに不満があるらしい。

「かまうな。私が許可した」

「ですが……」

「安心しろ。いくらこの馬鹿でも機密は漏らさない」

 あからさまに貶された感が否めないララは横目で長谷川を見るが、当の本人はそれが地らしくまったく気にしていない。

 渋々納得した琴美は席へと戻り、長谷川とララはテーブルの傍に立つ。

(……この雰囲気は何?)

 ララはこの部屋の雰囲気に疑問を感じていた。重苦しく、張り詰めていながらもどこか余裕のある生徒達の調子や長谷川と琴美の様子を、ララは見たことがなかった。

「……どんな状況なのか説明が欲しいわね」

「模擬戦終了直後に出動要請が入った。警察が武装集団の拠点を発見したところまではいいが、手が出せずこちらにも出動が要請されたという訳だ」

「随分と協力し合ってる様子ね」

「本音を言えば警察はあまりイメージを壊したくないんだよ。《7.12》から十数年、確実に犯罪が増え今まで通りの対処ができなくなってしまった。犯罪者の過激な行動を抑えつけるには、マスコミにも問題があるから色々と厳しい。だから私達に要請がたんまりとくるんだよ」

「それは」と一息おいた長谷川は地図を見たまま続ける。

「汚れた仕事だ」

「は?」

「悪いが後は自分で理解しろ、時間がない。状況説明を!」

 ララの疑問を押し退けた長谷川にそれぞれの生徒達が報告を始めた。

「現場周辺は警察によって封鎖されています。野次馬とマスコミは入っていません」

「武装集団に動きはありません。包囲されている為に動けないか、あるいは誘っているかのどちらかです」

「どちらにせよ殲滅だ。琴美、智和達は?」

「既に現場到着して準備は済んでいます。いつでも突入できます」

「良し。警察を離れさせて野次馬はそのままにしろ。最終準備だ、智和と通信」

 琴美からヘッドホンを受け取り、片耳にあてながらマイクを口へと向けた。


――――――――――◇――――――――――


 現場にて突入の準備を進めていた智和と瑠奈の二人に、中期生八人で編成された部隊が警察から提供された仮テントで待機していた。

 仮テントは本部としているがそれは建前で、IMIからの指示を受けたり情報交換したりと通信拠点として存在している。その為、智和達の他にも通信科の生徒も待機しており、外には輸送車を運転してきた輜重しちょう・航空科の生徒などもいる。

「神原先輩。長谷川先生から交信がきています」

 武器の調整をしていた智和は通信科の女子生徒からヘッドホンを受け取った。

「こちら智和。要件を」

『作戦内容に変更はない。重要人物の確保。反撃態勢を示した者は容赦なく撃て。雑魚に用はない』

「了解」

『そして今回は中期生達の実戦でもある。ちゃんと面倒見て死なないようにしろ。最後の打ち合わせを行い、予定時間になったら突入を開始しろ』

「了解」

 ヘッドホンを女子生徒に渡す。

「集合。最終確認する」

 瑠奈と中期生八人が智和に注目してテーブルに集まる。

「今回は殲滅任務。情報提供により数は二十と判明している。数は不利だが烏合の衆に殺されるほど馬鹿じゃない。それと中期生、今回が初任務だというのはいるか?」

 問いかけに五人の男女が恐る恐る手を挙げた。

「残りの三人は?」

「二回です」

「同じく」

「五回」

 経験のない中期生が多いが智和と瑠奈はまったく気にしていない。

「経験がないからって別に気にならない。気持ちがおかしくなるかもしれないが銃声は慣れる。まぁ聞こえなくなることもあるが一時的だ」

 なんとも嫌な助言ではあるが、二人が実際に体験したことでもあった。

「常に無線は電源入れておけ。情報は絶やすな。協力しあえ。仲間を見捨てるな。五分後に作戦開始。以上!」

「了解!」

「りょうか~い」

 中期生の張り詰めた声とは逆に、瑠奈はいつも通りまったりした口調だった。

 中期生達の行動は早かった。もう一度武器を見直し、タクティカルベストに装備した無線機や予備マガジンに目を通す。

 全員が手にしているM4A1カービンには、各々が使いやすいように光学機器やフォアグリップが取り付けられている。当たり前だが重さは増し、男子ならまだしも女子にとっては辛い。

