喚ばれた剣聖ー73
「それじゃ、とりあえず休憩するぞー。」
「はーい。」「・・・あぁ。」「ほ、骨が!骨がぁ!!」「・・・うん。」
日が再び昇り、綺麗に澄んだ海面を照らす。
この海面なら沈むこともないしその場で休んでも平気だと思うけど、何となく精神衛生上よろしくない気がしたので朽ちた帆船に登って休息の用意を始める。
「わー、少し登っただけで眺めいいですね~。」
「どうせ飽きるほど見ることになるけどな。」
「ふふっ、なら今のうちに楽しまないとですね。」
そう言いながらミリアは気持ちよさそうに遠くを眺めている。
このダンジョンに入って戦闘を行いながら移動続けたのが功を奏したのか、今は中央付近にある次の階層への穴が見下ろせる位置まで来ていた。
まるで渦潮のように海に空いたぽっかりの穴。
あれに近づくとか恐ろしすぎてごめんだが、すでに次の階層へ渡る手段として確立されてるみたいだし覚悟を決めるしかないか。
その前に少しでも体力を回復しておかないと、、、。
・・・ここでは時間の感覚が狂う。少しでも小腹が空いたり眠くなったら休まないと体調を崩し、動けなくなってしまう危険性が高い。
俺はバックのなかに手を突っ込んでグラグロに見えないようボックスを操作する。
そこからスイの脱水技術でフードドライしてもらった果物を全員に手渡して齧りながら紅茶を淹れた。
「取り敢えず休憩終わったらもう次の階層にいけそうだな。グラグロ、どう思う? 次の階層に進んでもよさそうか?」
「・・・スタートの位置は悪かったが、進みは悪くない。まだ食料や体力に余裕もあるなら進んでも平気だろう。」
「なら進んでみるか、お前らもそれでいいか?」
「いいですよー。」「・・・うん。」「骨怖い。」
一人ビビってる奴がいるけどそれは無視して概ね次の階層へと進むことに賛成だったので今日はまだ進めそうだ。
また次の夜が来る前に休憩をきり上げて渦の縁にたつ。下で海が渦巻いてるのに特に引っ張られるような感覚もなく、ただただプロジェクションマッピングのように渦が存在しているだけ。
「ここ飛び込むのかぁ、よしミリア、行ってこい。」
「待ってください、ここは俺が先に行こうっていうところですよね?」
何言ってんだ、お前なら下で何があっても無傷でいられるだろ。行ってこい、我らがタンク。
「・・・俺が行こう。次の階層は水中になる、慌てなくていい、息は自然とできるからな。」
「へぇー、ほんとよくわかんねぇな、ダンジョンって。」
水の上を地面みたいに歩けたり、水中で地上と同じように呼吸できたり、、、。
まるで深層へ辿り着いて欲しいような意志を感じさせるな。
でもただではたどり着かせてくれないわけね、意味わからん。
グラグロが勢いつけて穴に飛び込み、姿を消していく。次は水中は得意というスイ、そしてハイルを蹴飛ばし、ミリアを連れてのみ込まれそうな暗い穴に飛び込んだ。
ーードポォンッ
長い落下のあとに水中へと飲み込まれていく。ミリアは突然の水中に慌ててバタバタしているが、俺はそれを押さえながら息をするよう意識させて落ち着かせた。
・・・これ下手にパニックになれば溺れれるな。
視界が晴れると、そこには幻想的な景色が広がる。
色鮮やかなサンゴに揺らめく海藻。
大小さまざまな魚が泳ぎ、発光するクラゲや岩などが海中を明るく照らしていた。
「おーー、これはすごい。」
あまりの絶景に感動して思わず声を漏らしながら、近場にあった岩の上にゆっくりと着地する。
体を動かすのにも抵抗力が働くが、水中のように浮いてしまったり服が水を吸って動けなくなることもなさそうだ。
ただただ、動き辛い感じだね。
「ミリア、息してるか?」
「わぁー、魚美味しそー。」
どっか頭打ったみたいだね。
この綺麗な景色を前にしてまず、魚を食べようとする食い気が勝ったのが驚きだよ。
他の3人も上手く着地できてるようで、そちらに向かって歩いて(泳いで?)合流する。
「・・・水中みたいな浮遊感は少しあるけど、水じゃない、、、変な感覚。」
「どっちかと言うと無重力空間みたいな感覚のほうが近いな。でもなくなったわけじゃなくて元の重力よりだいぶ軽いような感じか。」
月みたいな? うーん、うまい表現が見つからないけどそれが一番近い気がする。
各々が変な感覚に慣れようと体を動かしていると、近くを大きな魚が通り過ぎた。自分たちより遥かに大きい魚体が近くを通るだけで、空気が揺らめき流されそうになる。
「うわわわわっ! た、食べられないよね!?」
「・・・平気だ。この階層で魚に襲われたという話は上がっていない。ここでの敵は上と変わらずアンデットだ。」
・・・え、そうなんだ。こんなサメとか襲ってきそうな環境なのにアンデットなの? と言うか水中のアンデットって、、、なに?
