喚ばれた剣聖ー71
「・・・また森かー、飽きた。」
「え、エルフの森だよ?」
知らんわ、別に神秘的でもなんでもないやろ。
あの後、ユリジャに出かけることを伝えると彼は『芝馬』なる馬を貸してくれた。
新緑の毛皮に包まれた馬で季節によって色が変わって擬態するらしい。
今はその馬の背に俺とミリア、スイとハイルで乗っていた。
ちなみに最初に言ったほうが騎手ね。
「・・・でもよかったの? 知らなかったけど襲われてたのに放置して。」
馬を歩かせながらスイが当然の疑問を聞いてくる。
そう、あさ里を出る前に全員に何があったかを説明しておいた。
じゃなかったら変な縛られ方で捕まってるフニューを見て戸惑うだろうしね。
俺は気怠げに溜息をついて首に手を当てる。
「いーだろ、たぶんだけど連中はお互いに助け合うような関係じゃない。口封じには来るかもしれないけどその時はその時だ。」
ぶっちゃけフニューからあれ以上情報を得られるとは思えないので別に殺されるなら殺されたって構いはしない。問題はエルフ達に被害が出ることだけど、、、。
「・・・フィーカが正気に戻ったんだ。天能の力は伊達じゃない。リクリカも本気で指導するって言ってたし自分たちの森くらいは守ってくれんだろ。」
そう、あの後フィーカの処遇なのだがリクリカ預かりになった。
フィーカはフィーカで里に被害を出した非を認め、それを返すために力を磨き、里の守護で汚名を晴らすと表明した。
もちろんあの一件で離れてしまった里守も多くいたが、彼女はそれをしっかりと受け止めているらしい。
それでリクリカは元自然の精霊としてフィーカの力に通ずるものがあるらしく指導を買ってでた。
・・・ちなみにめっちゃ厳しいらしいよ。ユリジャが苦笑い浮かべてたもん。
「・・・はー、湖畔の月ってどう言うところなんだ?」
とりあえず里の方は彼らに任せるとして俺達は今のことを考えないとな。
湖畔の月を知っていそうなスイに聞いてみると彼女は首を傾げた。
「・・・さぁ?」
「え、知らないの?」
「・・・うん、湖畔の月は最近できたダンジョンだし情報があまりに少ない。強いて言うなら亡霊系の魔物が多いみたいで魔法を使えない種族は相性が悪いってことかな。」
彼女の言葉に俺とハイルは俺の背中でよだれを垂らしながら寝てるミリアを見る。
亡霊系であれば(漫画だと)白魔法は特攻性能になるだろう、つまり彼女の独壇場なのだが、、、。
「うん、無いね。迷子になる未来しか見えない。」
「・・・ミリアは攻撃魔法は使えない、でしょ?なら期待は酷かも、守ってもらえるだけでも相当助かる。」
確かにね。
攻撃力に期待はできなくても常にセーフルームが近くにあるのは安心かもしれない。亡霊系なら精神系とか透過系の攻撃をしてきそうだけどミリアならそれすら防げそう。
「・・・ダンジョン周辺には必ず溜まり場ができる。そこで情報交換したりしたほうがいいかも。」
スイのとても参考になる意見を聞いて俺は頷いた。
そこからはただ馬で歩くだけでの行軍が続く、、、。
途中でハイルが薬草を補充したりご飯食べたり休みながら5日ほど経つと、白い砂の大地に出た。
まだ遠いが遠くの方に何か建物らしきものが見える。
芝馬は砂の大地とは相性が良くないのでここでお別れとなる。
ほっとけば勝手に里に帰るって。
俺達は遠くに見える影に向かって歩を進めるのだった。
ーーー
白い砂漠の真ん中にデカい海賊船のような船が突き刺さっていた。
そしてその船を囲むようにテントや簡易的な小屋が建てられ活気のある声が聞こえてくる。
「・・・眩しくね?」
「白い砂が日光を反射してますね。普通に目によくないですこれ。」
「・・・そう?」
俺はボックスからサングラスを取り出してミリアに渡しておいた。
ちなみに何故かハイルとスイは特に普段通りに気にせず歩いてる。・・・あれかな、種族特性とかあるのかね?
