喚ばれた剣聖ー7
結局、俺たちは先頭をスイナに交代して縦一列に並んで泥の上を進んでいる。
進んでも進んでも変わり映えのない茶色の大地が続き、正直もう飽きてきた。
・・・本当にここって異世界なの?
幻想的な平原とか洞窟、空島とか見てみたいなー。なのに今のところ岩しかない洞窟、燃えた街、深ーい森ときて今度は泥沼。
俺の異世界生活、灰色すぎない?
てか、いい加減異世界料理とか食ってみたい。
今のところ現代料理しか食ってねぇよ。ミリアは料理できるみたいだけど現代機器の使い方を教えてないので必然的に作るのは俺になる。
そうなるといつもの似通った料理しか作らないので目新しさがない。ミリアとかスイナは現代料理たべれて楽しそうだけどさー。
・・・でもそうじゃないんだよ。
雨の中を元気に走るスイナの背中を見つめる。
ほんと子供って体力あるよな。
「着いたよ!」
泥山を登り続けていると、その上まできたスイナが到着を告げた。
「・・・おぉ。」
広大なダムのような水たまりの真ん中に、柱のように伸びた大地が刺さっているような光景。
円柱に張られた結界が水を受け流し、決して折れないように保たれている。
どうやって入るのかなーって考えていたら一本の土でできた橋がダムのようになった水たまりのヘリにつながり、そこから登っていくことができそうになっている。
なんかようやく異世界っぽい景色見れた気がする、、、。
「いくよー!!」
景色に圧倒されていた俺とミリアをスイナが呼びつける。
いつの間にか遠くまで歩いて行ってしまっていた。
そんなことは気にせず、少し距離が空いてしまっていても、スイナはガンガン進んで行くので遅れながらも2人でついて行く。
「・・・律兎さん、少し心配事があるのですが。」
すると、ミリアがスイナに聞こえないくらいの声量で(まぁ、雨音が大きいから普通の声量で全然聞こえないけどね。)話しかけてきた。
・・・なになに? ナイショの話? ドキドキするね。
「私達、絶対門前払いされますよね。」
あー、そのこと、、、。
「おう、されるだろうな、戦争中の種族をあっさり内側に入れるようなバカじゃないだろ。」
俺が確定している未来を告げるとミリアは深く息をついた。
それはため息というより、休息が取れないことへの落胆だろう。
だが、ようやく見えてきた故郷に嬉しそうにしているスイナをミリアは優しく見つめる。
「まぁ、スイナちゃんを無事に送り届けられれば充分ですね。」
「・・・・・そうだな。」
ーー
水族館の水中トンネルのように張られた結界を通りながら円柱の上を目指して進む。
横幅は10メートル程あるので3人で並んで雑談しながら歩いていた。
「ーーーそれでね、お姉ちゃんが迷子になってスイナが見つけたんだ!」
「えぇ、そんなところにいたのですか? よく見つけられましたね。」
「お姉ちゃんがどこに行くのかなんとなくわかるんだー!」
「なるほど、姉妹の成せる技ですか。」
「・・・。」
雨は依然として降り止んでおらず、水溜まりの水位が上がらないかと心配になるが、遠くの方を眺めると水が滝のように抜けるよう整備されていた。
・・・所々人工的に整備されている場所は見受けられるが今の所人は一切見受けられない。、、、なーんか嫌な感じ。
「そういえばスイナ、お前達って何か種族名とかあるの?」
「しゅぞくめー?」
「んー、スイナ達の総称みたいなもんかな。・・・ちなみに人は人族なの?」
少し気になったので聞いてみた、後ついでにミリアにも。
「えーと、人族にも確か『フェッシュシール』族という族称があった気がしますね。」
フェッシュ・・・なに?
