女魔王、片付ける
前回のあらすじ:優雅に封印解除
私は取り敢えず、元自宅を片付ける事にした。自分のものは自分で片付けるのがマナーというものだ。
これからのことは、片付けをしながら考えることにしよう。
まず手始めに、かろうじて残っていた壁を蹴り崩し、次に散乱している塵を『ブレス』で消し炭にする。片付け中に何度も服がずり落ちたり、裾を踏んづけたりしたが気にせず続けた。仕上げに、残骸を枯れた井戸跡の中に放り込んで井戸ごと潰してやった。
なんということだろう。先程までこ汚い廃屋があった場所は、綺麗で真っ平らな更地に変わった。
「よし、終わった」
手を叩いて埃を払いながら、大きな石に腰かける。改めて周りを見渡すと、どの方面を見ても低木や背の高い草が生い茂っている。千年前は一面の花畑だったのになぁ。
さて、片付けは終わったし、次は何をしよう?世界征服や異世界転移はしない。もう封印されたくはないし、何より飽きた。
そんなことを考えながら、家を片付ける前に外へ出しておいた箱を開けてみることにした。外装は風雨にさらされ続けたせいで真っ黒に汚れているが、中身は無事な筈だ。確か私が保存の魔法をかけた……気がする。何を入れたのかは忘れたけど。
箱を膝の上に置き、そっと蓋を開けると……ピンク色の布が詰まっていた。なんだこれ?そう思い、布を全て引っ張り出してみると、ドレスだった。フリルだらけの。
「ピンク色のふりふりドレス……?」
何故こんな趣味の悪い服が?
私は必死に記憶を手繰り寄せる。
……
……
……
思い出した。正体を隠して人間の町に遊びに行った時、見た目の割にやたらと高度な魔法が掛かっていたこの服を見つけ、つい衝動買いしてしまった。しかし、好みでないうえにサイズが小さすぎて着れなかったがために、この箱にしまったまま忘れていたらしい。
ドレスを放り投げ、他の中身を調べる。光り輝く大きな宝石やら大量の砂金やら、価値のないものが出てくる出てくる。あ、果物が一個入ってた。
変な味のする果物をかじりながら、片手で箱をひっくり返した。大きな音を立てながら中身が散らばったが、特に面白そうなものは見当たらない。
「私はなんでこんなゴミを仕舞っておいたのかしら?」
ため息をついてゴミの山を見ると、丸い形の取っ手がついた手鏡があるのに気付いた。あ、一つだけあった。懐かしいものが。
あの鏡はたしか、魔法を跳ね返す鏡。私を殺しに来た勇者の一人が持っていたもので、『私が初めて負けそうになった記念』にとっておいたのだ。
手鏡に手を伸ばし、覗き込む。するとそこには絶世の美……幼女が映っていた。
「……は?」
目を擦ってもう一度よく見る。
鮮血のように鮮やかで艶のある赤髪、私の自慢の髪だ。降り積もったばかりの新雪のようになめらかで白い肌。私の肌だ。髪と同じ赤色の瞳、整った眉、鼻、耳、唇……全て私のものだ。
しかし違う。私は長身ではなかったが、決して子供ではなかった筈だ。女は羨み、男の視線は釘づけになる最高のスタイルを持つ、妙齢の美女であった。
服がまたずり落ちた。恐る恐る自分の胸部を弄る……無い。
私は膝から崩れ落ち、両手を地面につけた。
私の、美しい、ボディが、何故?
封印されたときと同等の……いや、それ以上の絶望が私を襲った。
おんなまおう は もえさかるほのお を はきだした 。
いえ が きれいになった!