1 戦闘パート
魔法使いが現れた現代日本。
山を切り開いて作られた住宅街を漆黒の機械鎧がゆっくり歩行しながらに、獲物――魔法使いを探している。卵型のボディから生えた手足には鎧武者のものと思しき具足を付けていた。そんな姿故に金属板がぶつかり合うガシャガシャという音が鳴り響き、閑静な雰囲気を一歩ごとに台無しにしていった。
「見つけましたわ」
そして機械鎧もまた魔法使いから索敵の対象となっていた。
機械鎧の行手を遮るように上空からふわりと少年――高町璃緒が舞い降りる。璃緒が纏う長袖の黒いAラインのロングドレスの裾には白いフリルがついており、アクセントとして衣装を落ち着たデザインに華やかさを添えている。。璃緒の服はいわゆる黒ロリータと呼ばれるものだ。
緩やかに下降してくる時に風を受けたロングスカートが重たげにはためいて生地の厚さを物語っている。
「あたくしはMSS所属、高町璃緒ですわ。連続誘拐事件の容疑者としてご同行願えるかしら?」
身長ほどもある巨大な鍵型の魔法杖を構えながら上品に璃緒は宣言。
と同時に――タンッタンッタタンッ。
完璧なリズムでの三点斉射による応答。即ち開戦の意思表示。
「くッ。いったいですわね!」
左肩に二発、腹部に三発全てが命中。
けれど、MSSの魔縫使い__千秋が作ったドレスの防弾性能は伊達ではない。通常の弾丸は衝撃すら通さない完璧な防御力を発揮する。
それなのにごくありふれたアサルトライフルで痛みを感じたことに驚愕し、慢心を恥る。
見かけ通りの銃器ではないという事ですわね。
それよりも注意しなければならない事は、武装を確認の上、銃火器のセーフティをあらかじめ降下中にかけていましたのに解除されてしまった事ですわ。【たった一つの呪文/魔法鍵】が不発に終わった理由を考える。魔法を持って抵抗された。もしくは、距離が離れすぎていたかしら。
いくら魔道具が無いからといって未知の相手に対して無警戒がすぎましたわね。
もう一度、相手武装の構造を解析。幻素を鍵に変えるイメージで不可視の鍵を持ってアサルトライフルを強固且つ念入りに施錠する。
魔法鍵士としてのワンオフスペル。魔法鍵による遠隔のセーフティロック。
「施錠完了ですわ」
機械鎧はカチ、カチ、カチと音を立てて銃の引き金を引くが弾がでないことを悟ると投げ捨てる。飛行機のエンジン音のようなタービンが回る音が響き渡る。そして機械鎧は背面スラスターを一気に吹き突進。
さらに吸入した超音速気流を圧縮。燃料と混合点火。ラムジェットによる推進力によりさらに速度を上げて鉄拳によるボディブロー。
璃緒は咄嗟にディレイしていた魔法を解錠。
間髪入れずに氷壁を拳と眼前に展開。
無駄だった。機械鎧の吶喊の衝撃で粉々になっているのが見てとれた。
彼我距離一足分。回避を。
身を捻り力を逃がそうとするも叶わず、下腹部に強烈な重撃を受けて璃緒の足が地面から離れる。
体がくの字折れ口から吐瀉物が溢れる。のを意地で阻止する。
あたくしはもう、醜態は晒さないと決めましたのッ。千秋さんが作る美しいドレスに泥を塗ることは耐えられませんもの。
浮遊魔法を解放。
思考は一瞬。浮遊して距離を取ってもあの推進力ではさらなる追撃を許してしまいますわね。
「なら――」
即座に身体を地面方向へ上昇させる。即ち重力加速に魔法が乗った急降下。
強烈なGが頭に血液を流し込む。脳内の血管が限界まで広がり圧迫される。
「まだ、まだですわっ」
着地と同時にインファイト。
【たった一つの呪文/魔法鍵/身体強化】
「フィジカルブースターっフルスロットルですわーー」
有りったけの攻撃力強化の魔法を解放。
風を受けてふわりと捲り上がったスカートの裾を両手でつまみ脚の可動域を確保。
上段蹴り。
軸足そのままに脚技を連続で叩き込む。股関節から大きく、力を込めて振られる足は鞭の様にしなり鋼を打ち据える。一蹴する事に金属が撓み、卵型のボディに凹みができる。反撃を試みる機械鎧だが、予備動作の時点で蹴られ弾かれ手も足も出せない。ついに装甲の歪みが限界を超えて機械鎧は体勢を崩し片膝をついた。
締めはハイヒールを機械鎧の胸部に押し当て幻素を最大出力で流し込む。関節を全てロックする魔法鍵士流の関節技。
「はぁはぁ。まさか、このあたくしが徒手格闘をすることになるだなんて思いもしませんでしたわ」
乱れた御髪を整えながら璃緒は独りごちる。
「それにしても調べなければならないことがいっぱいありそうですわね」
脳内のコルクボードに一つ一つメモを貼り付けていく。
・なぜ、魔法鍵がレジストされたのか。
・なぜ、子供を誘拐するのか。誘拐された子供たちはどこにいるのか。
・この技術力はどこから流出したものなのか。
・どうやって現代日本でアサルトライフルを入手したのか。
・機械鎧はまるで、千秋さんのミシンのようなのはなぜか。