へぇー、何か意味のある名称なのかな。
「スイナは確か『ミスルル』族って呼ばれてた気がするよ!」
ミスルル、なんか可愛らしい種族名だな。
みんなスイナみたいに可愛らしいなら納得だけど、そんなわけないか。
「あ! 見えてきたよ!」
スイナはそう言って駆け出した。
見上げると石で組み上がった塀が聳え立っており、その上にスイナと同じ空色の髪を持った男性がこちらを睨みつけているのが見える。
それを見て俺はため息を吐いた。・・・めんどくさそうどなぁ。
ーー
いやぁー、本当に予想通りの展開になったよ。
今、俺とミリアは大きな門の前で剣や槍、遠くの方では水でできた槍のようなものがこちらに向けられていたりと大歓迎(笑)
予想通りすぎて一切驚きがねぇわ、俺とミリア2人とも落ち着いてるもん。
ちなみにスイナは先に走って行ってしまったのでそのまま中に迎え入れられたのだろう、多分有無を言わせず。そして、俺たち2人が残り今に至る。
すると、青髪、青メガネの全身青で統一している三叉の槍を構えた男が1人、前へと出た。
「・・・よく人族がのこのこと顔を見せられたな!」
いきなり殴りかかってくるんじゃないかって形相で喚き散らしながらこちらに槍の穂先を向けてくる。
全く、親に槍の穂先を負けちゃいけませんって習わなかったのか?
「悪いな、流石に大丈夫な気がしてたんだけど何があるかわからないのが帰り道なんでね。スイナを送り届けるまでが助けた者の義務だって思ったんだよ。」
俺がそう答えると男はさらに顔を赤くした。
「何が送り届けるだ! 貴様ら人族が攫ったんだろ! そんな自作自演に騙されると思うな!」
うわー、そう捉えられたかー。
ただ早合点されていることは確かだな。
確かに敵対している人族がスイナを攫ったと言うのは可能性としてあるとは思う。
だが、確定ではない。
人族だって同族を攫ったりするのだから魔族間でもそう言った事件がないとは限らないと思うので下手に決めつけるのはやめてほしい。
・・・てか、攫った奴が送り届けるわけないだろ。
「あ、あの、私達がスイナちゃんを送り届けだけにきたのは本当です。勿論何もせずに帰ります。それでよろしいでしょうか?」
ミリアが下手に出てここは引き下がると相手に伝えた。
だが、その条件が飲まれることはない。
「・・・いや、貴様らは俺たちの故郷の場所を知った。この場所を広められ、後から大人数で攻め込まれるわけにはいかない。」
なるほどそうきたか。
俺たちがこいつらの故郷を調べにきた可能性を捉えたのね。
「へぇー、つまりどうすんの?」
「貴様らには死んでもらう。」
男がそういうと周りにいた他のミスルル族の連中から殺気が迸る。
真後ろにドポン、ドポンっと水が落ちる音がしたと思えば、落ちてきた水の玉が人を形造り、剣を構えられた。
・・・何その移動、便利そー
「・・・律兎さん。」
キュッ
あからさまな殺意を向けられてミリアが震える。
ただ、ワイバーンの時よりは震えは小さく、動けないほどではないみたい。
ふ、まだ信用が足りないな。・・・この程度の剣士に殺されると思われてるとは。
「一つ頼みがあるんだけど。」
俺はいつもの軽い感じを全面に出して応対する。
問答無用で斬りかかられたらこっちも無抵抗ではいられないので何人か怪我人は出るだろう。
流石にスイナの故郷で怪我人は出したくない。
ま、人には言葉があるし説得でもしてみますか。
成功率は低いけどね!
「・・・・・なんだ。」
「この村に三日程滞在させてほしい。」
「えぇ!?」
「・・・は?」
ミリアが素っ頓狂な声を上げてこちらの正気を疑うように見上げる。
ミスルル族の連中は何言ってんだって眉を顰めてこちらを見ていた。
「ふざけるな! なぜ貴様らを村に居させないとならない!?」
ま、当然の反応だな。
でもさぁ、色々不可解なんだよねー。
「別にお前らに興味は一ミリもないよ。」
「ならなぜ!」
俺は少し真面目な表情に切り替える。
「スイナがどーして誰にも見つからず、探されてもなくて攫われたのか気になってね。少しの間様子を見たいって思ったんだよ。」
「・・・!!」
そう、俺はそこだけが気がかりだった。