 が、IMIの女子生徒は普段から筋力トレーニングを積んでいる者が大多数であり、装着物の多い銃を持ったりタクティカルベストを着る“だけ”なら余裕だ。

“だけ”というのは、実戦と訓練とではまったく違うからである。

 予想外の多い実戦でどれだけ動けるか。これがこの先の評価にも繋がり、司令室で指示している教師や先輩に評価される。

「相変わらず緊張感ないな、お前は」

「それが私のいい所でもあると思うな~」

「まぁそうだが、せめて中期生には真面目に見えるようにしてくれ」

「りょうか~い」

「……やっぱり緊張感ないな」

 相変わらずの甘ったるい声質は変わらずに頭を抱える素振りを見せた智和だが、共に任務を全うしてどんな働きをしてきたのか知っている。やる時はきちんとやるのだ。結果を求める智和は気にしない。

「……まぁいい。今回は中期生もいるから世話しろって長谷川に言われた」

「そうなるよね~。でもトモ君はそういうの嫌なんでしょ~?」

「嫌というか面倒臭い。まぁそれに関してはもう打ち合わせで話したし、中期生はサポートに回す。経験者にとっては面白くないだろうがな」

「仕方ないよね~」

 笑顔で銃にマガジンを付けた瑠奈の姿はどこか新鮮で、隣の銃を持った智和の場合は剃刀のような鋭さの印象を与えた。

 二人は完全武装の中期生とは違い、タクティカルベストは着ているもののヘルメットはしておらず、肘や膝に装着するサポーターもない。

 中期生の場合、いくら場数を踏んでいたとしてもヘルメットやサポーターなどの装着が義務づけられるが、高期生へと進学すれば個人の自由となる。完全武装している高期生もいれば、邪魔だから要らないという高期生もいて、二人は後者の意見である。

 最後の確認を済ませ、拳銃を入れたホルスターを右足に装着させれば準備完了。後は任務を遂行するのみ。

「常に交信をチェックしていてくれ」

「わかりました」

 通信科の女子生徒に一言かけてからテントを出た。

 外には大型装甲車が停まっていた。運転席には防弾ベストを着ているIMIの学生が座っていたが、金髪に染めていていかにも不良、と言わんばかりの柄の悪さだった。

 中期生が集まっており、やはり初めての任務となる中期生は緊張を隠し切れていない。

「お前の甘ったるい声とポジティブ性格で勇気づけてみろ」

「あいあいさ~」

 中期生の間に空気の読めない瑠奈が輪に加わり、智和は運転席にいる神埼強希かんざききょうき

「調子はどうだ、強希」

「眠い。車弄りてぇ」

「帰ってからやれ」

「さっさと終わらせてくれよ」

「わかった。よし、六人は中に乗って二人は俺と瑠奈と一緒に掴まって乗れ」

 任務経験の回数が多い中期生二人が智和と瑠奈と一緒に、装甲車の側面に掴まって移動していく。

 装甲車の側面には足場があり、天井の部分には取っ手がある。建物への突入時、出入口まで行く際に装甲車が動く盾となって移動する。

「そんじゃ移動するぞ」

「ああ」

 エンジンをかけ、装甲車が唸るように音をあげながら建物へと移動を始める。

 敵からは死角となるこの位置では銃撃戦になったとしても特に問題はなく、すぐに応戦もできる。第一、敵側はまったく顔を出していないのでその心配もなさそうだった。

「ねぇトモ君。ラム持ってきた~?」

「持ってきてねぇよ。救出作戦じゃないんだ。気軽に引き金を引ける」

 瑠奈が口にしたラムとはバッタリング・ラムの略で、重量のある円筒に握りが付いており、鐘つきの要領で鍵やノブの下を強打してドアを開ける道具である。

 突入する際にはいつも使用していたのだが、今回は人質はいないと聞いたので銃撃で扉を破壊しても大丈夫だと判断して持ってきていなかった。それにバッタリング・ラムは重い。それが一番の理由だ。

