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4 日常パート 璃緒、お使いに行く

 天高く馬肥ゆる秋。盛夏時のソフトクリームみたいな入道雲は姿をひそめ、羊雲が青空の草原を漂っている。

 高町璃緒は思う。

 あたくし、いつも空を見上げていますわね。


 科学技術が世界の根幹にあるこの世界で魔法使いは生きにくい。

 

 魔法使いというだけで、僻みの対象になり大小様々な嫌がらせをされる。どれも小さな小さな嫌がらせではある。無関心でいてくれる方が大多数ではあるが、嫌がらせをしてくる輩はゼロではない。

 

 それでもこの世界の空は好きですわ。キレイな青とワンポイントの白の爽やかさが千秋さんを彷彿とさせてくれますから。


「さて、現実逃避はこのくらいにして覚悟を決めなければなりませんわね」


 手にしたスマートフォンをきゅっと握りしめる。そして、赤地に黄色でMの字が描かれた看板を睨み付けた。


「今度こそ、おつかいを果たしてみせますわ」

  

 魔法使いとバレませんようにという願いを込めて、モバイルオーダーで注文をしていく。

 ハンバーガーセットが1つ。

 幸福セットが1つ。

 チキンフィレオバーガーセットが1つ。

 パテ6枚をさらに厚いパテで挟んだ知能指数の低いバーガーセットが一つ。

 飲み物単品でコーラを一つ。

 

 注文を済ませて入店する。モバイルオーダーならきっと魔法使いとバレないと信じて。

 先客の番号が次々に呼ばれていく間も心臓が強く拍動する。

 不安しかない。小さくなって隅っこでうずくまっていたい。

 それでも璃緒はお腹に力を込めて凛と立つ。震えそうな足を気力で抑え美しく見えるように軽くクロスさせる。

 千秋さんが作ってくださったドレスがあたくしに力をくれます。そう思うと不思議と力が湧いてくる。気がする。

 Aラインのスカートはパニエの力を借りてふんわりと広がり、あたくしの動きに合わせて揺れ動きます。

 ブラウスは控えめなパフスリーブで肩のゴツさを隠してくれています。

 千秋さんからあたくしのために作っていただけたドレスを着ている以上、無様な振る舞いは二度としないと誓いましたの。

 ――きゅるう。

 お腹の音がなってしまいましたわ。

「こればかりは仕方ないですわね」

 独りごちる。

 ディスプレイに映し出されている番号が徐々に減り、自分の番が近づいてくる。

 

 今日こそ、嫌がらせがされていないハンバーガーをみんなで食べたい。


 魔法使いだからという理由で、小さな悪意を向けられる。今まで通常の商品を購入できた試しがない。複数注文すると必ず、間違いや製造ミスの商品を渡される。初期は苦情を言っていたが、今はもう苦情を入れていない。全国チェーン店なのに全ての店舗で同じようなことが起これば嫌でも察してしまう。

 それでもあたくしは何度も挑戦しますわ。バンズなしバーガーやパテの代わりにバンズが挟まったバンズバーガーを渡されたとしても!


 MSSの活動が間違っていなければ、いずれは魔法使いも受け入れられる。受け入れられたという証が嫌がらせのない普通の暮らしなのだ。


 ディスプレイにM134の数字が呼び出し欄へと移った。

 軽く息を吐き、強張っているであろう表情筋を緩める。笑顔でお礼を言えるように。

「こちらモバイルオーダーの商品になります」

「ありがとうございます」

 一瞬、店員さんが怪訝な表情を浮かべたが、カウンター側の付箋を剥がし納得したように笑顔を向けてくれる。

 悪意も善意もない純度100%の営業スマイル。

 少し期待が持てそうですわね。

 商品を受け取ってすぐに違和感を覚える。

 軽すぎる。

 ドリンク4つ入っているとは思えないほどに軽い。

 けれど、確かにドリンク4つ分の紙カップは袋の中に確認できる。

 

 店外で疑念を解消すべく中身を確認するとカップの中は規定量の半分しか入っていなかった。

「やはり、今日もダメでしたのね」

 このお店、今すぐに完全施錠して差し上げようかしら。

 


 璃緒は赤い自動販売機の前で立ちすくみ、思案する。

 飲み物を買い足して誤魔化すことはできますわね。けれどそれは、本当に正しいのかしら。

 

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