5 日常パート ついてきていた相楽
天高く馬肥ゆる秋。盛夏時のソフトクリームみたいな入道雲は姿をひそめ、羊雲が青空の草原を漂っている。
相楽は考える。
なぜ、この高町璃緒という子は、マックへのお使いで決意に満ちた表情をしているのかと。たかがお昼ご飯の買い出しではないか。
科学技術が世界の根幹にあるこの世界で魔法使いは生きにくい。
知識としては知っている。差別があることを。それでもいきなり襲撃されるわけでは無いのだから買い物や散歩を楽しめばよいのに。
青空を眺めている璃緒少年の横顔は綺麗だと思う。美少女と間違えたくらいには小顔で透き通るような綺麗な肌をしている。
「さて、現実逃避はこのくらいにして覚悟を決めなければなりませんわね」
手にしたスマートフォンをきゅっと握りしめる。そして、赤地に黄色でMの字が描かれた看板を睨み付けている。
「今度こそ、おつかいを果たしてみせますわ」
真剣な目でスマホをタップしモバイルオーダーで注文をしている璃緒少年を見ると、愛おしく思える。が、それ以上にその隣に立つ事が辛い。周囲からの視線が刺さる。ように感じられる。
黒ロリータを着こなしている美少年の横にいる筋肉ダルマなぞ、犯罪の匂いしかしない。自分は犯罪者や不審者として見られていないだろうか。
注文を済ませて入店する。
先客の番号が次々に呼ばれていく間も心臓が強く拍動する。
ただでさえ整った顔で周囲からの視線を集めるだろう少年が大きく裾の膨らんだスカートを履き、ドレスを着たお人形さんみたいな格好をしているのだ。視線集中のバフが何十にもかかっているような状態だ。
そんな目立つ少年を客たちは好奇の視線を持ってチラ見していく。当然、璃緒少年の横にいる自分も好奇心の視線が向けられる。あの男は少年の何なのだろうかと。
璃緒少年が姿勢を変えた。スッと背筋を伸ばし、足をクロスさせる。凛とした気品ある立ち方だ。ただ立っているだけで自信が溢れ出しているように感じられる。
――きゅるう。
外見通りの可愛いお腹の音が聞こえてきた。
これを気に話しかけてみたいと思う。が、話べたな自分は不快にさせるかもしれない。やめておこう。
「こればかりは仕方ないですわね」
そうですね。と同意したいが、声が掠れてでなかった。不甲斐ない。
ディスプレイにM134の数字が呼び出し欄へと移った。
なぜ、璃緒少年は息を吐き、臨戦体制へと移るのだろうか。
「こちらモバイルオーダーの商品になります」
「ありがとうございます」
一瞬、店員のお姉さんが怪訝な表情を浮かべたが、カウンター側の付箋を剥がし納得したように笑顔を向けてくれる。
店員のよく訓練された純度100%の営業スマイル。
璃緒少年は純度100%の眩しいほどの美少女スマイル。否、美少年スマイル。
商品を受け取った璃緒少年の手が想定よりも軽いものを持った動きを見せた。
店の外へ出るといそいそと璃緒少年は商品を確認する。
なぜだ?
「やはり、今日もダメでしたのね」
何がダメなのだろうか。
MSSに戻り、色々と察し、自分の鈍感加減を呪いたくなった。
魔法使いが差別されていると知識として知っているだけではダメだ。
差別の現場に出くわしておきながら行動できないだなんて不甲斐ない。
知っているとできるはまた別なのだと痛感した。
自分は国民を守るために志願したというのに少年1人、小さな悪意から守れないとは。