 装甲車が扉の前に辿り着き、十人は素早く装甲車から降りて突入の準備へと移る。

 智和は無線機に手を伸ばす。

「入口到着。準備完了」

『了解しました。長谷川先生からの突入許可得ています。いつでもどうぞ』

「合図して突入する。3、2、1、0」

 智和と瑠奈がドアノブと鍵部分を狙って銃弾を撃ち込み、中期生の一人が威勢良く蹴り破った。

 作戦開始。

「行け行け。行け!」

 どうもまだ緊張が解けないのか動きの鈍い中期生に声を掛け、智和は一番後に建物に入る。

 突入直後の敵からの反撃はなかった。智和が作戦中に警戒していた一つで、もしかしたら中期生達が混乱してしまうかと考えていた。

 だが中期生達は智和の予想以上の行動をしていた。部屋の安全確認も的確で、連携ができていて指示もよく聞こえている。

 この調子が最後まで続けば、と智和は祈った。

 次の瞬間、銃声が建物内に響いた。

「前方15メートル先に二名確認!」

 中期生が叫びながら反撃し、銃撃戦が始められる。

 十字の廊下で立ち往生になるのはまずい。こんなところで無駄な時間を使うわけにはいかなかった。

「瑠奈。五人連れてこの先を行け」

「トモ君は~?」

「お前達が奴らを釘付けにしている間に三人を連れて別のルートを進む。この建物は入り組んでるし壁は薄い。撃ち抜ける」

「わかった~」

「よし。さっきの二人と、お前、俺に着いてこい」

 装甲車の側面に乗った二人と、突入の際に扉を蹴り破った中期生を指名し、瑠奈達が敵を釘付けにしている間に廊下を突っ走っていく。

「壁が脆い。流れ弾に注意しとけ」

「了解」

「そっちはどうだ、瑠奈」

『なんとか数で押し切ったよ~。このまま二階に行くね~』

「了解。こっちも上がる」

 こまめに無線機で通信を交え、智和を先頭にして二階へと上がった。

「上にいるぞ。制圧!」

 智和と中期生三人のチームは実に早かった。

 よくわかっていなかった中期生が指示に従って銃撃したことにより、隠れていた二人の敵が姿を現した。

 二階で待ち伏せしていた敵のタイミングを完璧にくじいたことにより、智和は階段を駆け上がることができた。

「なっ!?」

 釘付けにされていた敵が銃を向ける前に、智和の銃口から火花が散る。

 一メートルにも満たない距離で撃ち込まれた数発の銃弾は、容赦なく敵の肉を抉り、更に貫通して後ろにいた敵の仲間にも被弾。

「ぐ……ぞあがぁっ!」

 被弾した敵が力を振り絞って銃を向けるが、容赦ない智和の銃弾が頭の半分をもぎ取った。

 壁に血と肉がぶちまけられ、大きな赤い染みが広がった。

 中期生三人が駆け上がってきた。

「大丈夫ですか?」

「問題ない。反撃に備えろ、隊列は崩すな」

「了解」

 再び警戒態勢になった三人の後ろで智和は、息の根を止めた死体に注目していた。

 私服といえど上にはタクティカルベストを着用し、充分な量のマガジンと拳銃を携帯している。

(……ただの武装集団にしては装備が整い過ぎている)

