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13 戦闘パート千秋、奮戦する

 公園を目指して方向転換した千秋の目の前に機械鎧がいた。


 否。何もない住宅街の道、その中央からじわり。と染み出してきたのだ。道路に足をつけた機械鎧が向かう先には小学校低学年くらいの児童がいた。


 千秋の思考は一瞬で切り替わる。

 迷いは保留。名も知らぬ子供のために即断する。

 守らなきゃ。

 幻素を魔法杖――レイピアのような巨大な針に組み替え、真正面から刺突一閃。

 が、機械鎧に掴まれた。

 親指と人差し指で軽く摘む。いとも容易く行われたそれは、まるで万力で挟み込まれているようで針は押しても引いても動かせない。

「くっなん、なん、だよ」

 声とは裏腹にこれでいいと思う。注意は僕に向いている。囮としては合格点だ。

 魔道具――裁ち鋏の使用も考えたが躊躇う。あれは、切れ味が良すぎる。相手の指ごと切り落としてしまう。

 ぐっと足に力を込めて踏み込んだ瞬間。狙い澄ましたかのように針から指が離された。

「かはっ」

 体制を崩した千秋の胸に文字通りの鉄拳がカウンターとして打ち込まれる。

 鉄の拳は速く、そして重い。

 千秋の足が衝撃でアスファルトから離れた。

 一瞬の滞空の後、民家の塀と外壁を突き抜けた。千秋は直線軌道で吹き飛ばされたのだ。

 ボッ。

 拳を放った結果の後に、空を破る音が千秋の鼓膜を震わせる。

「まじかぁ」

 音が遅れて聞こえたことから、音速を超えた拳戟だったことを悟る。呼吸をするたびに肺が悲鳴を上げ、痛みを持って重症だと騒ぎ続ける。後頭部からの流血は無視。額からのものはガーゼをリボン上に結び対処。

 接近戦はマズイ。

「ふぎゃあ」

 それ以上に今、後ろで弱々しく泣いている赤ちゃんがいることが極めてマズイ。現状、抱えて離脱することができない。逃げ切れないだろうと言う確信があった。

「魔縫――裁起動」

 ならばせめて――

 ありったけの幻素を込めて大きなクマのぬいぐるみを作り出す。

 ――この場で赤ちゃんを守り切ろう。

 さらに身の丈もある大きさのレールガンのぬいぐるみを残り滓の幻素から縫い合わせる。綿の代わりに平和への願いを詰めて作られた砲身を機械鎧に狙いを定めようとして、ブレる。

「重い……」

が、全身に打撃を受け、骨が幾許か砕けている満身創痍で狙いを定めることができない。千秋は追加で針を振いレールガンと瓦礫を縫い付け固定。さらに自身の体も瓦礫へ固定して不退転の壁となす。

 射線上の安全確認。クマのぬいぐるみを操作して赤ちゃんの耳を塞ぎ轟音に備えさせてから、引き金をぐっと力を込めて絞る。

 砲身から砲弾のぬいぐるみが飛び出す度に振動が千秋の傷と全身の骨に入ったヒビを広げていく。

 息を止め、歯を食い縛ること90秒。撃ち出されたぬいぐるみの数――二万。

 その全てが叩き落とされた。

「嘘、でしょ」

 何をどうやって撃ち落としたのかが千秋にはわからなかった。あまりにも速すぎたのだ。ただの一度。機械鎧が拳を突き出したら全てのぬいぐるみが機械鎧の足元に転がっていた。

 その結果しか理解できなかった。

 ガクガクと力がうまく入らない膝に無理やりに力を入れてヨタヨタと立つ。

 作ったレールガンを維持できない。

 脳が思考のために酸素を欲している。

 レールガンの縫い目が解れ、幻素が漏れ出し消えていく。

 全身の筋肉が活動のために酸素を寄こせと騒ぎ立てる。

 倒れる訳にはいかない。もっと、もっと時間を稼ぐんだ。あの子たちがこの場を離れられるまで。後ろの子を親が連れ出してくれるまで。僕がやらなきゃ。僕が機械鎧の視線を縫い付けなきゃ。

 指先で可能な限り、糸を操作して捕縛用の罠を作りあげる。

「さあぁあああ――こいッ」

 下品だと思いつつも千秋は、口から流れでた血を手の甲で拭うと機械鎧へ中指を立てて挑発した。

 挑発が通じたのか、機械鎧の腰が低く、低く落とされる。予想される動きは、踏み込みにより間合いを潰して放たれる一撃だろう。

 ねらい通りだ。と力なくほくそ笑み、表情が凍った。

 全身に絡みつき、雁字搦めにするはずの罠糸が無惨にも引きちぎられていく。得られた成果はほんの少し、速度を落とさせるだけ。

 千秋は両の手を交差させて機械鎧の右ストレートを受けきる。吹き飛ばされそうになるが、縫い付けている為に免れる。

 決して倒れるもんか。

 機械仕掛けの拳が大気を押し退け打ち込まれる度に視界が黒く染まる。意識を潰されそうになる。

 痛覚がある事を呪いたくなる。手と足も出ない状況だけれども――


 ――守り抜く。


「千秋さんに何をしてくれてますのーーーーッ」

 千秋の耳には四つの音が届いた。

 怒号と雷轟と剛音とガチャリと鍵のシリンダーが回る音。

 文字通り紫電に乗った璃緒が巨鍵で機械鎧の頭上から殴りつけて、叩き伏せたのだ。

 そこで千秋の意識の糸は途切れた。

 



「璃緒・・・・・・」

「千秋さん、ご無事ですか。酷い怪我ですので、しばらくはそのままでいてくださいな」

 今にも泣き出しそうな顔の璃緒が覗き込んでくる。

「うん、ありがと」

 霞む千秋の視界の中で璃緒の胸と顔が視界の大半を占めている。ああ、膝を借りているのだなと千秋は納得し、再び眠りに落ちた。

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