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キャンプファイアー8865点


 夏休み。それは学生にとって唯一の白昼堂々と寝ていられる日。

 夏休み。それはここにいる高校1年生、原秋葉にとっても同様だった。


「あー……あぢー……」


 昼間の2時。気温が最も高いとされる時間帯に、秋葉は布団の上でもぞもぞと起き始めていた。


「くっそー、もうこんな時間じゃねぇか……遅くまでゲームやるもんじゃねぇな」


 枕元の時計を見ると、尺取虫の要領でゆっくりと起き上がる。この時間に彼が目覚めるのは無理もない。朝日が昇る直前まで、本来彼の年齢ではやってはいけないゲームをしていたからだ。

 携帯のLEDが点滅しているのを見た秋葉は携帯を取り、着信内容を見た。


「……キャンプに行こう?」




僕達は北高生外伝「キャンプファイアー8865点」




『送信者:有希

 8/6 10:15

 おはよう。

 この前の出校日に春ちゃんからキャンプに誘われたの。

 秋葉と友達2人もぜひ来てねって。

 15日から3日間開いてないかな?

 返信待ってます。

      有希』


「春ちゃん……?あぁ、桜井か」


 桜井春。席が近い戸川とよく話をしていて、仲がいい秋葉のクラスメイトだ。


「でもなんで急に……?」




―――――――――――――――――――――――――




 時間は少し遡り、出校日。

 部活でほぼ毎日顔を合わせている連中や、帰宅部故に夏休みの間全く顔を見ない連中が一堂に会する日。大会の表彰の為、この日に提出しなくてはならない課題がある為……諸々の理由で、クソ熱い中(秋葉談)集合させられる日である。