 自分の手で殺した男がただの武装集団なのか今更聞くことはできず、かといって長谷川に問う必要性もなかった。

 今ここは作戦展開区域で、容赦無用の殲滅作戦を実行している真っ最中で、更には率いる立場。

 智和が為すべきことはただ一つ。

“敵を殲滅せよ”。

 この命令に従うだけである。

「行くぞ。先頭行けるか?」

「もちろん」

 一瞬で思考を切り替え、マガジンの残弾を素早くチェックし終えて、廊下の先や各扉からの襲撃にその場で警戒を張り巡らしている中期生に合図を出して前進を始めた。

 援護しながら各部屋を制圧していきながら奥へと進む四人。

『こちら瑠奈。新たに五名排除したよ~』

「了解。こっちは二名排除。予定通り進む」

『了解。こっちも予定通り進むね~』

 瑠奈は通信終了を告げ、智和の意識は無線機から次なる部屋へと向けられた。

 何事もなく部屋の確認をしてきて四つ目。敵の襲撃を受けることなく進み、中期生達は同じように息を殺して扉の両側に構える。

「……待て」

 中期生の手がドアノブを掴もうとした直前、何かに気付いた智和は思わず声を出した。

 本来ならジェスチャーや肩に触れるなど、音を出さないようにするのだが、ふとした疑惑が部屋の中から聞こえてきた為、やむを得ず小声で制止させた。

 智和は扉から離れ、同じ行動をするよう手で指示を出す。

 口にはせず納得できない様子ながらも中期生三人も扉から離れた。

 更に驚くべき指示が出された。

 なんと『撃て』と示しているのだ。

 三人が異議を唱える暇もなく智和が左手を前に差し出し、数を数え始めた。

 指が折り畳まれて全てなくなった瞬間、四人のM4A1が火を噴いた。

 薄くて脆い壁と扉など5.56mmNATO弾で容易く撃ち抜くことができ、部屋の中は鉛玉が飛びかっていることだろう。

「行け行け!」

 銃声に負けじと大声で叫んだ智和は、蜂の巣になった扉を蹴り破って部屋へと突入。

 中は想像通りの有様で、木製の机や椅子、衣裳棚がボロボロにされていた。

 それよりも中期生達が目についたのは、床に倒れていた敵の惨めな姿だった。

 倒れているのは四人で、他にも銃が散らばっていた。

 中期生の一人が転がっている銃に手を伸ばしかけた時、智和が注意を告げた。

「装填されてるから気を付けろよ」

「はい?」

 まさかとは思いつつ手にした拳銃のマガジンを抜いた後、スライドを引いてみれば弾丸が排出された。本当に装填されていたことに驚く。

「本当だ。それどころか全部だ」

「どうして敵が中にいると?」

 中期生の問い掛けに、銃を下ろして衣裳棚の中を確認していた智和は作業を止めて答える。

「突入する前、ほんの僅かだが装填する音が聞こえた。だからタイミングを狂わせて壁を撃ち抜かせた。人質がいるなんて情報はないし、大丈夫だと思った」

「凄い」

 質問した中期生はもう一度続ける。

「やっぱりアンタは凄い。IMIで一番の部隊のリーダーだ」

「上には上がいるんだがな。弾数を確認」

 各自マガジンチェンジを行い、次なる目標に向けて移動を開始した。

 しかし移動を開始する直前、爆発に近い音が轟くと同時に横から壁を貫く閃光を見た。

 銃撃だ。

「伏せろ!」

 咄嗟に叫び、尻から落ちて仰向けの態勢になる智和。呆気にとられた中期生達だったがすぐに反撃とわかり、智和に続いて各々その場に伏せた。

 せっかく待ち伏せを潰したというのに、直後に反撃を許してしまった。

「っ……ざけんなよ!」

 中期生の一人が怒りを言葉にしたが鳴り止まぬ銃声で掻き消される。

 智和達も負けじと応戦する。

 壁が脆く、コンクリートの破片と埃が舞い散り、硝煙が部屋に充満していた。埃で智和達の体は真っ白になっていた。

「粉塗れだ! 季節外れのホワイトクリスマスだ!」

「俺は揚げられる前の天ぷらになった気分です」

 中期生の一人が智和の冗談に付き合った。この銃撃の中でもまだ余裕のようだ。

 冗談を返した中期生は一番任務回数の多い中期生だった。顔をバラクラバで覆い、積極的に話し掛けてきたので智和は覚えていた。

 それにただ一人、装備が充実していた。手榴弾や煙幕を装備しているただ一人だった。勿論、智和や瑠奈もそんな重装備ではない。

「名前は?」

「龍。水下龍みずしたりゅう

「よし龍。アップルを貸せ」

 アップルとはM67手榴弾のことであり、丸い形状から他にもベースボールという呼び名がある。

 龍はアップルという言葉に少し考えてから手榴弾を示していることに気付き、二個あるうちの一個を手渡した。

「よし。今度はあそこを重点的に撃て」

 指差した壁の一部に狙いを定めて引き金を絞った。

 集中して撃ち続けたことで脆い壁に小さな丸い穴が空いた。

 智和は未だ銃弾が飛び交う部屋の中を壁まで這いずっていき、龍から渡してもらった手榴弾の安全ピンを口で抜き、空けた穴から放り込んだ。

「壁から離れろ!」

 聞こえるよう精一杯叫び、射撃を一旦止めて全員壁から離れた。

 数秒後。銃声と銃弾が止んだと同時に手榴弾が炸裂する爆発音が間近に聞こえ、穴空きチーズのような有様になってしまった壁が振動してまた埃が舞い上がる。

 静寂が訪れたが智和達の危機が去った訳ではない。いつでも反撃できるよう銃を構え、今いる部屋から廊下に出て隣の部屋へと乗り込んだ。

 埃で白くなった五人の敵が倒れ、床に大きな赤い水溜まりを作っていた。試しに智和が爪先で頭を軽く蹴ってみたが反応はなく、ようやく引き金から人差し指を離すことができた。

