喚ばれた剣聖ー77
ーーギュドンッ!!
放たれた光線は先ほどまで立っていた場所を消滅させ、大きな深い穴を作る。
なんとかその光線を幻渡りで回避した俺は、後ろに跳びながら攻撃の余波をなんとか流す。
「ーーおいミリア!! 急に何するんだ!?」
『霊界への干渉を確認 対象の脅威度をⅠ〜Ⅴへ移行 こちらへの有効な攻撃手段を保持している可能性あり、殲滅魔法の使用を開始します。』
言葉とともに大きな洞窟を埋め尽くすほどの無数の魔法陣がミリアの背後に展開される。その圧巻な光景に思わず目を見張るが、すぐに意識を戻してどうしようか必死に頭を回す。
・・・なんだあれ!? あんなの受け流すことも斬ることも出来きねえぞ!?
また幻渡りを使って回避するか?いや、なんか嫌な予感がする。相手は俺が霊界に潜ったことを察知していた、それの対策をしてこないとは考えづらい。
ならどうする!?
幻渡りは避けることに向いてるが、防御に関してはあまりいい手段じゃない。霊界か現界、その片方を斬ることはできても両方を同時に斬ることはできなかった。
かと言ってミリアに攻撃するわけにも、、、いかねぇよな。
俺は自分の至技の微妙な性能に自嘲気味な笑みを浮かべ、頭に鋭い痛みが走った。
・・・至技? 幻渡りって俺の至技だったか?いや違う、そんな半端なわけない。
あまりに絶体絶命な状況に、俺の意識は深くへ潜りある深層のリミットを解除した。
その瞬間頭に過った一人の女の子の面影。
俺はその娘を知らない、知らないのに何故か頬を涙が伝う。
俺は思いっきり歯を食いしばって溜めを作るように剣を後ろに構えた。
「うおおおおお!!」
『剣聖 至技 幻世断絶!』
放たれた視界を埋め尽くすほどの光線と律兎が放った蒼白い斬撃が衝突する。魂すらも破壊するその光線は奇しくも律兎が至った本物の至技を引き出す事となった。
ーーパアンッ!
律兎の斬撃は光線を斬り裂きミリアの横ギリギリを通り過ぎた。残された律兎は体を薄く焼かれ、息は絶え絶え、まるで水分がなくなったかのように息ができず地面へ倒れた。
「ーーけひゅっ、なんなん、、、だ、、、よ、、、。」
そのまま倒れ、あまりの痛みに律兎は気を失ってしまう。
そして残されたミリアらしき存在は再び手を翳したが、、、
『・・・■■の意識の回復を確認 対象の無力化に成功したため神経を通常機構へ移行します。』
鍾乳石を揺るがすほどの魔力圧は突然消え、ミリアはそのまま地面へとゆっくり落ちて倒れる。
後には更地になった洞窟と、倒れた2人が残されるのだった、、、。
ーーー
「ーーあー、気持ち悪い。」
目が覚めた俺は真っ暗で何も見えないなかバックからボックスを取り出して非常用ライトを取り出し、電源をつけた。
あまりに身体が痛く、起き上がりたくない。
意識がぐちゃぐちゃし、上がどこなのか、そして俺は今どこにいるのかがわからない。
迷い続ける意識のなか、俺はなんとか手をついて頭を上げる。そして持ち上げた頭を床に叩きつけてなんとか正気に引き戻した。
「・・・いってぇ。」
血を垂らしながら重い体を持ち上げその場に座る。頭から流れる血を確認しながら色々と思い出したことと、さっき起きたことを整理した。
「・・・『幻渡り』は至技じゃねぇ、一式だ。なんでそんな事忘れてたんだ? それに、あいつは、、、?」
ーーズギンズギンズギンッ
再び痛み出した頭を押さえながら、必死に思い出そうとするがわからない。俺は仕方なくため息をついて痛む頭を押さえながら立ち上がった。
そしてゆったりと地面へ寝てるミリアに近づいて側に座り直す。
「・・・普通じゃないとは思ってたが、なんかだいぶ抱え込んでそうだな、、、お前。」
