10 クライマックス
10
璃緒の目には、戦場が映っていた。もはや街とは呼べなくなった場所。
彼方此方で、黒煙があがり火の粉が吹雪のように乱れ飛ぶ。
爆発音が大気を揺るがし、景色を赤色で塗り潰していく。炎によって破壊されていく町は、聖火にくべられたサラマンデルのように、火炎を高く燃え上がらせ縦横無尽に世界を浄化していく。
警官隊によって厳重に包囲された町は、町民の七割が避難完了しており、残りの二割は瓦礫の下敷きなどでテロリストが捕まるまで救助不能。市から切り離された空白の地域となっていた。
そんな場所に唯一足を踏み入れることを許されたMSSの四人。
「何……これ……」
「時雨さんは、消火活動を。リュウヤさんは時雨さんと行動を共にしながら、救助活動と索敵をお願いいたしますわ。あたくしと千秋さんは救助活動と索敵を行いますわ」
皆に指示を出し、自分がやるべきことを明確にする璃緒。
言動から若干、焦っているのが分かる。
交通整理の時は千秋さんに言われるまで救助活動のことを失念していましわ。今度はちゃんと優先事項を決めて動かないといけないですわね。
まず、人命。次に魔法犯罪者の確保。魔道具があるなら回収。
「二手に分かれるんだな」
「あたいに任せて」
そう言い残し、リュウヤと時雨が火の勢いが激しい方向へと走っていく。
「千秋さん、準備はととのいましたかしら?」
「う、うん」
「では、参りましょう」
優雅に、焦らず逃げ遅れた人々を探していく。
「璃緒、あそこ!」
千秋が指差した先には、瓦礫に足を挟まれて逃げることができなくなっている男性がいた。
自然に体が動きかけ出していた。。助け出さねばという思いが璃緒の思考を鈍化させ、警戒心を鈍らせる。
結果、助けようとした男性は爆弾だった。火薬が爆ぜた音が打撃となって耳を突きぬけ、音に追随するように衝撃が、四方に広がっていく。
コンクリの雑居ビルに亀裂が入り、コンクリ塊の雨となってその役目を終える。
至近距離で爆発に巻き込まれた璃緒は、放り出された人形のように、宙を舞い瓦礫の上にたたき付けられる。
「くっぅ」
だが、銀行の時とは違い服はどこも焼けておらず、顔に煤がついた程度のダメージで止まっていた。
「だいじょうぶ?」
「え、ええ。だいじょうぶですわ。千秋さんのおかげですわね」
衝撃で脳が揺れクラクラし、気持ち悪いが千秋の手を借りて何とか立ち上がる璃緒。
千秋が製作したワンピースには、耐衝撃、耐熱の魔法が織り込まれておりそれが爆発から璃緒を守ったのだ。それを察したがための礼。
「べ、べつに大した事じゃないよ」
頬が赤く染まっているのは、火が近くにあるからかそれとも自分が作った衣服の性能をほめられたためか。ふふっ。自然に頬が緩んでしまう。いけませんわね。集中しないと。
そんな、千秋の行動をほほえましく見ながらも先ほどの反省を活かして、あたりを警戒している璃緒。
「みつけましたわっ!」
あたくしたちに固定されていた視線を感じ取り、瓦礫の影に隠れる視線の主を見つけ出した。
それが、この事件の犯人だと半ば根拠の無い確信を抱きながら。
璃緒に直視された男は、一瞬硬直したが、すぐにわき目もくれずに璃緒たちから距離を開けるために逃げ出した。
「待って! ぼくが行くから」
そう言いながら、璃緒を追い抜いていく千秋。その背中からは肉眼では捉えることのできない極細の糸を背中から一本伸ばしている。
千秋の意図を悟った璃緒は減速し、自分を追い抜いていった物に任せる。
すぐに追いつき、男の腕を掴み取り押さえた。がその男も炎を撒き散らしながら自爆した。
爆発に巻き込まれた千秋は、半瞬で全身を焼かれた直後に衝撃によって細切れの糸屑になって燃え尽きた。
璃緒との模擬戦で用いたダミーぬいぐるみ。
それを利用し、自爆されても自分たちが致命傷を負わないようにしたのだ。
流石ですわね。
「ねぇ、璃緒変だと思わない?」