「二人か。随分と苦労させられたな」

「奇襲されても被害が出なかっただけマシかと」

「だろうな。結果オーライだ。それにこれで十五人は殺したことになるから、気を付ければやられることはないだろう。

 全員改めて銃を確認しろ。埃かぶったから撃てないなんてことが戦闘中に起こったら、同期だけじゃなく作戦に関わった生徒や長谷川にネタにされるからな」

 各自が銃の点検を始める。

 銃にとって汚れは天敵に等しい。ジャムしてしまう――弾が詰まること――原因にもなり、暴発の恐れにも繋がるのだ。

 AK47などは汚れや埃に強い、ジャムらないなど言われているが、それは性能の良いロシア製や中国製――だからと言ってジャムらない、暴発しないとは限らない――であり、最も最悪なエジプト製はよくジャムる。

 なんにしてもジャムる、暴発などで銃が使い物にならないなど、戦闘中でわかってからには遅過ぎる。敵を殺す以外にも、自分の命を守る為の道具が使えないというのは前以もって知っておかなければならないのだ。

「ん?」

「どうした?」

 智和は様子がおかしい中期生に気付いた。

「銃の調子がおかしいです。排出できないし、銃身も少し曲がっているような気がします」

「……言ってみれば曲がってるって言えば見える。一体どんな転び方すりゃそんなのできるのか教えて欲しいな」

「本当だ。どうすりゃそうなる?」

「こりゃわざと伏せたんじゃなくマジで転んだな。もしくは尻餅ついて落としちまったな」

 智和の発言に本人はうろたえ、他の中期生達も冗談混じりに言う。

『こちら瑠奈! トモ君聞こえる!? トモ君!?』

 無線機から聞こえてきた声に全員が集中する。瑠奈が少し慌てている口調だった。

「どうした?」

『釘付けにされちゃった! 動けない!』

 言葉通りに無線機からは瑠奈の声以外にも銃声が絶え間なく聞こえ、M4A1カービンの銃声ではないことがわかる。

「相手は何人だ? というより何で釘付けにされた? 五人もいるんだぞ」

『敵の人数はわかんない。こっちは細い廊下で出れば広い場所なんだけど、そこで敵が待ち伏せしてたらしいの。廊下が細過ぎるから対応するにもできないし、一人じゃ太刀打ちできない! 手榴弾投げられたら全員やられちゃうような危ない感じ! なんとかこっちに来れないかな~!?』

「場所はどこだ?」

『作戦通りに通ったから……合流地点の場所! そこに敵がいて足止めされてる~』

「わかった。裏をかいてなんとかする。手榴弾投げ込まれないよう注意しとけ」

『洒落にならないけどりょうか~い』

 通信が切れた。

「さて、と」

 区切るように一息入れた智和はゆっくりと告げる。

「通信の通り、別チームは釘付けにされた。合流地点の為にこのまま進めばいいだろう」

「しかし」と強調し、続ける。

「数はわからない。別チームは人数を把握しきれていない。その場に五人いればいいが、もしいなかったら俺達は鴨撃ちにされてしまう。まだ確認していないエリアもある」

「別れますか?」

「そうなる。しかしここでツーマンセルを作った場合、俺がいないチームが厳しくなる。そこで中期生三人、スリーマンセルで行動しろ」

「合流地点、ですね」

 だが智和は首を振る。

「いや。これは奇襲の一つだ。いかに素早く、迅速に行動して排除できるかが鍵だ。お前達は回り込むように各部屋の制圧を続け、合流地点に向かえ」

「無謀だ」

 龍が呟く。

「少なくとも三人。もしくは四人の敵を先輩一人で制圧? 無謀過ぎます」

「ならお前達、連携はとれるか? いくら任務回数が多くとも最高五回が一人。あとは二回か三回、それも同じ科でも今回が初めて一緒になる奴だろう?」

 中期生三人は無言だった。それが答えだ。

「言った通りこれは迅速に行動しなければならない。気付かれるのが駄目であり、反応されることも許してはならない。それを表面だけの連携だけでは補うことはできない」

「それに」と智和は続ける。

「お前達がエリア制圧を同時に行えば危険がなくなる。隠れてじっと息を潜めているゴキブリ野郎を駆除できれば、それだけ安心できる。勿論安心するのはまだ先だが余裕ができるだけで気が楽になる。それにな、お前達はこんな“不気味”な任務で危険を冒す必要はない」

