喚ばれた剣聖ー70
元フニューの家に帰り、扉を開けるとやけに甲斐甲斐しく世話をされているハイルと何か微妙な顔をしたスイがいた。
「・・・・・これは、面白そうな匂いがします。」
俺の背中からひょこっと顔を出したミリアがぼそっと呟く。
・・・確かに面白そうではあるけど俺寝てていいかな?
シルルカが作ってくれたのか2人はスライスした芋を軽く炒めて味付けされたようなものを食べていた。
スイは無言でモクモクと食べているが、ハイルはシルルカに食べさせてもらっており、顔を赤くしながらスイをチラチラ見ている。
「(シルルカ! もう大丈夫だから自分で食べれるよ!)」
「そう言ってさっきもフォーク落としてたじゃない。こういう辛い時は甘えるの!」
「(そうだけど! そうなんだけど!!)」
まだ体が痛いのか自分で食器を持つのもつらそうで、シルルカはハイルを献身的に介護してくれてる。
しかしハイルからしたら好きな子の前で食べさせてもらっているのは勘違いされそうで気が気じゃないと思うね。
・・・実際、すごい小声で抵抗してるし。
「・・・あ、おかえり。さっきフニューさんが出ていったけど会った?」
「あぁ、会ったぞ。すごく元気にはしゃいでたよ。」
こっちに気づいたスイの挨拶に返事しながら俺は壁際に置かれていたソファに寝転ぶ。
まだ体調が芳しくない2人を気遣って外の状況を隠す俺にミリアは苦笑しながらスイの隣に腰掛けた。
「スイは調子どうですか?」
「・・・ん、もうほとんど魔力も回復して体調も良くなってきた。これならいつも通りに動けそう。」
「それはよかったです。でもまだ無理矢理魔法で治しただけなので安静にはしていてくださいね。動けると思っても実際は熱の後みたいな違和感があるはずですので。」
・・・あれ? ミリアってあんなに聖職者っぽかったっけ? やっぱりゴート族に入れ替わられてるのかなぁ(失礼)。
そのまま少し仮眠をとろうとしたが少しからかってやろうかと悪い笑み浮かべる。
「ハイルー、いちゃいちゃしててもいいがあまり羽目を外しすぎるなよー。」
「◯▲%□✕●!!」
奇声を上げて起き上がるハイルと照れたように頬を染めているシルルカ。
その2人をスイは特にいつも変わらない表情で見つめていた。
・・・うーん、もともとあまり感情を表に出すタイプじゃないしわからん。
でもあった時よりは大分何考えてるかわかりやすくなってきたんだよなぁ。
そんな事をボーっと考えているとミリアがこちらに椅子を寄せて耳打ちしてきた。
「まさか不満げなスイが見れるとは思いませんでした。ハイルくんもやりますね。」
「へ? いつも通りじゃないか?」
「律兎さん、よく考えてくださいよ。普段のスイだったらそもそもそちらを見たりもしませんよ。」
言われてみて確かにと納得した。
そしてそう言われると表情もどことなく不満気に感じる。
こんなわずかな変化に気づけるとは、、、ミリアの観察眼には恐れ入るね。
「よく見てんな。」
「もっちろんです。感情の機微に鋭いことも聖職者に必要なことですからね!」
そう言って胸を張るミリアに「はいはい」と軽い返事だけをしておいて俺は目を閉じた。
思ったよりも疲れていたのかすぐに眠気が襲ってくる。
完全な眠りに落ちる直前にふわりと柔らかく頭を撫でられ、「ゆっくり休んでください。」と優しい声がかけられた気がした。
ーーー
「・・・・・・・・・はっ!?」
あれから幾ばくか経ち、跳ねるように目を覚ます。
思ったよりもちゃんと熟睡してしまったようで、外を見ると既に真っ暗になっていた。
俺は頭を押さえて少し目頭を揉む。
・・・やばい、熟睡なんて何年ぶりだ? こんな無防備に寝ちまったのなんて今まで生きてきた中でも数えるほどしかないぞ。
急いで周囲に意識を向けて、今の状況を確認する。
里はすでに静かになっていて大勢のものが眠りについており、端に設けられた檻だけが明かりを灯して交代で見張られていた。
今この部屋にはハイルとスイ、その横で仮設のベットを立てて寝ているシルルカ、そして椅子で毛布にくるまりながら寝てるミリアがいる。
よかった、状況は何も変わってないな。
ホッとして冷や汗を拭いながらまたソファに体重を預ける。
「・・・ん?」
するとある違和感に気づいた。
今さっきまで聞こえてたはずの吐息や外の環境音が止まっている。
どこか既視感のある現象に眉をしかめていると、真横に光を発し続ける謎の存在が現れた。
「・・・久しぶりか。」
『はい、お久しぶりですね。』
当たり障りのない挨拶をすると、謎の存在は光の向こう側で微笑んだ気がした。相変わらず光りに包まれててよく分からないけど。
『ふふっ、私のプレゼントはお気に召していただけましたか?』
言われて俺は片手を上げてもらった指輪を眺めた。
「まぁ正直、助かってるよ。」
『それはよかったです、、、。ただ一つお願いしたいのですが、あの剣帝?でしたか? あの方はもう喚んでほしくないのですが、、、。』
普通にお礼を言ったらまさかのお願いをされて俺は目をパチパチさせた。何でユースを喚んじゃいけないんだ? ぶっちゃけあの人を喚ぶのが一番厄介事を解決するのに手っ取り早いんだけどな。
俺が説明を求めるような視線を送っていると、謎の存在は気まずそうにしている。
『い、いえ、あの人、ただ喚ばれただけなのに私の存在に当たりをつけて尚且つ、完全に外界にいたのにこちらを認識したのですよ? 正直、めちゃくちゃ怖かったです。』
「・・・あぁ、あの人の人外加減は今更だけど、確かにそれは怖いな。」
ぶっちゃけ知った事じゃないけど確かに少し同情する。俺はあの人って神格存在にすら恐怖されるんだなぁと他人事のように考えながら欠伸を漏らした。
「それで? 今回は何の用で出てきたんだ?」
『え? あぁ、そうでした。一つ頼み事というかお願いなのですが、実はこのエルフの里近くにあるダンジョンがあるのです。その最下層付近にあるレリックを取ってきて貰いたいのですが、、、。』
「自分で行け。」
まさかのお使いを頼んできたので俺は毛布にくるまってソファの背に向かって寝転ぶ。
『わぁーっ! 待ってください、違うんです!自分で取りに行きたいのは山々なのですが、私がこの世界に長居するのは良くないのですよ! 確かに落としちゃったのは私ですけどそこにダンジョンが出来るとは思わないじゃないですかぁ!』
しかも完全にこいつの尻拭いじゃねぇか!