「……キャンプ?」


 スクールタイムが始まる前、教室。

 すこし驚いた表情をして友人の提案をオウム返しするは戸川有希。秋葉の幼馴染であり彼女だ。


「そうそう。おばあちゃんが商店街の福引で当てたんだけど、その日じいちゃんと別の場所へ旅行行くからってもらっちゃったの」


 手に持つ「バンガロー貸切チケット」をひらひらさせるは戸川の友人、桜井春。


「せっかくだから、よかったら一緒に行きましょ?」

「って、春が言って聞かないの」


 呆れた顔で戸川に状況を説明するは同じく戸川の友人、相模瑞希。桜井とは幼馴染の同居人である。


「だってぇ、バンガローよ?テント張って寝る訳じゃないんだから虫もいないし悪い奴も来ないし安全だし安心よ?」

「そこを心配してるんじゃなくて……」

「わかった!そんなに瑞希が女ばっかりで心配だって言うなら、男の子連れて行きましょ!」

「へっ!?私そんなこと一言も……」

「ゆうすけ君連れて行けば瑞希もよろこぶでしょ?」

「だっ……ちょっ……バカ!」


 顔を真っ赤にして桜井を止める相模。戸川は微笑ましくその光景を見ていた。


「で、ユッキー一緒に行く?」

「うん、行きたい。日程とか決めたら教えてね」

「もちろん!じゃあユッキーが原君達誘っておいてくれるかしら?」

「ええ。いいわ……ん?秋葉も?」

「だってあの子達いつもいっしょじゃない。ゆうすけ君だけじゃ不自然でしょ。それに私達が3人なんだから3対3でバランスよくしたいし、ね?」

「なるほど……」


 教室の奥の方で坂元達と談笑している秋葉を見ている戸川に、桜井はこっそり耳打ちした。


「そういえば。原君とちゅーしたの?」


 桜井のいる方から反対側の耳まで順に赤くなる戸川。


「なっ、なななにを……!?っていうか知ってたの!?」

「当たり前じゃない。見てればわかるし、結構みんな知ってるよ?」

「……そうなのね」


 戸川は真っ赤な顔を秋葉に悟られないよう、窓際に目をそらす。


「で、ちゅーしたの?」

「……まだ」

「えー、なんでー?高校生が付き合って3か月でAすらまだなんて聞いた事ないわ」

「春の認識はおかしいよ……」

「あら、高校生ならおかしくないわ」

「……だって秋葉、坂元君とかと遊びに行っちゃうんだもん」

「私も遊びに連れてってって言えばいいじゃない」

「それが出来たら苦労しないわ……」

「よしわかった!ここは私に任せなさいっ!」


 桜井は豊かな胸を揺らし、戸川に抱き着いた。


「わぷっ……」

「ユッキーと瑞希の恋のお悩み全部キャンプで解決させちゃうわ~!」







「おい秋葉、見ろよ」

「ん?ああ、有希?あと桜井と相模か……仲良さそうだよな」

「やべーよな」

「やべーって、何が?」

「桜井のチチ」

「ああ。やべーよな」

「俺の目視だとDはあるな」

「いや、あの盛り上がりはEだと思うぜ」

「まったく、お前らはどこ見てるんだよ……」

「でも長谷だって女のチチ見るだろ?」

「まぁ、生物学上男だから否定はしないけど。確かにスタイルはいいよな。彼氏とかいるんだろうか」

「なんだぁ長谷?狙ってるのか?やっぱそういうの好きなんじゃねぇか」

「いや、単純に興味で思っただけだよ」

「桜井は彼氏いないぜ。だってよ、隣に相模が常にいるから近づいたらズドン!だぜ?」

「相模はガードマンか何かかよ……」

「でもよでもよ、桜井ってレズ疑惑があるらしいぜ」

「どこ情報だよそれ」

「坂元ネットワークによるとだな……」

「信憑性に欠けるなぁ……」



 多感な高校生はなにかと忙しいものであった。




―――――――――――――――――――――――――



 時は戻り8月6日、午後2時30分。原秋葉の自室。

 秋葉は友人宅に電話をしていた。


『はい、長谷です』

「あ、長谷の親父さん。ご無沙汰してます、秋葉です」

『おお、秋葉君か。久しぶりだね。雄理は今居ないよ』

「そうなんですか」

『なんでも、僕の弟が勤めてる大学に研究にいってるんだとか。つくづくアイツに似てきたよ雄理は』

「はっはは、そうですか」

『ああ、ごめん要件を聞いてなかったね。雄理に伝えておくよ』

「15日から3日間友人たちとキャンプをやる予定なんですが、雄理君も予定空いてたら来てねとお伝えください」

『うん、確かに伝えとくよ』

「それじゃ、失礼します」


 長谷は叔父の勤める大学で研究、か。電話を切った秋葉は独りつぶやいてもう1人の友人宅へコールしていた。


『はぁ、はぁ、はぁ……もしもし?セールスならお断りだぜ』

「坂元?俺だよ」

『はぁ……ぜぇ……なんだ、秋葉か。どうした?』

「どうした?そんな興奮して。エロゲでもやってたか?」

『バッキャロ、エロゲごときでそんな息荒げたりしねーよ……ぜぇ……剣道の練習だ……』

「そうだったか、邪魔したな」

『あぁいや、ちょうど休憩するところだったからいいんだ。で?要件は?数学の課題なら写させねぇぞ』

「課題はまた後日頼み込むところだったんだが……まぁいいか。キャンプに行こうよ。有希に誘われてさ」

『キャンプゥ!?いいね、いつ?』

「15日から3日間の予定らしいよ」

『15日ね、オッケー……いや、待てよ、15日から3日間……相模も来たりしないよな?』

「ん?発案者が桜井だって話だから来るんじゃないかな。だって桜井と有希と俺達3人だと男女比がおかしいしな。どうしてそう思うんだ?」

『相模は夏休みの間ほぼ毎日ウチの道場に1~2時間練習にくるんだが、15日から3日間練習予定がぽっかり空いてんだ』

「なるほど、じゃあ相模も確定っぽいな。で、相模が来るとなんかまずいのか?」

『いや、アイツ大会近くてぴりぴりしてる時期だからさ。別にキャンプに行くのはいいんだが、キャンプ中にアイツが急に練習したがったらどうするよ……』

「付き合ってやれよそんくらい」

『やだよ、かったりーもん』


 その時、電話口の向こうから小さく女性の声が響いた。


『坂元?休憩は終わりじゃないのか?』

『げっ、噂をしたら……練習戻るわ。じゃな、秋葉!』


 慌てた様子で電話を切る坂元。秋葉は苦笑いし、戸川にメールの返事を送った。


『送信者:俺

 8/6 14:37

 おはよう。

 長谷はまだわからないけど、坂元はほぼOK。

 詳しいことわかったらまた連絡ちょうだい。

      秋葉』



 メールを送った後、秋葉は大きく欠伸をしてから、もう一度床に入った。



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