葉子のノート21ーママのノート
放課後。
リビングのテーブルに、ノートが置いてある。
ずいぶん使いこまれたノートだ。
ママのかな?
『葉子が疲れた顔で帰ってきた。中学受験の過酷さに、あの子が耐えられるだろうか。心配だ』
……ノートの最初のページを開く。
私が赤ちゃんの頃の事が書いてある。
『葉子は少し発達が遅いのかもしれない。すぐにどこかにいってしまうし、落ち着きがない』
『なかなか言葉が出ない』
『葉子が絵本を好きになってくれた。嬉しい。たくさん読んであげよう』
どんどんページをめくる。
たくさん書かれているのは、あおばに入ってからの事だ。
『宿題にめちゃくちゃ時間がかかる。字を書くのが遅いし、すぐに疲れたという。次の検査の結果が怖い』
『部屋の掃除と片付けを頑張ったら、葉子が少し落ち着いて勉強出来るようになった。今までサボっててごめん。もっと頑張ろう』
『私も発達障害なのかもしれない。葉子の検査結果を見て、思い当たる事がある。遺伝ということだろうか。……葉子、ごめんね』
ページをめくる手が止まらない。
たぶん、見てはいけない。
『葉子の特性は多分、私にかなり似ている。葉子にどうやって九九を教えるか悩む。私と同じやり方で教えるべきだろうか。
……でもあれは、幼い時に母を亡くして九九を教えてもらえなかった私が、自分で偶然見つけたやり方だ。
人と違うやり方を押し付ける事が、あの子のためになるのだろうか』
『言ってしまった。You Tubeで九九の歌が流れたのを聞いて、とっさに口をついて出てしまった。
あの歌で覚えて欲しくない、と思ってしまった。
私は自分の九九の歌が好きだ。でも、葉子が混乱して、かえって九九が苦手になってしまったらどうしよう。』
ポタ。ノートが濡れてしまった。




