喚ばれた剣聖ー78
「・・・お前ら、無事だったか。」
グラグロは俺たちを見て安心したように顔についた血を拭う。
どうも戦闘を終えた直後のようで、あの気味の悪い複数の腕を持つ魔物に囲まれていたらしい。
とんでもない戦闘音が聞こえたので焦りながらこちらに向かってきていたようだが、あの戦闘から逃げるように方方の洞窟に魔物が殺到したようだ。
「まだ1人とは合流できてないけどね。ま、でもあいつはたぶん平気だろ、逃げ足早いし。」
「・・・でもどんどん離れてる。・・・急がないと探知外に行っちゃうかも。」
「これで喚び出したほうが早いのでは?」
そう言ってミリアが軽く指輪を見せた。
グラグロはよく分からず首を傾げていたが、俺とスイは思案げに少し悩んで首を振った。
「んー、もし喚び出しても戻るなら意味ないしな。」
「・・・言付けはできるけど、状況がわからないのに急に喚び出すのは危険な気がする。」
と、言うことで急いでハイルの元へ向かうことにした。先頭はスイに任せ、慣れてきた薄暗闇のなか、襲ってくる魔物を斬りつけながら早く移動する。
ーーガクッ
だが、その最中足から力が抜けて転びそうになった。
なんとかもう一歩の足で踏ん張ったから転ぶことはなかったが、どうも力が入りづらい。
・・・まずいな、相当身体にガタがきてる。
意識しないようにはしていたが、どうも本来の至技は精神と肉体の負担が相当大きいらしい。
それにあの光線の余波によるダメージも身体に刻まれている。正直一度帰って休みたいくらいには集中力が切れていた。
「律兎さん、大丈夫ですか?」
背負われているミリアから心配そうな声がかかる。
いつもなら振動とか感じさせないよう器用に走っていたので、調子が悪いことは簡単に察しがついてしまうだろう。
無理すればあとが怖い、でもここは踏ん張らないとな。
俺は一度気を引き締め直して、なんとか前の二人に食らいつく。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「びぇえええええーー!! もう無理だよ、死んじゃうよー!!」
ようやくハイルの元にたどり着いたと思うと、ハイルはたくさんの魔物に囲まれていた。
鍾乳石が複雑に変な方向から伸びた、法則を無視したような洞窟で多くの魔物と大きな声で叫びながら泣いているハイルが忙しそうに動いている。
「なんか気持ち悪いね。」
「それ、仮にも追われてる仲間に対する言葉ですか?」
率直な意見を述べただけなのに皆から冷たい視線をいただきました。
と言うか半べそかいてるくせに敵の攻撃を余裕でかいくぐってる。本人は必死なんだろうけどもう少し密度がなければ追いつかれることはなさそうだ。
「あとどのくらい保つかなー。」
「・・・そろそろ時間も時間だし円環を探さないと。」
円環ね、壊れてなければいいなー。
ただ問題としてこの有象無象の中ハイルに当たらないよう気をつけながら攻撃する必要がある。
難易度高いな。
「範囲攻撃ある奴いる?」
一人いるよ? さっきやられたもん、さっきらやれたからね! ハイルも消し炭になるけどね!
「・・・無くはないけど、この量を倒しきれるかはわからない。」
「倒しきれなくてもいいよ。大部分を削れれば十分だ。」
「・・・ここに来るまでに拾った鉄金爆弾がそれなりにある。ばら撒けば数は減らせるはずだ。」
なるほど、何とかできそうな材料はあるな。
一番楽で効果がありそうな組み合わせを遠くで「もー無理ー! ホントに死ぬからー!」と叫んでいるハイルの声を聞きながら考える。
「・・・よし、スイの魔法で全員で真ん中に移動、そんでグラグロは爆弾をばら撒いてくれ。ミリアは障壁での防御を頼む。その間に俺がハイルを回収して爆弾に衝撃を加える。」
「あ、あの、内側から外へはすぐ出られますけど、外から内は難しいです。」
「なら俺とハイルが合流するギリギリまで待ってくれ。・・・できるか?」
俺がそう聞くと、ミリアは不安そうに顔を曇らせる。多分だけどさっきの件で別の不安が過ったんだろうな。
いつものミリアなら多少なりとも元気に反論するか、「防御は任せてください!」と言い切る気がするし。
「・・・・・大丈夫です、任せてください。」
「そんな気張るなよ、例えミスってもフォローしてやるからさ。尻ぬぐいは得意だからな。」
俺はニッと笑いながらミリアに拳を差し出す。
するとミリアは一度驚いたように目を見張ったあと、顔を赤くしながらコッと同じように拳を合わせてくれた。
・・・ん?なんかミスった?