静かに寝息を立てるミリアの頭を撫でながら、あの異質な存在が何なのかを考える。あれはミリアではあるがミリアじゃない、何か別の意思が彼女の内側に存在していた。
勿論それが何かは俺にはわからない、いずれわかるかもしれないし、二度とわからないかもしれない。
俺の頭にある剣帝の言葉が過った。
『何故、喚ばれたのが剣聖だったのか』
「・・・理由が、あるのか? 偶然じゃない、俺がここにいる理由は、なんだ?」
前まではミリアが適当に喚んで偶然引っかかったのが俺だと思っていた。しかし、今のミリアの攻撃はただの魔法じゃない。霊界と現界両方に作用し、両方を破壊する力を秘めていた。
あの魔法に対抗するには霊界への干渉が可能な『剣聖』の力がいる。他の七剣では無理だ。
俺は段差を背にして大きくため息をつきながら天を仰ぐ。そして真っ黒な天井を見ながら一人、思考に没頭した。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「・・・ん、うぅん?」
根本について思考を回していると、側で寝ていたミリアが身動ぎする。
俺はようやく起きたかと、ホッと安心して声をかけた。
「ようやく起きたか、寝坊助が。」
軽口と八つ当たりを込めてそう声を掛けたがミリアは上半身を上げて、眠そうな顔で辺りを見渡した後、更地へと変わった景色を見て顔を真っ青に青褪めさせる。
「・・・ミリア?」
「・・・い、い、いやあああああああああ!?」
それは会って初めて聞くミリアの本気の悲鳴。
俺の楽観的な様子は鳴りを潜めてすぐにミリアに近寄ったが、彼女は俺を突き放して、離れるように後退さった。
「ーーいやあ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 許して、お母様、ハンナ、、、ごめんなさい!!」
どこか半狂乱に頭を振りながら顔を両手で覆う。
そのまま後ろの光が届かない暗闇に行く前に俺は手を伸ばしてミリアの腕を取った。
「ーーミリア! 大丈夫だ!誰もいなくなってない!」
俺が声を張って叫ぶと、少しだけ正気に戻ったのかミリアの動きが止まる。両手の隙間から覗くミリアの顔はぐしゃぐしゃで涙と鼻水に濡れている。
「ーーり、つと、さん、、、? 私、私は、、、なに、、、を、、、?」
「何もない、ただ水に囚われて俺が全力で壊しただけだ。お前は眠ってた、それだけだ。」
言い聞かせるようにミリアの目を強く見つめながら言葉を紡ぐ。たぶん、たぶんだが、ミリアはこれを自分が起こしたことだと思わないほうがいい、いや、理解したほうがいいのだが今じゃない、今の精神状態で思い出してしまえば下手したら壊れる危険性がある。
ミリアは少し焼け焦げた俺の様相と再び更地になった地面を見て涙を浮かべそうになる。俺は「ちっ」と舌打ちしながらミリアの頭を抱えるように抱きしめた。
「大丈夫だ、誰もいなくなってない。俺はここにいるし、敵もいない。何もないんだ、何も、、、。」
安心させるようにそのままの状態でしばらく動かずにいると、ミリアは鼻を鳴らしながらなんとか落ち着いたように息を吐いた。
「・・・ごめん、なさい。」
「・・・ホントだよ、シャツがお前の涙と鼻水でぐしゃぐしゃじゃねぇか。」
俺はいつもの調子を取り戻させようと軽口を返す。
ミリアは顔を離し、潤んだ瞳で俺を見上げた。
「・・・・・律兎さん、律兎さんは居ますよね?」
「どんな問答だよ、ここにいるって言ってんだろ。」
俺は呆れたようにため息をつきながらもう大丈夫かと離そうとしたが、今度はミリアが背中に手を回して力を入れてくる(全然強くないけど)。俺は無言でそっとミリアの頭を撫でて安心させるように力を込めた。
・・・ちっ、こいつが孤児になった理由って、もしかしないよな?