「不気味?」

「忘れてくれ」

 自分の小銃を一人の撃てなくなった小銃と交換する。

「任務終了までこれを使え」

「いいんですか?」

「撃てないよりよっぽどマシだろうに」

「喜んで借ります」

「撃てない銃はここに置いておけ。IMIが調査する際に回収だろ。それとマガジンも全部渡すから三人で配分しろ」

 タクティカルベストに入れていたマガジン残り四本を三人に渡す。

 手早く配り終えて準備が整った。

「指揮は龍がしろ」

「了解」

「同年や例え上級生だろうが関係ない。不満があったらすぐに注意しろ。俺はお前をリーダーに決めた」

「了解」

「行動を開始しろ」

 中期生三人は足音をたてないように、尚且つ迅速に廊下を真っ直ぐ進んでいく。

「……やれやれ。何を言ったもんだか」

 自分の言葉を思い出せば改めて父親譲りだと、そして父親似だと思った。

「仕方ないか。長谷川の要望だしな。リハビリ兼ねて一つ見せてやろう」

 右手で右太股のホルスターからベレッタを引き抜き、左手で漆黒色のナイフを逆手に握った。

「準備運動だ」

 口元が微かに吊り上がり、獲物を狙う狼の目付きへと変わった。


――――――――――◇――――――――――


 予定合流地点とされている広間に入る手前の廊下に、瑠奈を含めた六人のIMI学生は釘付けにされていた。

「くそ! 銃撃のがねぇ!」

 先頭にいる男子学生が、相手のマガジン交換の隙を突こうと試みたのだが無駄だった。というより隙さえなかった。

 おまけに敵の人数を把握する前に釘付けにされてしまい、更には狭い廊下で身動きがとれず立ち往生する結果。

「厳しいね~。少なくとも三人はいるよね~? 武器も軽機関銃かな~?」

 一番後ろで指示していた瑠奈は口調を変えることなく、冷静に状況を見極めていた。

「軽機関銃だったらこちらからの制圧はほぼ不可能です。第一、頭を出せば終わりですし」

「もう撃ち過ぎて壁が抉れちゃってるしね~。あと怪我は大丈夫~?」

「はい。先輩のおかげで」

 瑠奈と話している女子学生の左腕は、女子制服に指定されているリボンで巻かれていて少し赤色に染まっている。

 実は飛び出した直後に敵からの制圧射撃に襲われてしまったのだが、瑠奈が反応して引き戻してくれたおかげで擦った程度に済んだ。

 述べたように一番後ろで指揮していたのに、誰よりも早く反応したことで中期生の注目を集めたのは言うまでもない。

『こちら智和』

「トモ君?」

 智和からの通信に全員の意識が無線機に集中する。

『今から出る。隙を見てそっちも出ろ』

「もしかしてトモ君一人~?」

『ああ』

「わかった~。いつでもいいよ~。あ、先頭変わるから一つズレてね~」

 狭い廊下をなんとか通って先頭になった瑠奈。

「あの……草薙先輩」

「うん?」

「えっと……神原先輩は何をするつもりですか?」

「気にしなくていいよ~。いつものことだから~」

「いつものこと……ですか」

「ちょっと驚くだけ~」

 瑠奈の笑顔と発言にギャップがあり過ぎて、聞いた女子学生の疑問は消えなかった。

『今、る』

 無線機から聞こえた低い智和の声の直後、敵の銃撃とは別の銃撃が轟いた。


――――――――――◇――――――――――


 暗闇の中でもう一人の自分が潜んでいる。だが人の形ではない。悪魔のようにおぞましい姿をしたもう一人の自分が潜んでいる。

 その自分はいつも寝ているように静かで寡黙だが、時には目を見開いて自分に叫ぶ。

 ──殺せ。

 任務で敵を見つけた時、必ず叫んでくる。

 ──殺せ。

 人でもなく、獣でもなく、悪魔だ。

──殺せ。

命令のように叫ぶが厳かではない。これは自分の本音であり、願望であり、本質でもあるのだ。

 ──殺せ。

 一度だけ父親にこの心理状況を相談したことがある。

 父親もそうだった。テロリストを発見し、照準を合わせ、引き金を引き、撃ち殺すまでの間、同じように悪魔が叫ぶのだと。

 ──殺せ。

 外見は母親譲りだが、中身はやはり父親と同じだと改めて知った。

 迷うことなんてなかったのだ。

 国の平和の為、愛する者の為、己の誇りの為。例えどんな理由でも少なからず、誰もがもう一人の自分を持っている。

 俺もそれに含まれ、全ての兵士にも言えることなのだ。

 ──殺せ。

 迷うことはない。

 委ねていい。

 俺は俺の意志に従い、俺は敵を殺そう。

 それでいい。

 ──殺せ!

