8 アクションパート 相楽とリュウヤのドライブ
「で、聞きたいことは?」
何の話だと首を傾げる相楽を見て、「さっき、聞きたいことがあると言っていただろう?」と言葉を付け足す。
雑談をしていていいのかとも思うが、折角だから聞いておこうと相楽は腹を括る。
「先ほど話していた、魔法使いの元服についてです。元服とは一定年齢に達したら行うものではないのですか?」
「ん? こちらではそうなのか? 我々が大人と認められるのは、どう人生を歩んで行くか定義して、自分の魔法杖を作成した時だ。杖を持って初めて一人前になる。逆に言えば杖を持つ――作れなければ、ずっと子供扱いされて庇護の対象だ」
「そういうことですか」
相楽は得心がいった。
魔法使いが現れた時、彼らにはこの誰も杖を持たない世界が子供だけの国に思えたのだろう。現代史を紐解くと魔法使いと人間のファーストコンタクトは失敗に終わった。顛末は確か、話し合いの場が設けられたが、そこで魔法使いたちが激怒したと。首相相手に「なぜ、大事な場に子供を遣すのかと」腹をたて話し合いは決裂に終わった。その決裂が魔法使いと人間の種族間の決裂に直結してしまった。
だが、リュウヤの話を聞いて彼らが怒った理由が分かった。双方の勘違いだが、同じ感情を持ってしまったのだ、我々を馬鹿にしているのかと。
真相に気づくと笑ってしまう。
「しょうもない理由で、我々の間に溝ができたのですね」
「ん、1人で納得しないで説明してくれ」
「すみません。我々にとって元服とは一定年齢に達する事なのです。その間に義務教育や高等教育が行われ、社会に出ていくための――大人になるための心を養い知識と経験を積む。その過程で能力が培われていなくても大人とみなされ――失礼」
相楽が左に急ハンドルをきり、車体の動線を斜めに変更。右車線が氷結弾により凍結しているのをサイドミラーで確認。
「攻撃されたな」
「ええ。ここからは警察に捕まらないスピードで運転させていただきます」
宣言。そしてアクセルが床につくほどに踏み込み、エンジンの回転数を跳ね上げる。
物理的に警察に捕まらない速度で車道を駆け抜けていく。
先を走っている法定速度厳守の自動車をパッシングと巧みな車体制御により牽制。
僅かにできたスペースに車体をねじ込み走る。まさに車と車の間を縫うようにして迎撃地点へ向かう。
――――
市街地から山間部へ差し掛かるとドローンからの攻撃が一層激しくなる。
道幅は狭くなり、車一台が走るのがやっとだ。敵性ドローンの射線とリュウヤ達の車線が重なってしまう。
考えろ。考えろ。窮地を脱するにはどうすればいい。右は雑木林、車の走行は困難。左は低い崖があり先には沢がある。
「早まるなよ。相楽曹長。すでにオレ達の勝ちは確定している。何せ、ここは薬品庫であり、弾薬庫だ」
リュウヤはいつの間にか手にしていた園芸用の移植ゴテに向かって呟く。
【一つの呪文/魔草樹士 樹銃掃射】
それと同時にドローンの銃口が車の中央を捉え、機銃から火線が放たれた。
射線が通っている以上、ドローンからの弾丸の嵐は全弾必中。
それを木の葉が全て打ち落とした。
雑木林の木々から葉が射出され鉛の弾丸を一つ一つ丁寧に撃墜していく。
相楽から言葉がでなくなる。
銃弾を横から撃ち落とすって何だ。直線上ならまだ分かる。線を重ねれば当たるかもしれない。だが、真横から高速で移動している物体に攻撃を当てられるものなのか。移動している点に当てるには、射出から弾着の時間と相対速度を計算しなければいけないのではないのか。ミサイル迎撃システムよりも高精度を求められる。
「ふむ。失敗した」
その声に驚き、助手席をみるとリュウヤがぐったりしているではないか。
「怪我をしたのですか」
「何、怪我は無いさ。ただ神経を使って疲れただけだ。簡単な動く点P問題だと思ったのだが、点が多かった。だが、成果は我が手に得たり」
「なるほど、軍用ドローンが使用されたことから、基地から武器弾薬を奪った犯人からの襲撃と見て間違いがないことですか?」
「ああ、そしてドワーフ達が関わっていることも分かった。念の為にドローンを回収したい」
リュウヤの申し出に従い、周囲の安全を確認し、車体を路肩に寄せて停車させる。
ドローンの破片をつぶさに観察しつつ、リュウヤは破片の一つを拾い上げ相楽へ見せる。
「この破片が何か?」
どんなに観察しても妙な傷がある部品という情報以上が手に入らない。
「この傷はドワーフ達が作品に刻むサインだ。これにより、事件の影にドワーフが関わっていることが明白となった。厄介なことだよ。また、戦場になるのかもな」
「自分はたとえ、大人だとしてもまだあなたや16年しか生きていない彼女達が危険な場にいる事を納得したくありません。我々の仕事は危険な場を無くす事ですから」
ただのエゴだと分かっている。彼女たちには彼女たちの事情があるのだ。それを知らず一方的に否定する権限は自分にはない。
むっとした表情を浮かべながら、リュウヤは問う。
「それが貴殿の戦士として戦う理由か」
「はい」
相楽の返事を聞き、青いなとリュウヤは呟く。
危険な場と彼は言った。戦場ではなく、自然災害等も含めた危ない場所にいてほしくない。全て撤去すると言外に言ってのけた。
「自然まで相手をするとは恐れ入った」
リュウヤは思う、安全な場所か。この世界そのものが安全な場所に他ならないというのに。更なる安全を望むと言うのだろうか。
それでも、彼なら彼らの組織ならやってのけるのかもしれない。そう思っている自分に驚いた。




