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作る

あぁ、殺してしまった。


僕が、君を。


思わず時間を止める。考える時間がほしかった。


僕は間違いを犯してしまったようだ。


大好きな君を、絶対に失いたくない君を、殺してしまった。


たしかに僕は、君を殺すしかなかった。


でも、後悔だけが残り、正しさがわからなくなってくる。


ひとり、宿屋のベッドで床を見る。


雨音は僕を覆い、閉鎖感に囚われる。


視界はすべてが暗く、焦点が合わない。


"あいつ"には、会いたくない。

でも、どうせ来るのだろう。


「ちゃんと殺したね、えらいえらい!」


僕の前に、小さな女の子が立っていた。

黒く、首元で切りそろえられた髪の毛には桃色の輝くメッシュが入っていて、彼女の瞳の色と等しい。

僕が知っている、黒色と桃色と白色という色遣いのゴスロリも変わらず、彼女の不気味さを引き立てている。

ほら、思った通りだ。来てしまった。


「……今そんな気分じゃないんだけど」


小さい子を追い払うかのように、彼女に話しかける。

知っている。彼女は僕より年上だ。

しかし、気分的にはそうなるのだ。


「いやぁ、いい感じに絶望してるじゃん。で、どうするの?」


どうするの?というのか。

僕はマトリスを殺してしまった。

もう、何かすることはない。

この後なんて、必要ないのに。


「もう、いい……」


いや、違う。

この言葉を言い切ってはいけない。

彼女たちは、言葉を信じる。

すぐに、行動に移してしまう。

彼女が今、わざわざ僕に聞いたのはなぜか。

それはまだ、僕に打つ手があるから。


何だ?彼女が持っている、僕がまだ生き続けたい思うような、そんな案は。


僕が生きたいと思う、つまりはマトリスが生きている世界ということになる。

いや、僕が今、ベッドの上で殺したんだ。

だから……いや、違う。


僕は1回、覆したじゃないか。

愛する君の死を、彼女の手を借りて。


「僕に、力を貸せ。もう一度、マトリスを生き返らせる」


先ほどの言葉から、少しも間を空けずに僕は発言する。


「えー、もっときつい代償、もらっちゃうよ?いいんだ、へぇー」


ニヤニヤしながら、女の子は僕の前に歩いてくる。


「もちろん、文句はない。僕の指示をのむのならば」


「じゃあ、もっと魅せてよ、美しい悲劇を、もっと素晴らしい物語を!」


彼女は大げさに、手をバッと広げる。


彼女が続けた代償は、これだ。


僕がマトリスを生き返らせる手伝いのために何でもする代わりに、100年後には自ら死ぬこと。


「自殺だよ、もちろん、マトリスも殺してね……あぁ、悲劇的だ!きっと、すばらしい物語になる!」


前回に捧げた代償は、マトリスを生き返らせる手伝いをする代わりに、マトリスが絶望に落ちたときに殺すこと。

殺し方は簡単だった。

彼の依代、人形は、彼女から借りた力で動いている。本来は魂から脳に、そして体に伝わっていた電気信号を作り出す役割だと言われただけで、僕に詳しい仕組みはわからない。

それを壊せばよかったんだ。それだけ。

簡単に壊せるように、とわざわざ首元に。


「……いい。それでいい」


100年と限られた未来か、マトリスのいない空虚な永遠か。僕が取る選択肢なんて、1つしかない。


「じゃ、決定で!」


彼女が元気よく答えた瞬間、宿屋は黒く、それでもって何色とも言えるような光に包まれた。

2回目だから、わかる。

僕らの契約は今、試行されたのだ。


「帰ろうか、ニスっち」


彼女は手を差し出す。


「ふん」


僕を愛称で呼ぶなんて、マトリスにしか許されない暴挙をしてくる彼女を、どうして好意的に見られようか。

僕はその手を取らず、1人宿屋を出て時間停止をといた。








言うまでもなく、彼女は僕の家までついてきた。


帰る途中、先ほどのギルドを潰したのがよくなかったか。追いつかれてしまった。

どうせ彼女たちには、僕らの魔法とは違う力がある。

何もなくても追いつかれていただろう。

でも、そんなもののせいにしたくなかった。


「ねー、ニスっち。魂は保管しておいたけど、人形は燃やしてきたから。新しいのでいいよね?」