すると、遠くの方から微かに金属がこすれるような音が聞こえた。そちらに視線を向けると、ボロボロの鎧を着込んだスケルトンが弓を引き絞って矢を放ってくる。
俺はすぐに全員の前に立ち、放たれた矢を全て弾く。そのままぶつかるように後ろへと跳んでさらに海深くへと降りていった。
「スイ!」
「・・・うん。」
更に下で、地面が海底の砂にかわり、前から襲ってくる白い下半身のない人型の怪物が鋭い爪を振りかぶる。スイはその爪をするりと流し、水槍激で串刺しにした。
その間にも岩の隙間から次々スケルトンたちが武器を持って現れる。それを冷静に観察しながら、ミリアに目配せ。
こちらの意図を察してくれたミリアはすぐに障壁を貼ってくれた。
その無駄に固い障壁をスケルトン達は破れず、何度も武器を叩きつけている。
「さーて、次の階層はどっちだ?」
「・・・これ、壊れないのか?」
「おっとー、舐めてはいけませんよ。防御の腕前なら負ける気はありませんから!!」
胸を張ってミリアはドヤ顔を浮かべている。
実際、スケルトンたちは今もなお透明な壁を叩いているが、割れる気配は微塵も感じられない。
「・・・次の階層に行くにはここのボスを倒す必要がある。そいつを倒すと次の階層への扉が開かれる。」
「つまりそいつを見つけないことには始まらないのか。」
この広い海中で、そのボスを探すのは骨が折れる。
それも敵を相手にしながらなら尚更だ。
敵を避けれて、なおかつ移動速度の早いヤツなら行けそうなんだけどなーー。
俺がちらりと視線を向けると、ハイルはスッと横を向いて目線をそらした。
「そのボスの特徴は?」
「半透明な身体に羽衣をまとった顔や口もない、ただ輪郭が漂っているような不気味な存在がいる。体躯はかなり大きく目立つが、目をつけられれば逃げるのは困難だ。」
「よし、行ってこいハイル。」
「え、僕!? だ、だって逃げるのは困難なんでしょ!? この動きづらいなかそんなのから逃げるなんてむ、無理だよ!!」
大丈夫大丈夫、一般人にとっての逃げるのは困難だからさ。お前の逃げ足ならきっと余裕あるよ、、、知らんけど。
俺はハイルの両肩に手を置いてじっと顔を見つめる。
「・・・ハイル、知ってるだろ? まだ里の問題は解決できてない。ここで時間をかけすぎる訳にはいかないんだ。だからこそお前の足を信じたい。」
「ーー!! そ、そっか、そうだね、まだこれからなんだ、ここで踏ん張らないと!!」
俺の言葉にハイルは両拳を握りしめて震えながらやる気を滾らせる。
・・・ちょれぇー。
グッと親指を立てて「任せる。」と伝えると、ハイルは頷いて障壁を飛び出し、走り出す。その速度はこの抵抗が強いなかでもなかなかのもので、スケルトン達は追うことができない。
「取り敢えず囮2号を走らせたし、何処か目立つ所で休むか。」
「ちなみに囮1号って誰か聞いてもいいですか?」
「はっはっはっ、誰だろうね。」
ミリアからの冷たい目線を無視して、少し高台になっている岩礁を目標に行動を始める。
