女魔王、ヒッチハイク
前回のあらすじ:トムがびびった
走り続けること数時間、私は草原を走り抜けて街道に到達した。天気は快晴、景色を遮るものが何もなく、青く澄み渡る空がどこまでも見える……気がする。
「う、うーん……」
すると背中の荷物が動き出した。
「あれ、ここは……?」
「丁度良いところで起きたわね。ほら、街道に着いたわよ」
「……街道に?」
もぞもぞと動き、辺りを見渡すトム。
「本当だ。もう着いたんだ……ってシャラ!?なんで俺を背負ってんの!怪我は!?」
耳元で騒ぐな。うるさい。
「アンタが気絶してたから運んでやったのよ。感謝しなさい」
とりあえずトムを地面に降ろし、荷物を渡す。
「怪我はもう治ったわよ。ホラ、血も出てないし」
トムは私を横や後ろから見たりして、血が付いていないことを確認すると、何とも言えない顔をして私を見つめてきた。惚れたか?
「……本当だ。治ってる……魔法を使ったの?」
別に何もやってないけど、面倒なので魔法ってことにしておこう。
「そう。私はすごーい魔法を沢山使えるの。今も魔法で体を強化しているのよ」
「そうか……」
何だ?心なしかトムの元気が無い気がする……と、言うか何だか距離を感じる。
じっとトムを見つめると、目を逸らされた。
「どうしたのよ?無事に山賊を撃退したっていうのに元気ないわね」
「いや、その……」
相変わらずトムは明後日の方を向いている。話すときはちゃんと目を見てよね。
「あそこまでする必要あったのかなって……」
「は?」
何言ってんだコイツ。
「何?まさか逃げ出した相手を後ろから殺るなんて酷いって言うの?それとも雑魚共を殺しまくった私は野蛮だって言いたいのかしら?」
トムは無言のままだ。私はトムを見つめながら、続ける。
「あのねトム。さっきの山賊は屑の集まりよ?旅人や商人を狙って待ち構えていて、運悪く通りかかった奴から色んな物を奪うの。お金、食べ物、女子供……あいつらのせいでどれだけの人が不幸になると思っているの?」
ま、私はそんな屑共より沢山殺してるけどね。
「そんな奴らは殺していいの。賞金首は殺しても罪にならないでしょ?それと同じよ。屑は殺しても罪にならないの。罪にならなければ殺してもいいの」
ついでに、気にくわない奴も殺しても良い……とかなら良いのにね。
「それは違うよ!」
その時、トムは私の目を見てそう言った。
「罪にならなければ殺してもいい、そんな考えは間違ってるよ!」
「じゃあなに?おとなしくされるがままになれって言いたいの?」
「そうは言ってないだろ!そうじゃなくてさ……あぁ、何って言ったら良いんだ……」
トムは頭を押さえて呻いている。
うん、良い感じだ。こうやって悩んだり苦しんだりして成長して、若者は立派な勇者になるのだ。そんでもって私を殺しにくれば良い。その時が楽しみだわ。
勿論返り討ちにするつもりだけどね。
……何かお腹すいてきた。
「ねぇトム。なんか私もう面倒だわ。この話は街に着いてからゆっくり話しましょう。ごはんでも食べながら」
「え?あ、あぁ……そうだね」
疲れた顔をしたトムは頷いた。
「次に通りかかった馬車にでも乗せてもらおうか……」
後方に目を凝らすと、砂煙を立てながら近づいてくる馬車が見えた。どうやらすぐに乗せてもらえそうだ。
一週間の遅刻ですが、更新です。
中々執筆が進みませんが、そろそろ忘れ去られそうなので、慌てて更新しました(笑)




