1話 朝ごはんはウインナーと目玉焼き
「トモちゃ〜ん、朝ご飯できてますよー」
母さんの、極上のハチミツみたいに甘い声で目を覚ました。
その裏では、銃火器の発射音や“ギャァア!”という悲鳴が、まるで朝のBGMみたいに響いている。
うちの朝は、いつもこんな調子だ。階下からは、鼻を刺すような血の匂いが漂ってくる。
「今起きるよ、母さん」
布団から身を起こすと部屋の寒さに布団の中に逆戻りしてしまった。
「トモちゃ〜ん、ご飯が冷めちゃうわよー」
「う〜ん、あと5分」
「トモちゃ〜ん、ほら、お隣の朝倉さん御一家みたいに冷たくなっちゃうわよ?」
その言葉に俺は飛び起きた。前にも寝坊して朝ご飯を食べずに学校に行ったらお隣で一家殺害事件があったのだ。
制服に着替えて階段を降りていくとトーストの焼ける香ばしい匂いが漂って来る。
ガシャーン!
台所の窓を破って黒ずくめの男が侵入した瞬間──
パーン!
母さんのSIG-Sauer P239が迷いなく火を吹く。
パンパンッ!
侵入者たちは反撃の暇すらなく、次々と沈んでいった。
母さんはフライパンに油を薄くひくと卵を割り、手慣れた感じで目玉焼きを焼く。焼き加減は俺の好きな堅焼きだ。じゅわ、と油が弾ける音がして、白身の縁がカリッと色づいていく。
「はい、トモちゃんの好きな堅焼きね。黄身は潰しておいたわよ〜」
背後では、倒れた黒ずくめの男がまだピクピクしている。
母さんはそれを足で軽くどかしながら、トーストを皿に乗せた。
「母さん、後ろの人……どうするの?」
「あとで回収班が来るから大丈夫よ〜。ほら、座って座って」
母さんは慣れた手つきでテーブルの上から血しぶきを拭き取り、
まるで“パンくずでも払うような軽さ”で処理を終えた。
「いただきます」
俺は席につき、目玉焼きをトーストに乗せてかじる。
外はカリッ、中はふわっとしていて、黄身の香ばしさが口いっぱいに広がる。
「……うまい」
その瞬間、背後でまた窓ガラスが割れた。
ガシャァン!!
「二人目かしら〜? 今日は多いわねぇ」
母さんはフライパンをくるりと回し、そのまま投げた。
ゴンッ!!
「ぐぼっ!?」
黒ずくめの男はフライパン直撃で床に沈んだ。
母さんは回収したフライパンを水でさっと流し、何事もなかったようにベーコンを焼き始める。
「トモちゃん、ベーコンはカリカリ派だったわよね〜?」
「うん。……母さん、今日も平和だね」
「そうねぇ。平和が一番よ〜」
銃声と悲鳴がまだ遠くで響いている。
でも、我が家の朝はいつも通りだった。