見た感じこの村の出入り口はこの土で押し固められた橋一本しか存在していない。
塀の上には見張りも立っていたし、見晴らしだって良い。
それなのにスイナはたった1人、湖に向かった。
そして、たまたまその場にいた人攫いによって攫われてしまった。
・・・考えすぎかもしれないがなんとなく作為的なものを感じてしまう。
流石にそんな状況で手放してまた同じような状況になってしまったとしたら、今度は俺たちが駆けつけられるとも限らない。なら、たった数日の間で探りを入れておきたい。
「まさか見張りもいたのに誰も見かけないで1人で居なくなった、、、とは言わないよな? 仮に出ていくのを見ていた人がいたとして、護衛もつけずに湖に行かせるとは不用心がすぎるだろ。」
「そ、それは!」
「てかさ、そんなこといいからスイナはどこ? 正直お前らが俺を信用してないのは勿論だけど俺もお前らを信用してないから。」
ついつい本音を漏らしてしまい、連中から再び怒気が溢れ出した。
悪いね、俺って空気読めないみたいだわ。
「・・・だとしても! お前らを村に入れるわけには行かない! ただの人族が勝てるなどと思い上がるな!」
その一言に後ろの2人の剣士がこちらに詰め寄ってきた。
おそらく取り押さえようとしたのだろう、こちらの方に手を伸ばしてきたのでその腕を掴んで捻りながら前方へとぶん投げた。
すると、左側の男は投げ飛ばされたのを見てこちらに向かって剣を構える。
そっち側にはミリアがいたので俺はミリアの腰に手を回して体を回し、背中に背負った槍を男の腕に投げつけた。
「ウァッ!」
痛みに剣を手放した男を無視して俺は振り返りながら槍をもう一本取り出し、背後から突きを放とうとしていた男の喉元に槍を突きつける。
ちゃーんと伸び切らないように余裕を持たせているので俺が後少し手を押し込めば槍は男の喉元に突き刺さるだろう。
「・・・ツ!」
「まさかこの程度か? 今のは人間の範疇に漏れてないぞ?」
今程度の動きなら軍人であれば対処可能なレベルだ。
まぁ、舐められていたというのもあるだろうが、森の魔物に比べればお粗末にすぎる。
と言っても、、、。
(最初と態度が変わったりしてないのが数人いるな。そいつらを相手にするのは面倒、というより手加減ができない。・・・これで諦めてくれると助かるけど。)
そんな願望を込めて辺りに目を配っていると、槍を突き出してきた男が叫ぶ。
「今すぐこいつを殺せ! このまま人に舐められるたまま終われないぞ!」
と、喚きやがった。
そしてミスルル族連中もそれには同意なのか後ろにいた奴らも血の気が高まってゆく。
・・・しゃーない。
殺しにくるんだ、殺されて文句言われても知ったことじゃない。
スイナに合わせる顔はなくなるが、しばらく村の周辺で野営でもするとしますか。
そんな覚悟を込めて折れた剣を抜こうとすると、横合いから冷たい声音がリンッと響いた。
「・・・何してるの?」
たった一言。その一言でここにいるミスルル族全員が動きを止める。
決して声量は大きくない。むしろ小さかったくらいだろう、それでも彼女の言葉は耳に届いた。
彼女は冒険者っぽいショートパンツに動きやすそうなシャツ、青を基調とした民族衣装のような上着を着ていた。
青い髪を下の方で結んであり、水色に澄んだ瞳がすごく綺麗に映えている。
・・・にしてもそっくりだな。
「す、スイさん。これは、その、そ、そうです! 貴女の妹スイナさんの誘拐犯を捕えようと!」
「スイナはミリアお姉ちゃんとお兄ちゃんに誘拐なんてされてない!!」
スイと呼ばれた少女の後ろからスイナが顔を出してこちらへと駆け寄ってくる。
そして俺たちを背にして守るように両腕を広げて頬を膨らましていた。
正直可愛い。
「お、お兄ちゃん? す、スイナちゃん、それは誰のことだい?」
槍を構えていた隊長?っぽい男がスイナのお兄ちゃん発言に引っかかったようで動揺をあらわにしていた。ってか、周りの連中みんな動揺してんな。
「・・・? りつとお兄ちゃんだよ? 強くて優しくて面白いの!」
「待とうかスイナ、強くて優しいまでは快く受け取るが、面白いってどゆこと?」
別にスイナの前で変なことを言ったこともないし、笑わせようと行動したこともないんだけど?