多くの異形が闊歩する中、俺達も適当に露店を見たりしながら真ん中へと向かっていた。
「お客さん! サンデルケの姿焼きはいかが!?」
初めて聞く名前の食材に興味をそそられるとワームのような見た目の肉が串に刺されてごっつい香辛料が振られていた。
「食べます!」
「あいよ!」
すぐに手を上げたミリアに馬のような見た目のおっちゃんはすぐに仕上げをして手渡してくれた。
「・・・いくら?」
「あぁ、通貨なら3ミル、物々交換も対応してるぜ。」
「・・・じゃあ12ミル。」
あっれぇ? スイさんいつの間に稼いでたの?
出所がわからない通貨を手渡しておっさんは4本串を包んでくれた。
てかやっぱ行商とか交易のある場所だと硬貨普通に使うじゃん。そりゃ交流のない村とかなら別だけどちゃんと稼いどいたほうがいいなこれ。
ちなみに串肉はめちゃくちゃ美味しかった。
濃い味付けにさっぱりとした肉の味がとてもマッチして最高。
串肉を食いながら中央のダンジョンに向かっていると、六本腕のゴリゴリ入れ墨が入ったヤーさん見たいな大男が立ち塞がった。
「・・・なんだ?」
「・・・お前ら、そんな軽装で砂漠を越えてきたのか?」
どこかこちらの装備を確認するように全身を見てくる男に俺は怪訝な目を向けた。
ちなみに今俺とミリアはフードを被って髪を隠し、仮に取れと言われてもすぐに変装できるようにしている。長く滞在する気がない場所で正体を晒す必要はないからね。
「はにふぁふぉかしぃへすは?」
・・・食いながら答えんなよ。てかお前の胆力すごいな。
動じないで肉を食いながらミリアが返事を返す。
ミリアの後ろでは隠れるようにスイがそっといつでも動けるように構えていた。
・・・え、ハイル?逃げたよあいつ。
「・・・なるほどな、この砂漠に潜む魔物達を無傷で切り抜け、俺に怯まない胆力もある。・・・ふむ、お前ら時間はあるか?」
俺達は突然の提案に困惑する。
時間はぶっちゃけある、でもなにか勘違いしてそうだし関わりたくないなぁ。
そう思ったが無言の圧に屈して俺はため息をついた。
実際ダンジョンに普通に入るとは思えないし情報が欲しい。利用させてもらうとしますか、、、。
「時間はある。でもお互い有益な時間を過ごせるといいな。」
「・・・あぁ、お前たちの目的が湖畔の月であるなら損はないだろう。・・・ついてこい。」
男はそう言って先を扇動する。
俺は一度振り返って全員の顔(一人を除く)を確認して後を追うのだった。
ーーー
なんか思ったより反発もトラブルもなく情報を得られそうで拍子抜けする。
俺達は真ん中の船近くにある大きなテントへと案内された。
「お、グラグロ、有望そうなやつを連れてきてくれたか?」
「・・・あぁ、砂漠を乗り越え、無傷で生き残っている猛者だ。役には立つだろう。」
真ん中に広げられた地図とにらめっこしていた耳がコウモリの羽になっている緑色の髪を持った知的な男性が笑みを浮かべた。
「・・・なるほど、では自己紹介しようか。私はこのダンジョン攻略の責任者に任命された タロウット商会のグリン・ジャンだ。」
「俺は律兎・八九、、、楽? ん?タロウット商会って言うとゴードンさんのとこか。」
「おや? パルパンク支部のゴードンとお知り合いで?」
急に丁寧な口調になったグリンを気にしないで懐から1枚のカードを取り出した。
彼はそのカードを受け取って目を大きく開ける。
「これはこれは、特別優待者専用カードですか。大変失礼を、粗雑な言葉遣いをお許しいただきたい。」
「あぁ別に構わない。それよりここになんで呼ばれたんだ?」
俺はテントの中を見回す。
多くの書類や地図がまとめられ、よく分からない道具も乱雑ながら置かれていた。
「その前に一つ、貴方様方はここにできたダンジョン、湖畔の月に目的があって訪れた、、、という認識でよろしいでしょうか?」
「あぁ、実はある品がここの下層にあると言われていてね。それを取りに来た。」
そう言うとグリンとグラグロと呼ばれた大男はピクリと反応する。
「・・・・・なるほど、下層ですか。失礼ですが御人、腕に自信のほどは?」
「一応ロドに認められるくらいは。」
俺がそう言うとグリンは大きく目を見開いた。
「ロ、ロド? それはもしかしてログロド・ジャユ様の事でしょうか?」
「うん、そうだよ。」
そう断言すると彼は浮かべていた営業スマイルをひくつかせてグラグロに視線を送った。
「・・・とんでもないの拾ってきたな。」
「俺もそこまでとは思わなんだ。」
聞こえてるからな?
