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結婚は人生の墓場だと言うけれど、比喩でなく本当に死ぬみたいなので求婚はお断りします  作者: うちうち


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好かれる女性の条件とは

「ちなみに、オーヴィル様が、エレノア様のことを、本当に好きだとしたらどうします?」


 婚約破棄のための作戦会議に入ろうとすると、唐突にリグレットがそんな話題を振ってきた。私のことを好きだったら? 以前、オーヴィルもそんなことを聞いてきていたような気がする。


「え? 早く旅に出たいし、期待を持たせるのもよくないのですっぱり振りますけど」


「ああ……さすが長い付き合いだけありますね。だからはっきり言わないのか……」



 ……なんて? 声が小さすぎて聞こえなかったのでリグレットに疑問の視線を送ったけれど、彼女は何事か考え込んでいるようで、何も言ってくれなかった。まあいいか。


「でも、それはさすがにないですよ。本命ならそう言えばいいのに、意味が分からないですもん。いきなりでしたし。私が本命なのか聞いたら『違う』って言われましたし」


 なんだっけ。「俺が最も告白しない相手、それがお前」みたいな。こいつラップの歌詞みたいなこと言うなぁ、って思った覚えがある。


「旅に出るって聞いて焦ったんでしょうねぇ……あと本命だって言えばすぐ振られるんだからおいおいと言えないでしょ」


「さっきからリグレット声が小さい……」


「すみません。お2人の仲がいいので、その可能性はあるなと。エレノア様が好きって言うなら、この際あたしも後押ししようかと思いまして」


「むしろ後押しするのは私です。オーヴィルに好きな人がいるなら成就するよう応援しますって言いました」


 すると、リグレットは一瞬、全身を硬直させた。空耳でなければ、「うげぇ」とかいう押し殺した声も聞こえた。


「……えげつないこと言いますね」


「だって、弟ですし……。弟に恋できる姉とそうでない姉が存在すると思うんですが、私は明らかに後者なんです」


「エレノア様の方が年下でしょ? あと、弟って、血繋がってないのに」


「リグレットは血の繋がりがないと家族って認めないタイプの人ですか?」


「うわ、嫌な言い方」


 私はそこでぱんぱん、と手を打った。いけない、また本筋を外れてしまっている。今の私たちには、それよりも考えるべきことがある。




「ともかく、状況を整理しましょう。目的は、オーヴィルに婚約を破棄してもらうことです。私と結婚したいなんて2度と言い出せない体にしてやりましょう」


「物騒なんですが、大丈夫ですか?」


「そして、こちら陣営は、私とリグレット。まあ、私達2人がいれば何とかなるでしょう」


「2人がいれば、っていうかそもそも2人しかいないんですけどね」


「で、オーヴィル陣営は、おそらく私たち2人以外の全員と。わかりやすくていいですね」


 お父様があちら側なのが痛い。つまりお母様もあちら側。政治力、人数、力の全部で上回られている。救いは、私たちがひっくり返そうとしていることがまだバレていないことくらいか。





「お父様に動かれると面倒です。その前に、オーヴィルにちゃちゃっと破棄してもらいましょう。大体、婚約保留って何ですか。こんな不思議な状況は一刻も早く解消すべきです」


「1人で自問自答するのやめてくれます? だいたい保留したのはエレノア様でしょ」


「だってお母様が怖すぎたんですもん……。でも、とりあえずこれからどうしましょう?」


 さっそく他人任せになってしまう私。でも、何も考えが浮かばないのだ。すると、リグレットが、ピッと人差し指を立てて左右に振った。どうやら彼女には、何やら作戦があるらしい。


「簡単です。オーヴィル様に嫌われたらいいんですよ」


「どうやって?」


「……好かれる人の逆をすればいいのでは?」


「なるほど一理ある」






 それから、リグレットと、好かれる人とはどんな人なのかについて協議した。2人じゃよくわからなかったので、お互い友達の間を回って情報収集も行った。

 

 しかし、私はモニカちゃんしか聞く相手がいなかったため、リグレットが戻ってくるまで1人自室で寂しい時間を過ごすこととなった。


 帰ってきたリグレットは、「何人くらいに聞けました?」と尋ねてきた。あんなにリグレットのことをまっすぐ見られなかったのは初めてだった。






 ともかく、市場調査の結果が無事出そろい、私とリグレットはあらわになった「好かれる女性の条件」について目を通した。曰く。


①よく笑う。常に笑顔。

②異性の前で態度を変えない

③常にポジティブ

④きちんとお礼が言える

⑤気配り上手

⑥聞き上手


 という女性像が、皆に愛される人物であるらしい。私は、リグレットと顔を見合わせる。互いの顔に、「あんまりしっくりこない」という文字が書いてあるのが見えるようだった。


「①はまあ、そうかもしれませんね。エレノア様もけっこうよく笑ってますし」


「でも、常に笑顔ってどうなんでしょう……? 逆に無理してるみたいじゃないですか?」


「確かに」


 もしくは、裏があるみたいな。天真爛漫な人なら大丈夫なのだろうけれど、私は自分でも清廉潔白な性格ではないと自覚があるからなぁ。


「あと②ってどういうことなんですか? 私のイメージだと、男性に甘え上手な人が人気な感じなんですけど。ほら、俺だけには違う顔見せるんだよあいつ、みたいな」


「じゃあ、まずいじゃないですか。エレノア様って今オーヴィル様にだけ敬語なしで話すでしょ? 特別扱いしてるじゃないですか」


「小さい頃から仲の良い相手がオーヴィルくらいしかいないですし……」


 リグレットの何気ない一言が、私の心の柔らかい部分を傷つけた。流れ弾やめて。


「じゃあ、②はあとで考えるとして。総合すると、この逆の人になればいいんですよ」


 つまり、①常に無表情③常にネガティブ④お礼を言う気配がない⑤周囲の人なんて気にかけない⑥自分の話しかしない……うーん……。


「私、無表情な人って好きですけどね。隠れた感情とかぽろっと出してきてくれたら、その時点で推しになります。レアっていうか、なんだか嬉しくなっちゃいません?」


「エレノア様って、自分の性癖出してくるとき、やたら早口になりますよね」


「ふむ……ということは、やっぱり②は、誰に対しても塩対応、みたいなのが正しいかもしれないですね。決めました、特別な顔を見せるのは駄目です、それはプラス要素です」


 無事に方向性が決定した。2人しかいないので、意思決定も非常にスムーズである。おそらく私たちが勝つためには、この機動性こそを活かす必要があるだろう。


「問題は……できます? エレノア様って基本、5分に1回は笑ってる印象あるんですが」


「私の人生経験をなめないでください。キャラ作りくらいこなしてみせますよ」


「うわ、あたしより年下が何か言ってる」


 呆れた顔を見せるリグレットに、私は続いて指示を出した。


「リグレットも部屋にいて、オーヴィルの様子を確認してください。反応が悪そうならその時点で撤退します」


「あたしも見てて大丈夫ですか? 恥ずかしくなったりしません?」


「ふふふ。観客がいるほどに燃えるものですよ、女優ってやつはね」




 テンションが上がってきたので流し目を送り、その場でくるりと回る私を、リグレットは横目でじろりと睨んだ。


「なんか楽しくなってません?」


「駄目ですか?」


「いえ、エレノア様のいつも前向きなその姿勢は尊敬するなぁと」

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