「今、殺る」

 答えるように、無線機で知らせ、俺は眼前にある敵の喉にナイフを突き立てた。


――――――――――◇――――――――――


 智和の行動は狼の狩りの如く素早くて、音がなかった。

 敵の横っ腹を突いてやった智和は、RPKを持っている敵の喉元にナイフを突き刺した。

 刺しただけではそれほど血は出なかったが、ナイフを手前に引いたことで喉を引き裂き、バケツをひっくり返したようにドッと血が溢れ出る。

「なっ……どこから出てきやがった!?」

 突然の乱入者に戸惑いを隠せなかったが敵も訓練された兵士。照準を智和に合わせる。

 しかし智和が一段と早かった。

 ナイフを抜き、殺したばかりの死体を敵側へと蹴り飛ばした。

 これで敵の視界を瞬間的に塞いだだけでなく、状況を把握する時間をも与えてもらった。

三人。軽機関銃二人に短機関銃一人。

 三対一では勝ち目がない。しかし三人一気に殺せるかと言えば、今の智和の装備では不充分だった。

 だが、智和には数など関係ない。訓練された兵士だとしても関係がない。

 彼とて数多の任務を受け、殺しに殺し、殺し尽くし、殺しの天才とまで称されるほどなのだから。

(まずは手前!)

