心霊体質とオカルト好きと修学旅行
昔から霊感なんて全然ないけど
だからこそ
怖い話が大好きで
心霊スポットなんかにも行ったりしてみた
中学生だった時はせいぜい昼間に自転車で行ける距離
高校生になってからは電車に乗って足を伸ばしてみたけど
勿論
何もなかった
高校２年生で
初めて同じクラスになったＦと仲良くなったんだ
高校生にしては大人びてる
見た目も中身もふわっとしたお姉さんタイプの子
私はアホだからバランス取れてちょうど良かったのかも
うちの学校は
GW明けの色々諸々が安くなる時期に修学旅行あってさ
宿泊先は基本２人で１部屋
勿論
昼間行動するグループも一緒のＦと同室になったんだけどね
そのＦに
放課後に
「大事な話がある」
って呼び止められて教室に残ったんだ
何事かと思ったら
「言いにくいんだけど……」
と目を伏せて少し困った顔をして
それが妙に色気があってドキリとしてしまった
そのＦが話すには
自分は人より少し霊感的なものが強く
巫女体質で引き寄せ体質であり媒体体質であり尚且つ憑依系の特異体質でもある
普段は意識して寄せ付けないように
◯◯先生に教えてもらった通りに色々と抑えているし
(◯◯なのは私が名前忘れた)
昔からそういう体質だったから
起きている時は自分でも意識しているから大丈夫だけど
「寝てる時がね、凄く無防備になっちゃうみたいで……」
色々寄ってきたり怪奇現象なるものが起こるらしい
おぉ
非常に興味深い
お守り的なものは身に付けて寝ているけれど
万全なものではないと
Ｆは一人っ子で
多少の怪奇現象は
親はもう慣れっこだし家では問題ないという
でも他人と一緒の旅行ではそうはいかない
Ｆは
修学旅行は勿論
小学校の臨海学校含め一度も参加したこともなく
今回も休むつもりだったのだけれど
ずっとお世話になっている
◯◯先生が
(変な名前で覚えられない)
「その体質で楽しい思い出を作れないのも寂しいだろう」
と不憫に思い
「修学旅行のために、強めのお守りを作ってくれているの」
だって
優しいね
Ｆは可愛いもんね
しかし
「お守り」
とは
かなり強力そうなもの
見たい見たいとせがんでみたけど
前日まで◯○先生が持ってるんだって
ギリギリまで力を籠めるために
「それでね、君は怖い話とかがとても好きだと言ってたでしょ？
同じ部屋にもなってくれたし
話しても平気かなって
ううん
むしろちゃんと話しておかないとと思って……」
と上目遣いでさ
膝の上で指を絡める仕草にまたドキドキした
男の人は女の人の困った顔が案外好きとか聞くけど
こういう感じなのかな
ちょっと気持ち解る
……じゃなくて
そう
私は
内心のウッキウキを隠しながらも
具体的に何があるのかと聞いた
一般的に言われる心霊現象的なものが朝方まで起こり続ける
日によって違う日
寝る時はお守りをしていないと
あっという間にＦが取り憑かれるらしい
それは
さすがにウキウキではなく心からＦを不憫だと思ったよ
でも
それでも
「大丈夫、私もＦと修学旅行行きたい！」
「一度寝ちゃえば私絶対起きないから！」
指を絡めたＦの手に手を重ねて
「楽しみだねっ」
と笑ってみせた
それは心からの本心だし
大好きなＦがいなかったら修学旅行もつまらないし
一方で
心のほんの片隅では
「心霊現象なんてちょっとドキドキワクワク」
って
不謹慎なこと思いながら
修学旅行は初日
やっぱりワクワクで移動だけでも楽しくてさ
Ｆも初めての修学旅行にいつもよりテンション上がってて
なんか可愛かった
たまに
羨ましいくらい膨らみのある胸の谷間辺りを
手の平できゅっと触れてて
「あぁ、お守りを首から下げてるんだな」
って分かった
ホテルに着いてからも消灯時間までは
私たちの部屋でみんなでお喋りしてね