反応するのもめんどいし聞こえないふりするけどさ。
「では実力の方は申し分なさそうですね。」
「それで聞きたいが実力者を探して連れてきたってことはダンジョンの攻略に手こずってるのか?」
俺が連れてこられた理由を察して先に聞いてみると、彼は少し驚いた後頷く。
「えぇ、解放されてから早3ヶ月ほど、その間に潜ってもらった者の生還率はおよそ5割、それも行けて中間層までですね。」
やっぱりかー、なんとなく空気感から分かっていたけど嫌な感じだね。
「何にてこずってるんだ。」
「まず方向感覚を失うほどの広大な広い海、歩くのは問題ないのですが危険なアンデットがウヨウヨ彷徨っており対処に手こずっています。亡者の類には死という概念が存在しません。・・・人族の白魔法使いがいれば話は違いますがね。」
グリンは悔しそうにそう吐き捨てた。
・・・びっくりしたー、ミリアのことバレたのかと思ったよ。
ちなみに当のミリアは話が長くて眠くなっていたのか船を漕いでいる。後で説教だな。
「なるほど、倒し切ることもできずに永遠と襲い来る魔物と戦いながら広い海を歩く。それは苦労しそうだ。」
「えぇ、魔法を使えれば足止めはできますが倒し切ることは難しいですから、それに階層ボスも中々厄介で、、、これは長期化しそうです。」
グリンはそう言いながら苦笑を浮かべる。
おそらく彼はここの管理と責任を取らされる立場だ。
状況がよくなければ憂鬱にもなるだろう。
少し同情しながら俺は口元に手を当てた。
「・・・入るのに何か制限はあるのか?」
「一応傭兵か冒険者のライセンスがあれば制限は設けていません。ただあまりに実力が低いと命を捨てるだけなので止めさせてもらっていますがね。」
「他は?」
「あと紹介状があればですかね。」
ちなみに俺はどちらもないのでなんとか融通を利かせてもらうしかないか。
「どっちもないんだけど入れるか?」
「構いませんよ、ログロド様に認められた御人を止める理由はありません。」
「・・・嘘とは思わないのか?」
「つく理由がありませんからね。嘘であれば無闇に命を捨てるだけです。」
確かにそれはそうか、別に勝手に入られて死んでも自業自得だしね。
「ただ一つ聞かせてください。貴方方はダンジョン攻略の経験はおありですか?」
言われて俺はミリアとスイを見回した。
スイは首を振って、ミリアはコクンと頷いたけど寝てるだけだなあれ。
俺は前を向いて「ない」と短に告げた。
「ではこちらのグラグロをお連れください。彼は多くのダンジョンを踏破している経験豊富なものです。ダンジョンと言うのは腕っぷしだけで攻略できるものではありません、きっと役に立ちます。」
願ってもない提案に俺は素直に頷いた。
未知の場所を探索するのに経験者を紹介してもらえるのはありがたい。
「助かるよ。」
「いえいえ、ではコチラからもよろしくお願いします。貴方方のご武運をお祈りしますね。」
グリンはそう言って恭しく頭を下げた。
俺達はグラグロに案内されて、ひとまず外に出たのだった。