彼女は知らない。僕がこっそりと、彼女の技術を見様見真似で奪い、マトリスの肉体を蘇生させようとしていることを。


「うん、アクセサリーは回収したからね……。人形作りは僕がやる。あと愛称で呼ぶな」


僕は家に帰った。まずはマトリスの魂の入った円柱の容器を、絶対に壊れないように棚の中へとしまおう。

そもそも容器も彼女がくれたものだから壊れようがないのだが、念の為だ。


「マトリス、僕は君を殺してなんかいないから……ね、君は寝ていただけだ。何も、なかったから」


棚にしまう前に、そう語りかける。


「またそれやってるの?前は自分を好意的に見るように洗脳して、今回は罪をなくそうってわけ?面白いことするよね、ほんっと」


呆れたような、笑っているような声で彼女は僕を非難する。


「僕に君しかいないように、君にも僕しかいないからね……絶対、離れないでね……お願い……」


「もう、所有物みたいなものだね。魂からぜーんぶ君が思うように作り上げてるんだから」


「うるさい」


僕の懇願は、彼女から見たらただの洗脳か。

たしかに、魂は僕の言葉に反応している。

でも、僕が君を手に入れたんだ。

何をしたって、僕の勝手だろう?


「それを、許してくれよ……」


自然と、そう呟いていた。








もう50年は経っただろうか。

木の選定から人とするための魔法の行使まで、すべてを終わらせた。


僕は、前回と同じようにマトリスの依代となる人形を彼がいつも使用していたベッドへと設置する。

そして、彼女に頼みそれに魂を動かしてもらう。


「絶対に、今度は死なないでね……僕が何が何でも守るから、絶対に生きててね……そして、僕も絶対に君から離れない。だから僕から離れないでね……お願いだから、もう、1人にしないで……この家に帰ってきて、なんだかんだ言いながら必要もないご飯を食べる、そんな日々を過ごそう、2人で、幸せに……」


僕は彼に話しかける。

もう、聞こえているだろうか?

暗示となるように、何回も言ってきた。

僕自身にも、彼にも。


「絶対なんてないのにさ、ほんっと愚かだね」


彼女はその様子を見ながら、蔑むように笑う。


いいじゃないか。僕の自己満足だ。


「ここからは前回と同じだ。帰っていいよ」


「はーい、じゃ、だめだったら呼んでよ」


「不吉なこと言うな」


僕は彼女が光の粒子となって消えていくのを見届け、マトリスの前に立つ。


前もそうだった。3日ぐらいで起きてくれる。

3日ぐらいだったら、何もせずに待てる。

食事はもとより必要なし、時間なんて、マトリスとの未来のことでも考えていれば無限に潰せる。


彼と一緒に、何気ない日々を大切にしよう。

たまにはプレゼントとかもしたりして。

絶対に彼を不安にさせないように。

彼が幸せを感じてくれるように。


あぁ、それでも終わりは来てしまう。

僕が作り出した、100年という時間制限。

すでに50年が経ったんだ。

あと50年しかない。そんな期間で何ができる?


本当に、毎日を大切にするしかなさそうだ。

最終手段は、契約を……。

いや、これは本当に最終手段。

今はただ、マトリスを幸せにしたい。

その方法だけを考えて……。


「ニスクリ……?俺、何してた?」


マトリスがゆっくり目を開ける。

彼の記憶は、旅行に行っていたあたりから洗脳し……えーっと、消えているはずだ。


「急に倒れちゃったんだよ、びっくりしたんだから。……よかった」


「……なんで、ニスクリが泣いてるの……?」


泣いている?この僕が?


……あぁ。寂しかったのか。

あと50年しか生きられないという事実、そして、マトリスと一緒にいられるのも、あと50年だという事実が。


そう実感した途端に、頬を伝う涙のあたたかさに気がつく。そして、その冷たさにも同時に気がつく。


突如、不安に襲われる。

今までははっきりとしていなかった、未来というものに、不安を感じる。


思わずすっと座り込む。


「ニスクリ!?」


マトリスは、僕を案じてかがんでくれる。

優しさが、しみる。


「僕が……今度こそ、君のために……」


その日はずっと泣いていた。

貴重な1日を、無駄にしてしまった。

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