喚ばれた剣聖−75
氷の上でマットを敷いて、真ん中で火を焚きながらスイがスープを作ってくれる。
濃い味の塩漬けベーコンをベースに出汁を取りながら野菜とコトコト煮込み、固いパンを軽く炙って手渡してくれた。
「・・・あ、あったまる〜。」
「おかわりください!」
「少しは遠慮しろ。」
「・・・この環境でこれほど温かいものが食べれるとは。」
ダンジョンでは薪などの火がつくものを持ってくるのは忌避される。だって荷物になるからね。
魔法で調理することもあるようだが、もちろん魔力を消費するため、長期戦が見込まれるダンジョンでは作られることは滅多にないらしい。
なので、俺のバッグ(ボックス)から取り出し、ハイルが火をつける(魔法で)、そしてミリアが魔力を提供、スイが調理って感じだね。
ま、ポーションを飲んでポカポカは元々してたけど、外気が寒いのは変わらないしスープは普通に美味しい。
・・・敵?襲われてますとも。今もミリアの障壁の周りでウロチョロしてるから、食いづれえ。
「・・・俺が知ってるのはこの下の階層までだ。それ以上はどんな場所なのか俺にもわからない。」
「え、マジか、情報とか出回ってないの?」
「・・・情報は貴重だ。宝を独占したければ安易に情報は与えない。」
言われてみれば納得だな。
自分たちが必死こいて下まで降りたのに無償で情報を与えれば横から宝を奪われるだろう。
「・・・一回くらいは見てみるか。そういえば帰るのってどうするんだっけ?」
「・・・今いる階層の何処かにある逆巻の円環を手に入れて帰る。・・・そうすれば円環にその階の情報が記録されて次はそこからスタート出来る、だったよね。」
「・・・あぁ。」
さっすが我らが頭脳のスイさん!
ちゃんと説明聞いてくれていたみたいだね。ちなみにハイルとミリアは「そうだっけ?」みたいな顔してるし覚えてなかったか、俺も覚えてなかったしダメだね俺ら。
「まだ行けるよなぁ。今このダンジョンに入ってどのくらい?」
「・・・体感6時間? 2層目があっという間だったしそのくらいだと思う。」
逆に1層目にそれだけいたんだな。
これは行けても次までか。
「よし、次の階層で円環を手に入れて帰るのを目標に行こう。疲れてる人はいる?」
「・・・行ける。」「お腹いっぱいで眠いです。」「さ、さっき死にかけたからなぁ。」「・・・問題ない。」
よし、特に問題はなさそうだな。
あの2人の意見取り入れてたら全く進まないしね。
何となく見て余裕ありそうだし平気だろ。
後片付けをして探索を再開する用意を進める。
そしてこちらを囲むスケルトン達に目を向けた。
「今度は一点突破で行くか。誰が先陣切る?」
「・・・俺が行こう。」
グラグロが名乗り出て先頭に立つと、剛腕と呼べる全ての腕に剣を持たせた。そしてその全てに魔力を持たせて腰を落とす。
「・・・いつでもいい。」
「あ、はい、行きますよ〜!」
ミリアの掛け声とともに障壁が解かれ、全員で一斉に走り出す。先頭を切ったグラグロはそのまま剣を振るって前にいたスケルトンを砕きながら道を切り開く。
「うわ、すっご。」
まるでブルドーザーのような圧倒的な破壊っぷりに思わず感嘆の声を漏らす。
スケルトンだって骨ではあるが決して脆くはない。むしろ強度で言えば人よりも硬いと言える。それをこんな簡単に壊せるなんてよほど魔力が込められてるか、もともとの膂力が高いかのどちらかだろう。
そのまま流れるまま走り続け、ドンドンと氷の廊下を突っ走り、スケルトンたちをひとまず突き放した。
「はー、やっぱり走っての移動はつかれますね。」
「頼むからそのセリフは自分で走ってる時に言ってくれ。」
何故か背負われてるだけのミリアが疲れたように息を吐く。多分緊張とかの精神的な疲れだと思うけど、明らかに背負ってる俺のほうが負担はデカいからな?
「ところで律兎さん、あれは何です?」
「んあ?」
ミリアが上の方を指差すと、氷の氷柱の先端に何か腕輪のようなものが凍っていた。
俺も不思議に思って氷の部分を切り落として氷柱を落とす。
落ちる前に腕輪を掴んで眺めると、宝石の部分が空洞になった金の腕輪だった。
「なにこれ?円環?」
「・・・おそらく魔法具だ。ただ鑑定しないと性能はわからない。・・・運がいいな。」
・・・運がいい? 何が?
よく分からないのでスイに答えを求める。
「・・・魔法具は性能によって高値がつく。たとえ能力的に弱くてもコレクターがいるから持っといて損はないよ。」
なるほどね、要はこのダンジョンの宝の一つか。
てっきり宝箱みたいなのがあってそこに入れられてるのかと思ったけどこんな感じなんだ。
そう言えば走ってる途中にも上に変な草が生えてたり瓶が凍ってたりしたけど、あれも宝だったんだな。
「ミリア、試してみるか?」
「ふぇ? 何が起こるのか分からないもの使いたくないのですが。」
「・・・呪われてる可能性もあるし、下手に使わないほうが、、、ミリアだし大丈夫か。」
「急にどうでもよくなった!?」
腐っても白魔法使いだもんね。
呪いとか効きそうにないし確かに使ってみても問題なさそう。
「ま、流石に万が一があったら嫌だし冗談だけどな。」
「・・・そう言われると試したく、」
「馬鹿なの?」
何なの君のそのチャレンジ精神。
そういえばこいつ変な物とかすぐ手を出そうとしてたな。危ねえ、下手に渡さなくてよかった。
「・・・? 何?」
ミリアは突然、真剣な顔で通路の向こうに視線を送る。俺も不思議そうにそっちを見ると、確かに嫌な感覚を感じ取った。
すると、、、
ーーズジャ
通路の奥から黒い毛皮を纏った獣が現れる。
しかし、その毛皮は所々剥がれてグジュグジュの傷を覗かせていた。
・・・獣、と言うよりライカンか?