もう完全に聞く気が失せたのでそのまま寝てしまおうかと思っていたが、ふとある事に気づいた。
「・・・ダンジョンができた? それって最近の話なのか?」
『・・・え? あーー、私感覚で言えばつい数分前くらいですけど人間換算で言えば3ヶ月前くらい?』
そう言えば前にダンジョンができたって話を聞いたな。もしかして話に聞いたそのダンジョンの中に神格存在のレリックが落ちている?
やばい、何がやばいかわからないけど絶対にまずい気がする。
「ちなみにどんな力があるんだ?」
『・・・秘密です☆』
絶対ろくでもねぇ!!
俺は痛そうに頭を押さえて、ため息をついた。
「・・・ついでな、用があって向かうようならついでに取ってきてやる。」
『え、結構急いで欲しいのですが、、、。あ、では取ってきたら一度使わせてあげますので早めにお願いできたりしません? 今のこの謎の連中との膠着状態を崩すのに使えると思いますよ?』
ニコッと名案っぽく伝えてくる。
・・・てかこいつはこっちの事情に詳しいのか。よく神格存在がたった一人の人間なんかを気にしてられるな。
余程の物好きなのかと納得して、俺は提示された条件が悪くないと判断する。
「・・・わかった。ならすぐにでも取りに行ってくるよ。それでいいか?」
『はい、かまいません。・・・よかったー、これでドヤされなくて済みます(ボソッ)。』
何か言ったかこの野郎。
俺は額に青筋を浮かべながら今度こそ寝転がって目を閉じた。すると止められることなく辺りは音を取り戻し、静かな音のする世界が戻ってくる。
俺は今度は熟睡しないよう仮眠にとどめながら、朝日が昇るのを待ったのだった。
ーー次の日ーー
「てことでダンジョン行くぞ。」
「・・・どういったわけですか。」
翌朝、4人の前で俺はそう宣言した。
もちろんミリアには怪しいものを見る目で見られ、ハイルはダンジョンに行きたくないのか震えだす。
そしてスイは無言で首を傾げていた。
「天啓が降りてな、どうやらそこに今の状況を打開する道具があるらしい。」
「・・・律兎さん、今日はもう少し休まれては? おそらく疲れてます。」
「胡散臭いこと言ってるのは理解してるよ。」
でも説明しづらいんだよな。俺もあの光ってるのが何なのか知らないし適当なことは言いたくない。そうなると説明はどうしても無茶苦茶になるけど何とか納得してくれないかなー。
そう思っていると、無言だったスイが口を開く。
「・・・それって、新しくできた『湖畔の月』?」
なにそれ知らなーい。
だって名前とか詳しい場所聞いてないもんね。
なのに俺の頭の中では名前と場所が何故か思い浮かんできた。
の野郎、干渉してきてるな?
「そうだ。確かそんな名前だ。」
とりあえず適当に返事しながら全員の顔を見渡す。
するとスイが小さく手を挙げた。
「・・・私は行きたいかも。遅れも取ったし強くなりたい。」
スイはそう言ってまっすぐこちらを見た。
俺はその視線に一つ頷き、スイの同行を許す。
さてあと2人だが、、、
ハイルを見ると、彼はどこか難しい顔をしていた。
確かにせっかく帰ってきた里が襲撃にあっているとすれば離れたくはないか。
ただ残ってどうすればいいのか分かっていなのでいる意味があるのかも悩んでいるのだろう。
ミリアはどうでもいいや。
「・・・ハイル、別に残ったっていい。俺たちもまた戻ってくるし、不安を残したまま動くのも辛いだろ?」
そう思って提案したのだが、ハイルは首を横に振った。
「い、いや、ここに残っても役に立たたないし、ま、まだ力をつけないと。だから僕もついていかせてほしい。」
真っ直ぐ俺の目を見て言い切ったハイルに俺は頷きを返した。
よしじゃあ結局全員で行けばいいか。
ダンジョンというものがよくわからないし知識のある人は多ければ多いほど良さそうだからな。
思い立ったら行動、俺達は用意を終えて、一度エルフの里を後にするのだった。




