女魔王、壁を上る
前回のあらすじ:街へ入れない
私は怒っている。
なぜかって?そりゃ街に入れないし、御馳走が食べられないし、トムがいまいちパッとしないからだ。
畳んだテントや荷物を担いで街に入る役人や騎士っぽい奴らを睨む。ちくしょーめ。
そいつらが街に入ると、金属が擦れる音を立てながら大門が閉まってしまった。
一歩譲って、街に入れなくても美味しい夕飯が食べられるならば構わない。
ちらっと左の方向を見ると、トムはさっさと門前の開けた場所に陣取り、夕飯を作っている。いや確かにトムの料理はさ、美味しいけども……ぶっちゃけ貧相なんだよね。
頬に手を当て考える。うーむ、せめてもっと食材があれば良いんだけど……何か狩ってこようか?いや、近場には獣がいそうな場所は無い。いてもせいぜい鼠だ。鼠肉は癖が無くて意外と美味しいけど、流石に鼠を追っかけるのは遠慮したい。絵面的に。
ん?待てよ。
狩ってこなくても、買ってくればいいんじゃないかしら?目の前には街があるんだし。
大門が通れないなら、普通に防壁を登ればいいじゃん。何ということだ。私としたことが、こんな簡単なことに気付かなかったなんて。
通行手形が無いと大門を通れないとは言っていたが、壁を登るのに必要な手形なんて聞いたことが無い。つまり壁を登れるなら街に入っても良いということではないか。
よし、そうと決まれば善は急げ。
トムにどんな食材があればもっと美味しいものが作れるか聞いてみた。
「え?食材?うーんそうだな……」
トムは貧相なスープが入った小さな鍋をかき回しながら、思案顔で考える。
「獣の乳とかチーズとかがあれば、俺の得意なオリジナルミルクスープが作れるかな。野菜とか肉もあった方がいいね。まぁ腐りやすいものを持って旅するわけにはいかないから、旅の時は作れないけど」
あ、やばい。想像しただけで美味しそうじゃんそれ。これはすぐ作ってもらうしかないね。
「乳とチーズにその他具材ね?分かった!」
それを聞いた私は靴を素早く脱ぎ、服の中に突っ込む。そして身を翻して駆け出した。
「え……シャラ!?」
トムが驚きの声を上げるが、気にせず加速する。十数メートルある防壁に向かって加速し続け……防壁まであと数歩の距離で全身を縮め、次の瞬間地面を蹴って斜め前に飛び上がった。
「『魔爪』!」
瞬時に魔力を手足の先に集中し、全ての爪を十センチ程伸ばす。
勢いよく迫ってくる壁に両手足の爪を立て、追突。
バンッという音を立てて着地……じゃなくて着壁した私は、壁にしっかりと食い込んだ両手足の爪を抜いたり刺したりしながら、防壁をすいすいと登り始めた。
そう言えば今のシャラって、下着履いてないんですよね。早く装備させないと。
それと一つ分かった事。
会話シーンが苦手。