消灯時間に皆がそれぞれの部屋へ帰って行って
Ｆが不安そうにしてるから
「平気平気」
とね
私はもうワクワクを隠せずにＦを力づけた
Ｆは
「呑気ね」
とそんな私を笑ってくれて
２人共慣れない移動とはしゃぎすぎたせいで
消灯後は２人で話す間もなく
あっという間に寝落ちてしまった
私
そう
Ｆにも言ったけど
一度寝ると本当に起きない体質なんだよ
だから思う
あれさ
絶対起こしに来てるよね
あいつら
ぐっすりだったのにさ
顔に髪の毛纏わりつく不快感で目が覚めた
無意識に振り払ったけど
私は元気印のショートカット
あれ？
じゃあ誰の髪だ？
Ｆは綺麗な長い黒髪だけど
ベッドはツインの部屋でこちらに髪が届くほどは長くない
あ
これ
心霊現象だと
怖さよりも
やっと
やっと体験できた！
と飛び起きてさ
部屋を見回したけど暗くて何も見えない
少し目を慣らしてから隣のＦを見たら
Ｆは仰向けで胸のお守りしっかり両手で握りながら眠ってた
熟睡してるみたいで何より
視線戻したら
「……おっ」
ベッドの足許にシワシワの女？がいた
しゃがんでるのか這っているのか目だけこっち見てる
この相変わらずまとわりつく髪も
この女のものっぽい
頭皮見えるくらいスカスカだけど
ちゃんと髪の感触あるし
凄いなと思ってると
女が
筋と骨ばった両手を伸ばしてベッドに這い上がってきたところで
とれかけてパカパカ浮いてる爪
指の皮膚がズル剥けになってて
何やら色々と剝き出しになっていることに気づいた時点で
私は
そのあまりに生身感
その腐った様な死臭
その見た目
そのリアリティーの全てを目の当たりにして
(……無念)
気を失っていた
朝起きると
強く強く握ってたはずの髪の毛は消えていて
手の平には自分の爪痕が残っているだけ
Ｆは寝起きはよくないみたい
何とか起こして朝食連れて行ってさ
バスの中でやっと目が覚めたみたいで
「大丈夫だった！？」
って心配そうに私の顔を覗き込んできた
馬鹿正直に
「出たよ視えたよ凄かったよ卒倒した」
とでも伝えたら
Ｆが相当に気落ちするだろうと思い
「起きたら朝だった」
とすっとぼけたら
「……そっか」
Ｆはまたその羨ましいたけな膨らみに手を当てて
大きく息を吐いて安堵していた
２泊目も同じホテルでね
夜は
「さぁ来い！いつでも来い！」
って内心で気合入れて挑んだんだけど
なんのことはない
ただ普通におしっこで目が覚めた
消灯前の皆とのお喋り中に
調子乗ってちょっとジュース飲み過ぎた
Ｆは相変わらずお守りぎゅっとしてて
ただ
暗い部屋の中でも、少しだけ寝苦しそうに見えた
ユニットバスのトイレに座ったらさ
何もしてないのにいきなりバスタブのシャワーが
ザーッて流れ出して
私は怖さよりも
「就寝時間なのにシャワー浴びてるって先生に誤解されたらどうすんだよ！怒られる！」
ってそっちにビビってさ
うちの先生たち怖いんだよ
濡れないように手を伸ばして蛇口捻ったけどしっかり締まってるから
「こりゃホテルの水回りの不備だ」
って開き直って部屋に戻ったら
昨日の骨皮筋子がベッドにいた
しかもね
もうベッドに四つん這いで上がりきってて
こっち見てる
指だけでなく
肩も
纏ってる元ワンピースっぽいボロ布から見える背中もふくらはぎも
所々
肉のない筋から骨も見えてた
怖いより
ちょっと可哀想なくらい痛々しかった
いやいや
ここで同情なんかしたら
相手の思う壺で取り憑かれるのだ
ふふん
そう
私にもこれくらいの知識はあるのさ
そこでふと思ったよね
もしかしたら
Ｆも根が優し過ぎるから
こんな厄介な体質になってるのかなと
私は
相変わらずベッドに乗りこちらを見つめてくる骨皮筋子と同衾するつもりはさらさらなく
「ね、ちょっと詰めて」
