喚ばれた剣聖ー9
結局あの後もミリアしかジェ◯ガを倒すことはなく、夕飯を迎えることになった。
「・・・ぐぬぬ、どうして私しか。」
「いや、なんであんなに思い切りがいいんだよ。どう考えたってグラグラしてたじゃん。」
「・・・我慢できなくて。」
逆によくあれだけ重心がかかってるやつを見つけ出せるよ。
俺とスイナは変に倒れそうなところは取らず、順調に進められていたのでミリアの番で何故か俺たちがドキドキしたわ。
「・・・できた、スイナ手伝って。」
「うん!」
そんなこんなで時間を潰していると、キッチンの奥から顔を覗かせたスイに呼びかけられる。
声をかけられたスイナは椅子からピョンっと飛び降り、そのまま奥へと向かって行った。
少し待つと、スイナとスイが料理を運んできてくれる。
コトッ、、、。
目の前には黒いパンを薄くスライスしラスクのようにした主食と、見たことのない魚をスープで煮込んだアクアパッツァのようなものが置かれる。
「・・・口に合うかわからないけど、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「いただきます。」
4人全員が席についたことを確認した後、スイに促されて食事を始めた。
スプーンでそっと掬ったスープを口に含むと、知らない魚の濃厚な出汁が広がった。
そして、その味を消さないように、塩で優しく調整してあり味の濃さが絶妙で美味しい。
ほのかに香料を感じるので何か使っているのだろうが流石にそれはわからないな。
「・・・うまいな。」
「はい、美味しいですね。」
俺が感想を漏らし、それにミリアも賛同する。
俺たちの率直な感想を聞いたスイは特に何も言わなかったが、少し耳を赤くしていた。
「お姉ちゃん良かったね。」
「・・・う、うん。でも少し恥ずかしい。」
お姉ちゃんの料理が褒められてスイナはニコニコ。
自分が褒められたかのように嬉しそうなのはお姉ちゃんが大好きだからだろうな。
焼かれた黒パンは正直硬すぎると感じたのだが、スープに浸しながら食べるとちょうど良かった。
てか、このスープに入ってる美味しい魚ってなんなんだろ?
「これなんて魚なんだ?」
「・・・クロロウオ、村の真下で取れる魚。」
「え、あの滅多に取れることのない魚ですか?」
俺は当然知らないけど、ミリアは心当たりがあるみたいで驚いている。
え、この魚ってレアなの?
「そうなの?」
「はい、普段は泥沼の底を泳いでいますのでまず見つかりませんし、泳ぎも素早いんですよね。市場に出れば高額で取引されるほどです。」
まじか、結構高級魚なんだ。
美味しかったからバクバク食べちゃった。
「・・・ここら辺ではよく取れるから珍しくない。泥抜きが大変だけど、味は美味しい。」
「人族がとるには難しいって感じなのか。」
「・・・たぶんそう。」
なるほどー、獲り方を知らないって感じなのかな?
そんなこんなで俺たちは気まずくなることもなく会話を続けながら夕飯を食べ終えた。
その後、リビングでまったりとしていると、後ろから静かに声をかけられる。
「・・・少し来て。」
後ろを向くと、何を考えているかわからない無表情のまま立ち尽くす美少女。
表情から何も読み取れはしないが、予想はつくので俺は無言で立ち上がり、ミリアに声をかけた。
「少し出てくる。スイナと遊んでてあげてくれ。」
「・・・わかりました。」
彼女がそっと俺に声をかけたのはスイナを抜いて話したいからだろう。
ミリアもそれを察して頷いた。
そのままスイナをミリアに任せ、俺とスイは家の外へと向かう。
ーー
「どこまで行くんだ?」
「・・・・・。」
無言。
俺たちは真ん中の広場を通り過ぎ、どんどんと結界の端へと向かってゆく。
端へと向かえば向かうほど住居の数はまばらになり、人気が薄くなる。
そのまましばらく無言で歩き続けていると、四方を簡素なベンチで囲んだ広場が見えてきた。
広場の近くには小屋が建てられ、その中には刃の潰れた剣や槍などが置いてあり、ここが訓練場のような場所だと見受けられる。
彼女はそのまま広場の中心部へと向かい、足を止めた。
俺はなんとなーく事情を察してヘラヘラと笑いながら向かい合う。
「おいおい、デートにはムードがなくないか?」
「・・・? デートしたいの?」
「・・・・・いや、冗談だよ。」
真顔で返されるとキツイなー。
まぁ、彼女もびっくりするくらい顔立ちが整っているからデートしたくないかしたいかでいったらしたいけど、流石にお兄ちゃんって呼んでくれる女の子の姉とはなんとなく嫌だ。
さて、率直に理由を聞くことにしますか、、、。
「・・・で? わざわざこんなところまで呼び出して何のよう?」
「・・・一つ聞きたい。あなたは本当に私達に害を成す気はない?」
風が2人の間を通り抜ける。
何も読み取れない、綺麗な青色の目はこちらをまっすぐと見つめる。
俺はそれに内心で苦笑した。
まったく、何言ってんだ。
それだったら2人っきりになった時点で手を出してるわ。
「ねぇよ。元々この村に来れたことも、スイナと会えたことも偶然だ。本来だったらここに来る気もなかったしな。」
俺は肩をすくめながらそう返す、なぜなら、、、
・・・迷子だからね!
