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短編たち

長財布の弱点?

「長財布ってどうして流行ってるんだろうなぁ」


 大学の古びた食堂の中で、俺はチューナーを取り付けた時代遅れのアナログテレビを眺めながらそんな事を言っていると、唐突に画面が砂嵐になった。


 しょーがねーなーとテレビの所へ近寄っていくと、後ろから向かいに座っていた後輩ちゃん(女)がラーメンを飲みこむように食べながら、興味もなさそうにもぐもぐ答えた。


「ごっくん、ん~、カッコいいからだし、流行っているって言われたからじゃないですかね。やっぱり皆時代の波に乗りたいですし、『流行るかも』と言われたら皆先を行くためにどんどん買っちゃって結局流行しちゃうんですよ。全身タイツが流行りそう、ってネットに垂らし込めばきっと流行しますよ」


「じゃあ未だに長財布持ってない俺はコイツと同じってことか」


 目の前のノイズ音がうるさいポンコツを叩きながら自嘲した。


「でもさ~」と再びニュースの特集「長財布大流行!」を映し始めたポンコツを見ながら、


「あまりにも不用心だよなぁ、これ。盗んでくれって言ってるようなもんじゃない?」


 テレビを指差すと、そこにはジーンズの後ろのポッケに長財布を差し込み渋谷を闊歩している青年の姿がある。正直言って後ろの財布の所為で歩くのに邪魔そうだ。


「ん~、別に良いんじゃあないですかぁ」と後輩ちゃんのやる気の無い返答が返って来る。

「日本は比較的にモラルありますし、治安も良いですから気にする事でもないんですよ。事件のエンカウント率なんか超低いですし」


「そんなもんかな」


「そんなもんですよ」


 そこで後輩ちゃんは溜息を吐いて、


「でもその分無防備なんですよねぇ。海外行ってもその調子だったら五秒でスラれますよ、五秒で。なんせ日本人なんて向こうにとっては格好のカモですからね。そうでなくとも、観光地には通常の価格の数倍で販売して、日本語表示で日本人の信頼を勝ち得てぼったくるんですから」


「うわ、えげつないなぁ。そういえば後輩ちゃん帰国子女なんだっけ?」


 確かイギリス人とのクォーターとも言っていたような。

 後輩ちゃんは胡散臭そうにこちらを見て、


「その後輩ちゃんって言い方止めてもらえません? まあ確かに帰国子女ではありますけど。そうでもなければ国際科なんか来ませんけど」


「ま、でもあれだよね」


「あれってなんです?」


「いやさ、東京の渋谷とか原宿とか行けばさ、財布盗み放題だよな」




一日後。


 後輩ちゃんは大学の食堂で茫然とテレビのニュースを眺めていた。


『先日、東京の渋谷で数十人が財布を盗まれる、という事件が発生しました。狙われたのは全て長財布ばかりで被害総額は50万と推測されています――』


 すると後ろから声が掛けられた。昨日の先輩くんだ。


「おい、後輩ちゃん。なんか昨日一杯収入貰えたからさ、今日奢るから夜ランチ行かない?」


「どういう口説きかたですか・・・・・・」


 あきれて物も言えない後輩ちゃんはふと先程聞いていたニュースを思い出し、そして先輩くんの話も思い出し、それに昨日の話も加味するとこれやばい結論が出る事に気が付いた。


「先輩!」


「うん? ランチ行くの?」


「私は先輩の事、絶対訴えませんから!」


「??」


この後輩ちゃんは何を言っているのだろう、と先輩くんは思った。

今日はたまたまバイトのボーナスが増えたからランチ誘っているのに。


その先輩くんの後ろで、

豪華絢爛うな重セット(定価5000円の超リッチ仕様)を食べている青年がほくそ笑んだ。

テーブルの下に、4、5個の長財布を持ちながら。


 ちなみに今は長財布持ってます。

 いいなー大学、憧れるなあ

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