とＦのベッドに潜り込んだ
Ｆの寝る布団の中はあったかくて
びっくりするほど甘い女の子の匂いがした
後は
Ｆのお守りがあるし平気だろうと思ったら
自分史上最高のおぞましいを越えた悪夢を見た
骨皮筋子と眠れば良かった
２泊目の朝も
Ｆに
「余裕で平気だったよ」
と手を振ったら
やっと
やっとＦも安堵できたようで
昼間もたくさん笑顔が見られて
私も友達として嬉しかった
嬉しかったんだけどね
別のお宿に移動した３日目の夜に
Ｆが隣のクラスの男子に呼び止められてさ
「邪魔しちゃいかんな」
と先に部屋に戻ったら
昼間は同じグループの仲良しの１人のＣがやってきて
「ね、大丈夫？」
と聞いてきた
「？」
Ｆを男に取られることか
いやいや友達なら応援するよ本音は超絶嫌だしＦを渡したくないけどと言いかけたら
「なんか、やつれてない？」
と思ってもみない
それは私に対しての問いかけだった
「え？」
やつれてる？
「つかれて見えたから、無理してはしゃいでるのかなって」
憑かれて？
いや
文脈的に
「疲れて」
だろう
そんな自覚はなかったからびっくりした
しっかり食べてるし自由時間でも滅茶苦茶色々食べまくってる
「全然、元気だよー」
と答えると
「んーそっか」
Ｃは
「考えすぎかな」
と肩を竦め
戻ってきたＦに
「Ｆに先を越されたー！」
と飛びついていた
しかしＦはしっかりお断りしたらしい
私も勿体なーいと言いつつ内心はガッツポーズしてた
Ｆは
彼氏より男より何より
まずは自身の厄介体質を何とかするのが先だろうしね
３泊目はホテルでなくね
伝統ありそうな旅館だった
それで
ノック系ね
コンコンッ
てタイプのお客様型心霊現象
明らかに意思のある
引き戸の振動すら微かに届きそうなさ
「人のノック」
を模したもの
令和の今はさ
直接部屋をノックなんてないんだよ
まずはLINE
ああ？教師だ？
ノックの後に
「◯◯さん」
って声掛けてくるよ
古めの旅館だから声なんて結構筒抜けだしね
勿論無視してたら
今度は広縁の曇り硝子から
コツッ…
コツッ…
てさぁ
こっちはズルい
小さな小さな小石を投げて当ててるような音
小石って
知ってる
昔の少女漫画じゃん
彼氏がこっそりさ
彼女の二階の部屋の窓に当ててさ
彼女が窓開けたら
雪が降り始めたら中
彼氏が手を振ってるの
「お前と一緒に今年の初雪一緒に見たくてさ」
とか言ってさ〜
きゃーロマンチックじゃん
母の持ってた古い漫画で見たよ
でも現実は
うん
駄目だ
心霊的な好奇心も大きいけど
Ｆのこと考えたら開けるわけにはいかない
それに
Ｆは少し、うなされるようになってた
窓のコツコツを無視して眠った私が
Ｆのうなされる声で
寝返りで目が覚めるくらいには
起こした方がいいのか放っておいた方がいいのか
「……」
悩んだけど
何も出来ない私が起こしたところで
ただ余計に寝不足にさせるだけ
かわいそうだけど
うなされるＦに背中を向けて眠るしかなかった
４日目はね
朝から先生に心配された
学校のさ
どこまでかは知らないけど
Ｆの事情を知っているらしい先生
生徒たちに
「お母さん」
って間違えて呼ばれる率No１のおっとりティーチャー
「大丈夫？」
って眉を寄せられて
Ｆのことかと思い
「少しうなされてます」
と報告したら
「あなたよ」
と呆れた顔をされた
友達に続き２人目
みんな優しいじゃん
「あと１泊ですから、一緒にいたいです」
と答えると
「無理はしないでね」
何とかね
Ｆとの別室は免れたよ
最後の１泊はね
大きなテーマパークの中のホテルだった
地方の
あそこじゃないよ
もっと、もーっと遠くの地方のテーマパーク
うん
あんま地方地方言うと怒られるな
だからさ
昼間はテーマパークでＦと目一杯はしゃいで
