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9日常パート 璃緒の朝ごはん

 朝のやわらかな光が窓から入り、出来立ての目玉焼きに降り注いでいる。太陽のように黄色く丸い黄身は4つどれも半熟になっている。目玉焼きが盛り付けられているお皿に焼き立てのウィンナーが追加された。


 ほかのお皿にもウィンナーを菜箸で挟みながら、卵にぶつからないように丁寧に置いていくのは、絹のようなきめ細やかな肌をした魔法使い高町 璃緒だ。

 彼は自慢の長髪をリボンで束ねてポニーテルにし頭にはホワイトブリムを乗せている。服装はヴィクトリアンメイド。円形のロングスカートが璃緒の足の動き合わせてふわり、ふわりと揺れる。

 ダンスのように楽しげにステップを踏み、璃緒は朝食をテーブルへと並べていく。

 心が弾む。自分が惚れた服を着てお仕事ができるというは幸せだと思う。おろしたての新しい、染みひとつないメイド服で爽やかな朝の家事をできるというのも楽しくてしかたない。


「この国は素晴らしいですわ」


 偏見の目はある。差別もあり、実害もある。けれど寛容でない代わりに自分に害がなければ無関心でいてくれる。それを冷たいと思う人もきっと大勢いるだろう。けれどマイノリティに属する人間にとっては非常に居心地がいいのだ。

 そんな些細な差別による嫌がらせを帳消しにしてお釣りがくるほど、素敵なデザインのお洋服がいっぱいあり、それも安価で手に入る。

 すばらしいことですわ。魔法使いの世界ではどんなに素晴らしいお洋服でもオーダーメイドになってしまい、価格が跳ね上がって手が出なかったことを思い出す。

 璃緒の幸せオーラ―がさらに周囲に漏れ出す。

 ふと璃緒が視線を上げると、壁にかけられた丸い時計の短針は6を。長針もまた6を指していた。


「そろそろ時雨さんを起こしてこないといけませんわね」


 ガスを止め、その代わりに電気ポットのスイッチを入れる。璃緒は、ここは本当に便利な世界だと思う。魔法を使わずに皆平等に楽をできる。スイッチ一つで火を起こし、明かりをつけ、室温を一定に保ち快適に過ごす。


「科学技術というのはすごい発想ですわね」


 魔法使いの世界には無い発想だと思う。

ワンオフスペル――たった一つの呪文に特化しそれを応用して生活する。これが魔法使いの世界の考え方だった。自分の魔法でできないことは、ほかのできる人に任せる。この世界では餅は餅屋といったところだろうか。

 本来魔法とは生活を楽に営むための助け合うための技術としての側面が強いものだった。それが、この世界に来てから変質し始めている。


 身を守るための切り札として。

 敵を倒すための手段として攻撃性が前面に押し出され始めている。


 魔法使いは皆必死に生きようとしている。科学と魔法に対する認識や考え方が違いすぎるのに共存できるのかしら。ふと、爽やかな朝の空気が陰る。

 その瞬間に声をかけられ、現実に引き戻された。


「璃緒、おはよ。何でそんなにウキウキしているの?」

「あら、おはようございます。千秋さん。えっとこれはその、大したことではありませんわっ」


 言えない。メイド服を着て浮かれていただなんて言えない。顔が熱い。血が一気にめぐり赤くなっているに違いないですわ。


「し、時雨さんを起こしてきますわ」


 恥ずかしさのあまり逃げだしてしまった。

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