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烏は群れを成して劈く  作者: TSK
第二章プロローグ
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プロローグ

望みはなかった。

本当に、ただそこにあったから。

 血のように真っ赤な空だった。

 だが穢らわしくない。黒く淀んでもいない。清らかにさえ思える、宝石のように輝く赤い夕日。沈む夕日は輝かしく、空色を染めている。沈むごとに空は暗くなり、夜を迎える。

 この光景を見るのが、少年は好きだった。単純に好きだった。

 目の前で、夕日の輝きにも劣らない澄んだ瞳を持つ少女と一緒に、沈みゆく夕日を眺めるのが好きだった。

「綺麗。都会の中じゃ、こんなに綺麗には見れない。郊外でこれだけ輝くもの。なにもない場所で見れば、それはもう最高に美しいと思うの」

 少年は頷く。確かにこんな空は、雑多な都会では見ることができない。郊外に出てもビルが邪魔をしている。

「ねぇ。今度の休みに旅行しようよ。連休だし。どうせやることないんでしょ?」

「酷いなぁ」

 困ったように首を捻るが、生憎と少女の言葉通りだった。あんな場所にいてもやることはない。

「いいよ。行こう」

「約束。ちゃんと守ってね」

 振り返り、少女は満面の笑みを少年に見せる。その時、少年は美しいと思った。夕日ではなく少女を。輝く背景を背にしながらも、少女しか目がいかない。

 この時、ようやく理解した。

 ああ。これが恋か――と。

 三流小説より酷く、稚拙な表現。だが少年は理解したのだから仕方がない。そうとしか言い様がないのだから。

「ああ。行こう」

 この赤い空と同じ名を持つ少女に、少年も笑いながら言った。

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