ミリアなら「わかりました、頑張りますよ。」的な感じで渋々納得するだけだと思ったんだけどな。
「・・・テンション上がってきた。」
「なんでお前が?」
腕をぐるぐる回しながらやる気を出したスイが地面に触れると、水が溢れ全員を包んでいく。
さっきとは違う息のできる水中にホッとしながら、水球はグンッと勢いをつけてすごい勢いで洞窟の真ん中へと進んだ。
ーーパンッ
水が弾けた瞬間に俺は勢いよく飛び出して壁に着地、そこを起点に思いっきり踏みしめて反対の壁へと跳びながら逃げ惑っているハイルを目指す。
・・・てかあいつ普通に壁走りとかすんな。
魔物も俺の存在に気づいたが、動きには追いつけていない。そのまま泣いてるハイルを視界にとらえ、すれ違うように腹を抱えてミリアの場所へと向かう。
「ーーぐぇっ!?」
「頼むから吐くなよ?」
目の前に飛び出してきた魔物をヤクラで斬りながら最後の一足。
ズドンッ!と大きな音を立てて投げ出されたように落っこちながら声を張り上げた。
「ーーミリア! 今だ!」
「ーーはい!!」
衝撃を完璧に殺して、三人と合流。
グラグロはすぐに爆弾を撒き散らす。俺はそれをちらりと一瞥し、体を回しながらすべての爆弾を掠らせるように剣を当てた。
そして何とかミリアのもとにたどり着くと、ミリアは魔物が殺到するギリギリで障壁を張り終える。
ーーカッ!
眩い閃光のあと、爆音と衝撃が辺り一帯を襲った。
衝撃はミリアの障壁のお陰で特に問題はないが、音と光に目と耳がやられる。
「最近目に悪いこと多いなぁ。」
ゴシゴシ目をこすりながら土煙を凝視する。徐々に煙が晴れると追ってきていた魔物は、傷だらけで事切れ、生き残っていた魔物は逃げるように去っていった。
「「「はぁーーー。」」」
「・・・さすがに、くたびれるな。」
割とギリギリの展開だったからね。
誰一人でも遅れてたら魔物の群れに突撃されて食い潰されていた可能性が高い。ほんとうまく噛み合ってよかったよ。
「あ、ありがどう、、、ほ、ぼんどに、、、じぬがど、、、!」
やべぇ、ハイルガチ泣きじゃん。
あの暗闇の中、たくさんの魔物に追われていつ助けが来るか分からない状況じゃ確かに泣きたくもなる。ごめんね、余裕がありそうだからって呑気にして。
「・・・まさか分断されるとは思わなかった。何とか全員無事に合流できてホッとした。」
「だな、割とこの広いダンジョン内で合流できたなんて奇跡みたいなものだ。」
全員の地力が育ってなかったら危なかったかもしれなかったね。
「あとは円環を見つけて帰るだけか、、、。」
「・・・ん? あぁ、円環ならはぐれたときに見つけてある。」
そう言ってグラグロは懐から渦巻くような腕輪を取り出した。その腕輪には全部で10の層に分かれて刻印が施され、今は4つ目まで光が灯っている。
「へぇー、それがセーブ機能か。」
「・・・セーブ? よくわからんが、今の階層まではすでに記録されている。」
俺たちは顔を見合わせて、アイコンタクトを取ったあと全員で一緒に頷いた。
「なら一度帰るか。いい加減疲れたしもう休みたい。」
そして俺達は一度このダンジョンをあとにする。
あまり収穫があったとは言えないのに悩みは増えた。
新鮮な景色と戦いは面白かったけど、もう一度やりたいかと言われればやりたくない。
最後にチラリとミリアの様子を窺うが、本人は至っていつもの感じを意識しているのか元気にスイと話している。
・・・まだまだだ、俺は自分を思い出せてない。これから先、戦い続けるならもっと焦る必要がある。
俺は手を握りしめて、静かに次の目標を志した。
ーーー
円環が発動し、光が収まるとダンジョンの入り口まで転送された。
外はすっかり夜だが、この溜まり場(グラグロが言うには『湖畔の月、攻略前線基地』)の活気は昼間と変わらずに賑わっている。
