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18話 お風呂掃除

 ごしごし! ごしごし!


「ふぅ~、このタイルの目地にこびりついた汚れって、なかなか落ちないのよね」


 母さんはゴム手袋をキュッと鳴らしながら、タイルを根気よくこすり続けていた。ブラシの先が擦れるたびに、どす黒い水がじわりとにじみ出てくる。


「まったく、襲撃も少しは考えてほしいわ。後の掃除のことを。お風呂場で始末したのは正解だったけど、バスタブがまるでトマトスープじゃないの」


 湯舟にはまだお湯が張られていた。いや、もはや“お湯”と呼ぶにはあまりに赤すぎる。まるで高級レストランのビーツスープ。しかも、具入り。

 母さんはため息をつきながら天井を見上げた。そこにも赤黒い飛沫が点々と広がっている。


「天井まで飛ぶなんて……掃除する身にもなってほしいわね。次からはもう少し自重してもらおうかしら」


 そのとき、風呂場の隅で“ぴちゃっ”と水音がした。


「……あら、まだ動いてたの?」


 湯舟の中では、“具”がぷかぷかと浮かんでいた。指先、髪の毛、そして……あれは、歯?

 母さんはそれを見て、ふっと微笑んだ。


「次は、もっと静かにしてもらわなきゃね。お風呂はリラックスの時間なんだから」


 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。


「はーい、今行きますよ~」


 母さんはゴム手袋を外し、エプロンを整えると、何事もなかったかのように風呂場を後にした。

 その背中に、湯舟の中から“ぷくり”と泡がひとつ、静かに浮かび上がった。

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