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別れる

目の前で、爆発が起こった。


風が吹き荒れ、耳は使い物にならなくなる。

目も光にやられたようだ。


俺は何もわからない中、壊された。


愛しき君からの大切なものを、すべて壊されて。


そして、最後のひとつすら、壊された。










「今日はさ、隣町にでも行ってみようよ!」


ニスクリ……俺の、大切な人。

いわば親友のようなものだろうか。

いや、そんな俗な言葉では言い表せない。

彼の笑顔はいつでも輝いていて、俺を見つめる瞳はいつも金色に光を放っていた。


「えぇ……でもさ、外に出ちゃだめだって…」


俺は彼の誘いを断ろうとする。

しかしそれで止まる彼ではない。

俺を家から連れ出そうと、どんな手でも使ってくるのだ。


「いいじゃん!きっと大丈夫。何かあっても僕が守ってあげるから」


彼は俺の腕を引っ張り、誘い続ける。


「俺のほうが魔法は上手なんだけど」


何か断る方法がないものか、俺はひたすら考える。


「僕のほうが体術は得意!」


そんな抵抗もあっけなく、彼は俺を引っ張り出した。


俺は家の前の路地に出ざるを得なくなる。


茶色と赤茶色のタイルに、たくさんの白い石の家。

うちの目の前には、彼の家がある。


「さぁ、行こうか。マトリス」


こうやっていつも、俺を連れ回していたんだ。










「俺は……何を、した?」


目の前には、死体。

俺の手は、血に汚れている。

辺りは火に囲まれている。


「あぁ……あぁ……あぁ!殺した。俺が、殺した!」


この気持ちはなんだろう。

高揚感?罪悪感?それとも、達成感?


いや、何でもいい。俺は、やった。


やった……はずだった。


「……かはっ……お前、覚えてろ……」


まだ、生きている?


俺が刺した場所を押さえながら、歩いていく。

彼女は、歩いて、教室から外に出た。


「ま、待て!」


俺は追いかける。しかし、俺が放った炎に遮られる。


「先生!あいつが!マトリスが私を……!」


そんな叫びの声を聞く頃には、俺は意識を失わされていた。





「マトリス……僕は、君を信じてる。だから、聞かせてほしいの。君がどうしたいのか」


俺は、保健室にいた。

なんせまだ未成年。責任能力なんてありゃしない。

とりあえず監視付きで、治癒魔法を施された。

そして、親が来るまでの待機時間。

教師の目を盗みやってきたニスクリに問われた。


「俺は、別に何も満足していないわけじゃない。ただ、少し憂鬱になって、ただ、少し壊したくなっただけで」


言えない。ニスクリと仲良くしていた女子に、少し嫉妬していたなんて。


「うん、僕は信じる。君が正解だ。君がすべてだ」


彼は笑顔を見せる。

そして、近づいてきた。

綺麗な黒髪が俺の肩にかかる。


「ちょ、なに……」


「いーや、僕はほんっとに君が大好きなんだってだけ。だからさ、生きてね」


あーあ、お見通しか。










俺は、無力を痛感した。

まだ何もできやしない。いや、これからも。

俺のしたいことってなんだ?

これからどうすればいいんだ?

知らない、何もかも。


どうにでもなれ。


そう思って俺は外に飛び出していた。

ニスクリが教師に連れて行かれて、すぐに。

怪我の治癒など、終わっていないに決まっている。

でも、ここでさらなる事件を起こせば……?


もちろん、騎士団あたりが止めに来るだろう。


そうすれば誤って殺したなどありふれた話。


きっと俺は、捕まる前に死ぬ。





「放火の現行犯で逮捕する」


第五騎士団第2部隊の隊長、だったっけ。

俺に、杖を向ける。魔法が、放たれる。


「そんなのが効くわけないでしょ」


俺はそう言って、それらを跳ね飛ばすふりをする。

ふりだけだ。俺にできるのは、炎を出すことだけ。


「貴様っ……隊員全員に伝えろ。攻撃魔法の行使を許可する」


きたきた。これを待っていた。


「攻撃、開始」


俺は、四面楚歌の状況の中、星の数ほどの魔法に撃ち抜かれ、死の淵まで一瞬で追いやられた。




「ねぇ、マトリス……マトリスってば、ねえ!」


騎士団ではない。俺がこの声を聞き間違えるはずがない。この声の主は


「ニスクリ」


彼の魔法、だろうか。

魔法が使えないって話、嘘だったんだ。

時間が止まっている。

周りの人が動いていない。

そして俺もまだギリギリ生きている。

おそらく、この時間停止が終わったら死ぬ。


「マト、リス……!死なないでって、言ったのに……もう、どうしようもないじゃん」


泣いている、のか?