浮かんだ一つの可能性がどうしても頭から離れない。
ならこの景色は彼女にとって深い、深い傷の可能性がある。
「・・・何も、なかったの、です、よね?」
「あぁ、なかったよ、信じられないか?」
「いいえ、信じ、させてください。」
俺に甘えるようにミリアは身体を預ける。
仕方ないなと俺はミリアを一度持ち上げて元の段差に戻って座り込むのだった。
ーーー
「・・・お邪魔だった?」
「おーう、随分と遅かったな。」
そのままミリアを慰めていると、遠くの方から明かりが見えた。
俺は軽く目を凝らしてそれが誰か把握し、ようやくかと軽く息をつく。
そして現れたスイはこっちまで近づくと、俺に抱えられたミリアと俺を交互に見て口に手を当てた。
「・・・何があったの? すごい魔力と爆発音が聞こえたから飛んできたけど、フロアボス?」
「んにゃ、ちょっと厄介な奴を相手にしてただけだ。」
「・・・そう。」
スイは何となく深掘りしてはいけない空気を察したのか、そのまま追求してこなかった。
と言うかあんな環境が一変するような戦闘音を響かせればそりゃ気になってそっちへ向かうか、、、一人を除いて。
「・・・ミリアは大丈夫?」
スイが俺に抱えられてるミリアを心配そうに見つめる。すると、ミリアは顔を袖でグシグシっと拭いた後、ぴょんっと俺の上から飛び退いた。
「はい、大丈夫ですよ! それよりも探索してたらお腹空いてきましたね。何か食べ物ありませんか?」
ミリアは振り返りながらニカッと笑みを浮かべる。空元気なのは見て分かるが、せっかくこうやって明るく振る舞おうとしてるのに無下にはできない。
ヤレヤレと膝に手をつきながら立ち上がり、ミリアにお菓子を渡しておいた。
「さて、グラグロはたぶん待ってたら合流できそうだけど問題はハイルだな。あいつ、大きな音がした場所に近づいてくると思うか?」
「・・・思わない、むしろ遠ざかりそう。」
全く俺と同じ見解なスイは一度頷いて軽く指を上げた。
「・・・ならまずはグラグロと合流しよう。・・・二人の波は覚えてるから、遠くにいるハイルより先に合流した方が効率がいい。」
・・・波? 波ってなんだっけ?
そういえば前にパルパンクで波をたどって鍵持ちを見つけたとか言ってたしそれと同じかな?
よく分からないけど場所が分かるのはすごく助かる。
「・・・行こう、ここらへんは静かだけど厄介な魔物が多くいる。急いだほうがよさそう。」
確かに変な魔物はたくさんいたね。
その殆どがさっきの戦闘で消し飛んだけどそれは言わないでおいた。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
スイに前を先導してもらってただの空洞になってしまった元いた場所を抜け、再び鍾乳石が連なる洞窟に戻った。
スイは魔法で片手に明かりを灯していたが、魔力がもったいないので今はランタンを手渡している。
何故手渡してるのか? それは、、、
「・・・ミリア、そこ穴があるから気をつけて。」
「・・・・・・・あ、ありがとう。」
ミリアに片腕を掴まれて歩きづらいからですね。
やはりまださっきの出来事が尾を引いているようで、ミリアは何処か不安そうに俺の腕を取っていた。
別に困ることはないし、構わないんだけど何となく居心地が悪い。
原因は前で歩きながらチラチラこっちの様子を伺ってくるスイの所為ですね。さっき「・・・お似合い」って呟いたの聞こえてたからな? 失礼だろ、俺に。
なんとか明るく振る舞おうとしているようだが何処かうまくいってない。笑みもぎこちないし、顔色も良くない。
どうしようかと頭を悩ませ、俺は一つ妙案を思いついて指に付けていた指輪を外した。
「律兎さん?」
突然立ち止まった俺に2人は戸惑っているが、俺は取った指輪をミリアに差し出す。
「・・・ミリア、少しの間この指輪はお前がつけろ。」
「・・・・・え?」
「これには強く思い浮かべた人物を喚び出す力がある。それは別にこの世界にいるやつだって喚べるはずだ。例えば俺とスイとかな。」
そう言うとミリアは目を見開く。
ま、何が言いたいかって言うと、またはぐれて危なくなったりしても常に俺達を喚び出せる。そう思ってくれればいい。
すると何処かミリアは照れたように顔を赤めながら俺に向かって手を差し出す。
・・・つけろと? まぁいいけど。
俺は差し出されたミリアの手の中指にそっと指輪をつけた。
ミリアはその手を胸に持ってきて嬉しそうにキュッと抱きしめた後、ようやくいつものように明るく微笑んだ。
「・・・ラブラブ。」
「お前はいつから恋愛脳になったんだ?」
一人厄介なカプ厨が出来上がったことに頭を抱えながら、俺たちはなんとかグラグロと合流を果たしたのだった。