 蹴り飛ばした死体を敵が間違って撃っているほんの瞬間に、一番近くにいたMP5短機関銃を持つ敵へと狙いを定める。

 態勢を低くし、まるで蛇の如く這い、それでいて狼の如く迅速に敵の懐へと潜り込んだ。

「うっ!?」

 気付いた時には遅かった。

 敵の喉元をまたもやナイフで襲い掛かり、一瞬で絶命させてしまう。

「この野郎ぉ!」

 今度こそ照準を合わせた敵二人に対し、絶命させた死体を盾代わりにして後ろに回った智和は右手に持つベレッタM92拳銃を構える。

 連続して銃声が響く。

 智和の拳銃ではない。敵二人の軽機関銃でもない。

 火を噴いたのは瑠奈のM4A1カービンだった。

 敵の注意が完全に智和へと向けられたことにより、今まで封じ込められてきた者達がようやく反撃に転じることができたのだ。

 挟み撃ちにされた敵二人に逃げる術も抗う術も残されておらず、ただただ銃弾に貫かれる結末しか残っていなかった。

 撃ち抜かれて床に転がる死体。軽機関銃は手から離れ、銃弾によって撃たれ使い物にならなくなっていた。

「クリア~」

 小銃を下ろして智和に歩いていく。

 その瞬間、智和は左手に持っていたナイフを瑠奈目がけて投げた。

 否、ナイフは瑠奈ではなかった。瑠奈の顔を掠めるか掠めないかの瀬戸際を通り過ぎ、扉に隠れていたもう一人の敵の喉元に深く突き刺さる。

「あ……がっ……!?」

 まだ意識ある敵は理解できぬまま呻く。

 追い討ちに智和の拳銃と瑠奈の小銃から数十発撃ち込まれ、そのまま後ろへ倒れこんだ。

「クリアだ」

 そう言って敵に近付き、首からナイフを無造作に引き抜いて拳銃をホルスターに片付ける。

「何人目~?」

「情報に誤りがなければラストだ。それと撃ち込み過ぎ。過剰殺人オーバーキルって長谷川に言われるぞ」

「大丈夫だよ~。長谷川先生はもう慣れてるだろうし、それだったらトモ君もでしょ~? 相変わらず早撃ち凄いね~」

「……何なのあの先輩達。今、何したの?」

 雑談している二人を見ていた中期生は呟いた。

 まずは瑠奈。彼女の挙動が甘ったるい口調とは正反対と言えるほど迅速で、機械のようだった。「クリア」と、埃を掃除するように言うものだから、更にその感覚を強くする。

 問題は智和だった。

 彼が何をしたのか、中期生達にはまったく理解できなかったのだ。

 智和がどのようにして死体の山を築き上げていったのかわからず、ただ「敵を殺した」ということしか理解していない。

 極めつけは最後の銃撃。智和が手にしていたのは拳銃なのだが、連射が異常に早過ぎる。二秒もせずマガジン一つを撃ち終えてしまったのだ。

 練習すればできると本人は言っていたが、どれほど練習しなければいけないのか予想すらできなかった。

「そういえばトモ君が連れてった三人は~?」

「残りの部屋を確認させてる」

 簡単に告げた智和は、拳銃のマガジンを交換した時に何か思い出したのか、少し嫌な顔をして瑠奈に聞いた。

「確保する人物を見つけたか?」

「え?」

「長谷川から写真を貰っただろ。中期生達にも見せた奴」

「…………あ~。あ~あ~、うん、いたね~そんなの~」

「いなかったんだな」

「うん。いなかった~。皆も見てないよね~?」

「はい。移動中に見た写真の人物は発見していません」

 中期生の発言に智和は目を細めた後、溜め息を漏らして頭を抱えた。

「……何かおかしい」

 やけに装備が整い過ぎている武装集団に、いる筈の確保すべき人物がいないこの現状。

 何か嫌なことしか思い浮かばなかった。

 もう一度溜め息を吐こうとしたが、一つの扉が蹴り破られたことによって再び智和と瑠奈の銃が向けられた。今度は中期生も反応している。

「待て、撃つな。仲間だ、撃つんじゃない銃を下ろせ!」

 蹴り破ったのが智和が連れていた中期生三人だと即座にわかった智和が叫ぶ。

「クリア。他の部屋には誰もいませんでした」

「了解。任務終了だ。帰るぞ」

 ようやく気を休めることができ、無線機で任務終了を告げた。


――――――――――◇――――――――――


『任務完了。殲滅二十。確保対象は発見できず』

「了解。既に調査班と回収班を送った。到着すればお前達は帰ってきていい」

『了解した』

 智和との交信を終えた長谷川はヘッドホンを琴美に返し、隣にいたララへと目を移した。

「さて、馬鹿にした日本人程度がお前にどのような印象を与えたのか意見を求めようか」

「……相変わらず嫌味に特化している教師ね」

「事実を言っただけだ。で、感想は?」

「…………正直言って、あれほど馬鹿で狂った奴は初めてよ」

「皆、大概はそう言う」

「反応が早い。いえ……早過ぎる、と言ったほうがいいわね。こんなことを言うのは嫌だけど……第六感というものがあると感じさせた」

「ほう」

「後はまぁ、狂ってるわね。うん。ナイフで四人を強襲するなんて馬鹿のすることよ」

「根源は父親譲りだが、智和の部隊の先輩が更に拍車をかけて磨きに磨き上げた」

「父親?」

「オペレーターらしい」

「オペレー……ター?」

「デルタフォース」

 その単語にララは息を呑んだ。

 ──デルタフォース。アメリカ陸軍第一特殊作戦部隊分遣隊。

 イギリス特殊部隊SASに所属経験のあるチャーリー・A・ベックウィズ大佐が創設した、アメリカ政府が公式に“認めていない”特殊部隊。

 ノースカロライナ州フォートブラッグに設立された部隊は全て極秘事項だったが、1980年四月のイラン米大使館員人質救出作戦の失敗で明るみとなった――イーグル・クロウ作戦失敗の原因は支援体制や作戦面が確立されていない為と言われている――。

 表舞台に姿を表さないがクリントン元大統領が「ビンラディンを追い詰めた」と語るなど、デルタフォースの実力は相当なものであると思われる。

 ララも当然名前は知っている。しかし幽霊のようなあやふやな存在など信じていなかったのだが、改めてその名を聞いて体が強ばった。

 1983年にグレナダ侵攻のアージェント・フューリー作戦、89年にパナマ侵攻のジャスト・コーズ作戦、2001年にタリバン政権打倒で行われた不朽の自由作戦、03年にイラクの自由作戦などに参加している。ララは内容を知っている。故にその“存在”が恐ろしい。

「確証は?」

「家族だからさ。あいつも幼い頃は“特殊部隊”しかわからなかったらしいが、父親から言われたらしい。母親と姉ももちろん知っている」

「息子が狂ってる原因が父親ってことは、父親も相当なのでしょうね」

「らしいな。レンジャーになってたった二年でデルタフォースになったような人間だからな」

「……それはもう化け物じゃないのかしら?」

「話はここまでだ。さてララ・ローゼンハイン、お前が遂行すべき任務には確実に人手が必要だ。情報、準備が不足し過ぎている。しかしお前が貶したあの男は日本IMIでは素晴らしい人材であり、数ある部隊の中でも最高の部隊を率いるリーダーでもあり、人望もある。なにかと役に立つぞ」

「…………そうね」

 ララは深呼吸して気持ちを落ち着かせ、長谷川に顔を向けて口を開いた。

「私から正式にあの男とその部隊に協力要請をするわ」

「あの男ではない。神原・Leonaldレナード・智和だ。いいだろう。部隊担当の私が許可する」

 こうして、正式に協力要請が出され、長谷川は受諾した。


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