7 アクションパート
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壊れた信号機のせいで渋滞が起こっている国道。
「千秋さん……なぜあたくしたちが、交通整理などしなければならないのでしょう?」
「……嫌がらせじゃないかな?」
時々、MSSへの要請に紛れ込んでくる嫌がらせ目的としか言えない仕事。つまりは雑用。
小見城町の主要道路を車が往来し、汚れた空気を吐き出していく。
千秋たちに下された依頼。それは、信号が壊れた交差点での交通整理だった。
「はぁ……こんなことをする位でしたら、鬱々としていた方がまっ――って、そこの車! 指示に従いなさいッ!」
吼える璃緒。だが、車内に居る運転手には当然ながら届かず、そのまま走り去ってしまう。
「そんなにウジウジしてると、幽奈さんに怒られるよ?」
現在行方不明中の恩人の名を出す千秋。それで、璃緒を励ますことができると信じて。
「そうですわね。幽奈さんなら、きっと今のあたくしを叱り飛ばしますわね」
苦笑を浮かべながら、千秋を振り向く璃緒。
「懐かしいね。幽奈さんの仕事を手伝ってた日々が」
雑談しながらもしっかりと、交通整理を行っていく二人。
ズシンと腹に響く重低音。
璃緒が行ってよしのサインを出した自動車が爆炎をあげて大破した。
衝撃が璃緒の長髪を掻き乱していく。
璃緒の瞳孔がカッと見開かれる。
「事故、ですの?」
そうであって欲しいですわ。
「ぼく、見てくるよ」
そう言いながら、千秋は炎上する車へと近づいていく。
炎が直接肌を焙っていると感じられるほどの、熱を放出している元車。
元車を調べている千秋の横を通り過ぎたスポーツカーが、炎に包まれ歩道に突っ込んだ。
「璃緒、魔法使いだよ!」
「そう、みたいですわね」
ギリッっと音がなるほど奥歯を噛み締める璃緒。
幻素の残留を肌で感じる。銀行で警官を爆破したものと同じ感覚だった。
また、同じ展開ですのね。
心の中での呟き。同じ失態をしてしまったと後悔する。
「璃緒、そっちの救助を!」
車の流れを堰き止めながら、運転手の状況を確認していく千秋。
「ッとそうですわね――」
璃緒は鍵のかかったドアを魔法でスマートにこじ開け、運転手の両脇を抱えを車外へ引き摺り出す。
ガソリンの臭いが鼻を刺激する中、璃緒は周囲に残っている幻素を感じ取ろうとする。
が、先ほど感じたものすら無くなっていた。
「ダメです。解らりませんわ」
「そっか……」
炎上する車を背後に置きながら、渋滞の中心で索敵不能を告げる少年。
「日本に住むものたちに告げる。我々は、魔法使いと人間が共存できる国を作るために、魔女狩りを行う殺人集団と魔法使いの人権を無視する政府、また魔法を使えぬ者を見下す魔法使いを地獄の業火をもって断罪する。
これは、世界のための革命である!」
突然、テレビ、ラジオ、拡声器、風、等音を伝える手段全てが使われ【声】が人々に届けられる。
「璃緒……こ、この声って、まさか」
「間違い、ありませんわ……幽奈さん、の声ですわ」
驚きが詰まらせた喉から言葉を絞り出すように、やっとのことで会話する。
かつて、行くあてが無い千秋の保護者を務めてくれた恩人にして、MSSの創設者。それが幽奈だった。
「そんな……どうして」
「何か、理由があるはずですわ……あの方に限って理由なく動くことはありませんもの」
そう自分を納得させるように、千秋に言う璃緒。
ドップラー効果が付与されたサイレンの音を響かせながら、パトカーが事故処理のために到着する。
「どうやら、犯人はこの近くに居ないようですわね。事態の収拾は警察に任せて一旦本部に戻りましょう。皆さんと話し合うべきですわ」