逃亡者なだけで人攫いとかには一ミリも興味ないし、販路とかもないわ。
俺は正直にそう返して肩をすくめる。
すると、スイは一度目をつむった後、一言「・・・わかった。」と呟き小屋へと向かった。
そこから間引きされた剣を2本掴み取りこちらへと一本投げてくる。
それを俺は取りこぼすこともなくキャッチし、首を傾げる。
「なにこれ?」
「・・・剣、構えて。」
スイは俺と少し距離をとった位置で構えをとった。
その姿を見て俺は慌てる。
「いやいや、なんでだよ。わかってくれたんじゃないの?」
「・・・あなたが、私達に興味ないのはわかった。でも本質はわからない。・・・お母さんは相手を測る時は剣が一番って昔から言ってた。」
「うん、違うと思うよ。剣より先に言葉があるよね? 剣で測れるのは相手の技量だけだよ。」
「・・・充分。」
「やだよ!? なんで急に戦わないといけないんだよ!?」
突然の展開に頭がついていけていない。
何その会話は死地の中で、みたいな戦闘狂理論。
あー、そういえば俺の相棒も言葉より暴力が早かったなー。
そんな現実逃避的な事を考えていると、スイは緩やかに飛び出してくる。
始まりはゆらりと揺れたと感じた。その流れるような足運びはとても静かで、近くにいたと認識した時には、首元へと剣が迫ってきていた。
刃引きされてるとはいえ当たれば青痣ができることは確実。
もちろん、そんなのは嫌なので俺は渡された剣を弾くように持ち上げながら首の横に置いた。
そのまま相手の剣がぶつかったので、衝撃を膨らませないよう足を曲げながら、膝から脱力するように受け流して俺は後ろへと距離をとる。
スイはそんな奇妙な手応えに違和感を感じて、目を見開いた。
「・・・変な感覚、気持ち悪い。」
「悪かったな。」
・・・率直な感想。 つらいなー。
スイはそれだけ呟くと再びこちらへと迫ってくる。
流れるような剣戟、決して途切れることのない、繋ぎ目を感じることのできない美しい剣さばき。
だが、俺はその剣に沿うように受け流し続けた。
「・・・っ!」
彼女の顔に焦りが浮かんだ。
スイの剣は速く、そして鋭い。
まともに受ければこちらの剣は折れる可能性もあるし、衝撃で体が硬直するだろう。
だから俺は相手の剣に合わせるように受け流し続けた。
そっと刃を当てて、剣筋を逸らすように、相手は何度もバランスを崩していたが、次第に慣れてきたのか剣戟のスピードが上がる。
でも悪いな、これは稽古なんかじゃない。
受け続ける理由なんか俺にはない。
相手が受け流されながらも体勢を整えることに慣れてくる。
そこで俺は相手の剣筋を予測し、剣が俺の腰あたりを狙った瞬間にその前へと剣を突き刺した。
剣と剣がぶつかり合う。
予想外の衝撃に、スイの流れるような剣戟は中断を余儀なくされ、硬直へと陥る。
そして俺はそのまま相手の腹へと向かって蹴りを入れた。
「ーーっかは!」
短く息の漏れる音を漏らしながらスイは後ろへと飛ばされながら、地面を転がって行く。
「ーープハッ! ゲホッ! ケホケホッ!」
彼女は苦しそうに蹲りながらむせる。
「先に手を出してきたのはそっちだからな。後、俺は女でも子供でも手加減しない派だ。」
スイは肺から無理やり空気を吐き出され、涙目になりながらも体を上げた。
ふらつく足取りのままゆっくりと立ち上がる。
「んで? 何かわかったか?」
「・・・・・何、その剣。」
・・・ん、剣?
