12話 いきなりの断水
最近の日照り続きで我が家も水不足、午後から断水のお知らせの回覧板がきた。
「午後から断水ですって。困るわねぇ…」」
ふと部屋を見渡して、私はため息をついた。運悪く、さっきの戦いで襲撃者の返り血が、床、壁、天井、そして観葉植物にまで、赤い飛沫が点々と飛び散っていた。
これ、そのままにはできない、けどどうしましょう…
お掃除、お洗濯、お皿洗いと、どれも水は必要なのです。
返り血の処理に使ってしまえば、夕飯の鍋が洗えない。
私は雑巾を手に取って、しばし考えた。 …いや、やっぱり後回しにしよう。
返り血は乾けば、ちょっとしたアートに見えなくもない。
万一ご近所に見られても、「あら、ちょっと模様替えしてみたのよ」って言えば済む話。
最近流行ってるのよね、赤をアクセントにしたインテリア。
「まあ…奥様、どうなさったのかしら、そのお部屋…?」
玄関先からふと視線を上げた西園寺さんが、うちのリビングの奥を見て固まった。
視線の先には、赤黒く染まった壁紙、まだ乾ききらない床の飛沫、そして血の滴る観葉植物。
まるでホラー映画のワンシーン。
けれど、母さんは慌てない。 むしろ、にっこりと微笑んで、まるで新しいカーテンでも褒められたかのように言った。
「あら、気づかれました?ちょっと模様替えしてみたんですの。最近、アートって“生きてる感じ”が大事って言うじゃない?」
西園寺さんは目をパチパチさせながら、「そ、そうですのね…まぁ、斬新な…赤ですね」と、言葉を選ぶのに必死。
「ええ、トモちゃんがね、夜な夜な創作意欲を爆発させちゃって。もう、芸術家肌で困っちゃうわぁ」
そのとき、奥の部屋から「みゃ〜」と一声。 西園寺さんの顔が引きつる。
「まあ…お、お邪魔しましたわ…!」
彼女はぴしゃりと門を閉めると、足早に自宅へと戻っていった。
母さんはその背中を見送りながら、ふぅと一息。
「危なかったわね、急に断水になるなんて…」




