連載になるかもしれない、ネタ。2
前作と関係があるような、ないような・・・?
「嫁いでくれぬか」
澄んだ空気の、星の綺麗な夜だった。
珍しく晩酌の誘いに来た父王と供にテラスで星見酒を楽しんでいれば、唐突にかけられた言葉。
しかし、驚きはなかった。
むしろ、どこか安堵さえしていた。
取り巻く環境から、いずれは来ると覚悟していた。
18歳。適齢期。
20歳までに第一子をもうけることを考えれば、遅すぎるのかもしれない。
「何処へでも」
グラスを傾け、了承を伝えれば、なぜか苦い顔をされた。
嫁げと言ったのは、自分であろうに。
「・・・よいのか?」
「わたくしに、否は申せませんでしょう?」
何をいまさら、と笑う。
わたくしの意思など、無いも同然であろうに。
ただ・・・
「ひとつだけ、我儘を申しても?」
聞き入れてくれるとは、爪の先ほども思ってはいないが。
いうだけ、言ってみてもいいだろう。
そんな、軽い気持ち。
「申してみよ」
どこか嬉しげな父王に苦笑した。
「わたくしに剣を捧げたあの者を、供に」
チラリと、テラス入口に立つ、騎士を見る。
数年前、唯一わたくしにだけ、その剣を捧げた、騎士。
常に傍らにあり、わたくしのみを守る、剣。
もの静かなその男は、この話を一体どう思うのか。
「あの者を、か・・・?」
「はい。最初で最後の、我儘ですわ」
18年間の月日の中で、ただの一度も言ったことのない、我儘を。
嫁ぐと決まったその瞬間に、夫となる男とは違う、男のために、使う。
はたから見れば、正気をも疑われるであろう、行為。
しかし、わたくしに、後悔はない。
「男連れで、嫁ぐ、と?」
「わたくしに剣を捧げた、護衛ですわ」
どうせ、わたくしに従者などつかないのだから、と笑う。
わたくしを取り巻く環境は、わたくしが一番知っている。
昨日16歳で嫁いだ妹姫よりも、わたくしの方が嫁ぐのが遅いのも、そのため。
「わしは、オマエが一番、愛おしい」
「父上からの愛を、疑ったことなどございませんわ」
だからといって、いつまでも此処には居られない。
「・・・・数多の側室を持つ王の、正妃となれ。子のおらぬ王の、世継ぎを産め」
その言葉で、わたくしの嫁ぎ先を知る。
大国として名をはせる、しかし、歴史の浅い国。
陰で成り上がりと言われる、かの国。
小国だが、歴史ある我が国。
欲しいのは、互いの名誉。
なんと、馬鹿馬鹿しいものか。
しかし、わたくしの嫁ぎ先として、これ以上の国は、ない。
「国王陛下の御心のままに」
臣下としての礼を取り、物言いたげな父王を残し、席を立つ。
一度も振り返ることなく、テラスを出る。
付き従うのは、騎士、ただ一人。
「聞きましたね?」
薄暗い廊下を、ただ前を見て、進む。
「はい」
静かな声が、響く。
「近日中には、出発になるでしょう」
振り返ることなく、告げる。
一分の乱れもなく、付き従う、足音。
それに、口元に笑みをはく。
「わたくしと、供に」
自室の扉を開け、1歩、踏み込む。
「貴女様の御心のままに」
振り返り、入口で膝を折るその男に差し出す、右手。
「貴女様の御傍より他に、この身を置く場などございません」
恭しく取られたその指先に、何度目かわからない忠誠の口付けを、受ける。