俺は刃引きされた鉄製の剣に視線を送る。
「いやいや、これを渡したのはお前だろ。」
「・・・そうじゃない、そんな変な流派知らない。」
あぁ、そっち。
俺は呆れたようにため息を吐く。
「知ってる流派にしか対応できなかったら、いざって時に勝てねぇぞ。・・・てかさ、あまり対人経験ないな?」
「・・・あまり、村から出ないから。食料調達で魔物を討伐しに行くことはあるけど。」
・・・確かに村の雰囲気は閉鎖的な印象を受ける。
こいつが狩猟番と呼ばれていたことを考えるに、戦うのは主に近隣の魔物になるのだろう。
来客が来ないから宿もないらしいし、外の流派に触れることなんてまずないだろうな。
・・・まぁ、俺が気にすることでもないか。
「それで? 剣を交えて見て何かわかったか?」
俺は気だるげな目をしながらスイに問いかける。
彼女はなおも無表情ではあったが、一つ頷くと立ち上がった。
「・・・・・変態?」
「すげぇ風評被害だな!! お前の流れをずらすように剣を動かしてただけだわ!」
「・・・うそ、冗談。私じゃあなたに勝てないみたいだし信じることにする。スイナを助けてくれた恩人、私じゃ助けることはできなかった。・・・本当にありがとう。」
そう言ってスイは深々と頭を下げる。
俺は気まずくなって頭の後ろをかいた。
「わ、わかったわかった。どういたしましてって事で、頭を上げてくれ。」
「・・・ん、わかった。」
あれ? 思ったよりあっさりだな。
ま、いいやあまり気にされても嫌だし、、、。
そこで俺はふと思った。
「あ、じゃあお礼って事でこの剣もらっていい?」
本当はスイナの件で何か貰おうとは思っていなかったが、そう言えばいま丸腰なんだよな。
折れた剣だけでやってくのは厳しいし貰えるのであれば貰いたい。
何もいらないって族長宅でいった手前恥ずかしいけどねw
「・・・ただの刃引きされた鉄剣だよ?」
「あぁ、でも攻撃を受け流すくらいならピッタリだ。」
俺はそう言って剣を軽く振るう。
欲しかったのは長さと幅だ。
流石に木槍じゃあ相手しづらかったし丁度いいや。
「・・・じゃあ、帰ろ? 時間とってごめん。」
「そうだな、今度からは言葉で相手の本質を引き出してくれ。」
「・・・前向きに検討する。」
あ、知ってる。
これやらないやつだ。
スイはこちらを振り向くことなく歩き出す。
俺はその背中に頬を引き攣らせながら、彼女の家へと帰ったのだった。
ーー
ちなみに、スイの自宅には元々兄が住んでいた部屋があったので俺はそこにお邪魔させてもらうこととなった。
スイナはスイと一緒に寝て(普段は1人で寝てるらしい。)ミリアはスイナの部屋で休ませてもらうことになる。
もちろん一つ屋根の下ではあるが特に何か起こることはなく、夜は更けていくのだった。
ーー
次の日。
枕が変わると寝づらい俺は、朝早くに起床し、リビングへと向かった。
まだほんのり空が明るくなった程度の朝を眺めながら軽く伸びをしていると、奥の部屋から足音がする。
「・・・・・・・・・・・・朝早い。」
「神経質でね、おはよう。」
眠そうな声を出すスイに俺は返事を返す。
最初は、物音で起こしてしまったのかと思い、申し訳なく感じたが、スイはそのまま洗面所へと入っていく。
水音と衣擦れの音の後、しっかりと動きやすそうな服装に身を包んで出てきた。
「こんなに朝早くから出かけるのか?」
「・・・いつもだったら狩りに行くこともあるけど、今日は自主練をするつもり。」
「へぇー、朝からお疲れだな。」
俺が起こしたわけじゃなくて良かった。
俺は内心ほっと息を漏らし、適当に返事を返すと、何故か彼女はこちらに視線を向けてくる。
・・・じー
「・・・・・なんだよ?」
「・・・暇なら一緒に訓練しよ。外の剣、気になる。」
「悪いけど断る。訓練したくないし、何よりまだ味方だって確信を持てない奴に手の内を晒したくない。」
「・・・なるほど、一理ある。」
俺の発言に納得したのか、彼女はそのまま家の扉から出て行った。
にしても信用しすぎじゃないか? 自分の妹を昨日会ったばかりの人によく預けれるよな。
・・・いや違うか、俺には勝てない。信用するしかないってところかな?