瓶を片手に酒をあおるもの、声高らかに通行人に営業をかける商人などなど、変わらぬ景色に戻ってきたという実感が湧く。
「・・・うぅ。」
近くからくぐもった声が聞こえてそちらを見ると、包帯を巻いた獣人が苦しそうにしていた。
それだけじゃない、よく見ると至る所でケガ人が治療を受けたりしてるのが見て取れる。
「こいつら全員ダンジョンから帰ってきた奴らか?」
「・・・あぁ、重体の者はすぐに緊急医療テントに運ばれるが、ある程度の怪我はその場で直したり休むことが多い。ろくな宿もないし、人目が多いほうが万が一もないしな。」
なるほど、そういうものか。
怪我してる者にパーティーメンバーらしきほかの人がポーションを持ってきたりしてるのを横目に、俺達は進捗を話そうとグリンの元へ向かう。
まだいるのか不安だったが、テントは明かりがついており、なかにはいると悩ましく腕を組んだグリンが疲れたように眉間を揉んでいた。
「おーい中間管理職、こき使われてまっか?」
「・・・失礼ですが、頭を怪我でもされましたか?」
ほんとに失礼だね。
まぁふざけて話しかけた俺が悪いけどさ。
「お疲れ様です、結構遅くまで潜られましたね。進捗は良さそうですか?」
「・・・あぁ、まさに破竹の勢いだ。」
そう言いながらいつの間に巻いていたのか包帯でぐるぐるにされている逆巻の円環をグリンに手渡す。
グリンは包帯をほどいて大きく目を見開いた。
「・・・4階層まで1日で到達したのですか。多くのパーティーが早くて1日1階層進めるほどなのに。」
俺はマジで?と後ろを振り返ると、スイはコクリと頷いて残りの2人は首を傾げていた。
「あと一つ降りればまだ越えれた者のいない5階層ですね。ところで皆様はダンジョンの完全攻略はしてくれるので?」
「ん? あー、一応深層の宝目的だけど、してほしいならついでにしてもいいかもな。」
ダンジョンの完全攻略って少年心くすぐられるしね。めんどくさかったらやめればいいし、挑戦くらいはありかもしれない。
「このペースなら期待できます。是非お願いしたいですね。」
「・・・なぁ、ダンジョン完全攻略って言っても攻略しちまったらお前たちは困らないのか? この基地だってあのダンジョンの攻略目的で建てられたんだろ?」
「あぁ、その件なら問題ありません。仮に完全攻略されてもダンジョンは消失しません。むしろ安全が確保され、資源が取れるので嬉しい限りです。」
へぇ、ダンジョンってそんな感じなんだ。
「むしろ完全攻略されないといつ魔物が地上に溢れてしまうか不安で仕方ありません。まだ数体のスケルトン程度で済んでいますが、貴方がたが遭遇したであろうジャキィムなどが出てきたらこのまちの攻略者達で対応できるかどうか、、、。」
・・・なるほど、彼の悩みのタネはそこか。
確かに3階層であったジャキィムは割と手強い方だった。接近戦なんてするもんじゃないし、魔法だって破壊力がないと削りきれないだろう。
それがまだ一体ならいいが、複数体、それも4階層のように群れが出てきたものなら対応は難しいものになるだろう。
「それに私も自分の店を任せてここに来ている身ですのでいい加減帰りた、、、いえ、皆様に話すことではありませんでしたね。」
グリンは苦笑しながら円環を返してくれた。
それからグラグロがダンジョンの情報をグリンと共有し、取り敢えず報告は終わりになる。
彼は「情報のタダ売りはしません。」と言ってあとで報酬もくれる約束をしてくれた。そこはやっぱ商人らしいね。
俺達は隅に借りたテントに帰ってやっとの休息を取ることになる。
皆が皆、疲れていたのか特に話すこともなくすぐに就寝となった。
取り敢えず明日は休むことにしたし、のんびりと寝られそうだな。




