女魔王、庇われる
前回のあらすじ:ごろつきに囲まれた
「うわっどうすんだよ!?怒らせちゃったじゃないか!」
トムは左手で私を背負い直し、同時に右手で剣を抜いた。今の私はトムの背中に引っ付いている感じだ。
「止めはアンタの天然毒舌でしょ?ほら、今ならあの胸当て野郎と一対一なんだから何とかしなさいよ。何なら荷物持って降りてあげよっか?」
「君を一人にしたら他の奴らに捕まっちまうだろ!……何とか隙をついて橋を渡りきって他の男達の気を引くから、そしたら街道まで走って逃げろ。俺が食い止めておくから」
おお、今のセリフかっこいい。でもちょっと難しいと思うけどなぁ。勿論私が全力で走れば逃げ切るのは簡単だが、もし見た目相応の普通の子どもだったら、大人の男数人から逃げ切るなんて無茶だろう。そもそもトムよ、左右の幅が狭い橋のうえで、あの大男を抜けるのか?
「へっへっへっ……怯えてやがるのかよ、餓鬼共。今更謝っても遅いぜ?おとなしくしていれば命は助けてやったのによぉ……男の方は嬲殺しにして、嬢ちゃんの方は小さいのに良い顔してるからな。俺達のおもちゃにした後、奴隷にしてやるよ。おい!お前らは餓鬼どもが逃げ出さない限り手え出すなよ!」
私たちがこそこそ話をしているのを、怯えていると勘違いした大男が、大斧を見せびらかしながらゆっくり近づいてきた。どうやら一対一で相手をしてくれるらしい。
ほら、相手も一対一でやってくれるってさ。
「う、うるさい。俺だって鍛えていたんだ!お前らみたいな奴らに負けるか!」
あれ?トムがちょっとビビってる。
「ねぇトム。あなた実戦経験ある?」
「魔物となら何度も戦った事あるけど、人との殺し合いなんてしたこと無いに決まってんだろ……!で、でも何とかしてやるから安心しろ」
人との戦闘は経験無いのか。
……うーん、ここで可能性の塊であるトムが殺されるのは惜しいな。本格的に劣勢になったら……例えば橋の両端に待機している山賊の下っ端共が加勢してきたら、私も戦おう。それまでは軽くトムをサポートしてやるか。
私はこっそりトムの鞄の中に手を突っ込み、手頃な物を探す。
そうこうしている間に大男が斧を構えて走りだしてきた。トムも大きく息を吸いながら切っ先を相手に向け、身構える。
「死ねえっ!!」
「ぐっ」
目の前まで到達した大男が斧を振り下ろし、襲いかかった。トムは剣で斧の軌道を逸らそうとしたが、勢いと武器の重量が違いすぎたようだ。剣が弾かれてしまい、ギリギリのところで横に躱すことはできたが、大きく体勢を崩してしまった。
「オラオラオラオラッ!オリャアアアッ!」
ここぞとばかりに斧を振り回しながら畳み掛けてきた。見かけ通り力だけはあるようだ。
剣で斧の勢いをできるだけ殺し、後ろに下がりながらもなんとか対応するトム。武器のリーチと腕力のの差で、防戦一方だ。仕方ないわね、そろそろ手助けしてあげよう。
大男が斧を振りかぶり、今までで一番威力がありそうな攻撃をしようとした瞬間、私は鞄の中から手を引き抜き、トムに背負われたまま大男の喉を狙って、(今朝使った)木製の器を勢いよく投げつけた。
「ていっ」
援護射撃(木製の器)