ちなみに俺はこっちにきてから訓練は一切してないよ。
ずっと戦闘続きだし、訓練好きじゃないからね。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
ドキドキワクワク!
八九楽律兎のー、軽食クッキーング!
ボックスから食パンを取り出し、いちごジャムを塗ります。 以上。
ふわふわの食パンに甘いジャムがうまーい。
「やっぱ、パンには牛乳だよなー。」
そうやって1人で軽く食べてると、奥の部屋が開き中からパジャマを着崩したスイナが出てくる。
彼女は眠気まなこを擦ったあと、こちらに視線を向けてきたので、俺はヒラヒラと手を振って返した。
すると、スイナは目をパチパチさせた後にこちらを指差して大声を上げる。
「あー! 何か食べてる! スイナも食べたい!」
そう言ってこちらに向かってきたので俺は苦笑いしながら昨日教わった洗面所を指差した。
「先に顔洗ってこい。」
「むー、、、はーい。」
少し顔を膨らませていたが言われた通りに洗面所へと入っていった。
俺はその間にボックスからもう一つ食パンを取り出してジャムを塗っておく。
少しすると、スイナが戻ってきた後、そのまま席に座って一瞬でパンを平らげた。
そしてその後、自主練を終わらせたスイナとようやく起きてきたミリアにもパンをご馳走してあげた。
ーー
それからはスイが食糧調達に狩りに行くらしいので俺もついて行かせてもらうことにした。
狩りは集団で行うらしく、昨日俺とスイが打ち合い、、、って言うか一方的な暴力?をした場所に多くのミスルル族が集まっている。
スイが俺を紹介すると、全員露骨に顔を曇らせていたが、俺は興味ないので適当にニコニコしていた。
すると、スイに小脇を突かれ「・・・あまり、煽るような事しない。」って言われた。
いや煽ってないよ?とても普通に人当たり良さそうな笑顔でいただけなんだけど、、、。
普通に傷ついた。
でも、連中は俺が参加することに文句を言うことはなく、素直にスイの言うことを聞いている。
おそらくおばばが文句を言ってないことが一番大きいんだろうな。
それからは獲る獲物を擦り合わせ、全員で準備をして出発。
橋を渡ってからは各班に分かれて分散するようだ。
一つの班に人員は三人程。戦力はちゃんと分散されており、皆慣れてるように泥沼を歩きを出して行く。
ちなみに俺の班にはスイともう1人の壮年男性。
青い髪を編み込んで鋭い目つきをしている。
「悪いな、急についてきて。今日はよろしく。」
俺はそう言って手を差し出したのだが、彼はその手を無視してスイの近くへと歩いて行った。
・・・このやろう(怒)
「スイさん、今日はどの辺りまで?」
「・・・目的はシューロース、泥山の頂上付近に生息してるはず。」
うん、全くわからないな。
ま、だから付いてきたんだけどさー。
これからも旅をして行くなら野生生物への知識は重要だからね。
俺は男に無視されたので、大人しくスイの後ろについて山へと向かった。
・・・・・・。
シューロースは簡単に言えば泥沼に埋まるヒレの生えた豚だった。
スイと男性が泥を魔法でまとめ上げ、その中に捕まえた豚を処理して行く単純作業。
危険な生物、、、と言うより魔物の生息域は避けるように歩いているようなので特に危ない目に合うことはなかった。
俺はまったりしながら2人について行く、、、この後起こる修羅場を想像しながら。