俺はもう、目が見えない。

わからない、彼が今どんな表情をしているのか。

彼がどんな気持ちなのか。


「もう、いいもん……」


「いやだ!僕がいやなの!絶対死なせてやらないから……僕が、君を守ってみせるから……」


少しずつ、でも確実に、時が動き出した。

もうニスクリの魔力が少ないのだろうか。


「さっさと逃げろ」


俺は最後に、彼にそう言う。


その瞬間から、時は動き出していた。










目を開ける。それだけの動作。

なのにひどく久しぶりな気がした。


目の前には、彼がいた。

驚きに見開かれた金色の瞳と、記憶と寸分違わない黒色の髪。


「ニ、ス、クリ……?」


俺は都合のいい幻影でも見ているのだろうか。


「……君の、名前は」


彼が俺に尋ねる。


「マトリス。マトリス・メチオニカロー」


俺がそう答えた瞬間、彼は膝から崩れ落ちた。


「あぁ……あぁ、あぁ!マトリスだ!成功したんだ。これでよかったんだ!あぁ!」


彼は泣き、笑う。


「え、えーと、ニスクリ?」


俺が話しかけると、彼はこちらを向いた。

その金色の瞳には、俺が映っていた。


「そうだよ。僕はニスクリ・チャーチコロン。やっと、やっと会えた」


そう言って、彼は俺に抱きついてきた。

……ん?

頭が回らない。え、抱きつかれた?

身動き1つ取れないし、そうなのだろうが……。


とりあえず周りを見てみよう。

俺はいったい、何があった?


見渡そうにも、ニスクリが邪魔で見えない。

ここはとりあえず、こうしてみよう。


「いったん、座らせて。疲れた」


そう言うとすぐに彼は俺を離してくれて、椅子へと誘導してくれた。




「ニスクリの、家……だよね?」


目の覚めた1室から出てリビングへとやってきたのだが、これはこれは、俺の知っている彼の家ではない。

いや、間取りとかは同じなのだが、家具の配置や雰囲気、そしてニスクリ自体も変化していた。

窓から見える景色は言わずもがな、俺の知っているこの国ではない。第一、俺の家がない。目の前にあったはずなのに。


「そうだよ。さぁ、かけて」


椅子を勧められたため、おそらく食卓であろうそこに座る。

ニスクリはパッとお茶を持ってきてくれた。


「じゃあまず、何を覚えてるか教えて」


何を、覚えているか……?


「俺は、どうなったんだ?これは一体どういう状況で、お前はどうした」


俺はとりあえず彼に質問を投げつけ続けるが、笑顔でかわして何一つ答えてくれない。


「まあまあ、君のことを教えてくれたら話すよ」


……だめか。なら、話そう。

俺はかいつまんで殺しを……まあ死んでなかったけど。そんなことはいい。あの日のことを話した。





俺が話し終わると、彫刻のように動かなくなっていたニスクリが動き出した。


「へぇ、そんな感じだったんだ」


その言葉は、なんだろう。

興味?呆れ?それとも納得?

俺には何一つわかりやしない。

だからそこは諦めて、今の状況を確認しよう。


「さぁ、こっちは話した。教えてくれ、ニスクリ。いったい何があった」


俺の言葉に、ニスクリは手を挙げて降参のポーズをとった。


「はいはい。話しますからお待ちくださいねー」


そう言って奥の部屋へと消えていった。




2分ほど経ってから。彼は帰ってきた。

手にはよくわからない機材のようなものを持って。

彼はそれを机の上に並べ、自分も席につく。


「それじゃあ、話すね」





彼が話したことは、到底信じられないような話だった。でも、俺の記憶とすれ違いがないのだから、それが真実なのだと認めざるを得なかった。


彼が言うには。

俺はあの時死んだ。

そのことを受け入れたくなくて、どうしようもなく覆したかった彼は、時間停止の魔法を使って俺の魂を特殊な機材に入れて保存しておいたらしい。

その時に俺の死体も一緒に回収していて、それは調整中らしい。あと少しでできる、と。

てっきりそれを使って俺を蘇らせたのかと思ったのだが、俺が今持っている体はお試しで彼が作った木の人形なのだった。いわば依代だ。

何も違和感がないから驚いた、と言ったら、ニスクリ自身のことも話してくれた。

なぜここからそんな話がつながってくるのか。

そこには彼の技術向上がある。

なんせ300年も経っているのだ。彼は自分の体にも時間停止の魔法を付与して、実質不老不死のような状況を作り出したらしい。そして、俺を生き返らせるためだけに魔法をひたすら勉強し、様々な技術も手に入れて、今の状態にたどり着いたんだとか。


「俺の、ために……そこまで?」


俺の感想は、それでしかない。

途方もない苦労があったはずだ。

迷いもあったはずだ。

なぜ俺を選んだ。

俺は思考が歪んでいる。力がなかったから希望を実現できなかった、ただの悪人だ。

ろくに彼の目を見ることもできないほど、引け目を感じていた。

でも、彼が俺にかけた言葉は美しかった。


「僕は、君が大好きだから」


シンプルなんだ。それだけなんだ。

でも、俺はその言葉と、彼の満面の笑みに救われた。

彼は言葉をこう続けた。


「たとえ君がどんな道を歩もうとも、僕は絶対にもう、君から離れない。何が何でも、君と一緒に生き抜いてやるから」


なんか……


「告白、みたい」


そう言うと、ニスクリは何を言っているか気がついたみたいで、顔を赤くした。


「……別に否定しないけど……いいよ、無視して」


そっぽを向いた彼は少し寂しそうだった。

でも俺は彼の言葉に返す言葉がわからなかった。

だから、先延ばしにするしかなかった。




その後決めたこと。

彼は一応仕事に就いているため、普段は仕事に向かうこと。でも俺のことが心配なため仕事はやめてくること。俺は彼が仕事をやめるまでの間、絶対に家からでないこと、そして異常が起きたら対になっている魔石に魔力を込めて伝えること。


「いい?守ってね」


彼との約束だ。守ってみせよう。絶対に。

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