「この前ロックキャンサーを茹でて食べようとして爆発してたの面白かった。」
「あれは事故だから、俺は結構ひやっとした出来事だから笑わないでくれると嬉しい。」
「でもミリアお姉ちゃん笑ってたよ?」
「よし、ミリア頭出せ。」
「ごめんなさい! 掴むのだけはやめてください!」
小さい子に悪影響を及ぼすバカの頭を握り潰そうとすると彼女はサッと頭を抱えた。
その様子を見てスイナは笑ってるし、俺たちを囲んでいたミスルル族はポカンと呆気に取られている。
・・・さっきまでの緊張感が嘘みたいだ。
すると、スイと呼ばれた少女が静かにこちらへと近づいてくる。
そして俺とミリアの前に立って頭を下げた。
「・・・この度は村の者達が失礼をしました。代表して私が非礼を詫びさせてください。・・・ごめんなさい。」
「・・・・・お、おう。」
こんなに丁寧に謝られるとは思ってなかったので面を食らう。
すると、後ろの男が慌てて口を挟んできた。
「ス、スイさん! 頭を下げる必要なんてありません! こいつは、、、」
男がそこまで発言すると少女は再び殺気を纏わせて男を睨みつける。それだけで男は息を詰まらせて、押し黙ってしまった。
「・・・シロウ、そもそもどうしてあなたが指揮をとってみんなを動かしてるの? あなたにそんな権限はないはず。」
「そ、それは。」
「・・・みんなも、そもそも私に連絡を入れなかったのはなんで? まさか狩猟隊長の私に連絡をしなくてもいいなんて判断した、、、とは言わせない。」
彼女がそっと周りを見渡しても全員が目を合わせないように目を逸らす。
それだけでこの村での彼女の地位が窺い知れる。
完全に辺りは静まり返り、外の雨が降る音のみ聞こえる。
結界によって音はだいぶを小さくなっているはずなのだが、この瞬間だけは雨音がやけに嫌に響いたのだ。
そんな空気を作った張本人の少女が再びこちらを向いた。
「・・・ごめんなさい、見苦しいところをお見せしました。」
「き、気にしてませんよよよ。」
ミリアが完全にビビっちゃった。
まぁ確かに、少女は無表情で眠たげな半目だ、美少女ではあるんだけど、どこか冷たく感じてしまう。
「ま、見苦しいっていうかめんどくさかったな。」
「り、律兎さん!?」
「・・・本当のことだろ。」
俺は物怖じせずに率直に自分の意見を返す。
だって本当にウザく感じてたからね。
それを聞いても少女は無表情。怒ってる?
「・・・あと、お礼が言いたい。スイナを助けてくれて本当に、、、本当にありがとう。」
「んー、あれは成り行きだけどな。でもお礼は受け取っとく、どういたしまして。」
俺がそう返すと見分けづらいが彼女はホッとしたような表情を浮かべた気がした。
「もー、だから平気だって言ったでしょー。」
「・・・そうだね。でも人族と会うのは初めてだったから少し不安だった。」
そうフォローするようにスイナがそっとスイと呼ばれた少女の背中に手を添えた。
あ、不安だったの?
てかまともに話聞いてもらえて助かるな。このままだとミスルル族連中と戦うことになってたし。
「お兄ちゃん! 紹介するね、私のお姉ちゃん!」
「・・・姉のスイです。改めて妹を助けていただきありがとうございました。」
「スイさん!!」
若干ほんわかとしてきたのに再び怒声が割り込んできた。
俺はそれに微塵も隠さず不快感を露わにして割り込んできた男性を睨む。
男はそんな俺の視線を無視してスイにつめよった。
ちなみに最初の槍持ってたやつとは別。
「人族なんかにお礼を言う必要なんてありません! こいつらがどれだけ非道な行いをしてきたと思ってるのですか!」
そう怒鳴りながらこちらを睨んでくる。
俺はそれを聞いて頭の後ろを掻く。
・・・んなこと言われても、それは俺たちには関係ない話なんだけど。
ミリアの服を掴む力が強くなる。
その表情はとても悲しそうだ。
「・・・そう、誰が誰に何をされたのか知らないけど私は妹を助けてくれた恩人を糾弾するような事はしたくない。」
「そ、それは! そ、そうですけど、、、!」
「・・・そもそもこの人達が居なかったらスイナは帰って来なかった。私は何もできなかったのに、、、。その人達に感謝を述べるのは当然だよね?」
無表情のまま首を傾げる様と冷たい声音はまるで氷のようだな。
うん、割と本気で怒ってるぽい。
「そ、それでも、このままではミスルル族のメンツが、、、!」
「・・・メンツ?」
ーージャキンッ!