やけに背骨が湾曲し、長い手は指を折り曲げながら地面に付いている。目には青い光を灯し、腐臭のような嫌な匂いを漂わせた。
【ジューーーーッ】
口から粘着質な体液を漏らしながらジャキィムは低く唸る。
俺は剣を構えて前に立った。
「倒し方は?」
「・・・魔法でのゴリ押しか、動けないくらい獣の体を破壊するしかない。」
グラグロは構えを取りながら冷や汗を垂らしている。
その異様な体躯には確かに怖気を感じるが、やはりガイアデルガという天井を見たあとだと見劣りするな。
ジャキィムはヨダレを垂らしながらこちらに向かって走り出す。
その巨体には似合わない素早い足取りで近づき、開かれた不揃いな牙が並ぶ大口の噛みつきを、俺はヤクラとガイアを2本持って受け止めた。
ーーブワァ!
湧き出る瘴気は死骸には意味をなさない。
だがその死骸に付いている霊には脅し程度の効果があるはずだ。
ヤクラで死骸の上顎を斬り飛ばし、ガイアで突きこむ。瘴気を送り込むように引き抜かずにいたが、横合いから伸びてきた拳を受け止めるために剣を真横に振るった。
腕はそのまま縦に裂けたが、俺も衝撃を受けて氷の床に着地する。
ジャキィムの厄介な点はいくら攻撃しても怯まないことか。
獣の体はただの死骸で痛覚はないっぽい。
しかも体のリミッターが取っ払われてるからか、攻撃の一撃一撃がやけに重いのだ。
それを無茶な動きで繰り出してくるものだから対応がしづらい。
ジャキィムは右腕が斬られたのをものともせず、左手で反動をつけながらこちらに飛び込んでくる。
ただもはや上顎がなく、噛み付くことはできないので質量で押しつぶしに来たようだ。
ーーブワァ!
しかしその勢いのまま、ジャキィムは浮かび上がるようにふわりと返される。そのままジャキィムは地面へと落下。
再び手をついて迫ってきたジャキィムに両手の剣を振るってすれ違いざまに斬り刻む。
【ジューーーー】
獣の死骸は動くことができなくなると、そのまま目の光を失い。動かなくなった。
「へぇ、人に憑いたりはしないんだ。」
「「「「・・・。」」」」
獣の死骸を足蹴にしながらしげしげ観察していると、もう全員から何とも言えない顔で見られていた。
「・・・あの化け物ってそんな余裕で対処できるのですか?」
「・・・無理、竜車を正面から受け止めるようなもの。」
「・・・俺でも正面から受けたりはしない。」
「こっわ。」
おかしいな、明らかに化け物が襲ってきたはずなのに化け物として見られるのは俺なのか。魔物が襲ってきた村を一人で助けた勇者が恐れられるのもこんな感じなのかなぁ。
あとハイル、なんかイラッときたからお前は説教な。
「所詮獣だしな、ミサイルよりマシだろ。」
「ミサ、イル?」
もちろん通じるわけないので疑問には答えず、また死骸の様子を確認しようとしたら死骸は溶け込むように氷の床へと染み込んでいく。
「・・・なんだあれ?」
「・・・もともとただの死骸だ。本来なら土に帰るものを無理矢理繋ぎ止めていたに過ぎない。仮初の魂が抜ければ肉体は保てない。」
ほー、なるほどね。
要は霊界の魂でこちらの肉体を無理矢理操ったけど、その寄生先が無くなって完全に魂は霊界に帰ったと言うより干渉できなくなった感じか。そんで残された肉体は寿命で朽ち果てた。
まぁ初めて見たし、そんな感じになるとはしらなかったよね。
【ジューーーー】
すると、通路の奥から再び獣の唸り声が聞こえる。
面倒だな、とため息をつきながら剣の柄に手をかけたが、そこにいたのは三体のジャキィムだった。
・・・多くない?
「よし、行ってこいミリア。」
「よりによって私ですか!?」
君は一応聖職者だろ?
悪霊払い位できてくれてもいいと思う。
ただそれで白魔法を使えばグラグロに人だとバレそうだし、流石にまずいか。
「無駄に戦って疲れるのもなぁ、逃げるか。」
「・・・どこに?」
どこだろうね?
俺もわからないよ。
ーーピキッ
悩んでいると、頭上から何か割れるような音が聞こえた。反射的に上を見ると、そこから現れた4体目のジャキィムが朽ちた剛腕を振り下ろしてくる。
特に全員危なげなく躱したが(ミリアは抱えてるよ)、その際に床の氷が割れてそのまま暗闇へと落下。
このままでは分断される。
それだけはまずいと、壁を足蹴に飛び出して全員を回収しようとしたのだが、、、
「ひぎゃーーー!!」
突然の浮遊感にビビったミリアに抱きつかれてバランスを崩してしまう。流石に下から引っ張られながら壁にいられるわけないので俺たちはバラバラになりながら次の階層へと落ちてしまったのだった、、、。




