19話 冷凍食品
「最近はほんと、便利になったわねぇ」
と、母さんはレンジの前で腕を組みながら言った。
「パスタにラーメン、ご飯もの、なんでも揃うのよ。しかも、下手に作るより美味しいの。どういうことかしらねぇ?」
そう言って、チンと鳴った電子レンジから湯気の立つパスタを取り出す。湯気の向こうで、母さんの目が笑っていない。
「母さんだって一生懸命作っているのよ。ほら、このトマトソースのピザなんて、母さんじゃないと出せない味なのよ?」
そう言って、母さんはにっこり笑った。けれどその笑みは、どこか冷蔵庫の奥で忘れられた生肉のように、じっとりと冷たかった。
「だってこのソース、隠し味に“秘密”が入ってるんだもの。ふふ、誰にも真似できないわよ」
フォークを手にしたまま、ぼくは一瞬、動きを止めた。母さんの視線が、まるで包丁のように突き刺さってくる。
フォークを持つ手が、じわりと汗ばむ。
「“秘密”って……何入れたの?」
ぼくがそう聞くと、母さんはオーブンの中を覗き込みながら、ぽつりと答えた。
「ちょっとね、近所の野良猫が最近うちの花壇を荒らしてたから……お礼にね」
え?と声が出そうになったけれど、母さんはすでにピザカッターを手にしていた。ギリギリと、まるで骨を断つような音を立てて、ピザを切り分ける。
「でも安心して。ちゃんと火は通してあるから。ほら、トマトソースで見えないでしょ?赤いの、どこまでがトマトか分からないくらいでしょ?」
母さんは一切れを皿に乗せて、ぼくの前に差し出した。
「さあ、冷めないうちに食べて。母さんの“手作り”なんだから」
湯気の向こうで、母さんの目がようやく笑った。
でも、それはとても楽しそうで、そして、どこまでも恐ろしかった