ホテルはユニットバスで
少し面倒だったけど疲れてからお湯溜めたんだ
顔は洗ったけど
手の平でお湯を掬って
顔にバシャッと掛けて目を開けたらさ
湯船が真っ赤に染まってた
わーぉ
さすがに驚いたね
血生臭くないのが救い
目の錯覚なのかな
ははっ
さすがに悲鳴上げかけたよ
Ｆのために堪えたけど
「ぐふっ」
って多少は漏れたけどね
先にＦを入らせておいてよかった
これどうなってんの
もしかしたらシャワーからも血が噴き出してくるの？
かなりビビりながらシャワー出したけど
シャワーは普通のお湯だった
しかし
本当に血なのか目の錯覚なのか分からないそれを
綺麗に流してから
身体も流した
最終日の夜は私達だけでなく
皆も疲れが溜まっているみたいで
誰の部屋に集まるわけでもなく
私とＦも就寝時間前に部屋の灯りを消していた
これだけ疲れていれば
簡単には起きないと思っていたんだけどね
相手もさ
とうとう力技で来たんだよ
ぐーすか仰向けで寝てたんだけどね
初めは額にかな
ピチャッ……
って何か垂れてきて
「あー暗い中で額に水垂らす拷問あったよな」
とかぼんやり思ってたら
今度は頬に唇にも
水より粘度のあるものがボタボタ垂れてきて
「なんだよもう」
雨漏り？
にしては
これ生ぐっさいなと起き上がって手で腕で拭ったら
薄暗い中でもそれがドス黒い血だと分かった
風呂のより濃縮還元強めと言うか
多分100%
もうね
その時の感情は恐怖や好奇心なんかとうに超えて
「おいこれどっから出してんだよ
女か？股か？
きったねぇな
人の顔に股がって血垂らしてんじゃねぇよ
どんなセンスだよクソが」
ってね
もうそこにあるのは
ただの怒りだけだった
あまりに腹立つと言葉も悪くなるよね
Ｆのためにも絶対そうは思いたくなかったけど
私の心も身体も
多分
かなりストレスは溜まっていたみたい
でも辛いのはＦも同じ
あぁそうだ
思い出した
なんか
そろそろお守りの効果切れかけてるっぽいＦは大丈夫なのかと
眠れているのかと思ってＦの方を見ると
「……」
いつの間にか
ベッドの上で身体を起こしていたＦがいた
そのＦは
薄暗がりの中
カーテンの隙間から射し込む
明るさを落としたオレンジ色の外灯で見えた私の
ドス黒い血で染まった顔や腕を見て
「あ……」
(待っ)
止める間もなく
「ひ、ひゃあああああ……！？」
大絶叫をかまし
駆けつけてきた先生により
無念
Ｆとは強制別室にされてしまった
とても
とても楽しかった修学旅行の後
Ｆとは普通に仲良くしてる
でもやっぱり
Ｆにはたくさん謝られて申し訳なかった
それでね
修学旅行で耐性ついた気がするし
今度はさ
Ｆの家にお泊りに行こうかと思ってるんだ
別に新しい心霊スポットだとか思ってないし
またあいつらが出てくるのか
いや
あいつらはあの土地にいるものなのか
Ｆに津々浦々付いてくるものなのか
全く別物なのかを知りたいとか思ってないし
あと
修学旅行中
昼間はあれだけ買い食いして
食事も普通にしてたのに
３キロ減ってた
凄いな霊障ダイエット
綺麗な痩せ方じゃなくてやつれ気味になるのが難点
Ｆの持ってたお守りさ
当日に見せてもらった時は
「恋愛系のお守りかよ」
って突っ込みたくなるような愛らしい桃色だったのに
最終日は
焦げたみたいに黒くなってお守りの形をギリギリ保ってるだけだった
◯◯先生
お守り
ギリギリ力が足りなかったよ
今回のことで
きっとＦは今までも凄く大変で
これからはもっと
大変になるんだろうなぁってことが解ってしまったけど
○○先生もいるし
ご両親もいるし
私も
せめてＦの友達として
ずっと隣にいたいと思ってる
うん
決して心霊的な好奇心でなく
純粋な友達としてだよ
本当に
本当だってば