俺、グラグロ、スイの3人でミリアを中心にトライアングルに位置取り、障壁が解かれた瞬間、目の前のスケルトンを相手にする。実際敵の種類は変わっていないので対処は先ほどと同じだ、ただ動きづらく手間がかかると言えばそうだが、あまり問題じゃない。
ちなみにグラグロは剣舞一式が使えるわけないので、拳に魔力を固めてスケルトンをぶん殴っている。
大振りの攻撃だが、喧嘩慣れしてるのか危なげなくスケルトンを砕いていた。
そしてある程度対処を終えたら移動、スケルトン達は海の中で獲物を探すように練り歩いている。
「・・・上層みたいに位置が常にバレてて襲われるよりはかなり楽だな。」
「・・・上は物量に対応できるか、ここはこの環境に対応できるかが課題なのかも。」
スイの言う通り、ここは環境がかなり特殊で戦いづらい。水系の魔法なら特に差異なく使えるようだが、ほかの魔法や弓などの遠距離攻撃はこの抵抗をモロに食らってだいぶ速度にデバフがかかる。
弓は狙いも定まりづらいだろうし天敵だな。
「それにしても上層と敵の種類がほとんど変わってないんだな。」
「・・・あぁいや、スケルトン以外もいるぞ、『プリーム』と言う半透明な人型のクラゲがな。」
おっと、まさかの共有されてない情報が後付けで出てきたぞ? ハイル君大丈夫かな、、、。
そしてそんなセリフがフラグになったのか、やけに見辛いが、海中を何かが横切ったのを確認できた。
本当に水がわずかに揺れる程度の存在感の薄さ、なるほど、これは厄介だ。
「・・・? 何かいる?」
「え、スケルトンとか見当たりませんよ?」
感知能力の高いスイは波の動きで違和感を感じたようだが、ミリアは呑気に首を傾げてた。
睨むように視線だけでその謎の生物を追っていると、腕を網のように広げて、こちらに迫ってくる。俺は一つため息をついて剣を横に構えた。
「『剣聖一式 表裏乱解』。」
放たれた無数の斬撃は半透明の存在を斬り刻む。
裏の世界であろうと現界であろうとどちらも同じように切り裂くこの技は、相手がどんな存在であろうと通じるという利点のほかにもう一つの使い方があった。
「・・・裏3、表7くらいか。」
剣で切り裂いた時の手応えでどっちのほうが比率が大きいかを分析し、相手がどんな存在なのかを判断することができる。
・・・肉体はこっちに存在しているな。ただ希薄な部分は流体が水中に溶けるように流れ出ている。
核となる肉体に、魔力で水を集めて体を大きく形成しているってところか。
水中に溶けていくプリームとやらを眺めながら俺は剣をしまった。
「スイ、あいつを倒すには水魔法で散らせるようなやり方のほうがいいな。ただ相当見づらいから少しでも波に違和感があったら確かめてくれ。」
「・・・わかった。」
スイは思ったよりも気づかず近づかれていた事に焦りを感じて、さっきより魔力の感知を高めている。
ずっと警戒していると神経を使うし疲れるだろうが、それは訓練として頑張ってもらおう。
それからはスイもプリームに近づかれる前に感知する事が出来るようになり、また探索が楽になった。
順調すぎて少し怖いが、まだ先は長いし、焦らず頑張るしかないね、、、。
・・・いつフロアボス釣れるかなー。




