第二章
<○月×日 晴れ>
今の空が果たして本当に晴れているのかは分からない。少なくとも昼間、板の隙間から見えた空は晴れていた。
僕は井戸の底のようなこの場所でひたすらその空を思い出す。
それはどんなに手を伸ばしても届かなくて。決して掴むことのできない自由の象徴。
……。
今の僕は鼠だった。
死の恐怖に怯え、暗がりで震える一匹の鼠。
見つからないように。
気取られないように。
ただじっと息を潜めて。
床を伝い、単調な音が近付いてきた。
僕でない存在が嘲るように鳴らす足音。
いつでも僕を殺せる音。
それが一つ、また一つ空気を揺らす度に僕の心臓は大きく跳ねた。
怖い。逃げ出してしまいたくなるほど怖い。
緊張しすぎて頭がずきずきと痛む。
まるで自分の脳味噌が頭蓋骨を押しのけて、顔全体に膨らんでしまったかのように。
そして静かに。
静かに、そっと。
小鳥が囀るように息をする。
とたん、肺が不格好に歪んだ。
埃が混じった不純な酸素を吸わせ続けていたせいだ。
とても。
とても苦しかった。
体が拒否反応で、何度も異物を肺から追い出そうとする。
けれど、決して咳き込んだりはしない。
もし、そんなことをすれば台無しだからだ。
今までやってきた全ての努力は無に還り、僕は残酷に殺される。
ああ、新鮮な空気が欲しい。
冷たい空気を肺の全てで味わいたい。
昼間の余熱を残した空気が、汗を吸うようにへばりつく。
酷く寝苦しい夜のように不快な温度。
身じろぎがやっとのこの場所に、ずいぶん長く閉じ込められている気がする。
暑い。
耐えきれないほど暑い。
暑い。暑い。暑い。
暑くてたまらず、うっかり外に出てしまいそうになる。
それは寝苦しい夜みたく。
僕の心をぎゅっと締め上げた。
こんなことを続けていると僕は今に狂ってしまうかもしれない。
獣のような奇声を発して、子どものように手足を振りまわして。
いや、僕は果たして正常なのだろうか。
ここに隠れていると嫌でも気付く。
僕がこれを思いついたあの日から。
あいつに出会ったあの日から。
世界は狂気に包まれていた。