一瞬の踏み込みで男に近づき、気づいた瞬間には握っていた右手の剣を男の首筋に添えた。
男は避ける事も逃げる事もできずに冷や汗を流す。
「・・・私の剣に反応も出来ないのにこの人には勝てないと思うよ。メンツを保ちたいのは分かるけど負け戦はするべきじゃない。」
・・・結構辛辣だな。
そしたら今度は後ろで傍観者と化していた少し強い感覚のする、背が高い男が前へと進んできた。
「・・・なに?」
「今のは聞き捨てなりません。まるで私達がこの人族の相手にならないと言う意味でしょうか?」
「・・・そうだけど? ワイバーンを単騎、それも無傷で討伐できるような人に対抗できる人は居ないと思ったけど。」
そうスイの口から呟きが漏れると、全員が目を見開きこちらに視線を向けてきた。
・・・んだよ?
別にただの鈍い鳥じゃん。ってかあの鳥ってワイバーンって言うんだね。
「・・・・・ただの鳥じゃん。」
「律兎さん、ワイバーンはBランククラス以上での討伐が推奨される程の危険生物ですよ。ちなみに知らないと思うので教えますけど、Bランクパーティーは英雄と呼ばれる事もある歴戦のパーティーに与えられます。」
へぇー、ランクね。
ちゃんと異世界っぽく冒険者ランクみたいなやつが存在するんだな。
でもBで英雄クラスなんだ。
「Aランクパーティーは世界に10組くらいしかいません。そして、最上級のSランクパーティーは勇者パーティーのことを指します。」
「・・・え、勇者のワンパのみ?」
「はい。そしてワイバーンは毒の爪に強靭な羽毛、鉄をも溶かす豪炎を吐く危険生物です。・・・それを1人で倒せるような存在はAランククラスの実力があると思います。」
・・・う、嘘だろ? だって生き物でしょ? そんな危険パーツのオンパレードなわけないじゃん。
てか待てよ?
そんな怪物をたった1人で倒した?
それって、、、
「・・・・・も、もしかして、黒髪でワイバーンを倒せるって、、、こ、こいつ、ゆ、勇者じゃ、、、。」
そうなりますよねー!!!
さっきまで戦闘態勢だったミスルル族は顔を青ざめさせて、全員一歩後ずさる。
その顔色にはあからさまの恐怖が刻まれていた。
・・・? な、なんだ? 勇者はそんなに怖い存在なのか?
どう言う事だ、勇者は人々の希望でーー。
そこまで考えて気づく。
あぁそっか、人々の希望であって魔族にとっては化け物か。
・・・俺はそれと同族。
俺は少しだけ反省した。
どうも露骨に人族だからって毛嫌いされていたことに苛立ちを感じていたのだが、当たり前じゃないか。
自分の家族、同族、友達を殺してる可能性のある存在と同じ奴等をまとめて考えてしまうなんて極めて自然な事だ。
俺はもう一度頭の後ろをかいてから一歩踏み出す。
すると、それに対してミスルル族の連中は再び後ずさった。
そして俺は、頭を下げた。
「・・・露骨に嫌な態度を取ってしまいました、申し訳ございません。それと俺は勇者なんかじゃ決してありません。あなた達を脅かす事なんて一切考えてないと誓います。ですから今一度話を聞いていただけると助かります。」
俺は至極真面目に謝罪の言葉を口にした。
武装を解除し、武器を全て捨てる。
突然の様変わりにミリアは驚いていたが、俺の考えを察しってくれたのか頭を下げてくれた。
・・・気がきくやつだよ、ほんと。
ミスルル族は突然の態度の変わりように瞠目しているが、まだ警戒心は薄れていないのか険しい表情。
仕方ない、俺もファーストコンタクトを間違えた。
まずはお互いの内情を探り合う。・・・交渉の基本だ。
このあと飛ぶ可能性のある罵詈雑言を想像しながら頭を下げていると、一回も聞いたことがなく、そしてその場にいなかったスイやスイナ以外の女性の声が聞こえた。
「・・・こっちも失礼だったよ、すまないね坊や。頭を上げてくれ、改めてこちらも話がしたい。招待を受けてくれると助かるよ。」
俺は頭を上げて前を見据えた。
そこにはミスルル族の特徴である青髪に褐色の肌を持った若い女性が1人。フードを被り、民族衣装を着ているが何処かやさぐれた雰囲気を醸し出していた。
・・・誰だこの人?
すると、俺のそばにいたスイが目を見開きながらその人物を呼んだ。
「・・・お、おばば様、どうしてここに。」
なるほど、理解した。
この人が村を守る強大な結界を張った、この村の族長か。