表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

連載になるかもしれない、ネタ集

連載になるかもしれない、ネタ。2

作者: 海野 真珠

前作と関係があるような、ないような・・・?


「嫁いでくれぬか」


 澄んだ空気の、星の綺麗な夜だった。

 珍しく晩酌の誘いに来た父王と供にテラスで星見酒を楽しんでいれば、唐突にかけられた言葉。


 しかし、驚きはなかった。

 むしろ、どこか安堵さえしていた。


 取り巻く環境から、いずれは来ると覚悟していた。

 18歳。適齢期。

 20歳までに第一子をもうけることを考えれば、遅すぎるのかもしれない。


何処いずこへでも」


 グラスを傾け、了承を伝えれば、なぜか苦い顔をされた。

 嫁げと言ったのは、自分であろうに。

 

「・・・よいのか?」

「わたくしに、否は申せませんでしょう?」


 何をいまさら、と笑う。

 わたくしの意思など、無いも同然であろうに。


 ただ・・・


「ひとつだけ、我儘を申しても?」


 聞き入れてくれるとは、爪の先ほども思ってはいないが。

 いうだけ、言ってみてもいいだろう。

 そんな、軽い気持ち。


「申してみよ」


 どこか嬉しげな父王に苦笑した。


「わたくしに剣を捧げたあの者を、供に」


 チラリと、テラス入口に立つ、騎士を見る。

 数年前、唯一わたくしにだけ、その剣を捧げた、騎士。

 常に傍らにあり、わたくしのみを守る、剣。

 もの静かなその男は、この話を一体どう思うのか。


「あの者を、か・・・?」

「はい。最初で最後の、我儘ですわ」


 18年間の月日の中で、ただの一度も言ったことのない、我儘を。

 嫁ぐと決まったその瞬間に、夫となる男とは違う、男のために、使う。


 はたから見れば、正気をも疑われるであろう、行為。

 しかし、わたくしに、後悔はない。


「男連れで、嫁ぐ、と?」

「わたくしに剣を捧げた、護衛ですわ」


 どうせ、わたくしに従者などつかないのだから、と笑う。


 わたくしを取り巻く環境は、わたくしが一番知っている。

 昨日16歳で嫁いだ妹姫よりも、わたくしの方が嫁ぐのが遅いのも、そのため。


「わしは、オマエが一番、愛おしい」

「父上からの愛を、疑ったことなどございませんわ」


 だからといって、いつまでも此処ここには居られない。


「・・・・数多の側室を持つ王の、正妃となれ。子のおらぬ王の、世継ぎを産め」


 その言葉で、わたくしの嫁ぎ先を知る。

 大国として名をはせる、しかし、歴史の浅い国。

 陰で成り上がりと言われる、かの国。

 小国だが、歴史ある我が国。


 欲しいのは、互いの名誉プライド


 なんと、馬鹿馬鹿しいものか。

 しかし、わたくしの嫁ぎ先として、これ以上のところは、ない。


「国王陛下の御心のままに」


 臣下としての礼を取り、物言いたげな父王を残し、席を立つ。

 一度も振り返ることなく、テラスを出る。


 付き従うのは、騎士、ただ一人。



「聞きましたね?」


 薄暗い廊下を、ただ前を見て、進む。


「はい」


 静かな声が、響く。


「近日中には、出発になるでしょう」


 振り返ることなく、告げる。

 一分の乱れもなく、付き従う、足音。

 それに、口元に笑みをはく。


「わたくしと、供に」


 自室の扉を開け、1歩、踏み込む。


「貴女様の御心のままに」


 振り返り、入口で膝を折るその男に差し出す、右手。


「貴女様の御傍より他に、この身を置く場などございません」


 恭しく取られたその指先に、何度目かわからない忠誠の口付けを、受ける。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