「そう、ですわね……今までは爆弾魔が魔法を使った形跡がわかりましたのに、今回はそれが全くわかりませんわ。まるで本当の自爆テロみたいですわ」
顔をしかめ吐き気を堪えて言葉を絞る。
「もしかして、本当に自爆テロなんじゃ……」
意図的に魔道具による精神汚染を悪用しているなら、不快感で仕方ありませんわ。
「だとしたら、一般人との判別が付きませんわね……」
璃緒の眉間にはシワがよっている。不愉快な状況を打破するために思考する。
まだ、周囲には助けを求める人々が大勢居る。だれもが怪我をして倒れていたり、瓦礫に挟まれ自分では動けない状況に追い込まれている。
助けられるのはあたくしたちだけ。だけど、助けようとした相手がテロリストだったらまた自爆されて、被害が広がってしまう。
どうしていいのか解らない。
人々の呻き声が焦らせる。
「千秋さん……あたくしたちはどうすればいいんですの?」
弱々しい璃緒の呟き。
一度ならず二度までも辛酸を舐めさせられたあげくに、打つ手がまったくと言っていいほど見当たらないのだ。
精神面が弱っても仕方ないのかもしれない。
そんな、自信喪失状態の璃緒を見た千秋は思う。璃緒は、常に自信に溢れていて優雅じゃないといけないんだと。今の璃緒は、心がみすぼらしくなっているように感じられる。
――――ギリッ。
噛み締めた奥歯にヒビが入り、口の中に生臭い鉄の味が充満していく。
「そんな弱音を吐く璃緒は、黙って見てて! ぼくが全部やるから!!」
キレた。
なんでか解らないけど、冷静な部分が今キレていると伝えてきた気がした。
璃緒の弱音で、千秋の感情が爆発したのだ。
そう叫んだ千秋は、目に付いた人々を魔法を使うことを防御のみに集中させに手当たりしだいに助けようとしていく。
が、救うこと叶わず皆自爆していく。その間、何度も何度も衝撃が骨を軋ませ、聴覚に揮われる轟音の暴力。
見えないハンマーで叩き潰されながらの救助だと思いながらも、ただがむしゃらに一人でも多くの命を救おうと自分の命を削っていく千秋。
「どうして、ですの?……どうしてそこまでできますの」
理解できないといった表情で、爆撃に身を晒して行く千秋を見つめる璃緒。
「あたくしには、解りませんわ……自分を偽っているあたくしには判るはずもありませんわね。千秋さんの真っ直ぐな心は」
後半を自嘲気味に呟きながら、視線を落とすが無意識のうちに他の五感で千秋の気配を追っていく。
全身から血を流しながらも人々を助けようとしていく千秋。その目は、焦点が定まっておらず、何のために行動しているのかも解らないで居るようだった。自爆テロと市民の区別も付かない状態だったのが、今では人と死体の区別が付いていない千秋。
本当に市民はいるのだろうか。
「――ッ」
視線を落としたからこそ、現状がオカシイことに気づけた。視界から動けぬものが消えたからこそ、違和感を覚えることができた。
ただ、呻くだけで誰も助けてとは言わないのだ。
それはまるで、ゲームのキャラクターが定められた役割だけを演じているかのように。
何かがおかしいですわ。
魔法陣の作成を応用して、状況を整理しなくては。
空中に文字を書いていく。
仮定その1。犯人は、魔法使い→YES。魔法の痕跡があった。
仮定その2。犯人は、単独犯→不明。
仮定その2。犯人の魔法は、生き物を爆弾に変えるもの。→YES?
検証1。1度目。銀行で警官隊が突撃してきた時。→変なタイミングでの突撃だった。
検証2。2度目。車の爆発。→爆発したのは車であり、ドライバーは救助した。
検証3。3度目。瓦礫で身動きが取れなくなっている人が自爆している。
なぜ?
自爆テロならば直接特攻を仕掛けてきてもいいはず。だが、そのようなことは一度もない。→爆弾に変える魔法NO。別な魔法。人型の爆弾? NO。そんなに単純なものではない。
急がなくては。
視界のはしに、爆風により吹き飛ばされキリミモ状態の千秋が映り込む。
「逆ですわ!」
全てが繋がった。




