女魔王、勝利
前回のあらすじ:山賊が逃げ出そうとした
「く、くそ!あいつ等ァ!!」
元部下を罵りながらも、スピードを緩めずに逃げ出す大男。
逃がすわけないじゃないの。私は右手で槍の柄の中程を逆手で握り、穂先を大男に向け、大きく背を仰け反らせる。投擲用の槍ではないためそこそこの重量があるが、私なら余裕だ。
トムと戦っている間は手出しする気は無かったけど、逃げ出したんなら話は別。私に不快な思いをさせた奴を逃がすわけにはいかない。確実に殺す。
私は全力を込め、大男へ狙いを定め、肩ごしに槍を投げた。
槍は全くブレず一直線に飛んで行き、やがて大男の背中を貫いた。大男の断末魔が響く。
結構な距離があったから頭を狙わず、胴体を狙ったのが良かったようだ。完全に大男の体を貫通している。
よし、討伐完了。なかなか楽しめたわね。
「理想を言えば、トムに止めを刺させたかったんだけど、逃げようとしたし仕方ないわよね」
橋の中央で呆然と佇むトムへ近づいて行き、話しかけた。
何故か槍が突き刺さったままの大男を見つめていた。
「どうしたの?あ、私がトムの獲物をとっちゃったから怒ってる?」
トムはゆっくり私に視線を向け、その後下っ端共の死体が散らばっている方を向いた。どうした?
「アイツが逃げようとしたんだからしょうがないじゃない。トムじゃ追いつけなかったでしょ?……ねぇ、無視しないでくれる?」
服をクイッと引いて話しかけるが、反応が無い。本当にどうしたんだ?
「なぁ……シャラ。君は人間なの?」
やっと反応した。けど随分唐突な質問ね。青い顔しているし。
「人間よ?ちょっと強いだけの。ほら、ちゃんと血も出てるし」
そう言って服をめくって左肩を見せた。さっきよりいくらか穴が小さくなり始めているが、おびただしい量の血が流れ出ていた。ドレスを真っ赤に染めている。
ドレスの穴はとっくに塞がっているけど。
「大丈夫?顔色悪いけど。あ、分かった!私の強さに驚いたんでしょ?」
顔を真っ青にしたトムは、ふらふらと地面にしゃがみ、そのまま前のめりに倒れこんだ。
「えーっと、大丈夫?」
気絶してしまった。
怪我してたのかと思って体を調べるが、見当たらない。初めての実戦で疲れたのかな?肉体的にも精神的にも。
ま、しょうがないわよね。まだ子供なんだし。
私は川に降りて、手足の血を洗い流した。服の血は魔法できれいになるから洗わない。
これでよし、と。
トムの所まで戻り、荷物(トムを含む)を集めて担ぐ。
私も担がれて楽をさせてもらったし、今度はトムに楽をさせてあげよう。確かまっすぐ進めば大きな街道に出るんだっけ。さっさと行っちゃおう。
深呼吸をして血生臭い空気をすってから、私は走り出した。
女魔王大勝利!




